遺留分侵害額請求権と時効について解説
ざっくりポイント
  • 法改正により遺留分侵害額請求として金銭の支払いを求める制度になった
  • 時効には完成猶予や更新がある
  • 請求された側は時効援用によって支払いを拒める可能性がある
目次

【Cross Talk 】遺留分侵害額請求権と時効

遺留分侵害額請求にも時効があるのでしょうか。

はい。時効のほかにもいくつか注意すべき点があるので、一緒に把握しておきましょう。

遺留分侵害額請求権と時効
遺留分侵害額請求権には1年の消滅時効と10年の除斥期間があり、請求する側・請求される側のどちらにとっても重要な問題です。しかし、時効の起算点や完成猶予・更新の仕組みは複雑で、誤解も少なくありません。

この記事では、遺留分侵害額請求権の時効の基本から、時効の完成を防ぐ方法、請求された側の対応、時効完成後に問題となるケースまでわかりやすく解説します。遺留分の時効に関してお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。

遺留分・遺留分侵害額請求権とは

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺留分とは兄弟姉妹以外の相続人に認められた、相続において最低限保障されている権利のこと
  • 遺留分侵害額請求によって遺留分に相当する金銭の支払いを求めることができる

遺留分とはどのような権利なのでしょうか。

遺留分とは、相続において最低限保障されている権利のことです。

遺留分があるとどのようなことができるのか、詳しく教えてください。

遺留分とは

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に、相続において最低限保障されている権利のことをいいます。日本では、自分の死後のことを考えて、民法等法律に定められた内容ではない方法で自分の遺産を相続人や第三者に分配をすることができます。

これによって、相続人の中には、法律上定められている相続分よりも少ない遺産しか相続できないという場合や、全く相続できないという場合が発生します。
しかし、遺産を全く相続できなくなったことで、相続人の生活に支障が出るおそれがあることから、法律で相続に際し最低限確保できる権利を遺留分として定めています。 なお、民法1042条で明確に兄弟姉妹には遺留分がないことを規定している点に注意をしましょう。

第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

引用元:家事事件手続法 | e-Gov法令検索

遺留分の割合は、総体的遺留分として、遺産全体に対し、基本的には1/2、親・祖父母等の直系尊属のみが相続人である場合には1/3と定められており(民法1042条1項)、さらに複数人相続人がいる場合には、総体的遺留分(遺産の1/2または1/3)に対して、各相続人の法定相続分を乗じたものと定められています(民法1042条2項)。

遺留分侵害額請求権とは

遺留分侵害額請求権とは、遺留分を侵害されている方が、遺留分を侵害している方に、遺留分に相当する金銭の支払いを求める請求権です(民法1046条)。

第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

引用元:家事事件手続法 | e-Gov法令検索

なお、以前は遺留分減殺請求権として制度が定められていましたが、法改正によって現在では遺留分侵害額請求権となっています。

この改正により、遺留分を侵害している方に対する請求は、金銭の支払いを求める請求となりました。遺留分を侵害している方というのは、遺贈を受けた方や生前贈与を受けた方などのことをいいます。遺贈と生前贈与が複数ある場合には、まずは遺贈を受けた方・次に生前贈与を受けた方の順番で請求をしていきます(民法1047条1項1号)。

遺贈を受けた方が複数いる場合には、基本的に遺贈の価額に応じて遺留分侵害額請求に応じることになります(民法1047条1項2号)。生前贈与を受けた方が複数いる場合には、生前贈与を受けた順番が後の方から順番に遺留分侵害額請求に応じることになります(民法1047条1項3号)。

兄弟姉妹には遺留分がない

民法1042条では、遺留分は兄弟姉妹以外の相続人に認められると定めています。そのため、兄弟姉妹は遺留分侵害額請求をすることができません。

兄弟姉妹は第三順位の法定相続人なので、遺留分を有すると誤解されることもありますが、遺留分の対象外であることが民法に明確に定められているので、この点は注意してください。

遺留分の時効と除斥期間

知っておきたい相続問題のポイント
  • 消滅時効は相続の開始及び遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知ったときから1年
  • 除斥期間は相続開始から10年間

遺留分侵害額請求権は何年経っても行使できるのでしょうか?

