
- 遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言がある。
- 自筆証書遺言は内容の訂正が比較的容易だが、公正証書遺言は信用性が高い分、修正には手間がかかる。
- 新たに遺言書を作成した方がいい場合もあるが、古い遺言書の効力が一部分残ることもあるので注意が必要。
【Cross Talk 】遺言書は訂正や撤回、変更が可能
以前遺言書を作成したのですが、当時とは財産の状況が変わってきたので、内容を変更したいと思っています。遺言書を訂正することはできますか?
自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言のいずれであっても、法律に定める方式によって訂正することが可能です。また、新たに遺言書を作成すれば、新たに作成した遺言に優先的な効力が認められます。
訂正できるのですね!訂正の方法を詳しく教えてください!
遺言書を作成した後で、財産や家族の状況が変化した等の理由によって、遺言書を訂正したいと考えるようになることは珍しくありません。
遺言書は、法律に定める方式で訂正することができますし、新たに遺言書を作成すれば、新たな遺言書と抵触する部分については前の遺言書を撤回したものと扱われます。
遺言書の訂正方法や新たに遺言書を作成する場合の注意点を確認しておきましょう。
自筆証書遺言を訂正する方法

- 変更する場所を指示し、変更した旨を付記して署名・押印することで訂正できる
- 明らかな誤記など軽微なミスは上記の方式に従っていない訂正でも遺言書の効力に影響を及ぼさない
私が作成したのは自筆証書遺言ですが、どうすれば内容を訂正できるのでしょうか?
遺言者自身が証書を作成する自筆証書遺言は、加除その他の変更をしたい場所を指示し、これを変更したことを書き加えて署名し、変更した場所に押印することによって訂正することができます。なお、明らかな誤記等の軽微なミスの場合、このような厳格な方式による訂正ではなくても、遺言の効力には影響しないとされています。この方法は、遺言者が作成した遺言書を公証人及び証人の前に提出する秘密証書遺言の場合も同様です。
内容に間違いがあった場合の訂正方法
遺言者自身が証書を作成する自筆証書遺言、秘密証書遺言の訂正方法は、次のとおりです(民法968条3項、970条2項)。・加除その他の変更をする場所を指示する
・変更したことを付記して署名する
・変更の場所に押印する
具体的には、訂正したい場所に二重線を引いて押印をして訂正し、「〇文字削除」「〇文字追加」というように変更した旨を記入して、署名します。訂正に使用する印鑑については法律上の制限はありませんが、遺言者以外の者が訂正したと疑われないようにするため、もともとの遺言書で使用された印鑑とおなじものを使用するほうがいいでしょう。
上記の方式によらない訂正は、訂正の効力を生じないとされています。また、変更したい部分を塗りつぶして元の内容が判読できなくなった場合など、訂正の効力が生じないだけではなく、もとの遺言書の効力自体に影響が生じる(無効になる)おそれもあります。そのため、訂正する際はきちんと正しい方法を確認して、方式どおりに訂正するようにしてください。
関連記事:【令和2年7月10日スタート】自筆証書遺言書保管制度ってどんな制度?
軽微なミスを訂正する方法
明らかな誤記など軽微なミスの場合、訂正が可能であり、方式違反が遺言の効力に影響を与えることもありません。最高裁も、「遺言者が書損じた文字を抹消したうえ、これと同一又は同じ趣旨の文字を改めて記載したものであることが、証書の記載自体からみて明らかである」という事案において、「かかる明らかな誤記の訂正について民法」「所定の方式の違背があるからといって、本件自筆証書遺言が無効となるものではない」との判断を示しています(最判昭和58・12・18民集35巻9号1337頁)。
参考「裁判例結果詳細:昭和56(オ)360」
公正証書遺言の記載自体を修正することはできない

