
- 相続人が介護していた場合には寄与分で具体的相続分が増える
- 親族が無償で療養介護をしていた場合には特別寄与料の請求ができる
- 内縁の妻など相続することができない方が介護していたような場合には特別縁故者として遺産をもらえる場合がある
【Cross Talk 】介護をしていたのは相続では評価されませんか?
先日父が亡くなり、長男である私、次男、長女で相続をすることになりました。 父は高齢になってから脳出血や転倒して骨折した後遺症で立てなくなり、介護は父と内縁関係のように住んでいた方と近くに住んでいる私と私の妻で行っていました。 このような場合に相続で何か主張ができないのでしょうか?
寄与分と特別寄与料の主張は可能でしょうね。ただし、内縁の方は相続人がいる場合には配慮されないことになっています。
詳しく教えてください。
被相続人が生前に介護を受けていたなど、被相続人の利益になる行動をしていた方について民法では一定の範囲で考慮する規定があります。 相続人・親族・それ以外の方についてそれぞれ規定があるので、順番に確認をしましょう。
相続人が介護しているような場合には寄与分で考慮

- 寄与分の概要
- 寄与分の主張方法
まず、介護をしていた相続人である私はどのような配慮がされるのでしょうか。
寄与分の規定に従って具体的相続分の増額を主張することができます。
介護をしていたのが相続人であるような場合には寄与分の主張をすることができます。
寄与分とは?
被相続人が介護を必要としていた場合、誰も面倒を見てくれる方がいない状態だとヘルパーなどを雇わなければならず、その分費用がかかって遺産も少なくなることがあります。しかし、相続人の一人が介護をしていたような場合には、その分ヘルパーを雇わなくてよくなったといえるので、相続財産の減少を防いだといえます。 その相続人の貢献を考慮せず、法定相続分として均等に分けるのはフェアではありません。
そのため、相続人が被相続人の療養看護などを行い被相続人の財産の維持や増加に貢献があった場合には、その方の貢献度に応じてより多くの財産を相続させようというのが寄与分ということになります(民法904条の2)。 この寄与分の規定は、介護をしていた方が相続人である場合にのみ適用され、長男の妻が介護をしていたり、内縁の妻が介護をしていたりというような場合には原則として適用されません。
寄与分を主張する方法
寄与分は遺産分割協議の中で主張することになります。 自分の介護によってどれくらいの寄与があったかを計算して他の共同相続人と交渉をします。 もし交渉がうまくいかない場合には調停・審判の場で主張をすることになります。相続手続きでは介護による寄与分は認められにくい傾向がある

- 介護が「特別の寄与」といえるものでなければ認められない
- 寄与に関する資料が残っていないと認められにくい
介護をしてもしなくても相続分は変わらないと聞いたことがあるのですが、寄与分は認められにくいのですか。
たしかに介護による寄与分は認められにくい傾向があります。寄与分が認められるためには、相続人がした介護が「特別の寄与」に該当しなければならないからです。 また、具体的にどのような介護をしたかの資料を集めるのが難しいことも、寄与分が認められにくい理由の一つとしてあげることができます。
証拠の資料を集めるのが難しい
介護による寄与分を認めてもらうには、被相続人に対して具体的にどのような介護をしたのかを明らかにしなければなりません。
そのためには、介護についての証拠が必要になります。介護についての証拠としては、医療機関の診断書やカルテ、要介護度・要支援度に関する資料、医療機関や施設等の請求書、領収書等、被相続人が介護を必要とする状態であったことについての資料と、介護日誌等の相続人が実際に被相続人の介護をしたことについての資料が考えられます。
介護をする相続人は、介護以外にも仕事や家事、育児等で多忙である場合が多いので、介護日誌を作成する余裕がないことも珍しくありません。そのため、介護についての証拠を確保することが難しく、このことが寄与分の認められにくい原因の一つとなっています。
寄与分の要件を満たすのが難しい
寄与分が認められるためには、当該寄与が「特別の寄与」であることが必要になります。「特別の寄与」として認められるためには、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献が必要になります。
被相続人の介護は、被相続人の配偶者や子どもが行う場合が多いと言えますが、夫婦には互いに協力し扶助する義務(民法752条)が、親子には互いに扶け合う義務(民法730条)が、それぞれあります。
そのため、配偶者または子どもとして通常期待される程度の介護をしたにとどまる場合には、特別の寄与という要件を満たさず、寄与分が認められないことになります。
相続人の間で対立しやすい
介護による寄与分は、相続人が被相続人のために財産を拠出した場合の寄与分と比べると、寄与分が認められるかどうか、認められるとして具体的にどのように評価するのかが曖昧です。
そのため、他の相続人が簡単には介護による寄与分を認めないことが多く、相続人の間で対立しやすいといえます。
相続人間で対立が生じた場合には、寄与分を主張する相続人が「特別の寄与」をしたことを証拠によって明らかにしなければならないので、介護による寄与分は認められにくいのです。
介護による寄与分を認めてもらう方法・手順

