任意後見の費用は「契約時」と「後見開始後」の2段階でかかる
ざっくりポイント
  • 任意後見の費用は「契約時」と「後見開始後」の2段階でかかる
  • 契約時の公正証書作成費用は2025年10月1日に改定され、基本手数料は1契約13,000円
  • 後見開始後は、任意後見人の報酬に加えて任意後見監督人の報酬が本人が亡くなるまで続く
  • 任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決めるため、契約で無償にすることはできない
目次

【Cross Talk 】任意後見の費用は「契約時」と「後見開始後」の2段階でかかる

任意後見制度を利用するには、どんな費用がかかるのでしょうか。

費用は大きく「契約時」と「後見開始後」の2段階に分かれます。順番に確認していきましょう。

任意後見の費用は「契約時」と「後見開始後」の2段階でかかる

認知症などで判断能力が低下した場合に備えて、財産管理や介護サービスの契約締結などをしてくれる、任意後見人を選任する制度(任意後見制度)を利用する方法があります。

任意後見の費用は、大きく「契約時」と「後見開始後」の2段階に分かれます。契約時には公正証書の作成費用が、後見開始後には任意後見人と任意後見監督人への報酬が発生します。さらに、2025年10月1日の公証人手数料令の改正で、契約時の公正証書作成費用が改定されている点にも注意が必要です。

この記事では、契約時・開始時・開始後のそれぞれでいくらかかるのか、専門家に依頼した場合の報酬相場、総額のシミュレーション、法定後見や家族信託との費用比較まで、弁護士が解説していきます。

任意後見にかかる費用の全体像を把握したい方は、ぜひ参考にしてください。

任意後見制度とは(費用が発生する2つのタイミング)

知っておきたい相続問題のポイント
  • 任意後見契約は公正証書で結ぶ必要がある(任意後見契約法3条)
  • 費用は「契約時」と「後見開始後」の2つのタイミングで発生する

まず、任意後見制度がどんな制度なのか教えてください。

判断能力があるうちに、将来の後見人を自分で決めておく制度です。費用のかかり方から確認しましょう。

任意後見制度の概要(公正証書が必須・任意後見契約法3条)

高齢や病気等の影響で判断能力が不十分になった方を保護するために、本人に代わって後見人が財産管理等を行う制度を成年後見といいます。任意後見制度は、成年後見制度の一種で、判断能力がある間に契約によって後見人をあらかじめ決めておく制度です。

成年後見制度には、大きく分けて法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。法定後見制度は、本人の判断能力が不十分になった場合に、家庭裁判所が成年後見人を選任する制度で、人選は家庭裁判所に委ねられます。これに対し任意後見制度は、本人の判断能力が十分である間に、あらかじめ後見人となる方や委任する事務の内容を契約で定めておく制度です。

任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならないと定められています(任意後見契約法3条)。つまり、当事者だけで作った契約書では効力が生じず、必ず公証役場で公正証書にする必要があります。ここが、契約時に公正証書の作成費用がかかる理由です。

費用がかかるのは「契約時」と「後見開始後」の2段階

任意後見の費用は、次の2つのタイミングに分けて考えると整理しやすくなります。

  • 契約時(判断能力があるうち):任意後見契約を公正証書にする費用。専門家に契約書の作成を依頼すれば、その報酬も加わります
  • 後見開始後(判断能力が低下した後):家庭裁判所への任意後見監督人選任の申立て費用と、後見開始後に毎月かかる任意後見人・任意後見監督人への報酬

重要なのは、任意後見の効力が生じるのは契約時ではなく、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時であるという点です(任意後見契約法2条1号・4条)。契約を結んだだけでは後見は始まらず、実際に判断能力が低下してから申立てを行うことで、はじめて後見人としての職務と報酬が発生します。

任意後見契約の3つの型(即効型・移行型・将来型)

