はじめに
突然の事故による家族の死は、大きな悲しみとともに、経済的な問題も残します。
特に気になるのが、加害者から支払われる慰謝料や損害賠償、生命保険金などが相続の対象になるのかという点ではないでしょうか。
また、相続人が複数いる場合には、「誰が、どのように受け取るのか」「遺産分割の対象になるのか」といった手続きも重要になります。
本記事では、交通事故で死亡した場合に相続できる保険金や慰謝料の取り扱い、相続人の範囲、注意点について、わかりやすく解説します。
不安な状況の中で損をしないためにも、基本的な仕組みをしっかり確認しておきましょう。
交通事故で死亡した場合の保険金の相続
交通事故で死亡した場合の保険金の相続は、どのように扱われるのでしょうか?
ここでは、保険金の相続に関する基本的な知識として、以下の点について解説します。
- 保険金とは?
- 相続財産に含まれる?
- 特別受益になる?
- みなし相続財産になる
それぞれのポイントについて、詳しくみていきましょう。
保険金とは?
保険金とは、保険事故が生じたときに契約に基づいて保険会社から支払われる金銭のことです。
保険金には損害保険と生命保険の2種類があります。
- 損害保険:車や建物などに損害が生じたときに保険金が支払われる保険
- 生命保険:病気や怪我をしたとき、あるいは死亡したときに保険金が支払われる保険
交通事故で人が死亡した場合、生命保険に加入していれば保険会社から生命保険金が支払われることがあります。
保険金の受取人が本人以外(妻や子どもなど)になっていれば、当然、受取人が保険金を自身の固有の財産として受け取ることができます。
相続財産に含まれる?
保険金の受取人が妻や特定の子どもではなく、単に、「被保険者が死亡したときはその相続人が保険金を受け取る」と指定されていたときはどうでしょうか。
昭和40年2月2日の最高裁判所の判例では、特段の事情のない限り、相続財産にはならないとされています。
つまり、受取人が妻などに指定されていた場合と同じように相続人が固有の財産として保険金を受け取ることができ、遺産分割の対象とはならないことになるのです。
特別受益になる?
相続人の一部の方が、亡くなった方から生前に贈与を受けていた場合や、相続開始後に遺贈を受けた場合などには、法定相続分どおりに相続すると他の相続人に不公平になってしまう場合があります。
そこでこのような不公平な状態を是正するため、民法ではこれらの利益を「特別受益」として考慮したうえで相続分を計算する規程が設けられています。
では、交通事故で保険金を受け取ったときには特別受益にあたるのでしょうか。
平成16年10月29日の最高裁判例は、原則として保険金は特別受益とはみなされないと判断しています。
ただし、特別受益とみなさないことにより他の相続人との間で著しい不公平が生じるような特段の事情がある場合には、例外が認められることもあるとしました。
例えば、遺産の総額が極めて少ない一方で保険金が著しく高額であるような場合、「特段の事情」に当てはまるとされる可能性があるでしょう。
みなし相続財産になる
交通事故における保険金は、受取人が自身の固有の財産として受け取るので、基本的には相続財産とはなりません。
しかし、相続税との関係では、生命保険金はみなし相続財産となります。
そのため、遺産の額と生命保険金の額が相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税の申告・納税をしなければなりません。
なお、生命保険金については遺族の生活保障の観点から「500万円✕法定相続人」が非課税金額となります。
交通事故で死亡した場合の慰謝料の相続
追突事故のように相手に過失がある事故で死亡した場合、相手方の保険会社に慰謝料を請求することができます。
では、この場合の慰謝料は相続の対象となるのでしょうか。
死亡事故の場合、慰謝料には本人の精神的損害に対する慰謝料と遺族の精神的損害の2種類があります。
遺族の慰謝料については相続の問題とはならず、遺族が自分の権利として請求することができるのはいうまでもありません。
一方、被害者本人に対する慰謝料については相続の対象となる可能性があります。以下で詳しくみていきましょう。
慰謝料とは?
慰謝料とは、違法な行為によって精神的な苦痛を被ったとき、その損害を埋め合わせるために相手方に請求できる金銭のことです。
例えば交通事故の被害に遭って怪我を負った場合、入通院をしたり後遺障害が残ったりしたことについて加害者側に慰謝料を請求することができます。
交通事故で被害者が亡くなった場合の慰謝料については次のようなものがあります。
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料):事故による怪我の治療・入院に対する慰謝料
- 死亡した場合の慰謝料:事故によって死亡したことに対する慰謝料
- 近親者に対する慰謝料:家族を失った精神的苦痛に対する慰謝料
慰謝料は相続財産に含まれる?
