
目次
- 相続対策には3つの目的がある
- 節税対策・納税資金対策・分割対策
- どれを重視するかで進め方が変わる
- ステップ1 現状の把握と整理
- 口座の集約や少数株式の売却などの整理
- 財産目録を作り、不動産や自社株の評価を把握する
- 保険金や死亡退職金も含めて考える
- ステップ2 相続税がかかるかを確認する
- 基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数
- 下回れば相続税はかからず申告も不要
- ステップ3 遺産の配分を検討する
- どの相続人にどの財産を配分するか
- 分けにくい財産(自宅・事業用資産)の考え方
- ステップ4 相続人の間でバランスを整える
- バランスを失うと争いになる
- 遺留分を侵害すると遺留分侵害額請求の対象になる
- 生命保険金や死亡退職金でバランスを取る
- ステップ5 相続税額の計算と納税資金の検討
- 相続税は原則として現金一括で納付
- 納税資金の作り方
- ステップ6 遺言書の作成と定期的な見直し
- 事情や法律の変更に応じて見直す
- 見直しの目安
- 相続税を抑える具体的な方法
- 生前贈与(暦年贈与・相続時精算課税)
- 生命保険金の非課税枠
- 小規模宅地等の特例・不動産の活用
- 認知症に備えた対策も検討する
- 判断能力が低下すると遺言も贈与もできなくなる
- 家族信託・任意後見という選択肢
- 相続対策を弁護士に相談するメリット
- 節税だけを考えると遺留分を侵害して争いのもとになる
- 遺言書の作成・配分の設計・認知症への備えまで
- 税理士法人との連携で相続税の試算まで一つの窓口で
- よくある質問+まとめ
- 相続対策はいつから始めるべき?
- 相続税がかからない場合も対策は必要?
- 自分でもできる?
- 誰に相談すればよい?
- まとめ
相続対策には3つの目的がある
節税対策・納税資金対策・分割対策
「相続対策」という言葉は、実は3つの異なる目的をまとめて指しています。
・節税対策……相続税の負担を減らす
・納税資金対策……相続税を納めるお金を用意しておく
・分割対策……相続人の間で争いにならないように分け方を決めておく
この3つは、必ずしも同じ方向を向いていません。
たとえば、節税のために不動産を買うと相続税は下がりますが、現金が減って納税資金は苦しくなり、分けにくい財産が増えて争いのもとにもなります。
どれか1つだけを追いかけると、他が犠牲になるということです。
どれを重視するかで進め方が変わる
ご家庭によって、力を入れるべき対策は変わります。
・遺産が基礎控除以下……節税対策は不要。分割対策だけを考えれば足ります
・遺産の大半が自宅や事業用資産……納税資金対策と分割対策が中心になります
・相続人の関係が良くない、前の婚姻の子がいる……分割対策が最優先です
・遺産が多く現金も十分にある……節税対策の効果が大きくなります
まずはご自身がどこに当てはまるのかを確かめてから、次のステップに進んでください。
以下では、相続対策を進める手順を6つのステップでお伝えします。
ステップ1 現状の把握と整理
口座の集約や少数株式の売却などの整理
相続税対策の第一歩は現状の把握と、遺産に関する整理を行うことから始めます。
預金口座がいくつもあるような場合には、よく使う口座にまとめたり、少数の株式を保有しているのであれば売却してしまうなどの整理をすることも検討しましょう。
口座を減らしておくと、相続が始まった後の手続きの手間も減ります。
金融機関ごとに残高証明書を取り、書類をそろえて窓口に出向く作業が、口座の数だけ発生するためです。
財産目録を作り、不動産や自社株の評価を把握する
整理と並行して、どのような財産がいくらあるのかを一覧にします。
財産目録に載せるのは、次のようなものです。
・不動産(登記事項証明書、固定資産税の課税明細書で確認)
・預貯金(金融機関名・支店名・口座番号・残高)
・有価証券(証券会社名・銘柄・株数)
・生命保険(保険会社名・保険金額・受取人)
・借入金や保証債務
このとき大切なのが、金額の把握です。
とくに不動産と非上場株式は、思っていた金額と相続税の評価額が大きく違うことがあります。
評価額が分からないままでは、相続税がいくらかかるのかも、誰にどう分ければ公平になるのかも決められません。
保険金や死亡退職金も含めて考える
遺産ではなくても、亡くなった後に入る保険金や死亡退職金がある場合には、併せて検討するのが望ましいといえます。
ステップ2 相続税がかかるかを確認する
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数
財産の全体像が見えたら、次に相続税がかかるかどうかを確かめます。
相続税には基礎控除があり、計算式は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(相続税法第15条1項)。
・相続人が配偶者と子1人(2人)……3,000万円+1,200万円=4,200万円