任意後見契約は、他の契約との組み合わせ方によって、実務上3つの型に分けられます。どの型を選ぶかで、契約時に結ぶ契約の数と費用が変わります。

  • 将来型:任意後見契約だけを結び、判断能力が低下したら後見を開始する、最もシンプルな型
  • 移行型:任意後見契約とあわせて任意代理契約(財産管理委任契約)を結び、判断能力が低下する前から財産管理を任せられるようにする型
  • 即効型:契約締結の直後に任意後見監督人の選任を申し立て、すぐに後見を開始する型(判断能力が低下し始めている場合に用いられます)

移行型のように複数の契約を同時に結ぶ場合は、その分だけ公正証書の作成費用が増えます。詳しくは大項目7で解説します。

【契約時】任意後見契約公正証書の作成費用

知っておきたい相続問題のポイント
  • 公正証書の基本手数料は1契約13,000円(2025年10月1日改定)
  • このほかに収入印紙2,600円・登記嘱託手数料1,600円などがかかる

まず、契約時にはいくらかかるのでしょうか。

公正証書を作る費用です。2025年10月に金額が改定されたので、最新の額で確認しましょう。

任意後見契約を結ぶには、公証役場で任意後見契約公正証書を作成してもらう必要があり、そのための費用がかかります。金額は2025年10月1日の公証人手数料令の改正で見直されました。以下は、日本公証人連合会の現行の案内に基づく金額です。

費用の項目 金額(2025年10月1日改定後) 備考
公正証書作成手数料 任意後見契約1件につき13,000円 旧11,000円。3枚を超える分は1枚300円加算
法務局に納める収入印紙代 2,600円 据え置き
登記嘱託手数料 1,600円 旧1,400円
正本・謄本の作成手数料 書面1枚300円/電磁的記録1通2,500円 登記用に謄本1通の書面発行が必須
書留郵便料 重量により変動 法務局への謄本郵送分
(出張の場合)病床執務加算 6,500円(1件で計19,500円)+日当・交通費

公証役場の基本手数料は1契約13,000円(2025年10月1日改定)

公証役場に支払う公正証書の作成手数料は、任意後見契約1件につき13,000円です。改正前は11,000円でしたが、2025年10月1日から13,000円に引き上げられました。既存の解説記事や古い資料には旧額の「1万1,000円」のまま記載されているものが多いため、注意してください。

また、公正証書の内容を紙に印刷した枚数が、法務省令で定める計算方法により3枚を超える場合には、超える1枚ごとに300円が加算されます(改正前は「4枚を超える場合に1枚250円」でした)。

法務局に納める収入印紙2,600円・登記嘱託手数料1,600円

公証役場の手数料のほかに、任意後見契約は法務局で登記されるため、次の費用がかかります。

  • 法務局に納める収入印紙代:2,600円(改正後も据え置き)
  • 登記嘱託手数料:1,600円(改正前は1,400円)
  • 書留郵便料:登記申請のため公正証書の謄本を法務局へ郵送する費用で、重量によって多少異なります

正本・謄本の作成費用(書面1枚300円・電磁的記録1通2,500円)

公正証書の内容を証明する正本・謄本などの作成手数料も必要です。書面で発行する場合は1枚につき300円(改正前は250円)、電磁的記録(データ)で発行する場合は1通につき2,500円です。なお、登記手続きに使うため、謄本1通を書面で発行することは必須とされています。

これらを合計すると、任意後見契約の公正証書1件あたり、おおむね17,000円台からが目安になります。契約書の枚数や正本・謄本の通数によって上下します。

公証人に出張してもらう場合の加算(病床執務加算6,500円・日当・交通費)

本人が病気などで公証役場に出向けない場合には、公証人に自宅や病院へ出張してもらい、公正証書を作成する方法があります。この場合は、基本手数料の5割にあたる病床執務加算6,500円が加わり、任意後見契約1件につき19,500円となります。あわせて、公証人の日当と現場までの交通費も必要です。

【契約時】専門家に契約書作成を依頼する場合の報酬相場

知っておきたい相続問題のポイント
  • 弁護士や司法書士に契約書作成を依頼すると、公証役場の費用とは別に報酬がかかる
  • 専門家の報酬は自由化されており、事務所ごとに金額が異なる

