目次

はじめに

被相続人の遺言書に財産を遺贈される旨が記載されていた方で、以下のような悩みをもっている方は少なくありません。
・ほかの相続人との関係が悪化しそう
・負債があるかもしれない
・自分には必要のない財産だ
遺贈は原則として一方的に成立するため、受け取りたくない場合には適切な手続きで「放棄」する必要があります。
本記事では、遺贈を放棄すべきケースや放棄方法、期限の違いなどをわかりやすく解説します。

遺贈・遺贈の放棄とは?

まずは、「遺贈」と「遺贈の放棄」について確認をしましょう。

遺贈とは?2つの種類

遺贈とは、遺言書で財産を譲り渡す行為のことをいいます。
人は最後の意思表示として遺言書を残して、その遺言書のなかで自身の財産についての処分を決めることができます。
法律上、相続権が否定されている内縁の妻や孫がいるような場合に、遺言書で遺贈をすることがよくあります。
遺贈には、包括遺贈と特定遺贈の2つがあります。
包括遺贈とは、遺産に対する割合を示して遺贈を行うことです。
例えば、「〇〇には、遺産の1/5を遺贈する」という形での遺贈を行います。
包括遺贈を受けた方は相続人と同様に取り扱われることになります。

第九百六十五条 第八百八十六条及び第八百九十一条の規定は、受遺者について準用する。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

特定遺贈とは、特定の財産を指定して遺贈を行うことをいいます。
例えば、「〇〇には、不動産Aを遺贈する」という形での遺贈を行います。
二つの遺贈の種類によって遺贈の放棄の方法が異なるので、注意が必要です。

遺贈の放棄とは

贈与契約の場合は「あげる」と「もらう」が一致して初めて成り立ちますが、遺贈の場合は遺言書を作るという一方的な行為で成り立ってしまいます。
そのため、受遺者が予期せず財産をもらってしまうことがあります。
生前の贈与の場合は「あげます」という申し出に対して「いりません」と断ればよいですが、遺贈の場合には放棄の手続きが必要となります。

遺贈の放棄と相続放棄の違い

相続において、相続放棄というものがあります。
相続放棄は相続人になる場合に、家庭裁判所に申述を行って、相続人としての地位を放棄するための手続きです。
相続放棄は以下のようなケースで利用されることが多いです。
・相続財産に負債がある
・相続で揉めているので遺産はいらないからその紛争から離れたい
一方で、遺贈の放棄は遺言書によって財産を譲り受けた財産を放棄する手続きになります。
遺贈の放棄は受遺者としての法律行為である一方、相続放棄は相続人としての法律行為であり、両行為は別の手続きです。
遺贈のうち包括遺贈の場合には、相続人と同一の権利義務を有することとなるため、相続放棄と同様に家庭裁判所への申述手続きとなります。

相続放棄をした人が遺贈を受けた場合

相続放棄と遺贈の違いに関連して、相続放棄をした人が遺贈を受けた場合について確認しておきましょう。
遺贈は相続欠格者以外の相続人に対してもすることができますが、その相続人が相続放棄をすることがあります。
このような場合、相続人ではないものの受遺者としての地位もあるため、遺贈を放棄しない限り、遺贈を受けることは法的には可能となります。
たとえば、自宅をどうしても遺したいものの、亡くなった方に多額の借金があるような場合、相続放棄をしたうえで自宅の遺贈を受けるということが制度上可能となります。
本来自宅を継ぐためには、負債を含めて相続を受け、借金を全額支払うか、限定承認をしたうえで自宅について先買権を行使して買い戻すかする必要があります。
しかし、遺贈の手続きを踏めば何らの負担をせずに自宅を遺贈で受け継ぐことができます。
しかし、詐害行為取消権を主張されたり、信義則違反を理由に相続放棄や遺贈を否定されたりする可能性もあります。

第四百二十四条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。

引用元:民法 | e-Gov 法令検索

遺贈の放棄はどのような方法で行えばいいの?