時効と除斥期間があるので、いつまでも行使できるわけではありません。

1年の時効

遺留分侵害額請求権には1年の消滅時効があり、時効期間経過後に請求相手が時効を援用すると、遺留分侵害額請求はできなくなります。

遺留分侵害額請求権の消滅時効は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知ったときから1年と定められています(民法1048条)。

そのため、遺留分侵害額請求権を行使するにはまず、時効期間経過前であることを確認しなければなりません。

10年の除斥期間

遺留分侵害額請求権は、時効のほかにも除斥期間が定められています。遺留分侵害額請求権の除斥期間は、相続開始から10年間です。

除斥期間は、先ほど説明した消滅時効と起算点が異なります。消滅時効は相続の開始及び遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知ったときが起算点ですが、除斥期間は相続開始が起算点です。

例えば、遺留分権利者が相続の開始を知らないまま10年経過しても消滅時効は成立しませんが、相続開始が起算点なので10年経過していれば除斥期間が成立するので、この場合は除斥期間経過によって遺留分侵害額請求権が消滅します。

消滅時効と除斥期間の違い

消滅時効が完成した場合、遺留分侵害額請求を受けた側は時効が完成していることを主張する必要があります。これを時効援用といいます。消滅時効では、時効期間が経過しただけで自動的に権利が消滅するわけではなく、相手方が時効を援用して初めて権利が消滅します。

一方、除斥期間は期間の経過によって当然に権利が消滅するため、援用は必要ありません。

また、時効には更新という仕組みがあります。時効の更新とは、裁判上の請求によって権利が確定した場合や相手方が債務を承認した場合などに、それまで進行していた時効期間がリセットされ、新たに時効期間が進行することです。

これに対し、除斥期間には更新のような仕組みがなく、相続開始から10年という期間が動くことはありません。

2019年の民法改正により遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権へ変更

2019年7月1日に施行された改正民法により、それまでの「遺留分減殺請求」は「遺留分侵害額請求」へと変更されました。

従来の遺留分減殺請求は遺産そのものを取り戻す権利であったため、権利行使によって不動産の共有関係が生じることがありました。これに対し、現在の遺留分侵害額請求は遺留分に相当する金銭の支払いを求める権利に改められています。

もっとも、遺留分を侵害された相続人が自己の相続分を取り戻す制度である点は共通しています。そのため、古い判例や解説記事では「遺留分減殺請求」という名称が使われていることがありますが、基本的には現在の遺留分侵害額請求に対応する制度と考えて差し支えありません。

権利行使後は5年で消滅時効にかかる

知っておきたい相続問題のポイント
  • 民法改正後は遺留分侵害額請求権が金銭債権化された
  • 遺留分侵害額請求権の行使は内容証明郵便を使うのが一般的

遺留分侵害額請求を行ったあとも消滅時効があるのでしょうか。

はい。権利行使後も消滅時効に注意しなければならないので、この点は押さえておきましょう。

2019年改正で遺留分侵害額請求権が金銭債権化された

前述のとおり、2019年の民法改正によって、それまでの遺留分減殺請求は遺留分侵害額請求へと変更されました。

改正前の遺留分減殺請求は遺産そのものの返還を求める制度であったのに対し、現在の遺留分侵害額請求は遺留分に相当する金銭の支払いを求める制度となっています。

そのため、改正後は遺留分侵害額請求権を行使したあとは金銭債権として扱われます。この変更点は、次で説明する権利行使後の時効期間に大きく関わっています。

請求権行使後は通常の金銭債権となるため5年で消滅時効にかかる

1年の時効期間内に遺留分侵害額請求権を行使した場合、遺留分侵害額請求権は金銭債権となります。その結果、行使した遺留分侵害額請求権は、通常の金銭債権と同様の消滅時効にかかることになり、行使時から5年(民法166条1項1号)または10年(同項2号)で時効により消滅することになります(改正民法施行前(2020年3月31日以前)に行使されたものについては10年(旧民法167条1項)となります)。

