
- 相続人への特別受益は、原則として相続開始前10年以内のものが遺留分の計算に加算される
- 持ち戻し免除の意思表示があっても、遺留分の計算では加算される
- 請求する側自身が受けた特別受益は、10年より前のものでも遺留分侵害額から差し引かれ得る
- 贈与財産は贈与時ではなく相続開始時の価額で評価する
特別受益と遺留分の関係は複雑で、ご自身がいくら取り戻せるかは計算が必要です。
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Cross Talk 特別受益は遺留分の対象になるが、「加算」と「控除」で10年ルールの扱いが違う
特別受益として受けた生前贈与も、遺留分の対象になりますか。
なります。ただし原則10年以内という条件があり、しかも例外もあるので順番に確認しましょう。
生前贈与や特定の相続人に対する遺言書があった場合、他の相続人が「遺産を公平に分けてほしい」と主張し、相続トラブルに発展することがあります。遺留分や特別受益は、このような不公平を是正するための重要な制度ですが、その仕組みは複雑で理解しにくいのが現状です。
結論からいえば、特別受益にあたる生前贈与も遺留分の計算に含まれます。ただし、相続人への贈与について含まれるのは原則として相続開始前10年以内のものに限られます。さらに見落とされやすいのが、請求する側自身が受けた特別受益は、10年より前のものであっても遺留分侵害額から差し引かれ得るという点です。「加算」と「控除」で扱いが違うため、混乱しやすいところです。
この記事では、特別受益と遺留分の関係を、条文と計算例に沿って弁護士が解説していきます。持ち戻し免除の効力、贈与財産の評価の基準時、遺産分割の場面との違いまで整理しますので、ぜひ参考にしてください。
特別受益とは(対象になる贈与・ならない贈与)

- 特別受益とは、相続人が被相続人から受けた遺贈や一定の生前贈与のこと
- 扶養の範囲内といえる援助は、通常は特別受益にならない
そもそも特別受益とは、どのようなものですか。
相続人が受けた遺贈や一定の生前贈与のことです。具体例で確認しましょう。
特別受益の意味(民法903条)
特別受益とは、一部の相続人が被相続人から受けた、特定の生前贈与や遺贈などのことです。特定の相続人だけが被相続人から財産を前もって受け取っていた場合、他の相続人との間に不公平が生じます。この不公平を是正し、公平な遺産分割を実現するために設けられた制度が特別受益です。
特別受益を受けた相続人がいる場合、被相続人が相続開始の時に有していた財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなして各自の相続分を計算し、そこからその相続人が受けた遺贈または贈与の価額を控除した残額が、その相続人の具体的な相続分となります。遺贈された財産はすでに相続開始時の財産に含まれているため、加算するのは贈与のみで、遺贈は控除の場面でのみ考慮されます。
根拠となるのは民法903条1項です。同項は、共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けた者や、婚姻もしくは養子縁組のため、または生計の資本として贈与を受けた者があるときの相続分の計算方法を定めています。ポイントは、対象が「遺贈」と「婚姻・養子縁組のための贈与」「生計の資本としての贈与」に限られている点です。
特別受益者になれるのは、原則として相続人に限られます。相続人ではない孫や甥、姪が被相続人から財産を譲り受けても、原則として特別受益にはあたりません。ただし、代襲相続によって孫や甥姪が相続人になっている場合には、特別受益の問題が生じ得ます。また、孫への贈与が、実質的にはその親である相続人への贈与だと解釈されることもあるため、注意が必要です。
特別受益になり得る贈与の具体例(住宅資金・開業資金・学費など)
特別受益に該当するのは、被相続人から受けた全ての遺贈及び贈与ではありません。特別受益となるのは、以下の目的に限定されたものです。
- 遺贈(遺言によって特定の相続人に財産を無償で与えること):目的を問わず特別受益となる
- 婚姻・養子縁組のための贈与:結婚の際の持参金や支度金、あるいは養子縁組に際しての金銭援助など
- 生計の資本としての贈与:独立して事業を始めるための開業資金、住宅や土地の購入資金の援助など
実務でよく問題になるのが「生計の資本としての贈与」です。典型的なのは、住宅購入資金の援助や、事業を始めるための開業資金です。金額が大きく、その相続人の生活の基盤を作るために出されたものであれば、特別受益と評価されやすくなります。土地を無償で使わせていた場合など、財産そのものを渡していないケースでも問題になることがあります。
特別受益にならないものの例(扶養の範囲内の援助など)
なお、大学の学費や一般的なお祝い金など、社会通念上許容される範囲の援助は、通常は特別受益には含まれません。しかし、金額が著しく高額な場合には、被相続人の資産状況とのバランスを考慮したうえで、特別受益と判断される可能性もあります。個々によって判断が異なるため、専門家への相談が不可欠です。
判断の軸になるのは、その援助が親としての扶養義務の範囲内といえるかどうかです。次のようなものは、通常は特別受益にあたらないと考えられています。
- 日常的な生活費の援助(扶養の範囲内といえるもの)
- 入学祝いや結婚祝いなど、社会通念上相当な範囲のお祝い金
- 他の相続人も同程度に受けている援助(不公平が生じないため)
重要なのは、その家庭の資産状況との比較で判断されるという点です。同じ金額でも、資産が数億円ある家庭と、数百万円しかない家庭とでは評価が変わります。「いくら以上なら特別受益」という一律の基準はありません。
遺留分とは(割合と計算の基礎になる財産)

- 遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に保障された最低限の遺産取得分
- 遺留分の計算では、相続開始時の財産に一定の生前贈与を加算する
相続における遺留分とはどのようなものでしょうか?