死亡事故の場合、被害者本人は死亡していますので慰謝料を受け取ることができません。
では被害者の相続人は被害者に対する慰謝料を相続することができるのでしょうか。
この点について、最高裁判所は、昭和42年11月1日の判決で「当然に相続できる」と判断しています。
その他、交通事故で請求できるもの
そのほか、交通事故に遭ったときは、加害者に対して以下のようなものを請求することができます。
治療費等
医師の診断や手術・入院などの治療に関係する費用は、交通事故の損害として請求が可能です。
休業損害
事故によって仕事ができなくなった場合、休業損害を加害者に請求することができることがあります。
事故を起こしてから亡くなるまでの間の休業損害が請求可能です。
葬儀等の費用
事故によって被害者が死亡した場合、葬儀に関する費用を請求できます。 なお、葬儀費用については自賠責保険から100万円が支給されるので、賠償されるのはそれを超える額のみです。
死亡逸失利益
被害者が亡くなっていなければ将来得られる見込みである、収入・利益のことを死亡逸失利益といいます。
交通事故で被害者が亡くなった場合には、死亡逸失利益も請求することが可能です。
死亡逸失利益がいくらになるかは、被害者の年齢や収入等によって決められます。
弁護士費用
交通事故を弁護士に依頼する場合には、弁護士費用の支払いが必要です。
弁護士費用については、基本的には損害賠償額に含まれないと考えられています。
ただし、裁判をしなければならず、弁護士が必要と裁判所が認定すれば、判決で示された損害賠償額の10%程度の弁護士費用に相当する金額を、損害賠償額として認定してもらえます。
損害賠償金は相続税の対象となるのか
損害賠償金については、原則として相続税の対象とはなりません。
もっとも、被相続人の生存中に慰謝料の支払いが決まっていた場合で、その後に被相続人が亡くなった場合には、金銭債権として相続税の課税対象となります。
交通事故で複数の親族が亡くなった場合の相続
交通事故では、必ずしも亡くなる方が一人だけとは限りません。
最悪の場合、一度の事故で複数の親族を失ってしまう可能性もあるでしょう。
では、その場合の相続はどのように扱われるのでしょうか。
以下で詳しく解説します。
同時死亡の場合
家族で一つの車に同乗していた場合など、交通事故で複数の親族が同時に死亡してしまう場合があります。
事故により全員が即死した場合など、複数の親族が同時に亡くなったことが明らかなときには、同時に死亡した親族はお互いに相続人となりません。
つまり、亡くなった方の相続人が相続割合に従ってそれぞれ財産を相続することになるのです。
具体的な相続割合については「【具体例】誰が相続人になる?相続人の範囲や優先順位について解説!」を参考にしてください。
死亡順序の判断ができない場合
では、誰が先に死亡したかわからない場合はどうなるのでしょうか。
この場合、民法の「同時死亡の推定」という規定が採用されます。
これは、「複数の方が何らかの原因で死亡し、そのうち誰が先に死亡したのかわからないような場合には、同時に死亡したと推定する」という規定です。
例えば、母親Aとその子どものBが同じ船に乗っていたが、船舶事故でAとBが2人とも亡くなってしまった場合を考えてみましょう。
このとき、Aが先に死亡した場合とBが先に死亡した場合では相続人の相続割合が異なる場合がありますが、どちらが先に死亡したか証明することは極めて困難です。
そこで、死亡時期の前後が不明な場合には同時に死亡したこととする、というのが同時死亡の推定です。
交通事故の場合でもこの規定が適用され、死亡した順番がわからない場合は同時に死亡したものとして相続割合が決定されます。
死亡順序が判断できる場合
同時死亡の推定の定めはあくまで「推定」ですので、どちらかが先に死亡したことが証明できる場合には覆されることになります。
つまり「死亡した順番が証明できないときは同時に亡くなったということにするが、証明できるときはそれに従う」という規定なのです。
例えば、父親と子どもが同じ車に乗っているときに交通事故に遭い、それぞれ病院に運ばれたのちに死亡したが、医師の記録により、父親が死亡した1時間後に子どもが死亡したことがわかったとします。
このような場合には同時死亡の推定が覆り、死亡した順番にしたがって相続割合が決定されます。
さいごに
交通事故に遭わないのが一番ですが、人生は何が起こるかわかりません。
いざというときに相続人の間でトラブルになるのを防ぐ意味でも、保険金や慰謝料がどうなるのか確認しておくことをおすすめします。


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