そのため、1年以内に権利行使をしたからといって安心できるわけではありません。権利行使後も長期間請求や交渉を進めないままでいると、金銭債権として消滅時効にかかる可能性があります。

遺留分侵害額請求権の行使には内容証明郵便が推奨される

民法上、遺留分侵害額請求権の行使方法に特別な決まりはありません。そのため、遺留分侵害額請求をする意思を相手方に伝えれば足り、口頭による請求も有効です。

もっとも、口頭による請求では、その内容や時期を客観的に証明することが困難です。遺留分を巡る当事者同士は利害が対立していることが多いため、あとになって権利行使の有無や時期が争いになることがあります。

そのため、実務では配達証明付き内容証明郵便によって遺留分侵害額請求権を行使するのが一般的です。内容証明郵便であれば、配達証明によって相手方へ配達された日時を証明できます。

なお、遺留分侵害額請求権の行使時点で、具体的な請求金額まで確定させる必要はありません。まずは1年以内に遺留分侵害額請求をする意思を相手方へ明確に伝えることが重要です。

遺留分侵害額請求後の時効の更新

遺留分侵害額請求権を行使したあとの金銭債権については、一定の事由が生じると時効が更新されます。時効が更新されると、それまで進行していた時効期間がリセットされ、新たに時効期間が進行します。

民法では、主な時効更新事由として裁判上の請求等(民法147条)、強制執行等(民法148条)、承認(民法152条1項)の3つが定められています。

裁判上の請求等とは、訴訟の提起や調停の申立てなどによって権利の実現を求めることなどです。

強制執行等には、確定判決などに基づいて相手方の財産を差し押さえる場合などが該当します。

承認とは、債務者が債務の存在を認めることをいいます。例えば、相手方が遺留分侵害額の支払義務を認めたり、一部を支払ったりすると承認したものとみなされます。

時効完成を防ぐ方法

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺留分侵害額請求権を行使するだけでは時効の進行は止まらない
  • 時効の進行を止める方法には時効の完成猶予と時効の更新がある

時効にかからないためにできることはあるのでしょうか。

時効の更新があるので、これについて解説します。

侵害を知ってから1年以内にまず行使する

遺留分侵害額請求については、上記のように1年という非常に短い時効があります。 そのため、金額などが確定しなくても、まずは遺留分侵害額請求をする旨の通知を1年以内に行う必要があります。これによって、時効で請求権が消滅することがなくなりますので、あとはその額がいくらであるか、どうやって支払うかを決めていくことになります。

配達証明付き内容証明郵便で行使する

実際に請求をする際には、配達証明付き内容証明郵便を利用することが一般的です。 法律には、遺留分侵害額請求をするにあたって、どのように行うかは全く規定されていないため、直接口頭で、電話・書面・SNSなど、どのような手段を使って権利行使をしても法律上は問題ありません。
しかし、1年以内に遺留分侵害額請求をしたことが証明できないと、相手に時効を主張されたときに、反論ができなくなってしまいます。 そのため、どのような書面を送ったかを証明してくれる、内容証明郵便を利用します。 この内容証明郵便を利用する際に、配達証明をつけておくと、いつ相手に到達したかも証明してくれますので、1年の時効期間内に送ったことが証明できます。

内容証明郵便のひな形・記載すべき項目

民法上、遺留分侵害額請求権の行使に決まった書式はありません。大事なのは、あとになって争いになるのを防ぐことなので、請求者や相手方、被相続人、遺留分侵害額請求を行う意思などを明確に記載しておくことが重要です。