契約書は自分で作るのですか。専門家に頼むといくらですか。

ご自身でも作れますが、内容の設計は専門的です。依頼する場合の相場を見てみましょう。

弁護士・司法書士に依頼する場合の報酬相場

任意後見契約書の文案は、ご自身で作成して公証役場に持ち込むこともできますが、代理権の範囲の設計などが専門的なため、弁護士や司法書士に作成を依頼するのが一般的です。この場合、前述の公証役場の費用とは別に、専門家への報酬がかかります。

報酬は自由化されており、統一された基準はありません。事務所によって異なりますが、契約書作成のサポートで10万円前後から、というのが一つの目安です。実際の金額は、契約の類型や関連契約の有無によって変わるため、依頼前に見積もりを確認してください。

依頼すると何をしてもらえるのか(代理権目録の設計・契約類型の選択)

任意後見契約でとりわけ重要なのが、任意後見人にどこまでの代理権を与えるかを定める「代理権目録」です。ここで必要な権限が漏れていると、いざ後見が始まったときに必要な手続きができない、という事態になりかねません。逆に、不要に広い権限を与えると本人の保護がおろそかになります。

専門家に依頼すると、本人の財産状況や希望をふまえて代理権目録を設計し、将来型・移行型・即効型のどの類型が適切かを一緒に検討してもらえます。あわせて、後述する見守り契約や死後事務委任契約など、セットで結んでおくとよい契約の要否も含めて設計してもらえる点が、依頼するメリットです。

当事務所に依頼する場合

当事務所でも、任意後見契約書の作成から、公証役場との調整、関連契約の設計までをサポートしています。費用については、料金案内のページをご覧ください。

【開始時】任意後見監督人選任の申立て費用

知っておきたい相続問題のポイント
  • 後見開始には、家庭裁判所への任意後見監督人選任の申立てが必要
  • 裁判所に納める費用は収入印紙2,200円分と郵便切手で、比較的少額

判断能力が低下したら、どんな費用がかかりますか。

家庭裁判所への申立て費用です。裁判所に納める分は意外と少額です。

任意後見契約を結んだ後、認知症などで本人の判断能力が低下したら、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをします。この監督人が選任されて、はじめて任意後見が開始します。申立てにかかる費用は次のとおりです。

費用の項目 金額 備考
申立手数料(収入印紙) 800円 全国一律
登記手数料(収入印紙) 1,400円 全国一律
連絡用の郵便切手 裁判所により異なる 申立先の家裁に確認
診断書の取得費用 数千円程度 家裁が定める様式のもの
鑑定費用 必要な場合10万〜20万円程度 鑑定が必要と判断された場合に申立人が負担することがある

申立手数料800円・登記手数料1,400円(いずれも収入印紙)

裁判所に納める費用は、申立手数料の収入印紙800円分と、登記手数料の収入印紙1,400円分です。この2つは全国どの家庭裁判所でも同じ金額です。合わせて2,200円分の収入印紙ということになります。

連絡用の郵便切手・診断書などの実費

収入印紙のほかに、裁判所が連絡に使う郵便切手を納めます。金額と組み合わせは申立先の家庭裁判所によって異なるため、申立て前に確認してください。

また、申立てには本人の診断書(家庭裁判所が定める様式のもの)を添付する必要があり、その取得費用(数千円程度)がかかります。このほか、本人の戸籍謄本、任意後見契約公正証書の写し、登記事項証明書、財産に関する資料などの取得費用も見込んでおきましょう。

鑑定が必要な場合は鑑定費用がかかることがある

本人の精神の状況について鑑定をする必要がある場合には、申立人がその鑑定費用を負担することがあると、裁判所の案内に明記されています。鑑定が行われる場合の費用は10万円から20万円程度が一つの目安ですが、実際に鑑定が必要になるケースは限られています。

申立て手続きを専門家に依頼する場合の報酬

申立ての手続きを弁護士や司法書士に依頼する場合は、裁判所に納める実費とは別に報酬がかかります。金額は事務所によって異なりますが、申立て代行で10万円台からが一つの目安です。判断能力が低下した後は、本人が自分で申立てを進めるのが難しいことも多いため、専門家に依頼するケースが少なくありません。