ここでは、遺留分の概要と対象財産について解説していきます。
遺留分の概要と割合(民法1042条)
相続における「遺留分」とは、民法によって定められた、特定の相続人に認められる最低限の遺産取得分を指します。被相続人(亡くなった方)が遺言書で自由に財産の処分先を決めた場合でも、遺留分を持つ相続人は、法的に保障された最低限の取り分を請求できます。
たとえば、「長男に全財産を相続させる」といった遺言書があっても、配偶者や他の子どもは、遺留分として一定の財産を受け取る権利を主張できるのです。この権利は、遺言書によって奪うことはできません。
ただし、遺留分はあくまで「権利」であるため、行使するかどうかは相続人の意思に委ねられます。また、遺留分が認められるのは、被相続人の配偶者、子ども(直系卑属)、親(直系尊属)です。被相続人の兄弟姉妹や甥姪には遺留分は認められていないため注意が必要です。
遺留分の割合は民法1042条に定められています。直系尊属のみが相続人である場合は、遺留分を算定するための財産の価額の3分の1、それ以外の場合は2分の1です(総体的遺留分)。相続人が複数いる場合は、この割合に各自の法定相続分を掛けたものが、個別の遺留分割合になります。例えば相続人が子2人であれば、2分の1×2分の1=4分の1が各自の遺留分割合です。
遺留分算定の基礎財産=相続開始時の財産+贈与財産−債務(民法1043条)
遺留分の計算の際には、「相続開始時の遺産」に、一定の範囲内の生前贈与も加算します。遺留分を計算する際の基礎となるのは、被相続人が亡くなったときに残された財産(不動産、預貯金、株式など)に、以下の金額等を加えた金額です。
- 相続開始の前1年以内に行われた贈与の金額
- 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知りながら行われた贈与の金額
- 相続開始の前10年以内に行われた、相続人への特定の目的での贈与(特別受益)の金額
- 不相当な対価で行われた有償行為の対象となった目的物の金額から、対価分を控除した金額
被相続人が亡くなる前1年以内に行われた贈与は、遺留分を計算する際の基礎となります。ただし、贈与の契約日を基準に判断するため、財産の引き渡しが1年以内でも、契約日がそれより前であれば対象になりません。ただし、贈与する側と受け取る側が、その贈与によって遺留分権利者の権利を侵害することを知っていた場合、贈与が行われた時期にかかわらず遺留分計算の基礎となります。
また、特別受益として、特定の共同相続人が贈与で得た財産も、生計の資本等、一定の目的で贈与された場合には、遺留分計算の基礎になります。
また、不相当な対価で行われた有償行為の対象となった目的物の金額から、対価分を控除した金額も遺留分の計算の際に考慮されます。たとえば、1,000万円の土地を10万円で売却するなど、本来の価値と比べて著しく低い対価で行われた売買も、実質的には負担付き贈与とみなされ、差額の990万円が遺留分計算の基礎となります。
なお、この不相当な対価による有償行為が負担付贈与とみなされるのは、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした場合に限られます(民法1045条2項)。単に安く売っただけでは対象になりません。
もう一つ、忘れてはならないのが債務の控除です。民法1043条1項は、遺留分を算定するための財産の価額を「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額」と定めています。つまり、借入金などの債務がある場合は、その全額を差し引いたうえで遺留分を計算します。
式にすると、次のとおりです。
- 遺留分を算定するための財産の価額=相続開始時の財産+算入される贈与財産−債務の全額
結論:特別受益の贈与も遺留分の対象になる(原則10年以内)

- 相続人への特別受益は、原則として相続開始前10年以内のものが算入される
- 相続人以外への贈与は、原則として相続開始前1年以内のものに限られる
何年前の贈与まで、遺留分の計算に入るのでしょうか。
誰への贈与かによって変わります。3つのパターンで整理しましょう。
遺留分と特別受益は、どちらも相続における公平性を図るための重要な制度ですが、それぞれ異なる目的と役割を持っています。
まず、「遺留分」は、被相続人が遺言書で財産を自由に処分した場合でも、特定の相続人が最低限の財産を確保できるようにする制度です。
これに対して「特別受益」は、遺産分割において、一部の相続人が既に受け取っている特別な利益(生前贈与や遺贈)を考慮し、共同相続人全員の公平を図る制度です。
遺留分を計算する際には、被相続人が亡くなった時点の遺産だけでなく、特別受益として特定の相続人が受けた財産も加算して計算する必要があります。
つまり、結論としては、特別受益にあたる生前贈与も遺留分の計算の対象になります。ただし、いつの贈与でも対象になるわけではありません。誰への贈与かによって、次の3つに分かれます。
| 贈与の相手 | 対象となる贈与 | 算入される期間 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 相続人 | 特別受益にあたる贈与 (婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としての贈与) |
相続開始前10年以内 | 民法1044条3項 |
