深夜残業の基本知識、他の制度との関係、計算例など、深夜残業の重要ポイントを網羅しました。
ざっくりポイント
  • 深夜残業と単なる深夜労働は割増率が違うので区別すべし
  • 休日に深夜労働すると60%の割増賃金がもらえる
  • 月の残業時間が60時間を超えると割増率は最大75%
  • みなし残業制固定残業制管理職でも深夜労働の割増賃金がもらえる
  • 深夜労働をする場合でも追加の交通費や休憩時間はもらえない
  • 妊産婦、未就学児・要介護家族を持つ労働者から「深夜残業はしません」と言われれば会社は無理強いできない。
 
目次

【Cross Talk】深夜残業が多すぎる

先月転職した新しい職場なのですが、残業や休日出勤が多くて……。これで残業代が出なかったら最悪ですよ!

使用者が労働者に対して深夜残業や休日出勤を命じた場合、使用者には通常の賃金よりもさらに割増した金額の賃金を支給する義務が課されます。給与明細をしっかり確認して、問題がありそうなら相談に来てくださいね。

わかりました!

深夜残業ならば残業代はどう変わるの?

昼型か夜型かにかかわらず、深夜労働は人間の心身に大きな負担となるため、その対価として25%の割増賃金が支給されます。深夜労働が時間外労働にあたる場合は、さらに25%が加算されて1.5倍の賃金がもらえます。

では、休日に深夜労働をしたら賃金はどのように計算するのでしょうか?

この記事では、深夜残業の基礎知識に加えて、「休日労働の割増賃金」「月に60時間を超えて残業した場合の割増率」「固定残業制では深夜残業の割増率は適用されるか?」など、深夜残業に関係する重要ポイントを網羅しました。

「いつも最終電車に飛び乗って帰宅する……」
そんな方は、ぜひこの記事に目を通して、ご自分の残業代が正しく支給されているかをチェックしてみてください。

深夜残業の定義、割増率は50~75%!!

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 深夜残業の割増率は50%だが、単なる深夜労働の割増率は25%
  • 休日労働の割増率は労働時間にかかわらず一律35%
  • 休日労働が深夜に及んだ場合の割増率は60%
  • 月の時間外労働が60時間を超えた場合、超過時間につき50%が加算されるので、深夜残業の割増率は75%となる

先生、深夜の時間帯に労働した場合は、通常の労働時間よりもたくさん賃金がもらえるんですよね?

もちろんです。所定賃金に25%を加算した賃金がもらえます。これから説明していくように、深夜労働は単なる時間外労働とは性質が異なるということを押さえておきましょう。

深夜労働は、労働基準法が定める深夜時間帯(22時から翌朝5時)にかけて行った労働のことです。

深夜労働の割増率は25%、深夜残業の割増率は50%

使用者が深夜の時間帯に残業させた場合は、使用者は、労働者に対して通常の時間外労働の割増率にさらに25%を上乗せした50%分の残業代を支払わなければなりません。(労基法37条1項4項及び関連政令参照)。

午前9時〜午後6時を所定労働時間として定めている会社をモデルに考えてみましょう。労働者が午前9時に始業し、午後6時以降も労働を継続すると、午後6時を超えて労働した分については、時間外労働となるので25%の割増賃金が発生します。さらに午後10時を超えて労働した場合には、その分については深夜労働となるのでさらに 25%割増賃金が加算され、計50%の割増率となります。

 9時

所定労働時間:割増率0%

 18時

時間外労働:割増率25%

 22時

時間外+深夜労働:割増率50%

なお、夜勤のように労働時間が午後10時〜午前5時勤務というケースでは、割増率は25%となります。

「深夜労働」ではあっても「時間外労働」ではないので時間外労働の25%加算は支給されず、深夜労働の25%分のみ加算されるというわけです。

法定休日労働の割増率は35%

法定休日労働の場合、時間外労働による25%割増は発生しません。そのため、法定休日においては、労働時間が8時間を超えても割増率は一律35%です(労基法37条1項および関連政令参照)。ただし、深夜労働の割増率については、法定休日に労働した場合にも適用されるので、法定休日に深夜の時間帯に労働した場合には、休日労働の35%+深夜労働の25%で、割増率は計60%となります。

なお、35%割増は法定休日に限った説明であり、法定外休日には適用されないことに注意してください

月の時間外労働が60時間を超えた場合の特例に注意

月の時間外労働が60時間を超えた場合、超過時間につき50%が加算されます(労基法37条1項但書。ただし、25%加算の代わりに有給休暇を与えることも可能)。

したがって、60時間を超えた時間外労働が深夜に及んだ場合は、「時間外労働50%+深夜労働25%」となるので、使用者は、労働者に対して、合計75%の割増賃金を支給しなければなりません。