【開始後】任意後見人・任意後見監督人への報酬

知っておきたい相続問題のポイント
  • 任意後見人の報酬は契約で決められ、家族が引き受ける場合は無償も多い
  • 任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決めるため、無償にはできない

後見が始まったら、毎月いくらかかりますか。

任意後見人と、それを監督する任意後見監督人への報酬です。決まり方が違うので分けて見ましょう。

任意後見人への報酬は契約で自由に決められる(家族なら無償も多い)

任意後見人に支払う報酬については、任意後見契約の内容として定めておくのが一般的です。親族が任意後見人になる場合は、報酬を受け取らないこともありますが、第三者の専門家(弁護士や司法書士など)が任意後見人になる場合は、一般に報酬を支払います。

つまり、任意後見人の報酬は契約で自由に決められるため、家族が引き受けて「無償」と定めることもできます。この点が、次に述べる任意後見監督人の報酬との大きな違いです。

専門家が任意後見人になる場合の報酬相場(月額)

任意後見人に対する報酬額の基準は、法律で決まっているわけではありません。あくまで参考ですが、専門職が任意後見人になる場合の報酬額の目安は、管理する財産の額に応じて次のように考えられています。

管理財産額 任意後見人(専門職)の基本報酬の目安(月額)
1,000万円以下 2万円程度
1,000万円超〜5,000万円以下 3万〜4万円程度
5,000万円超 5万〜6万円程度

後見事務などで身上監護に特別困難な事情があった場合には、基本報酬額とは別に、その5割の範囲内で追加報酬が付されることがあります。なお、任意後見人の報酬は契約で定めるものであり、契約で報酬を定めていない場合は、民法の原則により無報酬となります(民法648条1項)。後から報酬を設けるには、あらためて契約を変更して公正証書を作り直す必要があります。家庭裁判所が審判で報酬を決めるのは法定後見の成年後見人などの場合であり、任意後見人には当てはまらない点に注意してください。

任意後見監督人への報酬は家庭裁判所が決める(管理財産額による目安)

任意後見監督人については、任意後見契約書で報酬について規定する必要はありません。任意後見監督人の報酬は、家庭裁判所が審判によって決定するからです。

ここが費用面で見落とされやすいポイントです。任意後見人の報酬は契約で無償にできても、任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決めるため、本人の側で「支払わない」と決めることはできません。管理財産額に応じた基本報酬の目安は次のとおりです(東京家庭裁判所が公表している目安に基づくもので、実際の金額は各家庭裁判所が個別に決定します)。

管理財産額 任意後見監督人の基本報酬の目安(月額)
5,000万円以下 1万〜2万円程度
5,000万円超 2万5,000〜3万円程度

報酬のほかにかかる実費(事務費用)

任意後見人・任意後見監督人への報酬のほかに、後見事務を行ううえで実際にかかる費用(交通費、通信費、必要書類の取得費用など)も、本人の財産から支出されます。金額は事案によって異なりますが、報酬とは別に生じる点を押さえておきましょう。

費用シミュレーション:結局いくらかかる?

知っておきたい相続問題のポイント
  • 後見開始後の報酬は、本人が亡くなるまで毎月かかり続ける
  • 家族が任意後見人になっても、任意後見監督人の報酬は発生する

結局、総額でいくらくらいになるのでしょうか。

2つのケースで、契約から数年利用した場合の総額を見てみましょう。

ここまでの費用を、2つのモデルケースで合計してみます。いずれも一定の前提を置いた概算であり、実際の金額は財産の状況や依頼先によって変わります。ここでは、管理財産額を3,000万円程度、後見開始後の利用期間を5年と仮定します。

ケース(1):家族が任意後見人になる場合の総額例

子が任意後見人になり、報酬は無償と定めたケースです。契約書の作成は専門家に依頼せず、公証役場の費用のみとします。

費用の項目 金額の目安
契約時:公正証書作成費用(公証役場の実費のみ) 約1万7,000円〜2万円
開始時:申立て費用(収入印紙・郵券・診断書など) 約1万円前後
開始後:任意後見人(家族・無償) 0円
開始後:任意後見監督人の報酬(月1万〜2万円×5年) 約60万〜120万円
5年利用した場合の総額の目安 約63万〜123万円