| 相続人以外の第三者 | 目的を問わずすべての贈与 | 相続開始前1年以内 | 民法1044条1項前段 |
| 相続人・第三者を問わない | 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与 (相続人に対するものは特別受益にあたる贈与に限る) |
期間の制限なし | 民法1044条1項後段 |
相続人への特別受益贈与は相続開始前10年分が算入される(民法1044条3項)
特別受益として特定の相続人が生前に受け取った財産は、遺産分割だけでなく、遺留分を計算する際にも考慮されます。しかし、特別受益の全てが遺留分に影響するわけではありません。特別受益が遺留分侵害額請求の対象となるには、いくつかの条件があります。
遺留分を計算する際には、原則として、相続開始前10年以内に共同相続人が受けた特別受益(生前贈与)のみが加算されます。例えば、被相続人が亡くなる15年前に贈与した財産は、通常、遺留分を計算する際の対象には含まれません。
根拠は民法1044条3項です。同項は、相続人に対する贈与について、1044条1項の「1年」を「10年」と読み替え、さらに対象を「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」、つまり特別受益にあたる贈与に限定しています。したがって、相続人への贈与であっても、特別受益にあたらない性質のものは、10年以内であっても算入されません。
相続人以外への贈与は1年以内(民法1044条1項)
相続人ではない第三者への贈与は、扱いが異なります。民法1044条1項により、原則として相続開始前の1年間にされた贈与に限って算入されます。
例えば、被相続人が亡くなる3年前に、内縁の配偶者や知人、法人などへ多額の贈与をしていた場合、その贈与は原則として遺留分の計算に含まれません。相続人への贈与であれば10年前まで遡れるのと比べると、期間が大きく異なります。
なお、相続人への贈与は「特別受益にあたるもの」に限定される一方、相続人以外への贈与にはそのような限定がありません。1年以内であれば、目的を問わず算入される点も違いです。
当事者双方に害意がある場合は期間制限なし
ただし、例外も存在します。贈与する側(被相続人)と受け取る側(相続人)が、その贈与によって遺留分権利者の権利を侵害することを知っていた場合は、10年より前の特別受益であっても遺留分算定の基礎に含まれます。
これは民法1044条1項の後段に定められています。「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき」は、期間の制限を受けずに算入されるという規定です。相続人への贈与についても、1044条3項による読み替えを通じて同様に扱われます。
もっとも、この例外が認められるハードルは高いとされています。判例上、単に「贈与によって遺留分を侵害することを知っていた」だけでは足りず、将来において被相続人の財産が増加しないことの予見も必要と考えられているためです。贈与から相続開始までに長期間が経過している事案では、そのような予見はなかったと評価されやすくなります(大審院昭和11年6月17日判決は、19年が経過した事案でこれを否定しています)。
また、害意があったことの立証責任は、その贈与を算入すべきだと主張する遺留分権利者の側にあります。実務上、この例外を使って古い贈与を取り込むのは容易ではないと考えておくのが現実的です。
持ち戻し免除があっても遺留分は侵害できない

- 持ち戻し免除の意思表示は、遺産分割では有効だが遺留分には効かない
- 「免除する」と遺言に書いても、遺留分の計算では贈与が加算される
遺言で「持ち戻しを免除する」と書けば、遺留分も防げますか。
防げません。免除は遺産分割の話で、遺留分には効かないためです。
持ち戻し免除とは(民法903条3項)
特別受益は、原則として遺産分割の際に相続財産とみなされ、本来の相続財産に加算されます。これを「持ち戻し」と呼びます。しかし、被相続人が「持ち戻しをしなくても良い」という意思を明確に示していた場合、この持ち戻しは免除されます。これを「持ち戻しの免除」といいます。
この意思表示は、遺言書に記載するなど、書面で残しておくことが望ましいでしょう。持ち戻しを免除する意思が示されていれば、特別受益を受けた相続人は、その贈与分を考慮せずに遺産分割を受けることができます。
根拠は民法903条3項です。同項は、被相続人が特別受益の持ち戻しと異なった意思を表示したときは、その意思に従うと定めています。被相続人の意思を尊重する規定です。
免除があっても遺留分の計算では算入される
前述したように、被相続人の意思により特別受益の「持ち戻し」を免除することができます。しかし、この免除の意思表示は、遺留分には影響しません。
特別受益の持ち戻しは、あくまで「遺産分割」の公平性を図るための制度です。一方、遺留分は「最低限の相続分を保障する」という、より強い目的を持っています。もし持ち戻し免除の意思表示が遺留分にまで影響するとなると、遺留分制度自体が無意味になってしまうからです。
現在の民法の条文構造からも、同じ結論が導かれます。遺留分を算定するための財産に贈与を算入する根拠は民法1043条・1044条であり、これらの条文は、持ち戻し免除を定めた903条3項を参照していません。つまり、持ち戻し免除がされた贈与であっても、10年以内の特別受益であれば、そのまま遺留分の基礎財産に算入されることになります。