なお、平成30年12月現在、この特例は大企業だけに適用されていますが、平成35年4月からは中小企業にも適用される見込みです。

割増率一覧表

残業代・割増率の図解

割増率の詳細については、別コラム「【図解】残業代の計算に必要な時間単価の「割増率」とは?」もご参照ください。

深夜残業に関する重要論点まとめ

知っておきたい残業代請求のポイント
  • みなし労働時間制や固定残業制でも深夜割増分が支給される
  • 管理職の場合、時間外労働や休日労働の割増賃金は支給されないが、深夜労働については割増賃金が支給される
  • 深夜労働のために出社する労働者に対して、会社側は交通費を支給しなくてもよい
  • 深夜残業させる場合、所定の休憩時間とは別に休憩時間を設ける必要はない
  • 妊産婦の意思に反して深夜残業をさせてはいけない
  • 未就学児や要介護状態の家族を抱える労働者の意思に反して深夜残業をさせてはいけない(ただし一定条件に該当する労働者をのぞく)

深夜残業や休日労働に関する基本的な知識は理解できました!ただ、せっかく先生に教えていただけるチャンスなので、他の制度と関連する内容についても知っておきたいです。

わかりました。深夜残業は固定残業制や管理職制度など、他の制度とセットで理解すべき内容が多いので、ここでまとめて説明しておきましょう。

ここでは深夜残業に関係する重要な論点について網羅的に説明します。

みなし労働時間制でも深夜割増分は別途支給されるか?

みなし労働時間制とは、実際の労働時間にかかわらず、所定時間労働したものとみなす制度です。そのため、どんなに長時間労働しても、残業代は発生しないと誤解されがちですが、そうではありません。

みなし労働時間制を採用する会社であっても、労働者の実際の労働時間が法定労働時間を超えたり深夜に及んだりすれば、使用者は割増賃金を支払わなければなりません。

みなし労働時間の適用される裁量労働制については「裁量労働制とはどんな制度?残業代請求に必要な基礎知識を解説」を参考にしてみてください。

固定残業制でも深夜割増分は別途支給されるか?

固定残業制とは、一定時間分の時間外割増賃金を予め基本給に含めて支給する賃金制度です。固定残業制は、予め定められた額を支払えばそれ以上に残業代は支払う必要がないと誤解されることが往々にしてありますが、そうではありません。

固定残業制であっても、予め定められた残業代が、実際に支払われるべき時間外割増賃金を下回る場合には、使用者は、その不足分した賃金について固定の残業代に追加して支払う義務があります。

固定残業制について詳しく知りたい方は「固定残業制(みなし残業)とはどんな制度?残業代請求に必要な基礎知識を解説」を参考にしてみてください。

管理職でも深夜割増分は支給されるか?

管理職(労基法上の管理監督者)には時間外労働や休日労働の規定が適用されません。管理監督者は、その職務の性質上、労働時間の規制になじまず、また、それに相応しい手当が支払われているため、労働時間規制による保護を及ぼす必要がないためです。

ただし、深夜労働に関する規定は管理職にも例外なく適用されるので、25%の割増賃金は管理職にも支給されます。これは、管理監督者であっても、深夜労働がその心身に与える負担については他の労働者と変わるところがないため、他の労働者と同様の保護を及ぼす必要があるからです。

判例もこの理解に基づき、管理職であっても深夜労働をすれば割増賃金が支給されると判決しています。ことぶき事件(最判平成21・12・18労判1000号5頁)

管理監督者全般について知りたい方は、「管理監督者とはどんな立場?「名ばかり管理職」チェックリスト」を参考にしてみてください。

深夜労働のために出社する労働者に対して、会社は交通費を支給する義務を負うか?

労基法上、会社に対して交通費の支給を義務づける規定はありません。労働者の交通費をどこまで負担するかは会社側の裁量に委ねられています。

したがって、深夜労働のために出社する労働者に対して、会社は交通費を支給する義務を負いません。

深夜残業させる場合、所定の休憩時間とは別に新たな休憩時間を設ける必要はあるか?

会社は労働者に対して、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間の休憩時間を与える義務があります(労基法34条)。

ただし、割増賃金のような加算規定はないので、深夜残業をしたからといって追加の休憩時間が義務づけられることはありません。1日の労働時間全体を通して、深夜残業があろうがなかろうが、労働時間が8時間を超えれば1時間の休憩が必要であり、かつそれで足りるということです。

休憩時間の法規制について知りたい方は「労働時間か?休憩時間か?知っておきたい休憩時間の法規制」を参考にしてください。

妊産婦が「お金がいるので深夜残業させてください」と求めてきた場合、会社側は深夜残業をさせてもかまわないか?