家族が無償で任意後見人になっても、任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決めるため発生します。この例では、監督人報酬(月1万〜2万円)が5年間続くと、それだけで60万〜120万円程度になります。

ケース(2):専門家が任意後見人になる場合の総額例

弁護士や司法書士が任意後見人になり、契約書の作成と申立ても専門家に依頼するケースです。

費用の項目 金額の目安
契約時:公正証書作成費用+契約書作成の専門家報酬 約10万〜15万円
開始時:申立て費用+申立て代行の専門家報酬 約11万〜20万円
開始後:任意後見人(専門職)の報酬(月3万〜4万円×5年) 約180万〜240万円
開始後:任意後見監督人の報酬(月1万〜2万円×5年) 約60万〜120万円
5年利用した場合の総額の目安 約261万〜395万円

専門家が任意後見人になる場合は、任意後見人の報酬(月3万〜4万円)と任意後見監督人の報酬(月1万〜2万円)の両方がかかります。5年間では合計240万〜360万円程度が目安となり、家族が引き受ける場合との差が大きくなります。

月額費用は本人が亡くなるまで続くことに注意

見落とされやすいのが、後見開始後の月額費用は、原則として本人が亡くなるまで続くという点です。上の例では利用期間を5年としましたが、10年、15年と続けば、その分だけ総額は膨らみます。契約時の初期費用よりも、長期にわたる月額費用のほうが総額に与える影響は大きいといえます。

任意後見を検討する際は、初期費用だけでなく、後見開始後の月額費用が長期間続くことを見込んで判断することが大切です。

セットで結ばれることが多い契約とその費用

知っておきたい相続問題のポイント
  • 後見開始前や本人の死亡後は、任意後見契約の効力が及ばない
  • 見守り契約・任意代理契約・死後事務委任契約でその期間を補える

任意後見契約だけで、将来の不安はカバーできますか。

契約前や死亡後は効力が及びません。セットで結んでおくとよい契約があります。

任意後見は、本人の判断能力が不十分になった後、本人、任意後見受任者等の申立てによって家庭裁判所が任意後見監督人選任の審判をし、その審判が確定したときに開始します。いったん開始した任意後見は、本人または後見人の死亡等、委任の終了事由がない限り続きます。

そうすると、任意後見契約を結んでから後見が開始するまでの間と本人が死亡した後については、任意後見契約の効力が及ばないということになります。

これらの任意後見契約の効力が及ばない期間にも、任意後見受任者(任意後見人)から何らかのサポートを受けたい場合、任意後見契約とセットで結んでおくとよい契約があります。それぞれの契約と、公正証書にする場合の費用の目安は次のとおりです。

契約 役割 公正証書にする場合の費用の目安
見守り契約 後見開始前に定期的に連絡・面談し、判断能力の低下を把握する 公正証書は任意。作成する場合は手数料13,000円が基本+見守りの月額報酬(数千円程度のことが多い)
任意代理契約(財産管理委任契約) 後見開始前から、任せたい財産管理などを委任する 任意後見契約とは別契約として、あらためて公正証書作成手数料がかかる
死後事務委任契約 本人の死亡後の葬儀・清算・明渡しなどの事務を委任する 公正証書にする場合、事務の内容や報酬の定めにより手数料が変わる(公証役場で要確認)

見守り契約

まず、任意後見契約とセットで見守り契約を結ぶ方法があります。

見守り契約とは、任意後見受任者等が、本人と定期的に連絡を取ったり、面談をしたりするなどして、本人の心身の状態や生活状況を確認していくというものです。

本人の判断能力が不十分になった場合に速やかに任意後見監督人の申立てをするには、任意後見受任者等の申立権者が、継続的に本人の判断能力を把握している必要があります。

本人がご家族と同居されていれば、ご家族が本人の判断能力の低下に気付き、任意後見受任者に連絡することもありますが、本人が身寄りのない方の場合、本人の判断能力が低下したことが任意後見受任者に伝わらず、任意後見監督人選任の申立てが遅れることがありえます。