したがって、被相続人が「持ち戻しを免除する」と遺言書に残していたとしても、遺留分を計算する際には、原則として特別受益分も加算されることになります。
「特定の子に多く渡したいので、持ち戻し免除の遺言を書いておけば安心」という理解は誤りです。免除の意思表示は遺産分割の場面では意味を持ちますが、他の相続人からの遺留分侵害額請求を防ぐ効果はありません。
婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産贈与は免除が推定される(民法903条4項)
なお、民法の改正により、「婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の遺贈または贈与」については、持ち戻しの免除の意思があったものと推定されるようになりました。これは、長年連れ添った夫婦に対する配慮であり、被相続人の意思を尊重する観点から設けられた規定です。
根拠は民法903条4項で、2019年7月1日から施行されています。婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他方に対して居住用の建物またはその敷地を遺贈・贈与したときは、903条1項を適用しない旨の意思を表示したものと推定されます。被相続人がわざわざ免除の意思表示をしていなくても、免除があったものとして扱われるという点に意味があります。
ただし、ここでも注意が必要です。この推定が働くのは、あくまで903条1項の適用、つまり遺産分割における持ち戻しの場面です。前述のとおり、遺留分の基礎財産への算入は1043条・1044条が根拠であり、903条4項の推定によって算入を免れるわけではありません。
つまり、婚姻期間20年以上の配偶者へ自宅を贈与した場合、遺産分割では持ち戻さずに済む一方、その贈与が相続開始前10年以内であれば、遺留分の計算では基礎財産に加算されることになります。配偶者に自宅を確実に残したいという目的があっても、子の遺留分を消せるわけではない点は押さえておきましょう。
遺留分侵害額の計算では「請求する側の特別受益」も差し引かれる

- 遺留分侵害額の計算では、請求する側自身の特別受益が差し引かれる
- 条文上、この控除には10年の期間制限が置かれていない
私も昔、父から贈与を受けています。請求に影響しますか。
影響し得ます。条文上、こちらの控除には10年の制限が置かれていないのです。
遺留分侵害額の計算式(民法1046条2項)
ここまでは、遺留分を算定するための「基礎財産」の話をしてきました。しかし、実際に請求できる金額(遺留分侵害額)を出すには、もう一段階の計算が必要です。
遺留分侵害額の計算方法は、民法1046条2項に定められています。
第千四十六条 2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額
整理すると、次のようになります。
- 遺留分額(基礎財産×個別の遺留分割合)
- −(1) 遺留分権利者が受けた遺贈・特別受益にあたる贈与の価額
- −(2) 遺留分権利者が遺産分割で取得すべき遺産の価額
- +(3) 遺留分権利者が承継する債務の額
つまり、自分の遺留分額がそのまま請求できる金額になるわけではありません。すでに受け取っているものがあれば、その分は差し引かれます。
請求者自身が受けた特別受益は10年より前のものも控除される
ここで注目したいのが、1046条2項1号の書きぶりです。控除されるのは「遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条1項に規定する贈与の価額」とされています。
参照されているのは903条1項であり、10年の期間制限を定めた1044条3項ではありません。条文上、この控除には期間の制限が付いていないと読めます。もっとも、この点を明示的に判断した最高裁判例はまだなく、加算と控除とで扱いが異なることの当否には議論もあります。
その結果、加算の場面と控除の場面とで、次のように異なる扱いが生じることになります。
- 他の相続人が15年前に受けた特別受益 → 基礎財産には加算されない(1044条3項の10年を超えるため)
- 自分が15年前に受けた特別受益 → 遺留分侵害額から控除される(1046条2項1号に期間制限がないため)
「10年より前の贈与は関係ない」と理解していると、この控除を見落とすことになります。加算の場面(基礎財産)と控除の場面(侵害額)とで、参照している条文が違うためにこうした違いが生まれています。
昔多額の贈与を受けた人が請求すると思ったより少なくなる
この構造から導かれるのが、「過去に多額の贈与を受けている人ほど、遺留分侵害額請求で得られる金額は少なくなる」という帰結になると考えられます。
例えば、20年前に親から住宅資金として1,000万円(相続開始時の価額に換算した額)の援助を受けていた方が、遺留分侵害額請求をしようとする場面を考えてみましょう。その1,000万円は古い贈与なので基礎財産には加算されませんが、自分自身の特別受益として、算出された遺留分額から1,000万円が差し引かれます。遺留分額が800万円だった場合、差し引くと0円となり、請求できないという結論になり得ます。
遺留分侵害額の計算がマイナスになる場合、請求できる金額は0円です。他の相続人に対して不足分を返す必要はありませんが、遺留分としての請求もできないことになります。