遺留分侵害額請求書

令和○年○月○日
〒○○○-○○○○
○○県○○市○○町○丁目○番○号
○○ ○○ 殿

〒○○○-○○○○
○○県○○市○○町○丁目○番○号
○○ ○○

遺留分侵害額請求書

私は、被相続人○○○○(令和○年○月○日死亡)の相続につき、遺留分を有する相続人です。

貴殿は、被相続人の遺言又は生前贈与により財産を取得されていますが、その結果として私の遺留分が侵害されています。

よって、本書面をもって、貴殿に対し遺留分侵害額請求権を行使いたします。

なお、具体的な侵害額及び支払方法等については、今後協議のうえ決定したく存じます。

以上

このように、権利行使の段階では「遺留分侵害額請求権を行使する」という意思を明確に示すことが重要です。必ずしも具体的な請求額まで記載する必要はなく、請求額の算定や支払方法については、その後の協議や調停・訴訟の中で決めることもできます。

一般的には、以下の事項を記載しておくとよいでしょう。
・請求者の氏名・住所
・相手方の氏名・住所
・被相続人の氏名
・被相続人の死亡日
・自分が遺留分権利者であること
・遺留分が侵害されていること
・遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示
・作成日

時効の完成猶予

時効の完成猶予とは、一定の事由が生じた場合に時効の完成を一時的に先送りする制度です。ただし、時効期間がリセットされるわけではなく、あくまで時効の完成を猶予する効果にとどまります。

主な時効の完成猶予の事由としては、以下のものがあります。
・催告(民法150条)
・協議を行う旨の合意(民法151条)
・仮差押え・仮処分(民法149条)

催告とは、内容証明郵便などによって請求を行うことです。催告をすると、その時点から6か月間は時効が完成しません。ただし、6か月以内に訴訟提起や調停申立てなどを行わなければ、そのまま時効が完成する場合もあります。

協議を行う旨の合意とは、当事者間で権利について協議することを合意することです。この場合、原則として合意時から1年間は時効の完成が猶予されます。

仮差押え・仮処分は相手方の財産を保全する手続きで、手続きが終了したときから6か月を経過するまでのあいだは時効が完成しません。

時効の更新

時効の更新とは、それまで進行していた時効期間がリセットされ、新たに時効期間が進行することです。

時効の更新事由としては、主に以下のものがあります。
・裁判上の請求等(民法147条)
・強制執行等(民法148条)
・承認(民法152条)

裁判上の請求等とは、訴訟の提起や支払督促、調停の申立てなどです。これらの手続きが行われた場合、手続きが終了するまで時効は完成しません。また、確定判決などによって権利が確定した場合には、その時点で時効が更新されます。

強制執行等とは、強制執行や担保権の実行、財産開示などの手続きです。これらが行われた場合も手続きが終了するまで時効は完成せず、手続き終了後に時効が更新されます。

承認とは、債務者が債務の存在を認めることです。例えば、相手方が遺留分侵害額の支払義務を認めたり、一部を支払ったりした場合には承認にあたり、その時点で時効が更新されます。

このように、完成猶予が時効の完成を一定期間先送りする制度であるのに対し、更新は進行していた時効期間そのものをリセットする制度です。

請求された側の対応

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相手方に対して時効援用の意思表示をする
  • 調停・訴訟でも時効援用が可能

遺留分侵害額請求を受けたら時効援用ができるのでしょうか。

はい。時効援用の手順を確認しましょう。

時効にかかっていると主張する

当然ですが、既に時効にかかっていると主張します。請求者が遺留分侵害の事実を知ったと主張する時点が誤っており実際には請求の時点で1年を経過している場合には、請求をした時点で既に遺留分侵害額請求権は時効により消滅しているという主張をすることになります。