そのような事態を防ぐには、見守り契約を結んで、定期的に任意後見受任者等が本人に接触して、本人の状態を確認することが有効なのです。

見守り契約は公正証書にすることが必須ではありませんが、公正証書にする場合は、その手数料がかかります。見守り契約は目的価額を算定できないため500万円とみなされ、手数料は13,000円が基本です(任意後見契約と同じ考え方です)。また、契約で見守りの報酬を定める場合には、月額数千円程度とすることが多いようです。

任意代理契約(財産管理委任契約)

見守り契約は、あくまで本人と連絡を取るなどして本人を見守るというものにすぎないので、本人の財産を管理したり、対外的に本人に代わって契約を結んだりすることはできません。

しかし、任意後見契約を結んだ方の中には、後見が開始する前であっても重要な財産の管理を任せたい、まだ判断能力に不安はないが、体調がすぐれないので日常的な支払いなどの金銭管理を任せたいなどの様々なニーズを持つ方がいます。

そのようなニーズを満たすには、任意後見契約とセットで任意代理契約を結び、任意後見開始前に任せたい事務だけを委任するといいでしょう。この任意代理契約は、財産管理委任契約とも呼ばれます。

任意代理契約を任意後見契約と同時に公正証書にする場合は、任意後見契約とは別の契約として、あらためて公正証書作成手数料がかかります。前述の移行型は、この任意代理契約をセットにした型です。

死後事務委任契約

任意後見は本人の死亡によって終了するため、任意後見人は、本人の死亡後に本人の代理人として契約その他の手続をすることはできません。

そうなると、本人に相続人がいない場合や、相続人がいても遠方に居住している・疎遠であるといった事情がある場合、本人の死後の葬儀や埋葬、病院や施設の費用の清算、賃借物件の明け渡し等の事務手続をする方が誰もいないという事態に陥りかねません。

任意後見契約とセットで死後事務委任契約を結び、必要な死後の事務手続を受任者に任せることで、そのような事態を防ぐことができます。

死後事務委任契約も公正証書にすることが多く、その場合は公正証書作成手数料がかかります。手数料は、報酬の定めの有無や委任する事務の内容によって変わるため、公証役場で見積もりを確認するとよいでしょう。

任意後見の費用を法定後見・家族信託と比較

知っておきたい相続問題のポイント
  • 法定後見は判断能力が低下した後でも使えるが、後見人を自分で選べない
  • 家族信託は初期費用が高いが、月額の後見監督人報酬はかからない

任意後見と、法定後見や家族信託では、費用はどう違うのでしょうか。

費用だけでなく、使える場面も違います。表で比べてみましょう。

任意後見と似た制度として、法定後見と家族信託があります。どれが安いかは一概にはいえず、費用のかかり方と使える場面が異なります。まず、費用の面を比較してみましょう。

比較項目 任意後見 法定後見 家族信託
使える時期 判断能力があるうちに契約(開始は低下後) 判断能力が低下した後に申立て 判断能力があるうちに契約
後見人・受託者を選べるか 自分で選べる 家庭裁判所が選任 自分で選べる
初期費用 公正証書作成費用など(数万円〜) 申立て費用(収入印紙・郵券など) 契約書作成・信託登記などで高くなりやすい
月額の負担 任意後見人・任意後見監督人の報酬 成年後見人(・監督人)の報酬 原則としてなし
身上監護(介護契約など) 対応できる 対応できる 原則として対象外

法定後見との費用比較(申立て費用・後見人報酬)

法定後見は、本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申し立てて、後見人を選任してもらう制度です。申立て費用は任意後見監督人選任の申立てと同程度で、収入印紙と郵便切手が中心です。

費用面での大きな違いは報酬です。任意後見では任意後見人と任意後見監督人の両方に報酬がかかり得るのに対し、法定後見では成年後見人の報酬が中心となります(監督人が選任されない場合もあります)。ただし、法定後見では後見人を自分で選べず、家庭裁判所が選任する点が、任意後見と根本的に異なります。

家族信託との費用比較(初期費用は高いが月額負担なし)