ご自身が過去にどのような援助を受けていたかによって、結論が大きく変わります。請求を検討される際は、自分の受益も含めて計算したうえで判断することが大切です。
計算例で理解する:特別受益がある場合の遺留分

- 同じ家族設定でも、贈与の時期や免除の有無で遺留分の額は変わる
- 持ち戻し免除があっても、遺留分の計算結果は変わらない
具体的な数字で見せてもらえますか。
同じ家族設定で、3つのパターンを比べてみましょう。
ここまでの内容を、具体的な数字で確認します。次の家族設定を、3つの計算例に共通の前提とします。
- 相続人:長男と次男の2人(配偶者はすでに死亡)
- 相続開始時の遺産:預貯金2,000万円(債務はなし)
- 遺言:「全財産を長男に相続させる」
- 次男の個別の遺留分割合:2分の1(総体的遺留分)×2分の1(法定相続分)=4分の1
この前提のもとで、生前贈与の条件だけを変えて比較します。
計算例(1):10年以内の生前贈与がある場合(基本形)
長男が5年前に、住宅資金として1,000万円の贈与を受けていたケースです。次男は贈与を受けていません。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 相続開始時の遺産 | 2,000万円 |
| 長男への贈与(5年前・特別受益) | 1,000万円 → 加算される |
| 遺留分を算定するための財産の価額 | 3,000万円 |
| 次男の遺留分額(3,000万円×4分の1) | 750万円 |
| 次男自身の特別受益(控除) | 0円 |
| 次男が請求できる額 | 750万円 |
長男への1,000万円は、相続開始前10年以内の特別受益にあたるため、基礎財産に加算されます。基礎財産は2,000万円+1,000万円=3,000万円です。次男の遺留分額は3,000万円×4分の1=750万円となり、次男は遺産を一切受け取っていないため、長男に対して750万円を請求できます。
計算例(2):10年より前の贈与がある場合
今度は、長男への1,000万円の贈与が15年前だったとします。あわせて、次男も15年前に300万円の贈与を受けていたとしましょう(いずれも特別受益にあたり、当事者双方に害意はなかったものとします)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 相続開始時の遺産 | 2,000万円 |
| 長男への贈与(15年前・特別受益) | 1,000万円 → 加算されない |
| 遺留分を算定するための財産の価額 | 2,000万円 |
| 次男の遺留分額(2,000万円×4分の1) | 500万円 |
| 次男自身の特別受益(15年前・控除) | 300万円(相続開始時の価額に換算した額) → 期間制限なく控除 |
| 次男が請求できる額 | 200万円 |
長男への1,000万円は10年より前の贈与なので、基礎財産には加算されません。基礎財産は遺産の2,000万円のみとなり、次男の遺留分額は2,000万円×4分の1=500万円です。
ところが、次男自身が受けた300万円は、1046条2項1号により遺留分侵害額から控除されます。前述のとおり、条文上、この控除に10年の制限は置かれていません。したがって、次男が請求できるのは500万円−300万円=200万円となります。
同じ15年前の贈与でありながら、長男のものは加算されず、次男のものは控除される。この非対称性が、計算例(1)との差を生んでいます。計算例(1)では750万円請求できたのに対し、ここでは200万円まで下がりました。
計算例(3):持ち戻し免除がある場合
最後に、計算例(1)と同じく長男が5年前に1,000万円の贈与を受けており、さらに被相続人が遺言で「この贈与について持ち戻しを免除する」と記載していたケースです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 相続開始時の遺産 | 2,000万円 |
| 長男への贈与(5年前・特別受益・持ち戻し免除あり) | 1,000万円 → 免除があっても加算される |
| 遺留分を算定するための財産の価額 | 3,000万円 |
| 次男の遺留分額(3,000万円×4分の1) | 750万円 |
| 次男自身の特別受益(控除) | 0円 |
| 次男が請求できる額 | 750万円(計算例(1)と同じ) |
結論として、計算例(1)と同じ750万円になります。持ち戻し免除の意思表示は遺産分割の場面では効力を持ちますが、遺留分を算定するための基礎財産への算入には影響しないためです。長男への1,000万円は、免除の記載があっても加算されます。
この3つを並べると、遺留分の額を左右するのは「贈与の時期」と「誰が受けたか」であり、「持ち戻し免除の有無」ではないことが分かります。
なお、いずれの計算例も前提を単純化したものです。特に、各計算例の贈与額は、説明の便宜上、相続開始時の価額(金銭であれば貨幣価値の換算を済ませた後の額)として扱っています。次の項目で解説するとおり、実際の計算では贈与時の額面をそのまま用いることはできません。また、不動産の評価や債務の有無、複数の贈与が絡むことも多く、計算は複雑になります。ご自身のケースの見通しについては、弁護士にご相談ください。
特別受益の評価はいつの時点?(評価基準時と金銭の換算)

- 贈与財産は、贈与時ではなく相続開始時の価額で評価する