配達証明付き内容証明郵便で返答する

上述した通り、遺留分侵害額請求は、証明の観点から、請求をした内容と時期を客観的な記録として残しておいた方がよく、配達証明付き内容証明郵便で行われることが一般的です。
これに対して、どのような返答をいつしたのかということについては、特に証明をする必要がないので、内容証明郵便を利用する必要性は高くはありません。

もっとも、内容証明郵便は、実務上、相手に対して強い主張をする場合に使われることも多いので、請求を受けた遺留分侵害額請求権が時効により消滅しており支払わない旨を内容証明で返答することによって、請求者に対して、今後調停申立てや訴訟提起をしても遺留分侵害額請求は認められないということを、強く主張することができます。

時効援用の意思表示の方法と効力

時効援用が有効に行われた場合、時効によって消滅した遺留分侵害額請求権に基づく支払いを拒むことができます。

ただし、請求者が主張する「遺留分侵害の事実を知った時期」が誤っていたり、時効の完成猶予や更新事由が存在したりする場合には、時効援用が認められないこともあります。

また、請求者が時効の完成を争っている場合には、時効援用をしても直ちに解決するとは限りません。その場合には、調停や訴訟の中で時効の成否が判断されることになります。

調停・訴訟を起こされた場合でも時効を主張する

万が一調停や訴訟を起こされた場合には、相手の主張に対して、時効にかかっていることを主張し、これを証明すれば、相手の主張は認められず、金銭を支払わなくても良いということが認められます。

時効が完成してしまった場合の対処法

知っておきたい相続問題のポイント
  • 信義則違反によって時効援用が認められない場合がある
  • 債務の承認は時効の更新事由にあたる

時効が完成したら遺留分侵害額請求はできないでしょうか。

必ずしもそうとは限らないので、以下のようなケースに当てはまらないかを確認しましょう。

信義則に違反して時効援用が認められない場合

民法では、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」と定められています(民法1条2項)。これを「信義誠実の原則」(信義則)といい、社会生活上一般に期待される信頼を不当に裏切るような行為は認められないという考え方です。

時効援用をすることが信義則に反すると判断される場合には、例外的に時効援用が認められないことがあります。

もっとも、信義則を理由として時効援用が排斥されるケースは例外的です。単に時効完成後に請求を受けたというだけでは足りず、相手方に時効援用しないと信じさせるような特別な事情などが必要とされています。

相手方が時効の利益を放棄した場合

消滅時効は、時効期間が経過しただけで当然に効力が生じるものではなく、時効援用によって初めて効力が生じます。そのため、時効が完成したあとに相手方は時効の利益を放棄することもできます。

時効の利益を放棄する方法に特別な決まりはなく、債務の存在を認めたり、支払う意思を示したりすることで時効の利益を放棄したと判断される場合があります。

もっとも、時効完成前に時効の利益をあらかじめ放棄することはできません(民法146条)。時効の利益を放棄できるのは、時効が完成したあとに限られます。

時効完成前に債務を承認していた場合

前述のとおり、債務の承認は時効更新事由のひとつです。そのため、時効完成前に相手方が債務の存在を認めていた場合にはそれまで進行していた時効期間はリセットされ、新たに時効期間が進行します。

このような事情がある場合には、時効に必要な期間が経過していても相手方は時効援用ができなくなります。そのため、時効完成の有無を判断する際には、過去のやり取りや支払状況も確認する必要があります。

関連判例の事案紹介

時効に関する問題については、さまざまな裁判例が存在します。代表的なものとして、以下のような事例があります。

「最高裁昭和41年4月20日判決」
この事例では、債務者が消滅時効完成後に債務の一部を弁済するなど、債務の存在を認める行為を行ったあとに改めて時効を援用できるかが争われました。
最高裁は、時効完成後に債務を承認した以上、そのあとに時効を援用することはそれまでの行動と矛盾し、債権者の信頼を裏切るものであるとして、信義則上時効援用は認められないと判断しました。