・相続人が配偶者と子2人(3人)……3,000万円+1,800万円=4,800万円
・相続人が配偶者と子3人(4人)……3,000万円+2,400万円=5,400万円
相続放棄をした人がいても、放棄がなかったものとして人数を数えます。
養子は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか数えられません(同条2項)。
下回れば相続税はかからず申告も不要
財産の合計が基礎控除額を下回っていれば、相続税はかからず、申告も必要ありません。
この場合、節税対策そのものが不要になりますので、分割対策に力を注げばよいことになります。
ただし、注意点が2つあります。
1つは、生命保険金や死亡退職金がみなし相続財産として加算されること、そして相続開始前の一定期間内の贈与も加算されることです(相続税法第19条1項)。この加算の対象期間は、2024年1月1日以後の贈与から段階的に7年に延長されており、経過措置により相続開始日に応じて次のように異なります。
・2026年12月31日までに開始した相続……相続開始前3年以内の贈与
・2027年1月1日から2030年12月31日までに開始した相続……2024年1月1日から相続開始日までの贈与
・2031年1月1日以後に開始した相続……相続開始前7年以内の贈与
もう1つは、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って税額がゼロになる場合には、申告が必要だという点です。
「税額がゼロだから申告しなくてよい」とは限りませんので、ご注意ください。
ステップ3 遺産の配分を検討する
どの相続人にどの財産を配分するか
遺産の配分を検討します。
どの相続人にどのような遺産を配分するか、相続人以外の人に遺贈をするか、を考えましょう。
分けにくい財産(自宅・事業用資産)の考え方
配分を考えるときに難しいのが、分けにくい財産です。
自宅、賃貸物件、事業用の不動産、非上場株式などがこれにあたります。
財産の性質ごとに、考え方を整理しておきましょう。
・自宅……同居している相続人に取得させ、他の相続には現預金や生命保険金で調整するのが基本です
・事業用資産・非上場株式……事業を継ぐ相続人に集中させないと、事業そのものが立ち行かなくなります
・賃貸物件……共有にすると売却や建て替えに全員の同意が必要になるため、単独で取得させるのが無難です
・現預金……調整に使える唯一の財産ですので、配分を最後に決めると設計しやすくなります
共有にすると、その場は公平に見えても、後の世代で権利関係が複雑になっていきます。
「分けられないものは1人に、差は現金で埋める」という考え方が、実務上の基本になります。
ステップ4 相続人の間でバランスを整える
バランスを失うと争いになる
遺産の配分を検討したならば、相続人の間でバランスを整えます。
配分した遺産の額がバランスを失っていると、相続人の間で争いになるようなことがあります。
遺留分を侵害すると遺留分侵害額請求の対象になる
また、遺留分を侵害するような遺言書になると、遺留分侵害額請求の対象となるので注意が必要です。
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に最低限保障されている取り分です。
割合は2段階で決まります。
・直系尊属のみが相続人の場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1(民法第1042条1項)
・これに各自の法定相続分をかけたものが、その人の遺留分になります(同条2項)
たとえば相続人が配偶者と子2人であれば、配偶者は4分の1、子はそれぞれ8分の1です。
遺留分を計算するもとになる財産には、一定の生前贈与も加算されます。
相続人に対する贈与のうち、婚姻・養子縁組のためまたは生計の資本として受けたものは、相続開始前の10年間にさかのぼって加算されます(民法第1044条3項)。
つまり、生前贈与で財産を減らしても、遺留分の計算では戻されることがあるということです。
生命保険金や死亡退職金でバランスを取る
バランスが悪い場合には、遺産ではない生命保険金や死亡退職金でバランスをとることも検討します。
生命保険金は受取人固有の財産ですので、原則として遺産分割の対象にも遺留分の計算の対象にもなりません。
そのため、自宅を取得する相続人以外の相続人を受取人にしておくと、現金で差を埋めることができます。
ただし、保険金の額が遺産に比べて著しく高額で、相続人の間に著しい不公平が生じる場合には、例外的に持ち戻しの対象とされることがあります(最高裁平成16年10月29日決定)。
極端な設計は避け、全体のバランスの中で使うことが大切です。
ステップ5 相続税額の計算と納税資金の検討
相続税は原則として現金一括で納付
相続税額を計算し、どのくらい納税が必要かを計算します。
相続税がかかる場合には、通常は現金一括で支払うことになります。