- 金銭の贈与は、贈与時の額面を相続開始時の貨幣価値に換算する
30年前にもらった1,000万円は、そのまま1,000万円と数えるのですか。
いいえ。相続開始時の貨幣価値に換算して評価します。
贈与財産は相続開始時の価額で評価する(民法1044条2項・904条)
特別受益の金額を計算するとき、「いつの時点の価値で評価するのか」が問題になります。結論としては、贈与を受けた時点ではなく、相続開始時の価額で評価するのが原則です。
民法1044条2項は、遺留分の基礎財産に算入する贈与の価額について、904条を準用しています。904条は、受贈者の行為によってその財産が滅失したり価格の増減があったりした場合でも、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなして価額を定める、という規定です。
例えば、贈与された家を受贈者が取り壊してしまった場合でも、相続開始時にその家がまだあるものとして評価します。受贈者の行為によって特別受益の額を減らせるわけではない、ということです。
金銭の贈与は貨幣価値の変動を考慮して換算する
実務でよく問題になるのが、金銭の贈与です。「30年前にもらった1,000万円」を、そのまま1,000万円として扱ってよいのでしょうか。
この点について最高裁は、被相続人が相続人に生計の資本として贈与した財産を特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合、その贈与財産が金銭であるときは、贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価すべきである、と判断しています(最高裁昭和51年3月18日判決)。
つまり、額面をそのまま使うのではなく、物価の変動を考慮して現在の価値に引き直します。実務では、消費者物価指数などを用いて換算するのが一般的です。物価が上がっていれば、換算後の金額は額面より大きくなります。
古い贈与ほど、この換算の影響は大きくなります。「昔のことだから大した金額ではない」と考えていると、想定より大きな金額として扱われることがあるため注意が必要です。
不動産・株式を贈与された場合の評価(値上がり分の影響)
不動産や株式についても、相続開始時の価額で評価します。贈与を受けた当時の価格ではありません。
この違いは大きな意味を持ちます。例えば、20年前に評価額1,000万円の土地の贈与を受け、相続開始時には3,000万円に値上がりしていたとします。この場合、特別受益の額は3,000万円として扱われます。逆に値下がりしていれば、下がった後の価額で評価されます。
つまり、贈与を受けた後の値上がり分も含めて、遺留分の計算に反映されるということです。不動産や株式の贈与は、金額のインパクトが大きくなりやすいため、評価をめぐって争いになりやすい類型といえます。
不動産の評価方法自体にも複数の考え方があり、当事者間で評価額が食い違うことは珍しくありません。評価が争点になりそうな場合は、早めに弁護士にご相談ください。
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遺留分を請求する側・された側それぞれの実務ポイント

- 遺留分侵害額請求には、知った時から1年・相続開始から10年の期間制限がある
- 請求された側は、請求額が正しく計算されているかを検証することが重要
実際に請求する場合、何に気をつければよいですか。
まず期限です。請求される側の注意点もあわせて確認しましょう。
請求する側:時効に注意し内容証明で請求する(民法1048条)
遺留分侵害額請求で最も注意すべきなのが、期間制限です。民法1048条により、遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。また、相続開始の時から10年を経過したときも請求できなくなります。条文は「同様とする」と定めていますが、この10年の期間は、一般に、時効と異なり更新(中断)や完成猶予が認められない除斥期間と解されています。つまり、1年の期間制限は時効、10年の期間制限は除斥期間として区別して理解しておく必要があります。
特別受益があるケースでは、贈与の有無や金額の調査に時間がかかりがちです。調べているうちに1年が経過してしまうことがあるため、金額が確定していない段階でも、まずは請求の意思表示をしておくことが重要です。
請求の意思表示は、あとから「請求を受けていない」と争われないよう、配達証明付きの内容証明郵便で行うのが実務上一般的です。金額を明示しなくても、遺留分侵害額請求をする旨を伝えれば足ります。
請求された側:特別受益の主張・立証と請求額の検証
請求を受けた側にも、検討すべき点があります。まず確認したいのが、請求してきた相手が本当に遺留分権利者かどうかです。兄弟姉妹や甥姪には遺留分がありません。
次に、時効が完成していないかを確認します。そのうえで、請求金額が正しく計算されているかを検証します。特に、これまで見てきたとおり、請求者自身が過去に受けた特別受益は期間制限なく控除され得ます。相手が自分の受益を計算に入れていない場合、請求額は過大になっている可能性があります。
特別受益を主張する場合、それを裏づける資料が必要です。次のようなものが考えられます。
- 預金通帳の記載や振込記録(送金の事実と金額を示す)
- 贈与契約書、贈与税の申告書
- 不動産の登記事項証明書(贈与を原因とする所有権移転の記録)
