- 単純承認をすると被相続人の権利義務を承継することになる。
- 単純承認をすると相続放棄・限定承認ができなくなる。
- 単純承認をしなくても単純承認をしたものとみなされる場合が法律で定められている。
【Cross Talk 】相続放棄ができなくなる単純承認とはどのようなものですか?
先日父が亡くなって相続が発生しました。父は多額の借金を抱えており、相続放棄をしたいと思っています。相続放棄について少し心配なことがあるのですが、単純承認をしていると相続放棄ができないという情報を目にしました。単純承認とはどのようなものでしょうか。
相続することを承認した場合がそうですが、民法所定の場合に単純承認をしたとみなされることがありますので注意をしましょう。
詳しく教えていただきたいです。
相続をした場合に、相続人には、相続をする・相続放棄をする・限定承認をする、という選択肢があります。 単純承認とは、相続を承認することをいい、これによって相続放棄や限定承認をすることができなくなります。単純承認については、一定のことをすると単純承認したものとみなされることになりますので注意が必要です。このページでは単純承認についてお伝えいたします。
単純承認をすると相続放棄・限定承認ができなくなる
- 単純承認とは相続を承認すること
- 単純承認をすると相続放棄・限定承認ができなくなる
単純承認とはどのような意味なのでしょうか。
「単純承認をする」というのは、相続を承認し、相続放棄や限定承認をしないという意味であると考えていただいて良いです。
まず、単純承認とはどのようなものかを確認しましょう。
単純承認とは
単純承認とは、相続において無限に被相続人の権利義務を承継することをいいます(民法920条)。 被相続人が亡くなって相続が発生した際に、相続人は、2.相続放棄をする
3.限定承認をする
相続をする際には、不動産・預貯金・自動車などの、いわゆるプラスの財産を思い浮かべる方も多いと思うのですが、マイナスの財産である借金等も相続の対象になります。
相続放棄をすれば、最初から相続人ではなかったことになり、借金を相続することにはなりません。 限定承認をすれば、借金などの負債は、プラスの財産の範囲でのみ相続をすることになります。 民法920条が「無限に」としているのは、借金も全て相続する、という意味であると考えて良いです。単純承認をすると相続放棄・限定承認ができなくなる
「単純承認をする」ということの意味は、他の選択肢である相続放棄・限定承認の選択肢を利用しないということです。つまり、以後に相続放棄・限定承認ができなくなることを意味します。 本件のご相談者様のように、相続財産に借金がある場合に単純承認をしてしまうと、以後相続放棄をすることができないので注意が必要です。
単純承認については、後述するように、民法921条所定の状況にあてはまると、単純承認するつもりがなくても単純承認をしたとみなされることになります。 法律上「みなす」とされると、後に反証をしても覆すことができなくなります。単純承認をしたものとみなされる行為に注意しよう
- 遺産の全部または一部を処分すると原則として単純承認したとみなされる
- 原則として3カ月以内に限定承認または相続放棄をしなかったときには単純承認したとみなされる
- 遺産の全部もしくは一部を隠匿すると単純承認したとみなされる
さきほど、特定のことをすると単純承認したとみなされる場合があると聞いたのですが、どのような場合ですか?
民法921条に規定がされているので順番に確認しましょう。
相続を単純承認しなくても、民法921条の各号にあてはまると、単純承認をしたものとみなされます。 1号から3号までありますので、詳しくみてみましょう。
遺産の全部または一部を処分したとき
遺産の全部または一部の処分をしたときには、原則として単純承認をしたものとみなされることが民法921条1項に規定されています。これは、遺産の処分が、相続をすることを前提にする行為であるからです。 ただし、遺産の処分といっても、いわゆる「形見分け」に該当するような身の回りのものをもらって帰ることは、形式的には処分といえなくもないのですが、これをもって相続放棄などが認められないとするのは妥当ではないため、処分行為にあたらないという判例があります(山口地方裁判所徳山支部昭和40年5月13日判決)。
ただし、形見分けをしたものの中に、財産的価値があるようなものも存在し得ます。 このようなものを全て自宅に持ち帰る行為について単純承認とした判例もあるので注意が必要です(東京地方裁判所平成12年3月21日判決)。形見分けというと、売却しても価値がつかないようなものについては問題になりませんが、価値がつくようなものについては遺産の処分と評価することができる、と考えておくべきです。 なお、民法921条但書は、保存行為と民法602条に定める期間を超えない賃貸をすることは法定単純承認にあたらないという例外を認めています。
保存行為というのは、ものの価値を維持するための行為で、家の屋根の修理を行う、時計やカメラを修理に出す、などの行為です。
民法602条は短期賃貸借について定めており、- 樹木の栽培または伐採を目的とする山林の賃貸借:10年
- それ以外の土地の賃貸借:5年
- 建物の賃貸借:3年
- 動産の賃貸借:6カ月
- 相続債務についての返済をした事例:単純承認にあたらない(福岡高等裁判所宮崎支部平成10年12月22日決定)。
- 遺産から葬式費用の返済をした事例:単純承認にあたらない(大阪高等裁判所昭和54年3月22日決定)。
- 遺産分割協議は錯誤により無効とならない限りは単純承認となる(大阪高等裁判所平成10年2月9日決定)。
- 債権の取り立てを行った場合には単純承認となる(最高裁判所昭和37年6月1日判決)。
915条1項の期間内に相続放棄・限定承認をしなかったとき
民法915条1項は、相続放棄・限定承認を、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に行うことを原則としています。 3カ月以内に債務の調査などが終わらない場合には、裁判所に申立てを行って期間を延ばすことが可能です。このような規定があるので、債権者は3カ月を経過してから督促を始めることもあります。 3か月以内に相続放棄・限定承認をできなかったことにやむを得ない理由がある場合には、例外的に3カ月を超えても相続放棄・限定承認をすることは可能で、これが認められれば単純承認とはなりません。 3か月の期間をすぎた場合には、3カ月以内に相続放棄・限定承認をできなかったことを裁判所に説得的に伝える必要がありますので、弁護士にご相談して行うのが望ましいといえます。
遺産の全部もしくは一部を隠匿するなどしたとき
遺産の全部もしくは一部を隠匿したり、お金などを使ってしまったり、限定承認をする場合に遺産があることを知りながら遺産の目録に記載しなかったりした場合には、あとから相続放棄や限定承認の制度を認めるべきではありませんので、単純承認をしたものとみなされます。まとめ
このページでは、単純承認についてお伝えしました。 相続放棄や限定承認をする際でも、葬儀を行ったり、被相続人が契約していたものを処理したりする必要がありますので、心配な場合には単純承認とみなされないように弁護士にご相談しながら行うようにしましょう。
- 亡くなった親に借金があるかもしれない
- 親と疎遠のため、財産を相続する気がない
- 相続税が払えないため家などの不動産を相続したくない
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