この資金が用意できない場合には、その納税資金をどうするか検討しておくべきです。
相続税の支払いができない人がいる場合には、相続する遺産を現金・預貯金に変更するなどの検討をします。
納税資金の作り方
納税資金が足りない場合の備えとしては、次のような方法があります。
・生命保険を活用する……納税資金として現金を用意でき、非課税枠も使えます
・生前に不動産を売却しておく……相続後に慌てて売ると、買い叩かれることがあります
・生前贈与で納税資金を渡しておく
・延納……相続税額が10万円を超え、金銭で納付することが困難な場合に、分割で納める制度です(相続税法第38条)
・物納……延納によっても金銭で納付することが困難な場合に、財産そのもので納める制度です(相続税法第41条)
延納と物納は、申告期限までに申請する必要があります。
延納には利子税がかかり、担保の提供も求められますので、あくまで最後の手段と考えておいてください。
物納は要件が厳しく、実際に認められる件数は多くありません。
遺産の大半が不動産や自社株というご家庭ほど、生前の備えが重要になります。
ステップ6 遺言書の作成と定期的な見直し
事情や法律の変更に応じて見直す
遺言書の作成をした後に事情が変わることもあります。
また、法律が変わって、税金対策になるような制度ができる可能性もあります。
作成した遺言書も変更することは可能なので、定期的に見直すことにしましょう。
見直しの目安
見直しの時期に決まりはありませんが、次のようなときが目安になります。
・数年ごと(3年から5年に一度は読み返す)
・財産の内容が変わったとき(自宅の売却、不動産の購入、事業の譲渡など)
・家族構成が変わったとき(結婚、離婚、出生、相続人の死亡)
・税制や民法が改正されたとき
とくに注意が必要なのが、遺言書に書いた財産を処分した場合です。
その部分は撤回したものとみなされますので(民法第1023条2項)、書き直さないと、想定していたバランスが崩れることがあります。
遺言は、いつでも何度でも撤回できます(民法第1022条)。
相続税を抑える具体的な方法
生前贈与(暦年贈与・相続時精算課税)
もっとも広く使われているのが生前贈与です。
方法は大きく2つあります。
・暦年贈与……年110万円までの基礎控除の範囲で毎年贈る方法(租税特別措置法第70条の2の4)
・相続時精算課税……累計2,500万円まで贈与税がかからず、相続時に精算する方法(相続税法第21条の12)
暦年贈与には注意点があります。
相続開始前の一定期間内(経過措置により相続開始日に応じて3年から最長7年)の贈与は、相続財産に加算されるためです(相続税法第19条1項。期間の区分は3-2をご参照ください)。
つまり、亡くなる直前に贈っても節税にはなりません。
一方、相続時精算課税にも2024年から年110万円の基礎控除が新設され、この範囲の贈与は相続財産に加算されないことになりました(租税特別措置法第70条の3の2)。
どちらが有利かは財産の額と年齢によって変わりますので、税理士に試算してもらうことをおすすめします。
生命保険金の非課税枠
生命保険金には、相続税の非課税枠があります。
「500万円×法定相続人の数」までは相続税がかかりません(相続税法第12条1項6号)。
死亡退職金にも、同じく「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります(同項7号)。
現金で持っていれば全額が課税対象になりますが、保険に変えておけば非課税枠の分だけ課税対象が減ります。
しかも、受取人を指定できますので、分割対策と納税資金対策を同時に進められます。
3つの目的のいずれにも効く、使い勝手のよい方法といえます。
小規模宅地等の特例・不動産の活用
自宅の敷地については、小規模宅地等の特例により、330平方メートルまでの部分の評価額を80%減額できます(租税特別措置法第69条の4)。
評価額が大きく下がりますので、影響のとても大きい特例です。
ただし、誰が取得するか、その後も住み続けるかといった要件が細かく定められています。
配分を決める段階で、この特例が使える形になっているかを確認しておく必要があります。
このほか、現金で不動産を購入すると評価額が下がるという方法もありますが、換金しにくくなり、分けにくい財産が増えるという副作用があります。
節税額だけを見て判断せず、納税資金と分割のしやすさもあわせて検討してください。
認知症に備えた対策も検討する
判断能力が低下すると遺言も贈与もできなくなる
相続対策には、見落とされがちな前提があります。
ここまでお伝えしたことは、すべてご本人に判断能力があることが前提だということです。
判断能力が低下すると、次のことができなくなります。
・遺言書を作成する、書き直す(民法第963条)
・生前贈与をする
・不動産を売却する、賃貸に出す
・生命保険に加入する、受取人を変更する
意思能力を欠く状態でされた法律行為は無効とされているためです(民法第3条の2)。