- 住宅の購入時期や資金の出所が分かる資料
古い贈与ほど資料が残っていないことが多く、立証は簡単ではありません。どのような資料を集めるべきかについては、弁護士にご相談ください。
受遺者・受贈者が複数いる場合の負担の順序(民法1047条)
遺贈を受けた人や贈与を受けた人が複数いる場合、誰がどの順序で遺留分侵害額を負担するのかは、民法1047条1項が定めています。
- 受遺者と受贈者がいるときは、受遺者が先に負担する
- 受遺者が複数いるとき、または贈与が同時にされたときは、目的の価額の割合に応じて負担する(遺言に別段の意思表示があればそれに従う)
- 受贈者が複数いるときは、後の贈与を受けた人から順に、前の贈与を受けた人へと負担が移っていく
つまり、まず遺贈を受けた人が負担し、それでも足りなければ、新しい贈与を受けた人から順にさかのぼって負担するという仕組みです。古い贈与を受けた人ほど、負担する順番は後になります。
また、受遺者や受贈者が相続人である場合、その人自身の遺留分額を超える部分に限って負担すればよいとされています。請求された側も、自分の遺留分は確保されるということです。
遺産分割の特別受益と遺留分の特別受益は扱いが違う

- 遺産分割の持ち戻しには期間制限がないが、遺留分では原則10年以内
- 持ち戻し免除は遺産分割では効くが、遺留分では効かない
遺産分割の特別受益と、遺留分の特別受益は同じものですか。
同じ「特別受益」でも、場面によって扱いが違います。一覧で比べましょう。
「特別受益」という同じ言葉が、遺産分割の場面と遺留分の場面の両方で出てきます。しかも、どちらにも「10年」という数字が登場するため、混同されやすいところです。両者の違いを整理しておきましょう。
遺産分割:持ち戻しに期間制限はない(ただし民法904条の3に注意)
遺産分割の場面では、特別受益の持ち戻しに期間制限がありません。民法903条には「何年以内の贈与に限る」という文言がないためです。理屈のうえでは、30年前の贈与であっても持ち戻しの対象になります。
ただし、2023年4月1日から施行された民法904条の3に注意が必要です。同条は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、特別受益(903条・904条)や寄与分(904条の2)の規定を適用しないと定めています。つまり、相続開始から10年が経過してしまうと、遺産分割では原則として特別受益や寄与分を主張できず、法定相続分どおりに分けることになります。
例外として、10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしていた場合などには、なお特別受益を主張できます。また、この規定は施行日(2023年4月1日)より前に開始した相続にも適用されますが、経過措置により、相続開始から10年を経過する時か施行時から5年を経過する時の、いずれか遅い時までは主張の機会が確保されています。ここでの「10年」は贈与の時期ではなく、相続開始からの経過期間である点が、遺留分の10年とは異なります。
遺留分:10年以内の贈与に限り算入され持ち戻し免除も効かない
これに対して遺留分の場面では、これまで見てきたとおり、相続人への特別受益は相続開始前10年以内のものに限って基礎財産に算入されます(1044条3項)。ここでの「10年」は、贈与がいつ行われたかを指しています。
また、持ち戻し免除の意思表示は、遺産分割では効力を持つ一方、遺留分の計算では効きません。被相続人の意思で遺留分を奪うことはできないからです。
同じ「10年」でも、遺産分割では「相続開始からの経過期間」、遺留分では「贈与の時期」を指しています。この違いを押さえておくと、混乱を避けられます。
場面別の一覧表(期間・免除の効力・根拠条文)
両者の違いを一覧にすると、次のとおりです。
| 比較項目 | 遺産分割における特別受益 | 遺留分における特別受益 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 民法903条 | 民法1043条・1044条3項 |
| 対象となる贈与 | 婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としての贈与(相続人に対するもの) | 同左 |
| 贈与の時期による制限 | なし(いつの贈与でも持ち戻しの対象) | 原則として相続開始前10年以内 |
| 「10年」の別のルール | 相続開始から10年経過後にする遺産分割では、原則として特別受益を主張できない(民法904条の3) | ― |
| 持ち戻し免除の効力 | 効力がある(被相続人の意思に従う/903条3項) | 効力がない(免除があっても算入される) |
| 評価の基準時 | 相続開始時(904条) | 相続開始時(1044条2項・904条) |
なお、遺留分侵害額の計算において、請求者自身の特別受益を控除する場面(1046条2項1号)では、条文上、期間制限が置かれていません。「10年」の扱いは、加算・控除・遺産分割の3つの場面でそれぞれ異なるということになります。
よくある質問・まとめ

- 20年前の贈与でも、自分が受けたものなら遺留分侵害額から控除され得る
- 持ち戻し免除の遺言では、遺留分侵害額請求は防げない
最後に、よくある疑問を教えてください。
特に質問の多い4つの点を確認していきましょう。
20年前の贈与は遺留分に入る?
