
目次
- 遺言はいつでも取り消し(撤回)できる
- いつでも・何度でも撤回できる
- 撤回する権利は放棄できない
- ただし遺言の方式に従って行う必要がある
- 遺言の全部を取り消す3つの方法
- 撤回する旨の遺言をする
- 内容が抵触する新しい遺言書を作成する
- 遺言書・目的物を破棄する
- 遺言の後に財産を売却・贈与した場合
- 生前処分した部分は撤回したものとみなされる
- 遺言の一部を訂正・変更する方法
- 自筆証書遺言の訂正・加筆の方式
- 一部を取り消す旨の遺言・抵触する新しい遺言
- 方式を誤ると無効になるため書き直しが確実
- 遺言の種類別の取り消しの実務
- 公正証書遺言の場合
- 法務局に保管した自筆証書遺言の場合
- 取り消し(撤回)するときの注意点
- 撤回を撤回しても元の遺言は復活しない
- 古い遺言書は処分しておく
- 相続人の方へ 納得できない遺言を取り消したいとき
- 無効を主張できる場合
- 取消しを主張できる場合
- 争う場合は遺言無効確認の調停・訴訟
- 弁護士に相談するメリット
- 方式のミスで無効になるリスクを避けられる
- 財産構成の変化に応じた書き直しの設計
- 遺言の有効性をめぐる紛争への対応
- よくある質問+まとめ
遺言はいつでも取り消し(撤回)できる
いつでも・何度でも撤回できる
遺言は、一度書いたら変えられないものではありません。
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができます(民法第1022条)。
回数の制限もありませんので、事情が変わるたびに書き直して構いません。
法律用語では「取り消し」ではなく「撤回」といいます。
遺言は相手方のいない意思表示で、効力が生じるのは遺言者が亡くなった後です。
生きている間は、まだ誰の権利も発生していませんので、自由に撤回できるということです。
撤回する権利は放棄できない
遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができません(民法第1026条)。
遺言書に「この遺言は今後撤回しない」と書いても、その部分に効力はありません。
誰かと「撤回しない」という約束をしていても同じです。
財産をあげると約束された側から見れば頼りない話ですが、遺言は最後の意思を尊重する制度ですので、最新の意思がいつでも優先されるようになっています。
ただし遺言の方式に従って行う必要がある
自由に撤回できるとはいっても、やり方は決まっています。
民法第1022条は「遺言の方式に従って」撤回すると定めていますので、口頭で「あの遺言はやめた」と言うだけでは撤回になりません。
家族に伝えていても、メモを残していても同じです。
撤回するには、次章で説明する3つの方法のいずれかによる必要があります。
遺言の全部を取り消す3つの方法
遺言をした後に事情が変わり、遺言を取り消したくなることもあります。
遺言をしたからといって取り消すことができないわけではないのですが、遺言は法律の規定に従ってされる厳格なものなので、取り消しをする場合も法律の規定に従って行われます。
撤回する旨の遺言をする
まず、遺言を撤回する手段として、その遺言を撤回する旨の遺言で行う方法があります(民法第1022条)。
内容が抵触する新しい遺言書を作成する
内容が抵触する新しい遺言書がある場合には、抵触する部分については前の内容を撤回したものとみなされます(民法第1023条)。
例えば、「A不動産を長男〇〇に相続させる」という遺言をした後に、「A不動産を次男に相続させる」という遺言をした場合には、A不動産について抵触する内容になるので、最初の遺言が撤回されたものとみなされて、A不動産については次男に相続させるという内容のみが有効になります。
この遺言は方式についてのルールはありませんので、最初にした遺言が公正証書遺言で、次にした遺言が自筆証書遺言でも、問題ありません。
遺言書・目的物を破棄する
遺言書や目的物を破棄した場合には遺言を撤回したものとみなされます(民法第1024条)。
