
- 山林を相続すると、法務局での相続登記と役所への届出が必要で管理義務も生じる
- 手続をしなかった場合、10万円以下の過料の対象となることも
- 山林相続の手続は、行政書士・司法書士に代行を依頼できる。売却する事例が多い
【Cross Talk 】相続した山林を放置した場合のデメリットと対処法は?
父が亡くなり、遺産の中に山林があることが分かりました。他の手続や葬儀で忙しく放置したままですが、大丈夫でしょうか?
山林を相続した際は相続登記・役所への届出が必要で管理義務もあります。手続を怠ると過料の対象となってしまいますので、時間がないときは専門家に代行を依頼しましょう。
詳しく教えてください。
山林の相続では、相続登記と役所への届出という2つの手続が必要です。 2023年4月から相続登記が義務化になる予定で、取得後3年以内に手続をしなかった場合は10万円以下の過料の対象となります。 森林法で役所への届出も定められており、届出が無かった際には「10万円以下の過料に処する」という条文の記載があります。 手続は専門家に代行を依頼できますが山林を所有することで管理義務が生じますので、売却といった対処法を検討しましょう。
山林を相続するメリット・デメリット

- 林業や貸出などで収益を得られる可能性があるのがメリット
- 管理の負担や売却・収益化が難しいというデメリットもある
山林を相続することには、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?
木材を売却したり、貸し出すなどして、山林から収益を得られる可能性があることが、山林を相続するメリットです。他方で、山林を管理する負担が大きいこと、売却や収益化が難しいこと、将来的に子どもや孫の負担になる可能性があることなどが、山林を相続するデメリットです。
山林を相続するメリット
林業や貸出などで収益を得られる可能性がある
自ら林業を営んで山林に生育する樹木を伐採して売却するとか、自治体や林業を営む業者に山林を貸し出して賃料を得るといった方法により、山林から収益を得られる可能性があるということが、山林を相続するメリットと言えます。近年では太陽光発電の設備の設置に山林を利用することもあります。山林を相続するデメリット
管理負担が大きい
山林は、間伐(一部の樹木を間引くこと)をしないと樹木が十分に成長しなかったり、土砂災害の原因になるおそれがあったりするなど、管理の負担が大きいのが特徴です。相続で山林を取得した場合、相続人は山林から遠く離れた場所に居住していることも珍しくなく、そのような場合には管理の負担が一層大きくなります。売却・収益化しにくい
山林は、住宅街の宅地などに比べると需要が少ないため、売却したくてもなかなか買い手が見つからないのもデメリットです。また、林業を営むとしても、木材の需要減少や価格の安い輸入木材との競争などの理由から、収益化が難しい傾向があります。
子どもや孫の負担になる場合がある
山林は売却しにくいので、将来的に子どもや孫が山林を相続し、管理負担などをそのまま引き継ぐ可能性があります。山林を相続する際の手続

- 法務局に相続の登記申請書を提出する
- 市町村に所有者の届出をする
山林を相続する場合、どのような手続が必要になりますか?
山林を含めて不動産を相続した場合、法務局で所有権の移転登記手続をする必要があります。また、山林に特有の手続として、90日以内に山林の所在地の市町村に対して所有者の届出をしなければならないことに注意が必要です。
登記申請書を提出する
山林を相続した場合、山林の所有名義を被相続人から相続人へ変更しなければなりません。
そのため、法務局に相続の登記申請書を提出する必要があります。
従前、相続登記に期間制限がなかったことから価値のない山林等は放置されやすく、所有者が不明となったり、相続人と連絡が取れなくなったりする等の問題が生じていました。
そこで令和6年4月1日以降、相続登記が義務化され、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければならず、正当な理由なくこの義務に違反した場合には10万円以下の過料の適用対象とされることになりました。
市町村へ届出をする
山林の場合、森林法という法律によって、売買や相続によって新たに山林の所有者となったときには、90日以内に山林の所在地である市町村に対し、所有者の届出をしなければならないと定められています。この届出をしない場合にも10万円以下の過料が課される可能性があることに注意が必要です。山林の相続税評価額