「東京地裁平成7年7月26日判決」
この事例では、貸金業者が債務者に対し、「請求額を支払えば債務は完済になる」と誤信させるような請求を行い、債務者がその金額を支払った後になって、さらに別の債務が残っているとして請求を行いました。
東京地裁は、このような詐欺的・欺瞞的な請求方法によって債務者から支払いを受けた事案では、債権者の信頼を保護する必要はないとして、債務者による時効援用を認めました。

このように、時効完成後の債務承認は原則として時効援用が認められなくなる方向に働きます。しかし、債権者側に不当な行為があるなど、信義則上保護する必要がない特別な事情がある場合には、例外的に時効援用が認められることもあります。

遺留分侵害額請求で争いになりやすい点

知っておきたい相続問題のポイント
  • 不動産をどう評価するかで遺留分の金額も変わる
  • 遺言書の有効性について争う方法もある

遺留分侵害額請求を行う際にもめやすいポイントはあるでしょうか。

不動産や遺言書が絡む場合にいくつかポイントがあります。順番に確認しましょう。

不動産評価で争いになるケース

家を遺贈されたような場合に、遺留分侵害額請求があった場合に、侵害された遺留分がいくらになるかを争うことがあり、特に不動産をいくらと評価することが争われます。不動産の評価については、いつの時点の評価とすべきか、どのような基準で計算するかが争われます。
いつの時点の評価で計算すべきかについては、通常は相続発生時=被相続人が亡くなった時を基準とします。

遺贈のときに大きく変わることはあまり考えられませんが、生前贈与である場合には、贈与時に低い金額だったものが、その後に値上がりしたような場合もありますので、相続開始時で計算することに注意をしましょう。
また、不動産の評価については
・公示価格
・相続税評価額(路線価方式・倍率方式)
・固定資産税評価額
・実勢価格
などの評価方法があります。
どの評価方法で計算するかについて明確に定められていません。
当事者にとってより有利となる方法を採用して計算するのが良いでしょう。

遺言書の有効・無効で争いになるケース

遺留分の侵害をされている方は、自分に不利な遺言書がある、ということになります。
そのため、自分に不利な遺言書が無効ではないのかを争うことが考えられます。これから遺言書を作成する場合、本人の嘱託に基づいて公証人が作成する点で信頼性が高く、無効であると争われる可能性が低い公正証書遺言を利用するのが良いでしょう。

養子縁組の無効で争いになるケース

遺留分を侵害された子どもが養子である場合、前提となる養子縁組を無効であると主張される可能性があります。
年をとってから養子縁組をする場合には、無効を主張されないように、養子縁組をしたときの状況を伝えられるようにしておくのが良いでしょう。

遺言書の無効を主張中の時効進行の扱い

遺留分を侵害する遺言書がある場合、そもそもそのような遺言書は無効であると争う場合があります。

例えば、遺産を全額特定の人に遺贈するという遺言書が見つかったものの、遺言書の日付からすると認知症が始まっていたような場合、まず遺言能力の有無を争い、遺言能力があると判断されれば遺留分侵害額請求をすることがあります。
このように遺言書の無効について争っている間に、遺留分侵害額請求の時効期間が経過することがあります。

この点について、最高裁判所昭和57年11月12日判決では次のような判断がされています。

遺留分権利者が、減殺すべき贈与の無効を訴訟上主張していても、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されたことを認識していたときは、その無効を信じていたため遺留分減殺請求権を行使しなかつたことにもつともと認められる特段の事情のない限り、右贈与が減殺することができるものであることを知つていたと推認するのが相当である。