遺言書の破棄については、公正証書遺言の原本は公証役場で保管されているので、作成時に交付された正本・謄本を破棄してもここにいう遺言書の破棄にはあたりません。
遺言の後に財産を売却・贈与した場合
生前処分した部分は撤回したものとみなされる
遺言書に書いた財産を、その後に売却したり贈与したりすることがあります。
この場合、遺言書を書き直さなくても、その部分は撤回したものとみなされます。
前の遺言と後の遺言が抵触するときのルールが、遺言後の生前処分にも準用されるためです(民法第1023条2項)。
たとえば「自宅を長男に相続させる」という遺言をした後に、その自宅を売却して施設の入居費用に充てたとします。
この場合、自宅に関する部分は撤回されたものとして扱われ、長男が自宅を取得することはありません。
売却代金が預金として残っていても、その預金を長男に相続させるという意味にはならないのが原則です。
問題は、残りの部分がどうなるかです。
撤回とみなされるのは抵触する部分だけですので、他の財産についての記載はそのまま効力を持ちます。
その結果、遺言者が想定していたバランスが崩れてしまうことがあります。
自宅を長男に、預金を次男にと決めていたのに、自宅を売却したために長男の取り分だけがなくなる、といった具合です。
大きな財産を処分したときは、遺言書を書き直しておくことをおすすめします。
遺言の一部を訂正・変更する方法
遺言の内容の一部だけを訂正したい場合については次の通りです。
自筆証書遺言の訂正・加筆の方式
自筆証書遺言の内容を訂正・加筆する方法で変更をすることは可能です。
訂正をする場合には民法第968条第3項に規定しているように、加除については場所を指定してこれを変更した旨を署名し、変更場所に印鑑を押します。
一部を取り消す旨の遺言・抵触する新しい遺言
公正証書遺言で作成したものの一部を取り消す場合や、訂正で対応できない程度の一部の変更をするのであれば、前の遺言書の一部のみを破棄する旨の遺言をすることで対応可能です(民法第1022条)。
一部についてのみ前の遺言書と抵触する内容の新たな遺言書を作成をすることで、一部のみの訂正・変更をすることも可能です(民法第1023条)。
方式を誤ると無効になるため書き直しが確実
自筆証書遺言の訂正は、方式が細かく定められています。
変更の場所を指示し、変更した旨を付記して署名し、その変更の場所に押印する、という3つがすべてそろわなければ、変更の効力は生じません(民法第968条3項)。
実際のご相談でも、二重線を引いて訂正印を押しただけ、付記を書き忘れた、署名を落としたといった不備は珍しくありません。
訂正の方式を満たしていない場合、その変更はなかったものとして扱われ、訂正前の内容が残ります。
書き加えた部分が読み取れる状態で残っていると、どちらが遺言者の意思なのかをめぐって争いになることもあります。
訂正が数か所に及ぶときや、金額・割合を変えるときは、訂正で済ませず、新しい遺言書を作り直すほうが確実です。
書き直しであれば、方式は最初に作るときと同じですので、迷うところがありません。
遺言の種類別の取り消しの実務
公正証書遺言の場合
公正証書遺言は、原本が公証役場に保管されています。
そのため、手元にある正本や謄本を破り捨てても、遺言を撤回したことにはなりません。
原本は残っていますので、相続が始まれば、公証役場の遺言検索システムでその存在が判明します。
公正証書遺言を撤回するには、次のいずれかの方法によります。
・前の遺言を撤回する旨の新しい遺言をする
・内容が抵触する新しい遺言をする
新しい遺言は自筆証書遺言でも構いませんが、確実を期すのであれば、公正証書で作り直すほうが安心です。
自筆証書遺言は方式の不備や紛失の心配がありますし、後から遺言能力を争われる余地も残るためです。
法務局に保管した自筆証書遺言の場合
2020年7月10日から、自筆証書遺言を法務局に預けられる自筆証書遺言書保管制度が始まりました。
この制度を利用した遺言書については、保管の申請を撤回することができます(法務局における遺言書の保管等に関する法律第8条1項)。
撤回をすると、法務局は遺言書を返還し、保管していた情報を消去します(同条4項)。