- 公証人が作成する公正証書遺言は自筆証書遺言と比べると信用性が高いが、その分修正は手間がかかる。
- 公正証書遺言を修正する手段として、「誤記証明書」の発行、「更正」、「補充」がある。
先ほど自筆証書遺言の他に「公正証書遺言」というものがあると仰っていましたね。公正証書遺言とはどのようなものなのでしょうか。
公正証書遺言は公正役場で公証人が作成するもので、作成には手数料がかかりますが、一般的に遺言者本人が作成する自筆証書遺言よりも信用性が高いのが特徴です。
それなら相続手続のことを考えたら公正証書遺言を作成した方がよさそうですね。では、一度作成した公正証書遺言を修正したいときにはどうすれば良いのでしょうか?
公正証書遺言は公証人を通じて作成されるもの
公正証書遺言とは、遺言者が公正役場で公証人に遺言の内容を伝え、公証人を通じて作成される遺言書です。公証人は、裁判官、検察官、弁護士などの職業を長年務めた方などから専任される法律の専門家です。公正証書遺言には自筆証書遺言に比べていくつかの特徴があります。
まず、公正証書遺言は相続手続の際に家庭裁判所の検認手続が不要となります。検認とは、相続人に対して遺言書の存在と内容を知らせ、遺言書の日付や署名などを確認する手続です。したがって、公正証書遺言があると自筆証書遺言がある場合よりもスムーズに相続手続を進めることができます。また、公証人を通じて作成されるため、自筆証書遺言のように形式面で遺言書としての要件を満たしておらず無効となる可能性はほとんどありません。
また、公正証書遺言は遺言者が公証人に口頭で遺言書の内容を伝え、書面に残す手続ですので、遺言者本人が高齢で文字を書くことが難しい場合であっても作成が可能です。
そして、公正証書遺言は原本が公証役場で厳重に保管されます。
自筆証書遺言の場合、追加・削除・訂正の手続が法律で定められているとはいえ、第三者が勝手に押印をしたり筆跡を真似て署名するなどして偽造・変造されてしまうリスクがゼロではありません。
他方、公正証書遺言の原本が公証役場から持ち出されることは原則としてなく、遺言者本人に交付されるのは謄本と呼ばれる原本の写しですので、原本の紛失や、その作成後に偽造・変造されるリスクはありません。
なお、公証役場における公正証書遺言の保存期間は、原則20年とされています(公証人法施行規則第27条1項1号)。また,一般的に、公正証書遺言の場合、遺言者が亡くなるまでの間は「保存の必要があるとき」(同条3項)にあたると考えられておりますので、20年の保存期間が満了した後でも,遺言者が亡くなるまでの間、引き続き保管されることになります。
このように公正証書遺言は自筆証書遺言と比べて法律的に信用性が高い遺言書で、偽造・変造のリスクがないのがメリットです。
他方で、遺産の価額に応じて数千円~数万円の手数料がかかる、またこの後にご説明するように作成後に訂正ができないというデメリットもあります。
しかし、早期かつ確実に相続手続を進めるために、できる限り公正証書遺言を作成することをおすすめいたします。
記載内容を変更する場合には作り直す必要がある
一般的な公正証書の修正方法として、軽微な誤記の修正であればその公証役場の公証人から「誤記証明書」という書類を発行してもらう方法、軽微な誤記に留まらず内容を一部変更する必要がある場合には、「更正」または「補充」という方法があります。なお、「更正」または「補充」は、「更正証書」または「補充証書」という公正証書を新たに作成するもので、公正証書遺言を作成したときと同じように公証役場に書類を提出し、所定の手続を行い、必要な手数料を支払う必要があります。もっとも、公正証書遺言の「更正」または「補充」という手続は、遺言書を残すという法律行為の本体の内容を変更しない限度で認められており、遺言書の内容そのものを変更する場合には、新たに公正証書を作り直す必要があります。
新たな遺言書を作成する場合の注意点

