はじめに

相続人の中に、故人の財産を隠している人がいるのでは……。
遺産分割を進めるなかで「預金が少なすぎる」「不動産が勝手に売却されている」など、不自然な点に気づいた方もいるでしょう。
「遺産隠し」は、相続人同士の信頼関係を崩し、大きな対立に発展しかねません。
本記事では、相続人による遺産隠しを疑った場合の調査方法や対処法、法的リスクについて、詳しく解説します。
自分の正当な相続分を守るために、ぜひ参考にしてください。

相手が遺産隠しをしたかどうかを調査する方法

共同相続人の相手が遺産隠しをしたかどうかをどのように調査すればよいか。
遺産隠しにおいてよく問題となる、「預貯金・貸金庫・有価証券・不動産」の調査方法について解説します。

現金・預貯金の調査方法

被相続人と一緒に暮らしている相続人がいる場合、被相続人から生活のために預かっている現金・預貯金を自分のものにしてしまうケースがあります。
預貯金については、現在の残高を残高証明書で確認ができ、入出金明細でいつ・いくら出金したのかを確認することが可能です。
そこから、どれくらいの現金を手元に持っていたか、毎月の生活費はいくらぐらいだったかを計算し、何に使ったのか確認してみるとよいでしょう。

貸金庫の調査方法

不動産・有価証券のような重要な資産を保有している場合には、紛失・滅失しないように権利証などの書類を貸金庫に預けておくことも珍しくありません。
もし貸金庫の利用をしていた場合、相続人であれば、各銀行で必要な手続きをすることによって貸金庫を確認することが可能です。

株式など有価証券の調査方法

被相続人が、株式など有価証券を保有している場合があります。
これらは通常、証券会社をつうじて購入するものですので、証券会社に確認をしましょう。
有価証券や証券会社の特定ができない場合には、証券保管振替機構に登録済加入者情報の開示請求を行いましょう。
参考:ご本人または亡くなった方の株式等に係る口座の開設先を確認したい場合|証券保管振替機構

不動産の調査方法

被相続人が亡くなったときに所有している財産については、市区町村役場において、固定資産税課税台帳や名寄帳を取得して調査します。
亡くなる前に売却された可能性の有無については、銀行口座の入出金履歴の売却代金を確認してみましょう。

遺産隠しのペナルティ

遺産隠しをした場合にはどのようなペナルティが課されるのかを解説します。

相続欠格となる可能性がある

民法891条で、一定の行為を行った相続人について相続欠格として相続できなくなることが規定されています。
そのなかに、「詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者」という規定があります。

第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

遺産隠しをするために遺言書を偽造したような場合には、相続欠格となる可能性があるでしょう。

相続放棄ができなくなる可能性がある

相続の承認をした、あるいは法定単純承認事由がある場合、相続放棄はできなくなります。

(法定単純承認) 第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

遺産隠しをした場合、民法921条3号で法定単純承認となり、相続放棄が無効となる可能性があります。

刑事罰に処せられる可能性がある

遺産隠しによって遺産が少ない状態であると認識させて遺産分割協議を行うことは、詐欺罪にあたる可能性があります。

第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。
引用元:刑法 | e-Gov 法令検索

詐欺罪は10年以下の懲役刑が法定されており、とても重い罪です。

他の相続人に遺産隠しをさせないための方法

ほかの相続人に遺産隠しをさせないためには、相続人同士で財産管理方法についてよく話し合ってことが大事です。
特に認知症が疑われる場合には、早めの対策が必要となります。
ほかの相続人に遺産隠しをさせないための方法について解説しておきましょう。

財産管理方法について話し合っておく

相続人が同居していて、通帳などの財産の管理については任せているような場合には、遺産隠しが容易にできます。
しかし、被相続人も含めて財産管理方法について事前に決めておくと、ほかの相続人が財産隠しをしづらくなります。
遺産隠しを防ぐために、財産管理方法についてよく話し合っておきましょう。

認知症が疑われるときには早めに対策をする

認知症が疑われるような状態になると、どうしても周りに生活を助けてもらう必要があり、被相続人の管理が行き届かなくなります。
被相続人が管理できなくなると、遺産隠しがされていなくても使途不明金が発生するような事態も発生するでしょう。
被相続人に認知症が疑われるような場合には、財産管理方法についての話し合いはもちろん、成年後見人の選任など早めに対策をしましょう。

遺産隠しをした相続人がいる場合の対応方法

遺産隠しをした相続人がいる場合、遺産の返還や遺産分割協議で特別受益者として扱う、遺産分割協議の無効を主張してやり直しなどができます。
遺産隠しをした相続人がいる場合の対応方法について解説します。

隠した遺産の返還を要求する

まだ遺産分割協議をしていない場合には、隠した遺産の返還の要求ができます。
返還に応じない場合には、不当利得返還請求権を行使しましょう。

第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

既に遺産分割協議をしてしまっている場合には、隠した遺産の返還を要求したうえで、その遺産について新たに遺産分割協議をすることを検討するとよいでしょう。

遺産分割協議で隠した遺産を特別受益として持ち戻しの主張をする

遺産分割協議で隠した遺産について、特別受益として持ち戻しの主張をします。
特別受益とは、複数の相続人がいる際に、特定の相続人生前贈与や遺贈などによって得た利益のことをいいます。
【関連記事】相続の特別受益とその持ち戻しとは?計算方法についても解説
特別受益を受けた相続人がいる場合、法定相続分の相続をすると相続人の間で不公平が生じますので、特別受益を受けた分について持ち戻しによって控除することで、具体的相続分を調整します。

第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

遺産隠しを行った者に対しても、隠した分を特別受益として控除し、遺産分割で考慮することができます。

遺産分割協議をやり直す・無効を主張する

隠した遺産の内容や額によっては、返還や特別受益による処理では、遺産分割が公平にならなかったり、当事者が納得できなかったりする場合もあるでしょう。
そのような場合には、遺産分割協議をやり直しすることも検討が必要です。
遺産分割協議のやり直しに応じない場合は、遺産分割について詐欺が行われた、錯誤があったなどを主張して、遺産分割協議の取消・無効にすることもできます。

第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

さいごに

相続人であれば、被相続人の遺産に関する情報を取得できることも多いです。
相続人の誰かが遺産を隠した疑いがある場合には、調査をしましょう。
遺産隠しが発覚した場合には、隠した遺産について改めて話し合うのか、遺産分割協議自体をやり直すのか、判断する必要があります。
遺産隠しの疑惑がある場合には、まず弁護士に相談してみてください。

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