はじめに
しかし、遺言書が複数存在すると、どの遺言書を信じて手続きを進めればよいのか、戸惑う方も多いのではないでしょうか。
遺言書が複数存在する場合は、内容や日付によって有効性が異なるケースもあるため注意が必要です。誤った判断で手続きを進めてしまうと、相続トラブルや手続きのやり直しにつながるおそれもあります。
そこで本記事では、複数の遺言書が見つかった場合に相続人が取るべき対応や、有効な遺言書を見極めるポイント、注意点についてわかりやすく解説します。
そもそも遺言書は複数作成できるの?
結論からお伝えすると、遺言書を複数作成することは可能です。
遺言書を複数作成する理由としては、以下のようなものが挙げられます。
- 遺言内容を変更したい
- 遺言そのものを撤回したい
- 遺言を作成したのを忘れて2枚目を作成してしまった
ここからは、遺言内容の変更や撤回、あとから別の遺言書が作成された場合の取り扱いについて、詳しくみていきましょう。
遺言書は何回でも変更可能
遺言書は、法律上の要件を充たす限り、遺言書を再度作成し、内容を変更することが可能です。
遺言書には「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」の3種類があり、いずれの種類の遺言書においても、以下の作成方法を守って新しい遺言書を作成することで、もともとの遺言書の内容を変更することができます。
自筆証書遺言 | ■作成方法 遺言者が自筆で財産目録以外の全文、年月日を書き、署名・押印。財産目録はPC作成が可能。 ■保管場所 法務局、または遺言者の自宅といった身近な場所 |
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秘密証書遺言 | ■作成方法 遺言内容を記した書類に遺言者が署名・押印。遺言者が自身の遺言書であることと氏名及び住所を述べ、公証人・遺言者・証人2名が封紙に署名・押印を行う。 ■保管場所 自宅といった身近な場所 |
公正証書遺言 | ■作成方法 遺言者が公証役場において公証人と証人2名の前で、遺言書の内容を口頭で告げ、公証人が文章にまとめる。公証人が作成した遺言書を2人以上の証人と公証人が立ち会い、公証人が読み上げ全員が署名・押印を行う。 ■保管場所 公証役場(作成後20年間) |
なお、変更前の遺言書と変更後の遺言書の種類が同一である必要はありません。
例えば、公正証書遺言を作成したあと、自筆証書遺言を作成して、内容を変更することも可能です。
遺言書を撤回するには、原則、撤回する旨の遺言書が必要
民法第1022条には「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができる。」と記載されています。
つまり、遺言内容を撤回するためには、前述の作成方法に従って、いずれかの種類の遺言書で、従前の遺言書を撤回する必要があるのです。
なお、自筆証書遺言・秘密証書遺言を自身で保管している場合は、遺言書を破棄することでも遺言撤回をすることができます(民法第1024条)。
ただし、自筆証書遺言を法務局に保管している際には、「遺言書の保管の申請の撤回」手続きを行い、法務局から遺言書を返還してもらった後処分を行わなければなりません。
また、公正証書遺言の場合は、新たに遺言書を作成することで前の遺言書の内容を撤回できます。
抵触する遺言書がある場合には後のものが効力を有する
遺言書は、原則として最新の日付のものが有効となります。
例えば、自筆証書遺言が2通存在しているケースで考えてみましょう。
日付の古い1通目は配偶者に全額遺産を相続する旨、日付の新しい2通目は配偶者に遺産の80%を、お世話になった方に20%を遺贈するという内容だった場合には、1通目の「配偶者に100%」という遺言書は撤回され、2通目の内容が有効ということになります。
遺言書が複数見つかった場合の相続人の対応
遺言書が複数見つかった場合、相続人はどのような対応をすればよいのでしょうか。
ここでは、遺言書が複数存在する相続手続きのポイントを紹介します。
自筆証書遺言・秘密証書遺言があった場合には検認をする
まず、自筆証書遺言・秘密証書遺言が見つかった場合は、家庭裁判所で「検認」の手続きを行います。
検認とは、家庭裁判所で遺言の内容を確認する手続きのことです。
自筆証書遺言や秘密証書遺言書の偽造・変造を防ぐために行われます。
自筆証書遺言や秘密証書遺言は、この検認手続きを行わないと内容を確認できません。
また、遺言書をもとに預金口座の解約手続き等をする場合、検認をしたこと証明する「検認済証明書」が必要となります。
そのため、遺言書が見つかった場合、まずはしっかり検認の手続きをしましょう。
なお、自筆証書遺言が法務局に保管されている場合や、公正証書遺言が公証役場で保管されている場合には、検認を行う必要はありません。
遺言書を時系列順に整理する
遺言書が複数ある場合は、遺言書に記載されている年月日を確認し、時系列順に整理しましょう。
各遺言書の内容が矛盾していたり、内容が異なっていたりする場合もありますが、最新の遺言書が法的に有効であるならば、最新の遺言書どおりに相続を行うことになります。ここでは、遺言書が複数存在する相続手続きのポイントを紹介します。
なお、全ての相続人・受遺者が同意している場合には、遺産分割協議を行ったうえで、遺言書の内容と異なる相続を行うことは可能です。
遺言書の内容を争う場合
遺言書が複数存在するときに、最新の遺言書について「遺言書が法的に無効である」と主張したい場合には家庭裁判所に「遺言無効確認の調停」を申立てることができます。
例えば、遺言書作成時に被相続人の認知機能が著しく低下しており、誰かに言われるがままに遺言書を作成した疑いが残るような場合、遺言無効の主張が認められる可能性があります。
また、遺言書の内容によっては、相続人の遺留分(法律上認められた相続人の最低限の持ち分)が侵害されている場合もあるでしょう。
その場合、遺言書の内容自体を争うことはできませんが、法定相続分以上に遺産を取得している相続人や受遺者に対して、遺留分侵害額請求が可能です。
いずれの場合も、法律の専門家であり相続トラブルの対処に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
遺言書が複数見つかった場合、法務局・公証役場以外に保管されている遺言は検認手続きを行い、時系列順に整理・確認を行いましょう。
最新の遺言内容に従うのが難しい場合は遺産分割協議で他の相続人と話し合ったり、遺言の無効を主張したりする必要があるので、場合によっては弁護士への相談も検討してください。


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