最高裁判所昭和57年11月12日判決

この事件では、原則としては遺留分侵害額請求をすることができる状態であることと推認するのが相当であるとして、遺言書・生前贈与が無効であると信じていた特段の事情がある場合には例外的に遺留分侵害額請求について期間制限を行わないとする例外的なものです。
そのため、遺言書の無効を争い、有効であると認められ遺留分侵害額をしたい場合には、遺言書の無効を争う際に、遺留分侵害額請求を別途行使しておく必要があるとされています。

よくある質問・まとめ

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続放棄をすると遺留分侵害額請求権を失う
  • 時効が完成しても時効の援用を主張しないことができる

遺留分の時効を主張するのに弁護士への依頼は必要でしょうか。

正しく手続きを行うためには弁護士へ依頼するメリットは大きいでしょう。

Q1.遺言書の無効を主張中に時効が来たら?

遺言書や贈与の無効を主張しているからといって、当然に遺留分侵害額請求権の時効が止まるわけではありません。

もっとも、判例は、遺留分権利者が無効であると信じるにつき事実上・法律上の相当な根拠があり、そのために遺留分侵害額請求権を行使しなかったことに合理的な理由がある場合には、「遺留分を侵害する遺贈や贈与があったことを知った」とはいえない場合があるとしています。

無効主張に十分な根拠がない場合には時効の進行が認められる可能性があるため、遺言無効の主張と並行して遺留分侵害額請求権の時効にも注意する必要があります。

Q2.相続放棄した人にも遺留分侵害額請求権の時効はあるの?

相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったものとみなされます。そのため、相続放棄した相続人には遺留分侵害額請求権がありません。

そして、遺留分侵害額請求権の1年の消滅時効や10年の除斥期間が問題となるのは、遺留分侵害額請求権を有している人です。相続放棄をした人はそもそも遺留分侵害額請求権を有しないため、時効の問題は生じません。

なお、遺留分の放棄と相続放棄は異なります。遺留分の放棄をした場合でも相続人としての地位は失いませんが、相続放棄をした場合には相続人としての地位自体を失うことになります。混同しやすいため注意しましょう。

Q3.時効完成後に時効を主張しない選択肢はある?

消滅時効は、時効期間が経過しただけで当然に効力が生じるものではなく、時効の利益を受ける人が時効を援用することで初めて効力が生じます。そのため、時効が完成していても、あえて時効を援用せず請求に応じることは可能です。

また、時効完成後であれば時効の利益を放棄することもできます。支払義務を認めたり、支払うことを約束したりした場合には、時効の利益を放棄したと評価される可能性があります。そのほかにも、一度時効完成後に債務を承認した場合には、その後の時効援用が信義則上認められないことがあります。

そのため、時効完成後に相手方とやり取りをする際には慎重な対応が必要です。

Q4.弁護士に依頼するメリットは?

弁護士に依頼すれば、必要な手続きを確認できるだけでなく内容証明郵便の作成、相手方との交渉、調停や訴訟への対応まで一貫してサポートを受けることができます。

特に、遺留分や時効期間の判断などは法的な知識が求められるため、正確に判断するには弁護士の知識が必要でしょう。対象となる財産が大きいほど判断を誤った時の損害も大きくなるため、自分で判断せずに弁護士に相談するのがおすすめです。

時効は一度完成すると取り返しがつかないこともあるため、不安がある場合には早めに相談することをおすすめします。

Q5.時効に関する相談はいつまでにするべき?

できるだけ早い段階で相談することをおすすめします。

遺留分侵害額請求権には、遺留分侵害の事実を知った時から1年の消滅時効と、相続開始から10年の除斥期間があります。また、時効が完成していると思っていても、完成猶予や更新事由の有無によって結論が変わることもあります。

時効は経過した時間をあとから取り戻すことができません。少しでも時効が気になる場合には、相続が発生した段階や請求を受けた段階で弁護士へ相談することをおすすめします。

まとめ

このページでは、遺留分侵害額請求と時効の関係についてまとめました。
1年と短い時効期間があるものなので、請求をする際には早めの行動を心がけましょう。
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