ここで注意していただきたいのは、保管の申請を撤回しても、それだけでは遺言そのものを撤回したことにはならないという点です。
返還された遺言書は、法務局に預ける前と同じ、有効な自筆証書遺言のままです。
遺言の内容をやめたいのであれば、返還を受けたうえでその遺言書を破棄するか、撤回する旨の新しい遺言をする必要があります。
なお、保管の申請の撤回は、遺言者本人が遺言書を預けた法務局に出向いて行う必要があります(同条3項)。
取り消し(撤回)するときの注意点
撤回を撤回しても元の遺言は復活しない
「1通目の遺言を2通目で撤回し、その後に2通目も撤回した」という場合、1通目は復活するのでしょうか。
民法は、撤回された遺言は、その撤回の行為が撤回され、取り消され、または効力を生じなくなったときであっても、その効力を回復しないと定めています(民法第1025条本文)。
つまり、原則として1通目は復活しません。
ただし、その撤回の行為が錯誤・詐欺・強迫によるものであった場合は例外とされています(同条ただし書)。
1通目の内容に戻したいのであれば、あらためて同じ内容の遺言を作り直すのが確実です。
古い遺言書は処分しておく
新しい遺言書を作ったら、古い遺言書は破棄しておきましょう。
複数の遺言書が見つかると、相続人はどれが最新かを判断しなければならず、それ自体が争いの種になります。
日付の記載がない、または不正確な遺言書があると、前後関係すら決められません。
自筆証書遺言では、日付を「令和7年10月吉日」のように書いてしまうと、日付の記載を欠くものとして無効になるとした判例もあります。
新しい遺言書には、前の遺言をすべて撤回する旨の条項を入れておくと、より確実です。
公正証書遺言を作り直した場合は、古いほうの原本も公証役場に残りますので、新しい遺言書に撤回の条項を入れておくことがとくに大切です。
相続人の方へ 納得できない遺言を取り消したいとき
ここまでは、遺言を書いたご本人が撤回する場合の話です。
一方、相続が始まった後に、残された遺言の内容に納得できないというご相談も多くいただきます。
相続人が遺言を撤回することはできませんが、その遺言が無効である、または取り消せると主張することはできます。
無効を主張できる場合
次のような場合には、遺言そのものが無効になることがあります。
・遺言をした時点で遺言能力がなかった(民法第963条)
・15歳未満の人がした遺言である(民法第961条)
・方式を満たしていない(自書・日付・氏名・押印を欠くなど)
・遺言書が偽造・変造されたものである
実務でもっとも多く争われるのが、遺言能力です。
認知症が進んだ状態で書かれた遺言について、遺言をした時点で内容を理解して判断できたかが問題になります。
診断書やカルテ、介護記録、長谷川式スケールなどの検査結果、遺言の内容の複雑さ、作成の経緯といった事情を総合して判断されます。
公正証書遺言であっても、公証人が関与しているというだけで有効と決まるわけではなく、遺言能力を争う余地はあります。
取消しを主張できる場合
遺言が方式を満たしていても、その意思表示が詐欺や強迫によるものであれば、取り消すことができます(民法第96条1項)。
たとえば、事実と異なることを信じ込まされて特定の相続人に有利な遺言をした場合や、脅されて書かされた場合です。
取消しを主張できるのは、遺言者の地位を承継した相続人です。
もっとも、遺言者が亡くなった後に、当時の事情を証明するのは容易ではありません。
実際には、遺言能力の不存在とあわせて主張することが多くなります。
争う場合は遺言無効確認の調停・訴訟
遺言が無効かどうかは、遺産分割調停や審判の中では最終的に決着させることができません。
遺産分割は、分ける対象と分ける人が確定していることを前提とする手続きだからです。
そこで、遺言無効確認の訴えという民事訴訟で決着をつけることになります。
家庭裁判所の調停を先に申し立てることもでき、実務ではまず調停を経てから訴訟に進むのが一般的です。