誰が受けた贈与かによって、答えが変わります。
他の相続人が20年前に受けた特別受益であれば、原則として遺留分の基礎財産には加算されない。相続人への贈与で加算されるのは、相続開始前10年以内のものに限られるためです(民法1044条3項)。ただし、当事者双方に害意があった場合は例外的に加算されますが、認められるハードルは高いといえます。
一方、ご自身が20年前に受けた特別受益は、遺留分侵害額から控除されると考えられます。条文上、こちらの控除には期間制限が置かれていないためです(民法1046条2項1号)。「20年前だから関係ない」とはいえない点に注意してください。
「持ち戻し免除」の遺言があれば遺留分も防げる?
防げません。持ち戻し免除の意思表示は遺産分割の場面での制度であり、遺留分の計算には影響しないためです。
遺留分の基礎財産への算入を定める民法1043条・1044条は、持ち戻し免除を定めた903条3項を参照していません。そのため、「持ち戻しを免除する」と遺言に書いても、10年以内の特別受益であれば基礎財産に加算され、他の相続人は遺留分侵害額請求ができます。
婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与についても同じです。903条4項によって持ち戻し免除が推定されますが、これは遺産分割の場面の話であり、遺留分の計算では加算されます。
大学の学費は特別受益になる?
通常は特別受益にはあたらないと考えられています。子に教育を受けさせることは、親の扶養義務の範囲内といえるためです。
ただし、金額が著しく高額な場合や、他の相続人と比べて明らかに不均衡な場合には、特別受益と判断される可能性があります。例えば、1人だけ長期の海外留学や私立医大の学費を出してもらい、他の子は公立高校までだった、といったケースです。
判断は、その家庭の資産状況や生活水準との比較で行われます。一律の基準はないため、気になる場合は弁護士にご相談ください。
特別受益を証明するにはどんな資料が必要?
贈与があった事実と、その金額を示す資料が必要です。預金通帳の記載や振込記録、贈与契約書、贈与税の申告書、不動産であれば贈与を原因とする所有権移転が記録された登記事項証明書などが典型です。
難しいのは、古い贈与です。金融機関の取引履歴の保存期間には限りがあり、通帳も処分されていることが多いためです。手元の資料だけでなく、住宅の購入時期と当時の収入との関係など、間接的な事情から主張していくこともあります。
特別受益の立証は、遺留分をめぐる争いの中でも特に争点になりやすい部分です。どの資料をどう集めるかによって結論が変わることもあるため、早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします。
まとめ
遺留分は法定相続人に保障された最低限の遺産取得分であり、特別受益は一部の相続人が生前贈与や遺贈で得た財産を指します。遺留分を計算する際には、原則として相続開始前10年以内の特別受益が加算されるため、これらを正しく理解しないと相続トラブルに発展する可能性があります。
あわせて押さえておきたいのが、この記事で解説した3つのポイントです。第1に、持ち戻し免除の意思表示があっても、遺留分の計算では贈与が加算されること。第2に、請求する側自身が受けた特別受益は、10年より前のものでも遺留分侵害額から控除され得ること。第3に、贈与財産は贈与時ではなく相続開始時の価額で評価され、金銭は貨幣価値の変動を考慮して換算されることです。
特別受益がからむ遺留分の計算は、条文の参照関係が入り組んでおり、ご自身で正確に見通しを立てるのは簡単ではありません。請求できると思っていたのに控除で大きく減る、逆に請求額が過大になっている、ということも起こり得ます。
相続問題の解決には専門的な知識が不可欠です。当事務所には相続問題に詳しい弁護士が在籍しておりますので、お困りの際はお気軽にお問い合わせください。
<参照>
e-Gov法令検索「民法」
最高裁判所昭和51年3月18日第一小法廷判決(民集30巻2号111頁)
大審院昭和11年6月17日判決(民集15巻1246頁)

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