家族信託は、財産の管理・承継を信頼できる家族に託す仕組みです。契約書の作成や不動産の信託登記などで、初期費用は任意後見より高くなる傾向があります。一方で、家庭裁判所の監督が入らないため、任意後見監督人のような月額の報酬は原則としてかかりません。

つまり、初期費用は家族信託のほうが高いことが多いものの、長期にわたる月額負担は任意後見のほうが大きくなりやすい、という関係にあります。利用期間が長くなるほど、この差は開いていきます。

費用だけでなく「使える場面」も含めた選び方

制度選びは、費用だけで決めるものではありません。それぞれ得意な場面が異なります。

  • 任意後見:判断能力があるうちに、信頼できる人を後見人に指定しておきたい場合に向く
  • 法定後見:すでに判断能力が低下してしまい、任意後見契約を結べない場合でも使える
  • 家族信託:財産の管理・承継を柔軟に設計したい場合に向くが、身上監護(介護施設の契約など)は原則として対象外

特に、家族信託は財産管理の仕組みであって、介護や医療に関する契約などの身上監護には対応できません。この点で任意後見と役割が異なるため、両者を併用することもあります。費用と使える場面の両面から、ご自身に合った制度を選ぶことが大切です。

任意後見の費用に関する注意点

知っておきたい相続問題のポイント
  • 後見開始後は、任意後見人と任意後見監督人の費用がかかり続ける
  • 後見開始後に契約をやめるには、正当な事由と家庭裁判所の許可が必要

費用の面で、契約前に知っておくべき注意点はありますか。

3つあります。特に、一度始まると費用が続く点に注意が必要です。

任意後見人と監督人の両方に費用がかかり続ける

任意後見のデメリットとしてよく挙げられるのが、任意後見人と任意後見監督人の両方に報酬が発生し得るという点です。家族が任意後見人を無償で引き受けても、任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決めるため、避けられません。

しかも、これらの報酬は前述のとおり、原則として本人が亡くなるまで続きます。契約時の費用は一度きりですが、後見開始後の費用は毎月続くため、長期的な負担として見込んでおく必要があります。

途中でやめる場合の費用(任意後見契約法9条)

「費用がかかり続けるなら、途中でやめられるのか」という点も気になるところです。任意後見契約の解除は、後見が開始する前と後で扱いが大きく異なります(任意後見契約法9条)。

第九条 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。
2 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後においては、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができる。

任意後見監督人が選任される前(後見開始前)であれば、本人または任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって契約を解除できます。この認証の手数料(数千円程度)はかかりますが、比較的簡単にやめられます。

一方、任意後見監督人が選任された後(後見開始後)は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得なければ解除できません。単に「費用がもったいない」といった理由では認められにくく、一度始まると簡単にはやめられない点に注意が必要です。

報酬額を決めずに契約すると後で揉めやすい

任意後見人の報酬は契約で自由に決められる反面、報酬額を定めずに契約してしまうと、後見開始後に「いくら支払うのか」をめぐって当事者間で揉めることがあります。特に、家族が任意後見人になる場合でも、無償とするのか、いくらかの報酬を定めるのかを、契約時に明確にしておくことが大切です。

報酬を定めずに契約した場合、任意後見人は民法の原則により無報酬となり(民法648条1項)、後から報酬を設けるにはあらためて契約を変更しなければなりません。あらかじめ契約で報酬の有無・金額を明確にしておくほうが、トラブルを防げます。契約内容の設計は、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

よくある質問・まとめ

知っておきたい相続問題のポイント
  • 2025年10月から公正証書の基本手数料は1契約13,000円になった
  • 家族が任意後見人になっても、監督人の報酬は発生する

最後に、費用についてよくある疑問を教えてください。

特に質問の多い4つの点を確認していきましょう。

2025年10月から公正証書の作成費用はいくらに変わった?

2025年10月1日の公証人手数料令の改正により、任意後見契約公正証書の基本手数料は、1契約につき11,000円から13,000円に引き上げられました。あわせて、登記嘱託手数料が1,400円から1,600円に、正本・謄本の書面発行が1枚250円から300円に、枚数加算の基準が「4枚を超える場合」から「3枚を超える場合」に変わっています。法務局に納める収入印紙代2,600円は据え置きです。

既存の解説記事の多くは旧額のままになっているため、費用を確認する際は改定後の金額かどうかに注意してください。

家族が任意後見人になれば費用はかからない?