- 寄与分についての証拠を収集する
- 寄与分を金銭的に評価して遺産分割協議で主張する
介護による寄与分を認めてもらうには、どうすればいいですか。
まず、寄与分に関する証拠を集めます。証拠がそろったら、寄与分を金銭的に評価するために計算をします。 計算が終わったら、他の相続人との遺産分割協議において、寄与分を主張していくことになります。
寄与分に関する証拠を集める
証拠がなければ他の相続人に寄与分を認めてもらうことは困難なので、まず寄与分に関する証拠を収集する必要があります。
寄与分を計算する
介護による寄与分を主張するには、寄与分を金銭的に評価するための計算が必要です。
金銭的に評価する方法として、たとえば相続人が被相続人を自宅で介護したとすると、看護人・介護人を依頼すれば支払った報酬を基礎にすることが考えられます。
具体的には、介護報酬基準による報酬額が参考になりますが、これは有資格者が行う介護についての報酬なので、資格がなく、また扶養義務を負う親族が介護をする場合には、報酬基準による報酬の〇割というように、一定の減額がなされることが多いようです。
遺産分割協議で寄与分を主張する
寄与分の計算が終われば、他の相続人との遺産分割協議において寄与分を主張します。
たとえば、相続開始時における被相続人名義の財産が4000万円あり、相続人は被相続人の子ども2人だけでそのうち一人が500万円の寄与分があると主張する場合で考えてみましょう。
寄与分がなければ相続開始時の財産を1/2ずつ相続することになり、各自が2000万円を相続することになります。
これに対し、寄与分を考慮する場合、相続開始時の財産から寄与分を控除した額に法定相続分を掛け、寄与分のある相続人はそれに寄与分を加算した額を相続することになります。上の例でいえば、相続開始時の4000万円から500万円を控除した3500万円に法定相続分を掛け(各自1750万円になります)、寄与分のある相続人はそれに寄与分500万円が加算されますので、寄与分のある相続人は合計2250万円を、寄与分のない相続人は1750万円を相続することになります。
介護をした方が遺産を多くもらうための方法

- 被相続人に遺言書の作成や生前贈与をしてもらう
- 介護の実情を伝えて他の相続人に寄与分を納得してもらう
寄与分を認めてもらう以外に介護をした相続人が遺産を多くもらう方法はありませんか。
被相続人に判断能力がある場合、被相続人の介護をした方が多く遺産を相続する内容の遺言書を作成してもらったり、生前贈与を受けたりする方法が考えられます。 被相続人に判断能力がない場合は、被相続人の生前に他の相続人に対して被相続人の状態や介護の実態について説明し、寄与分について理解を得られるよう準備しておくといいでしょう。
遺言書を書いてもらう
被相続人は、遺言をすることで(遺留分による制約を除いて)自身の財産を自由に処分することができます。
そこで、被相続人が身体的な事情から介護を必要とするものの判断能力には問題がない場合、被相続人に、介護をする相続人が他の相続人より多くの遺産を相続する旨の遺言書を作成してもらうという方法が考えられます。
生前贈与をしてもらう
被相続人は、生前に自身の財産を自由に処分できます。
そのため、被相続人が身体的な事情から介護を必要とするものの判断能力には問題がない場合、被相続人から介護をする相続人に対して生前贈与をするという方法も考えられます。
ただし、生前贈与を受けた場合の贈与税と相続をする場合の相続税では控除の範囲や税率が異なり、通常は贈与税の方が高額になることに注意が必要です。
他の相続人に寄与分を認めてもらう
被相続人が認知症等で判断能力がない場合、遺言書や生前贈与で対応することはできません。
その場合、介護をした相続人が遺産を多く相続するには、他の相続人に寄与分を認めてもらうしかありません。
そのためには、他の相続人に対し、被相続人の状態や介護の実態を説明し、寄与分について理解を求める必要があります。相続が開始した後に初めて説明をするよりは、被相続人の生前に説明をする方が、他の相続人の納得を得られやすいでしょう。
内縁関係など相続人でも親族でもない方が介護していた場合には特別縁故者として考慮される

- 特別縁故者とはどのような制度か
- 特別縁故者として遺産を請求する方法
最後に、父の内縁関係にあってよく父の世話をしてくれた方がいたのですが、その方には配慮はないのでしょうか。
内縁の妻は相続人ではありませんので、相続には加われません。また相続人が一人もいなければ特別縁故者として保護される可能性があるのですが、相続人がいる本件では保護されません。
被相続人に内縁の妻がいて介護をして支えていたような場合、内縁の妻は法律婚をしていない以上相続人にはなれませんので、寄与分の主張はできません。
内縁の妻が介護をしていたような場合に遺産に対して権利を主張できる場合として、特別縁故者への相続財産の分与という制度があります。
特別縁故者とは?
被相続人が相続人なくして死亡した場合には、相続財産は国のものになります(民法959条)。 国のものにする手続きをするにあたって、裁判所が相続財産管理人を選任し、相続人を探す手続きなどを行います(民法952条以下)。この手続きの中で、被相続人の療養看護に努めたなど、特別の関係にあったといえる方に対して、裁判所は相続財産の全部または一部を与えることが可能となっています(民法958条の3)。 この制度が特別縁故者(とくべつえんこしゃ)への相続財産の分与という制度で、被相続人の療養看護に努めた方などのことを特別縁故者といいます。
特別縁故者として権利を主張する方法とは?
相続財産管理人はまず、相続人の債権者や受遺者がいる場合の受遺者に財産を配分するために、2ヶ月以上の期間を定めて権利を主張する人に名乗り出てほしい旨の公告(官報への掲載)を行います(民法957条)。この期間を経過した後に、相続人がいるなら名乗り出て欲しいという内容の官報への公告を、6ヶ月以上の期間を定めて行います(民法958条)。 特別縁故者は、この期間が経過してもなお権利を主張する方がいないときに、相続人の捜索の広告の期間満了後3ヶ月以内に、裁判所に対して相続財産の分与を請求します。
これらは全て相続人がいない場合の規定になるので、相続人が居る場合には遺産に対する請求は何もできません。まとめ
このページでは被相続人を介護してきた方がいるような場合に、相続においてどのような配慮があるのかをお伝えしてきました。 実際に寄与分・特別寄与料がどの程度の金額になるのかは争いになることも多いので、交渉がうまくいかないような場合には弁護士に相談をしてみてください。


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