- 未支給年金は相続放棄をした方も受け取ることが可能。遺産には当たらない。
- 国民年金の未支給分は必要書類を添付し年金事務所または年金相談センターに届け出ることで支給される
- 遺産の全てまたは一部を使い込むと相続放棄が出来なくなる
【Cross Talk 】相続放棄をしても未支給年金が受け取れるって本当?
父が亡くなり、遺産の債務が多かったので相続放棄をする予定なのですが、未支給年金があります。相続放棄を行っても未支給年金を受け取れると聞いたのですが、本当でしょうか?
本当です。未支給年金の受給は遺族にとって「固有の権利」で遺産には該当しません。遺族等が受取人である死亡退職金や生命保険金も、相続放棄をした方でも受け取ることができます。もちろん、遺産を使い込んでしまうと相続放棄が出来なくなる点には注意してください。
詳しく教えてください。
被相続人の遺産に債務が多い、遺産が不要である場合には、相続放棄の手続を行うことで「最初から相続人ではない」とみなされ相続から解放されます。
ただ遺産を一部でも使ってしまうと相続を承認したとみなされ、相続放棄が出来ません。一方で被相続人以外が受取人となっている未支給年金や生命保険金・死亡退職金などは「固有の財産」として相続放棄を行っても受け取れるというルールが存在します。
あらかじめ相続放棄のルールや未支給年金受け取りの手続について、知っておくことが重要です。
未支給年金は相続放棄をした方でも受け取れる
- 未支給年金とはまだ支給されていない年金。国民年金の場合は3親等以内の親族が請求できる
- 遺産ではないため相続放棄をした方でも受け取れる。相続税の対象外で一時所得となる
相続放棄をしても未支給年金が受け取れると聞き、手続をしたいのですが…
国民年金の場合、必要書類を揃えて年金事務所または年金相談センターに届出を行うことで手続が可能です。
未支給年金とは
年金給付の受給権者である被相続人が亡くなった時、支給される年金であるもののまだ支給されていないものを未支給年金と呼びます。 例えば、老齢基礎年金の受給権者が5月20日に亡くなった場合、最後に受け取る年金は、4月15日に支給される2月分と3月分になります。年金は本来「受給権者が亡くなった月」まで支給される仕組みですので、上記の場合4月分と5月分が未支給年金となり請求が出来ます。
未支給年金は遺産ではない
未支給年金は亡くなった受給権者の遺族が、「自己の固有の権利」として請求するものであり、遺産とはみなされません。本来民法上の相続財産ではないものの、相続税法上は相続財産となるものを「みなし相続財産」と呼び、生命保険金・死亡退職金などが当てはまります。死亡退職金や生命保険金も、未支給年金と同様に、相続放棄をした方でも受け取ることが出来ます。 ただ、未支給年金は、相続とは別の立場から一定の遺族に支払うもの(平成7年11月7日最高裁判決)であるため、みなし相続財産には該当しません。
よって相続税の対象外となり遺族の一時所得となります。未支給年金を受け取れる方
未支給年金は、遺族の請求に基づき支給され3親等以内の親族が請求できます。3親等の親族とは、曾孫、曾祖父母、甥・姪、伯父・伯母、配偶者の曾祖父母、配偶者の甥・姪、配偶者の伯父・伯母などが該当します。
未支給年金を受け取るための手続
未支給年金(国民年金)を受け取れるのは3親等以内の親族ですが、順位が存在します。 亡くなった時点で生計を同じくしていた(1)配偶者(2)子ども(3)父母(4)孫(5)祖父母(6)兄弟姉妹(7)その他の3親等内の親族の順番です。年金事務所または年金相談センターに、死亡の届出と未支給年金に関する届出が必要となります。
種類 | 必要書類 |
---|---|
死亡の届出に関する書類 | 年金受給権者死亡届(報告書) 亡くなった方の年金証書 亡くなったことを明らかにできる書類 例:戸籍抄本、役所に提出した死亡診断書(死体検案書等)のコピー、死亡届の記載事項証明書など |
未支給年金請求に関する書類 | 亡くなった方の年金証書 亡くなった方と請求する方の続柄が確認できる書類 例:戸籍謄本、法定相続情報一覧図の写しなど 亡くなった方と請求する方が生計を同じくしていたことが分かる書類 例:亡くなった受給権者の住民票(除票)と請求者の世帯全員の住民票など 未支給年金の振込先となる金融機関の通帳 ※金融機関から口座の証明を受けた際には添付する必要はありません。 <亡くなった方と請求する方が別世帯の場合> 生計が同一であることについての別紙の様式 |
確定申告が必要な場合があるので注意
上述したように、未支給年金は相続財産にも、みなし相続財産にも該当しませんので、その金銭の受け取りは所得税における一時所得と評価されます。そのため、所得税の対象となり、確定申告が必要な場合があります。
支給金を受け取る年度で受け取った方の支給金を含む一時所得の金額の合計額が50万円以下である場合は、確定申告は不要です。
未支給年金には期限がある
未支給年金については、受給権者の年金支払い日の翌月の初日から起算して、5年以内に請求をしなければ時効となり、請求できなくなるとされています。そのため、基本的には5年以内に行いましょう。
ただし、やむを得ない事情によって5年以内に請求できなかった場合には、年金事務所にその理由を説明すれば受け取れる場合もあるので、早めに弁護士に相談してください。
相続放棄をしても受け取れるもの・受け取れないもの
- 相続放棄をしても受け取れるもの
- 相続放棄をすると受け取れないもの
未支給年金のように相続放棄をしても受け取れるものにはほかにどんなものがありますか?