費用がまったくかからないわけではありません。家族が任意後見人になって報酬を無償と定めれば、任意後見人への報酬は不要になります。しかし、任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決めるため、家族が後見人でも発生します。

また、契約時の公正証書作成費用や、後見開始時の申立て費用は、後見人が家族かどうかにかかわらず必要です。「家族が引き受ければ完全に無料」ではない点に注意してください。

任意後見監督人の報酬は断れる?

断ることはできません。任意後見監督人の報酬は、任意後見人と違って契約で定めるものではなく、家庭裁判所が審判によって決定します。任意後見という制度は、任意後見監督人による監督があって初めて成り立つ仕組みであるため、監督人を置かない(=報酬を発生させない)という選択はできません。

任意後見監督人の報酬が発生し続けることは、制度上避けられない費用として、あらかじめ見込んでおく必要があります。

費用を支払う資力がない場合に助成はある?

自治体によっては、成年後見制度の利用にかかる費用の一部を助成する「成年後見制度利用支援事業」を実施しています。申立て費用や後見人等の報酬の助成が対象になることがあります。

ただし、この事業は市区町村ごとに内容が異なり、任意後見が対象外となっている場合や、対象となる方の要件(生活保護受給者など)が定められている場合があります。利用を検討する際は、お住まいの市区町村の窓口で、任意後見が対象になるか、どのような要件があるかを確認してください。

まとめ

任意後見人を選任して任意後見制度を利用する場合、任意後見契約を締結するために、公正証書の作成費用がかかります。判断能力の低下などによって家庭裁判所に申立てをすると、任意後見監督人が選任されますが、任意後見人や任意後見監督人に支払う報酬についても、費用として考慮しておきましょう。

費用は「契約時」と「後見開始後」の2段階に分かれ、特に後見開始後の月額費用は本人が亡くなるまで続きます。2025年10月には公正証書の作成費用が改定されている点にも注意が必要です。法定後見や家族信託とは費用のかかり方も使える場面も異なるため、どの制度が適しているかは慎重に検討する必要があります。

発生する可能性のある費用を事前に把握しつつ、任意後見制度を効率よく利用するためにも、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。当事務所には成年後見の問題に詳しい弁護士が在籍しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

<参照>
日本公証人連合会「Q22 任意後見契約公正証書を作成する費用は、いくらでしょうか?
裁判所「任意後見監督人選任
e-Gov法令検索「任意後見契約に関する法律

遺言や相続でお困りの方へ
分からないときこそ専門家へ
相続については、書籍やウェブで調べるだけではご不安な点も多いかと思います。当事務所では、お客様の実際のお悩みに寄り添って解決案をご提案しております。「こんなことを聞いてもいいのかな?」そう思ったときがご相談のタイミングです。
一つでも当てはまる方はご相談ください
  • 判断力があるうちに後見人を選んでおきたい
  • 物忘れが増えてきて、諸々の手続きに不安がある
  • 認知症になってしまった後の財産管理に不安がある
  • 病気などにより契約などを一人で決めることが不安である
初回相談
無料
法律問題について相談をする
電話での予約相談
(新規受付:7時~22時)
0120-500-700
相続手続お役立ち資料のダウンロード特典付き
(新規受付:24時間対応)
LINEでの相談予約
(新規受付:24時間対応)

法律問題について相談をする

初回相談無料

電話での予約相談

(新規受付:7時~22時) 0120-500-700

相続手続お役立ち資料のダウンロード特典付き

(新規受付:24時間対応)

LINEでの相談予約

(新規受付:24時間対応)
資料ダウンロード

相談内容

一般社団法人 相続診断協会
資料ダウンロード
相続手続き丸わかり!チャート&解説
9/9(水)相続解決セミナー開催 無料で参加する
無料相談のお申し込みはこちら 無料相談のお電話 フォームで無料相談を申し込む LINEで無料相談する