- 古い遺言書と新しい遺言書がある場合は新しい遺言書が優先されるのが原則。
- ただし、新しい遺言書が優先されるのは前の遺言と新しい遺言が抵触する部分に限られる。
一度作成した遺言書を修正する方法はわかりましたが、案外手間がかかるものなのですね。では、一度遺言書を作成した後に、新たに遺言書を作成し直した場合はどうなるのでしょうか?
自筆証書遺言の場合も公正証書遺言の場合も、基本的には新たに作成した遺言書が効力を有します。ただし、新たに遺言書を作成しても古い遺言書の効力が部分的に残ってしまうこともありますので、注意が必要です。
古い遺言書の効力が残る場合とは、具体的にどのような場合なのでしょうか。
遺言の撤回をして新しい遺言をつくる
自筆証書遺言の場合であっても、変更すべき箇所が多い場合は1か所ずつ変更するより新たに遺言書を作成した方が早いことがあります。民法には「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」と規定されています(民法第1023条)。
「後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」というのは、古い遺言書と新しい遺言書が併存し、その内容に抵触がある場合には、その抵触する部分は作成の日付が新しい遺言書が優先され、古い遺言書は自動的に効力を失うという意味です。これは自筆証書遺言の場合であっても公正証書遺言の場合であっても同様です。
自筆証書遺言を作り直す場合には必ず日付を記載するようにしましょう。日付を記載が漏れていると、どれが新しい遺言書か判断ができないばかりか、そもそも遺言書として無効とされる可能性が高くなります。
抵触する遺言を作成する
民法第1023条の規定は、「前の遺言が後の遺言と抵触するとき」に、「その抵触する部分について」遺言を撤回したものとみなすというものです。「抵触する」とは「矛盾する」ということを意味します。
逆に言えば、前の遺言と後の遺言が矛盾しない(両立する)場合には、その限りにおいて前の遺言の効果が残ることになります。
例えば、前の遺言に「甲不動産はAに相続させる」と記載されており、後から作成された遺言に「預貯金はBに相続させる」という記載がされていた場合、前の遺言書と後の遺言書は抵触しません。 したがってこの場合、後から遺言書を作成したとしても「甲不動産はAに相続させる」という前の遺言書の内容と「預貯金はBに相続させる」の後の遺言書の内容の両方が生きることになります。
したがって、新たに作り直す遺言書の内容のみを適用させたい場合には、遺言書の内容全てについて、前の遺言書と抵触するような内容にする必要があります。例えば、新たに作成する遺言書に「これまでに作成した遺言書は全て撤回する」という文言を記載することにより、新たに作成した遺言書と前に作成した遺言書が抵触することになり、新たに作成した遺言書の内容が適用されます。
遺言書の訂正が発生するタイミングとは?

- 誰にどの相続財産を取得させるかが遺言書の中心的な内容
- 相続財産の内容や家族構成に変更が生じたときが遺言書の訂正のタイミング
遺言書の訂正が発生するのはどのようなタイミングでしょうか?
遺言書の訂正はいつでもできますが、一般的には相続財産の内容に変化が発生した場合や、家族構成に変更が生じた場合などが、遺言書を訂正するタイミングと言えるでしょう。
相続財産の内容に変化が発生した
遺言事項(遺言をすることで法的な効力が生じる事項)には、身分に関する事項(認知など)もありますが、通常は相続に関する事項、つまり誰にどのような財産を取得させるかということが遺言書の中心的な内容です。そのため、遺言書作成後に不動産等新たな財産を取得したとか、逆に遺言書作成後に建物が火災等で滅失したというように、相続財産の内容に変化が発生した場合には、遺言書を訂正して誰にどのような財産を取得させるかを決めておく必要があります。
家族構成に変更が生じた
誰にどのような財産を取得させるかが遺言書の中心的な内容となるため、遺言書作成後に推定相続人の一部が亡くなる、新たに子どもが生まれる等、家族構成に変更が生じた場合にも、遺言書を訂正して誰にどのような財産を取得させるかを決めておく必要があると言えます。関連記事:遺言の訂正をしたい場合にはどうすればよいか
まとめ
このページでは、遺言書の訂正をする際の方法を解説いたしました。 自筆証書遺言は手軽に作成でき、修正も比較的容易であるというメリットがある一方で、信頼性という面では公正証書遺言に劣ります。一方の公正証書遺言は、作成に費用や手間がかかり、一度作成すると修正も面倒ですが、一般的に信用性が高く、また相続手続をスピーディかつ安定的に進めることができます。 いずれの場合であっても、遺言書の内容は専門家のアドバイスの下で慎重に検討し、その後の修正が必要ないようにすることが重要です。 遺言書の作成や一度作成した遺言書の内容の変更についてお困りのことがありましたら、是非弁護士にご相談ください。

- 遺言書が無効にならないか不安がある
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- 独身なので、遺言の執行までお願いしたい
- 遺言書を正しく作成できるかに不安がある
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この記事の監修者
- 第二東京弁護士会
- 身近な人を失った悲しみが癒える間もなく、仕事や家事、育児等をこなしながら、複雑な相続手続きを進めるのはとても大変です。ご依頼者様のストレスを少しでも軽くできるよう精一杯お手伝いさせていただきます。
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