特定遺贈か包括遺贈かによって遺贈の放棄の方法が異なります。
それぞれの方法を紹介します。

包括遺贈の場合

包括遺贈の場合には、相続放棄と同様に家庭裁判所に申述をする方法になっています。
申述は、申述書と遺贈が分かる書類を亡くなった方の最後の住所を管轄している地域の家庭裁判所に提出します。

特定遺贈の場合

特定遺贈の場合には、このような手続制限がないので、相続人や遺言書について遺言執行者がいる場合には遺言執行者に対する意思表示のみで大丈夫です。
しかし、実務上は遺贈の放棄をしたことを公に示すために内容証明郵便にて行います。

遺贈を放棄したい場合に期限はある?

遺贈の放棄の期限について説明します。

包括遺贈の期限

包括遺贈の放棄の期限は、原則として自身のために包括遺贈があることを知ったときから3カ月以内という期間制限があります。

第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

ただし、3カ月を経過したことにやむを得ない事情があり、裁判所が認めた場合には、例外的に期限が過ぎても相続放棄と遺贈の放棄もが認められることもあります。

特定遺贈の場合

特定遺贈の場合には、放棄の期間制限はありません。
遺言者の死亡後であれば、いつでも放棄することが可能です。

遺贈を放棄したらどうなるの?

遺贈を放棄した場合には、遺贈された財産に対する権利は何もありません。
まだ実際に手元に何も受け取っていない場合には問題ありませんが、受け取ったあとに遺贈を放棄した場合には、遺贈された財産が手元にある状態です。
相続人が居る場合には当該相続人に、相続人が居ない場合には相続財産管理人に、財産を引き継ぐ必要があります。
そして、その引継ぎまでは「自己の財産におけるのと同一の注意(※)」をもって相続財産を管理する必要がありますので、注意が必要です。

第九百十八条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

(※)財産についての注意義務については「善管注意義務」という取引の当事者が守るべき注意義務があるのですが、「自己の財産におけるのと同一の注意義務」は、これよりも一段階低い注意義務であるとされています。
要は商売をするにあたっての業者のような注意が必要か、自分のものと同じような扱いでいいのか、という注意義務の違いがあることも知っておきましょう。

遺贈の放棄をする際の注意点

遺贈の放棄には、いくつか注意点がありますので知っておきましょう。

遺贈の承認・放棄をしたら基本的に撤回できない

遺贈は一度放棄をしたら基本的に撤回ができません。
そのため、遺贈の放棄については慎重に行いましょう。
しかし、例外的に遺贈の放棄が錯誤や詐欺・脅迫によって無理やり放棄をさせられたような場合には、放棄の意思表示の取消や無効の主張ができます。

第九百八十九条 遺贈の承認及び放棄は、撤回することができない。
2 第九百十九条第二項及び第三項の規定は、遺贈の承認及び放棄について準用する。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

遺贈の放棄をしても相続分は放棄されない

遺贈を受けた方が相続人である場合には、遺贈の放棄をしても、相続分まで放棄されたことになりません。
そのため、相続争いに巻き込まれたくないという理由で遺贈の放棄だけをしても、相続人として遺産分割に関与しなければなりません。
この場合、遺贈の放棄のみならず相続放棄の手続きも併せて行いましょう。

遺言者の生前に遺贈の放棄はできない

遺贈の放棄ですが、遺言者の生前に遺贈の放棄をすることはできません。
遺贈の放棄について定める民法986条1項は「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。」と定めており、遺言者が存命である間は遺贈の放棄はできません。
生前でも家庭裁判所の許可があれば行うことができる遺留分の放棄とは異なるので注意しましょう。

第千四十九条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

死因贈与と混同しないように注意をする

遺産を譲り渡すことができるというものに、死因贈与というものがあります。
死因贈与とは、一方が亡くなることを条件とする贈与契約で、一方的な意思表示でなされる遺贈と異なり、契約となるので双方の合意が必要です。

さいごに

包括遺贈・特定遺贈で手続きは異なります。
手続きを行う際には注意が必要ですので、不安な点があれば弁護士に相談することをおすすめします。
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この記事の監修者

弁護士 西部 達也第二東京弁護士会
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