なお、遺言が有効であるという結論になっても、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があります(民法第1042条1項)。
遺留分侵害額請求には、相続の開始と侵害を知った時から1年という期間の制限がありますので(民法第1048条)、無効を争いながらも、期間内に請求の意思を伝えておく必要があります。
弁護士に相談するメリット
方式のミスで無効になるリスクを避けられる
遺言の撤回や訂正は、方式を誤ると効力が生じません。
しかも、その不備が分かるのは遺言者が亡くなった後で、本人が直すことはもうできません。
弁護士に相談いただければ、撤回の方法として何を選ぶべきか、書き直しと訂正のどちらが適切かをご説明できます。
公正証書で作り直す場合の公証役場とのやりとりも、代わりに進めることができます。
財産構成の変化に応じた書き直しの設計
遺言を書き直す必要が生じるのは、たいてい財産の中身が変わったときです。
自宅を売却した、事業用の不動産を買い替えた、株式を整理した、といった場面です。
このとき、変わった部分だけを直すと、相続人の間のバランスが崩れることがあります。
遺留分を侵害していないか、特定の相続人に納税資金が残るかといった点も含めて、全体を見直しておくと安心です。
当事務所はグループの税理士法人と連携していますので、相続税の見通しを踏まえて内容を検討することができます。
遺言の有効性をめぐる紛争への対応
遺言の有効性が争われる場面では、無効を主張する側にも、有効であると主張する側にも代理人を立てて対応することが一般的です。
当事務所は、どちらの立場からのご相談にも対応しています(同一の相続について双方からお受けすることはできません)。
他の相続人との交渉を代理することができるのは、弁護士に限られます(弁護士法第72条)。
調停・訴訟に進んだ場合も、同じ弁護士がそのまま対応できます。
遺言・相続に関する初回のご相談は無料でお受けしています(ご依頼いただく場合には、別途弁護士費用と実費が発生します)。
無料
よくある質問+まとめ
遺言者はいつでも遺言の全部または一部を撤回でき(民法第1022条)、回数の制限もありません。
撤回する権利を放棄することもできませんので(民法第1026条)、遺言書に「撤回しない」と書いてあっても書き直せます。
抵触しない部分については、前の遺言もそのまま効力を持ちます。
つまり、後の遺言ですべてが無効になるわけではありません。
前の遺言をすべてなかったことにしたい場合は、新しい遺言書に「前の遺言をすべて撤回する」と明記しておきましょう。
公正証書遺言の原本は公証役場に保管されており、手元の正本・謄本を破棄しても原本は残るためです。
撤回するには、撤回する旨の新しい遺言をするか、内容が抵触する新しい遺言をする必要があります。
詐欺や強迫によるものであれば、取消しを主張することもできます(民法第96条1項)。
遺言が有効な場合でも、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があり、相続の開始および遺留分を侵害する遺贈や贈与があったことを知った時から1年以内であれば金銭の請求ができます。
まとめ
このページでは、遺言の取り消し(撤回)についてお伝えしました。
遺言はいつでも何度でも撤回できますが、撤回するには遺言の方式に従う必要があり、口頭やメモでは効力が生じません。
撤回の方法は、撤回する旨の遺言・抵触する新しい遺言・遺言書や目的物の破棄の3つで、遺言後に財産を処分した場合もその部分は撤回とみなされます。
公正証書遺言は正本・謄本を破棄しても撤回にならず、法務局に預けた自筆証書遺言も保管の撤回だけでは遺言の撤回になりません。
遺言の書き直しをお考えの方も、残された遺言の内容に納得できない方も、弁護士に相談をしてみましょう。
当事務所では、遺言・相続に関する初回のご相談を無料でお受けしています(ご依頼いただく場合には、別途弁護士費用と実費が発生します)。
遺言作成に関する当事務所の弁護士監修コラム


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