- 純山林、中間山林は倍率方式で評価する
- 市街地山林は比準方式または倍率方式で評価する
山林を相続した場合に相続税がどうなるかが気になるのですが、山林はどのように評価されるのでしょうか?
山林の種類によって評価方法が異なります。純山林、中間山林の場合は、固定資産税評価額に国税局長の定める倍率を掛ける倍率方式で評価されます。市街地山林の場合は、その山林を宅地として評価した価額からその山林を宅地に転用するために通常必要な造成費として国税局長が定める金額を控除してする比準方式か、倍率方式で評価することになっています。
純山林・中間山林の相続税評価方法
相続税を計算する際、不動産を評価する必要がありますが、山林の評価方法は山林の種類によって異なります。
山林は、相続税の計算に関しては、次の3種類に区分されます。
・純山林(市街地から遠く離れており、評価に当たって宅地の影響がない山林)
・中間山林(純山林と市街地山林の中間)
・市街地山林(市街地にあり、評価に当たって宅地の影響を受ける山林)
これらのうち、純山林と中間山林は、その山林の固定資産税評価額に、国税局長の定める一定の倍率を掛けて計算される金額によって評価します。この評価方法を倍率方式と言います。
市街地山林の相続税評価方法
市街地山林の場合、比準方式または倍率方式で評価されます。
比準方式とは、山林が宅地であるとして評価した額から、その山林を宅地に転用するために通常必要な造成費として国税局長が定める金額を控除した額を評価額とする方式です。
山林を相続したくない・手放したい場合の対処法について

- 相続放棄をするか、遺産分割協議で他の相続人に相続してもらう
- 相続土地国庫帰属制度を利用する
山林を相続することはデメリットもあるようですが、相続したくない場合にはどうすればいいですか?
相続放棄をするか、遺産分割協議をして他の相続人に相続してもらうことが考えられます。また、令和5年4月に一定の要件を満たした場合に土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度が開始されたので、こちらの利用を検討してもいいでしょう。
相続放棄
山林を相続したくない場合、相続放棄をすることが考えられます。ただし、相続放棄をすると山林だけでなく被相続人の一切の財産を相続できなくなります。 そのため、山林のほかにみるべき財産がないなど、山林を相続することによる負担の方が大きいと言える場合でなければ、相続放棄は効果的な方法とは言えないでしょう。
参考:相続放棄の手続きの流れを解説他の相続人に相続してもらう
他の相続人がいる場合、遺言がなければ相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。
遺産分割協議で合意ができればどのような分割をしてもいいので、山林を相続したくない場合には他の相続人に相続してもらうという方法が考えられます。
この方法によれば、山林は他の相続人に相続してもらえる上、山林以外の財産は相続できる可能性があります。
もっとも、山林に価値がない場合、誰も相続をしたがらず、遺産分割協議がまとまらないおそれがあります。
相続土地国庫帰属制度を利用する
令和5年4月から、相続や遺贈によって取得した土地について、一定の要件を満たした場合に国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度が開始されました。ただし、どのような土地でも対象となるわけではなく、次のような土地は帰属ができないとされています。
| 申請ができない土地 | 建物が存する土地、担保権や用益物権が設定されている土地、有害物質に汚染されている土地等 |
|---|---|
| 帰属の承認ができない土地 | 崖がある土地のうち、通常の管理に当たり過分の費用・労力を要するもの、土地の通常の管理・処分を阻害する工作物などが地上に存する土地等 |
また、審査手数料として土地一筆あたり1万4000円分の収入印紙を、審査が承認された場合には10年間の土地管理費用に相当する負担金をそれぞれ納付しなければいけません。このように、価値がない山林を引き取ってもらうためにも費用が必要になることに注意が必要です。
まとめ
山林の相続手続は役所への届出と相続登記があり、90日以内に役所へ届け出をしなかった場合には過料対象となります。相続登記も2023年4月から義務化となり、取得してから3年経っても未登記の不動産は10万円以下の過料が科されてしまいます。
山林を相続すると管理義務が生じますので、いらない場合には売却を検討しましょう。また、相続放棄によって所有権を放棄できますが、全ての遺産を放棄しなければならないため、相続放棄をする場合には慎重に検討をしましょう。山林相続で悩んでいる方は、相続分野に強い弁護士の相談をおすすめします。

- 亡くなった親に借金があるかもしれない
- 親と疎遠のため、財産を相続する気がない
- 相続税が払えないため家などの不動産を相続したくない
- 自営業を引き継ぎたいが借金がある
無料
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