相続放棄をしても受け取れるもの、受け取れないものについて確認しましょう。
未支給年金のように相続放棄をしても受け取れるものと、受け取れないものを確認しておきましょう。
相続放棄をしても受け取れるもの
相続放棄をしても受け取れるものとして次のようなものが挙げられます。香典
通夜・葬儀の際に香典を受け取りますが、これは相続の対象になるわけではなく、遺族や喪主として受け取るものと解釈されます。そのため、相続放棄をしても受け取ることができます。
健康保険の葬祭費や埋葬料
健康保険の葬祭費や埋葬料は相続の対象になるわけではなく、遺族にかかる費用を補填するためのものです。そのため、相続放棄をしても受け取ることができます。
遺族年金
遺族年金は相続人としての地位に基づいて支給されるものではなく、遺族に対して支給されるものです。そのため、相続放棄をしても受け取ることができます。
死亡一時金
年金の死亡一時金も、遺族年金と同様に、相続人の地位に基づいて支給されるものではなく、遺族に対して支給されるものです。そのため、相続放棄をしても受け取ることができます。
遺族が受取人の生命保険金
遺族が受取人となっている生命保険金は、相続人であるから受け取れるわけではなく、生命保険契約に基づいて受け取ることができるものです。そのため、生命保険金も相続放棄をしても受け取ることができます。
なお、生命保険金を受け取った場合、みなし相続財産として相続税の課税対象になるので、相続放棄をしても相続税の申告・納税が必要となります。
遺族が受取人の死亡退職金
遺族が受取人の死亡退職金については、労働契約に基づく支給となり、相続によって受け取るわけではないので、相続放棄をしても受け取ることができます。なお、死亡退職金を受け取った場合、みなし相続財産として相続税の課税対象になるので、相続放棄をしても相続税の申告・納税が必要となります。
被相続人が世帯主でない場合の高額医療還付金
被相続人が世帯主でない場合の高額医療還付金は、世帯主に対して支払われるので相続財産となりません。そのため、相続放棄をしても受け取ることができます。
祭祀財産
お墓・仏壇・位牌などの先祖を祀るための財産を祭祀財産といいます。 祭祀財産は祭祀承継者とされた方に承継されることになっており、相続放棄をした方でも祭祀承継者とされていれば、祭祀財産を受け取ることができます。相続放棄をすると受け取れないもの
一方で次のものは相続放棄をすると受け取れません。被相続人の遺産である現預金・株式・不動産・動産・債権
被相続人の遺産である現預金・株式・不動産・動産・債権といったものは、相続人に分け与えられるものになるので、相続放棄をした以上は受け取ることができません。たとえ亡くなった方の形見であるからといっても法律上は承継する権利はありませんので注意をしましょう。
被相続人が受取人の死亡保険金
死亡保険金について、受取人が被相続人となっている場合には、死亡保険金は相続財産に含まれることになります。そのため、この場合は相続放棄をすると受け取ることができません。
被相続人に支給される死亡退職金
死亡退職金について被相続人に支給される場合には、死亡退職金は相続財産に含まれることになります。そのため、この場合は相続放棄をすると受け取ることができません。
被相続人が世帯主だった場合の高額医療還付金
被相続人が世帯主である場合に、高額医療還付金は被相続人本人が取得します。そのため相続財産に含まれることになり、相続放棄をした方は受け取ることができません。
被相続人が請求できる税金や保険料の還付金
被相続人が税金や保険料を納めすぎていた場合の還付金について、請求できるのは被相続人本人なので、被相続人の債権として相続財産に含まれることになります。そのため、相続放棄をした人は受け取ることができません。
遺産を使い込むと相続放棄ができなくなる
- 遺産を使い込むと相続放棄が出来ない
- 相続放棄は被相続人が亡くなったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きを行う
マンションを購入したので頭金を遺産から少し借りたのですが相続放棄できますか?
相続を承認したとみなされ、相続放棄が出来なくなってしまいます。相続放棄が認められる可能性を少しでも上げるため早急に返還しましょう。
相続放棄は被相続人の全ての遺産を放棄する行為で、自己のために相続の開始があったことを知った日(被相続人が亡くなったことや先順位の相続人の相続放棄完了を知った日)から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てることで手続が可能です。
相続放棄は遺産に債務が多い、遺産が不要である、あらかじめ自身以外に受け継ぐ方が決まっている場合などに申し立てるのが一般的です。
被相続人に債務があり資産状況が分からないときには、「限定承認」というプラスの遺産の範囲内だけでマイナスの遺産を引き継ぐ手続を選ぶ場合も稀にあります。
単純承認の条件は、上記の期限内に家庭裁判所に申立てを行わないことや遺産の全部または一部を処分(使い込む等)することであり、これにより相続を承認した(単純承認)とみなされ、自動的に相続したものとされます。単純承認の取消しや撤回はできませんので注意が必要です。
また、遺産の使い込みの例としては、遺産分割前の段階で他の相続人に相談せずに、遺産を自身の支払いに充てる、勝手に売却する、着服する行為などがあり、相続放棄を行わなくても相続人の間でトラブルの元となってしまいます。
まとめ
相続放棄をした方でも、未支給年金を受け取ることができ国民年金の場合は年金事務所または年金相談センターに必要書類を添えて申請を行います。生命保険金・死亡退職金も相続人の「固有の権利」として相続を放棄しても受け取ることが可能です。 ただ、被相続人の口座に入ってきた年金を使い込んだような場合には相続を承認したとみなされ相続放棄もできなくなってしまいますので、注意しましょう。あらかじめ相続放棄のルールも知っておくことが重要となります。更に詳しく知りたい方は弁護士に相談することをおすすめします。
- 死亡後の手続きは何から手をつけたらよいのかわからない
- 相続人の範囲や遺産がどのくらいあるのかわからない
- 手続きの時間が取れないため専門家に任せたい
- 喪失感で精神的に手続をする余裕がない
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