妊産婦(妊娠中または産後1年未満の女性)が深夜に労働することは母体保護の見地からも好ましくありません。そこで労基法66条3項は、妊産婦が請求した場合は、会社側は深夜労働をさせてはいけないことを定めています。

労基法66条3項は例外を許さない強行規定ですので、妊産婦が管理職であっても適用されます。会社側が「君は管理職なのだから、来週から始まる繁忙期は深夜残業に協力してもらわないと困るよ!」などと頼み込んでも、本人が「働きたくありません」と言えば無理に働かせることはできません。この点は時間外労働や休日労働とは扱いが異なるので注意が必要です。

幼稚園児を抱える母親が「会社は来月から繁忙期に入りますが深夜残業には応じられません」と要望している場合、会社側はその要望に応じる義務があるか?

育児・介護休業法は、「小学校就学前の子を養育する労働者や要介護状態の家族を抱える労働者が請求したときは、深夜残業をさせてはならない」と定めています(19条、20条)。未就学児や要介護の家族を抱えている人の場合、深夜に労働を義務づけられることは大きな負担となるからです。

ただし、入社から1年に満たない場合や、同居する家族に世話をお願いできる場合など、一定の条件に該当する労働者についてはこの規定が適用されません。

【具体例】深夜残業の残業代計算

ここまで深夜残業について詳しく説明していただいたのですが、いまいち具体的なイメージがわきません。

では、より具体的なケースを前提に、深夜残業した場合の賃金計算を説明していきましょう。

 

ここからは深夜残業をした場合の賃金計算について紹介します。深夜残業だけでなく、法内残業・法定外残業・休日労働・夜勤などさまざまなパターンを組み合わせているので参考にしてください。

(共通設定)
・日給は「時間単価×割増率×労働時間」で算出
・時間単価1500円
・週休2日(日曜が法定休日、土曜が法定外休日)
・当月の時間外労働は月60時間以内

<ケース1>
・所定労働時間は、月曜〜金曜、9〜17時(12時から休憩1時間)、週35時間
・金曜日の9時〜深夜0時労働

→17時〜18時は法内残業なので割増なし。18時〜22時は法定外残業で25%割増。22時〜0時は深夜労働で25%割増。

(図解ケース1)

{1,500円×(100%)×8時間}+{1,500円×(100%+25%)×4時間}+{1,500円×(100%+25%+25%)×2時間}
=12,000円+7,500円+4,500円
=24,000円

<ケース2>
・所定労働時間は月曜〜金曜、15時〜深夜0時(19時から休憩1時間)、週40時間。
・金曜日の15時〜深夜1時労働。

→0時までは法定労働時間の枠内なので割増なし。0時〜1時は法定外残業で25%割増。22時〜1時は深夜労働で25%割増。

(図解ケース2)

{1,500円×(100%)×6時間}+{1,500円×(100%+25%)×2時間}+{1,500円×(100%+25%+25%)×1時間}
=9,000円+3,750円+2,250円
=15,000円

<ケース3>
・所定労働時間は月曜〜金曜、9〜17時(12時から休憩1時間)、週35時間
・土曜日の18時〜深夜0時労働(休憩時間なし)

→18時〜23時は法定労働時間(週40時間)の枠内なので割増なし。23時〜0時は法定外残業で25%割増。22時〜0時は深夜労働で25%割増。

(図解ケース3)

{1,500円×(100%)×5時間}+{1,500円×(100%+25%)×1時間}+{1,500円×(100%+25%+25%)×1時間}
=7,500円+1,875+2,250円
=11,625円

<ケース4>
・所定労働時間は月曜〜金曜、9〜18時(12時から休憩1時間)、週40時間
・日曜日の20時~深夜0時労働

→20時〜0時は休日労働で35%割増。22時〜0時は深夜労働で25%割増。

(図解ケース4)

{1,500円×(100%+35%)×2時間}+{1,500円×(100%+35%+25%)×2時間}
=4,050円+4,800円
=8,850円

以上は時間外労働が月60時間以内のケースですので、60時間を超えた残業についてはさらに25%を割増加算することに注意しましょう。たとえば<ケース4>であれば次のような計算となります。

{1,500円×(100%+35%+25%)×2時間}+{1,500円×(100%+35%+25%+25%)×2時間}
=4,800円+5,550円=10,350円

まとめ

深夜残業の基礎知識、計算例、関連する制度について詳しく説明してきました。
働き方改革の影響で減ってはいるものの、一部の企業ではまだ深夜残業が根強く残っています。深夜労働を続けさせる経営者の姿勢はもちろん問題ですが、適正な割増賃金が支払われないことはもっと問題です。
給与明細を手元に置いて、自分の深夜残業の賃金が正しく支給されているか、ぜひ一度チェックしてみてください。