この場合、成年後見制度を使うことになりますが、成年後見人は本人の財産を守る立場ですので、相続税対策のための贈与といった、本人の利益にならない行為はできません。
つまり、判断能力が低下した後は、相続対策そのものができなくなるということです。
家族信託・任意後見という選択肢
元気なうちに備えておく方法として、次の2つがあります。
1つは家族信託です。
自分の財産の管理を信頼できる家族に託しておくもので、判断能力が低下した後も、受託者が契約の定めに従って財産を管理・処分できます。
自宅を売却して介護費用に充てる、賃貸物件の管理を続けるといった対応が可能になります。
もう1つは任意後見です。
判断能力があるうちに、将来支援してもらう人を自分で選んで公正証書で契約しておくものです(任意後見契約に関する法律第3条)。
相続対策に「いつから始めるべきか」という問いがあるとすれば、答えは「判断能力があるうち」ということになります。
相続対策を弁護士に相談するメリット
節税だけを考えると遺留分を侵害して争いのもとになる
相続対策でもっとも多い失敗は、節税だけを見て設計してしまうことです。
たとえば、事業を継ぐ長男に自社株と事業用不動産を集中させると、事業は守れますが、他の相続人の遺留分を侵害することになりがちです。
その結果、相続が始まってから遺留分侵害額請求を受け、長男が多額の金銭を用意しなければならなくなります。
節税のために組んだはずの設計が、かえって事業の継続を危うくするということが起こります。
法的な設計と税務の試算は、切り離して考えることができません。
遺言書の作成・配分の設計・認知症への備えまで
弁護士にご相談いただくと、次のような対応ができます。
・遺留分に配慮した配分の設計(誰にどの財産を、差をどう埋めるか)
・公正証書遺言の作成(文案の作成から公証役場とのやりとりまで)
・遺言執行者への就任
・家族信託の契約設計
・任意後見契約の作成
また、相続が始まった後に争いになった場合には、そのまま交渉や調停の代理まで対応できます。
他の相続人との交渉を代理することができるのは、弁護士に限られます(弁護士法第72条)。
税理士法人との連携で相続税の試算まで一つの窓口で
相続税の試算や申告は税理士の業務です(税理士法第2条1項)。
当事務所はグループの税理士法人と連携していますので、法的な設計と税務の試算を一つの窓口でご相談いただけます。
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遺言・相続に関する初回のご相談は無料でお受けしています(ご依頼いただく場合には、別途弁護士費用と実費が発生します)。
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よくある質問+まとめ
生前贈与は相続開始前の一定期間(経過措置により相続開始日に応じて3年から最長7年)の分が加算されますので、効果を出すには年数が必要です。
また、遺言書の作成も生前贈与も、判断能力があるうちでなければできません。
「まだ早い」と思われるうちに始めておくのが、結果的にいちばん多くの選択肢を残せます。
相続対策の3つの目的のうち、節税対策が不要になるだけで、分割対策は残るためです。
むしろ、遺産が自宅だけというご家庭のほうが、分けにくいために争いになりやすい面があります。
遺言書を1通用意しておくだけで防げる争いは、少なくありません。
一方、遺留分に配慮した配分の設計や、相続税の試算を踏まえた判断は、専門的な検討が必要です。
とくに、自筆証書遺言は方式の不備で無効になることがあり、不備が分かるのはご本人が亡くなった後です。
財産の内容が複雑な場合や、相続人の間に事情がある場合には、一度ご相談ください。
・相続税の試算・申告……税理士(税理士法第2条1項)
・不動産の登記……司法書士(司法書士法第3条1項)
・遺言書の作成、遺留分に配慮した設計、争いへの対応……弁護士(弁護士法第3条1項)
相続対策は法律と税務が絡み合いますので、両方に相談できる窓口を選ぶと進めやすくなります。
まとめ
このページでは、相続対策の流れについてお伝えしました。
相続対策には節税・納税資金・分割の3つの目的があり、どれを重視するかで進め方が変わります。
手順としては、現状の把握と整理から始めて、相続税がかかるかを確認し、配分を検討してバランスを整え、納税資金を考えたうえで遺言書を作成し、定期的に見直すという流れになります。
節税だけを追うと遺留分を侵害して争いのもとになりますので、法的な設計と税務の試算を合わせて検討することが大切です。
そして、いずれの対策も判断能力があるうちでなければできません。
何から手を付ければよいか分からないという段階でも構いませんので、一度弁護士に相談をしてみましょう。
当事務所では、遺言・相続に関する初回のご相談を無料でお受けしています(ご依頼いただく場合には、別途弁護士費用と実費が発生します)。
相続税に関する当事務所の弁護士監修コラム


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