
- 債権とは
- 相続の対象となる債権
- 相続した債権の取り扱い
【Cross Talk 】債権の相続って注意が必要ですか?
先日個人事業主である父が亡くなりました。売掛金や銀行預金などの扱いはどのようになるのでしょうか。
債権の相続として確認をしましょう。
債権とは、特定の人が特定の人に対して特定の行為を請求することができる権利をいいます。この債権も相続の対象となります。 ただ、年金受給権のように相続の対象にならない債権もあります。 相続された遺産は相続人の共有になるのですが、債権についての取り扱いはどのようになるのか、またその中でも預金債権についての取り扱いは少し違うという点も含めて確認をしましょう。
債権とは?

- 債権とはどのようなものか
先ほどから債権という言葉を使っていますが、その意味を教えてもらっていいですか?
債権とは、ざっくりいうと、人に対する請求権のことをいいます。金銭債権だったらお金を払ってください、と請求する権利のことです。
そもそも「債権」とはどのようなものかを確認しましょう。 債権とは特定の人が特定の人に対して特定の行為を請求することができる権利をいいます。本件の相談者の場合は、売掛金(請求権)は債務者にお金を払ってくださいとという債権であり、銀行預金(払戻請求権)は銀行に預けているお金を返してくださいという債権となります。
相続の対象となる債権・対象にならない債権

- 相続の対象となる債権・ならない債権
では、相続の対象となる債権はどのような債権なのでしょうか。
基本的には相続の対象になるのですが、一身専属権は相続の対象になりません。一身専属権とはどのようなものかを確認しましょう。
債権も原則として相続の対象になるのですが、一身専属権については相続の対象になりません。 一身専属権とは、個人の人格や才能、法的地位と密接不可分であるため、他人による権利行使が不適切とされる権利のことをいいます。 典型的なものが年金受給権や生活保護の受給権です。年金受給権は、被保険者の生活保障のために支払われるものなので、被保険者以外が受け取ることを想定しない、一身専属権になります。 生活保障受給権もその方の生活を保護するために支給されるものであるため、一身専属権とされています。
そのため、被相続人が年金を受け取っていたり生活保護を受給していたりしても、相続人は年金受給権や生活保護受給権を相続することはできません。一身専属権以外の債権は通常の財産と一緒に相続をすることになります。
債権を相続したらどうなるか

- 相続をしたら財産は共有となる
- 債権は法定相続分で分割して取得されるという取り扱いになる
- 預金債権については遺産分割が必要になる
債権を相続したらどうなるのでしょうか?
相続財産については各相続人の共有となる規定があるのですが、判例上、債権については法定相続分で相続されます。ただ、預金についてはすこし扱いが違うので確認しましょう。
債権を相続した場合の取り扱いについて確認しましょう。
相続の効果は共有
相続人が複数いる場合、相続財産については、共有となる旨が規定されています(民法898条)。 たとえば遺産に自宅がある場合、相続人が3人いるならば、不動産は相続の直後は3人が共有しているとされています。その後遺産分割協議をすることによって、誰の所有にするかを決めます(そのまま共有とすることもできます)。可分債権と不可分債権について
相続財産のうち、債権は、可分債権と不可分債権に分類することができます。 可分債権とは、権利の性質上分割することができる債権をいいます。可分債権の代表的な例は、貸金債権、売掛金などの金銭の支払いを目的とする債権です。 これに対し、債権の目的が権利の性質上分割することができないものを不可分債権といいます。 例えば、数人で共同して土地を購入した場合にその土地を明け渡すよう請求する権利は分割することができないので、不可分債権にあたります。可分債権は法定相続分で分割される
債権の中でも金銭債権のように分割して請求できる債権のことを可分債権と呼んでいます。 本件の相談者の場合、売掛金は相続人が各々分割して請求できる金銭債権ですので、可分債権ということになります。可分債権については、共同相続人が相続分に応じて分割して承継するもの、と最高裁が判決を出しています(最高裁判決昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)。この判決によって、遺産分割をしなくても、自分が分割して相続した分については、単独で請求することが可能です。ただ、金銭債権は分けやすいという特徴を持っていることもあり、分けづらい不動産を共同相続したような場合に、調整のために利用しやすいものでもあります。そのため、遺産分割の対象とすることもできます。
預金債権について
注意が必要なのは、金銭債権の中でも、預金債権については、最高裁は取り扱いを異にしています(ゆうちょ銀行などの預貯金についても同様です)。 最判平成17年8月31日ウエストローなど、従来は預金債権も他の金銭債権と同様に、分割して承継され遺産分割の対象にならないとしていました。しかし、最決平成28年12月19日民集 70巻8号2121頁では、預金債権は、その性質が現金と大きく異ならず、相続によって相続分に応じて当然に分割されて承継されるものではないという判断がされ、預金口座から引き出すためには遺産分割協議が必要であるという判断をしました。一番身近な生活のための資金である預金債権について、引き出すためには遺産分割協議が必要であることから、たとえば葬儀のためのお金や、配偶者が長男の家や近くに引っ越すなどでお金がかかるような場合でも、すぐに引き出せなくなるという事態になりました。このような不具合に応じるために、預金についての仮払いという制度が新たに新設され、生活に必要なお金などは引き出すことができる形となっています(民法2019年7月1日より施行)。
債権には時効がある点を理解しておこう

- 債権は時効の完成によって消滅する
- 権利を行使することができる時から10年間または権利を行使することができることを知った時から5年の経過で時効が完成する
- 相続財産については時効完成の猶予がある
債権を相続した場合に何か気を付けることはありますか。
債権には時効があり、一定期間の経過によって消滅することに注意が必要です。
債権には消滅時効があり、一定期間の経過によって権利行使できなくなることに注意が必要です。
具体的には、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間権利を行使しないとき、または権利を行使することができる時から10年間権利を行使しないとき、債権は時効によって消滅するとされています。
前者を主観的起算点、後者を客観的起算点といいます。両者の違いは、債権者が権利を行使することができることを認識する必要があるかないかという点です。
債権者が死亡して相続が開始した場合、一身専属権以外の債権も相続の対象となるので、相続人が債権者になります。
もっとも、この場合、「債権者が権利を行使することができることを知った時」とは、元々の債権者である被相続人が権利を行使することができることを知った時であり、相続人が債権を相続することによって権利を行使することができることを知った時ではありません。
そのため、被相続人が亡くなって、相続人間で協議がまとまらないうちに時効が完成し、債権が消滅してしまう可能性があります。
そうした不具合に対処するため、民法は、相続財産に関しては、相続人が確定した時から6ケ月を経過するまでの間は、時効は完成しないと定めています。
なお、この規定は、相続開始後に時効が完成しそうな場合にのみ適用があるので、相続開始前に時効が完成している場合には、猶予はされないので注意しましょう。
まとめ
このページでは、債権の相続についてお伝えしてきました。人に対する請求権である債権も、一身専属権を除いては相続の対象となります。原則として債権は法定相続分に従った分割承継をされるので、遺産分割協議を利用しなくても請求できるのですが、預金債権は遺産分割協議が必要という、ややこしい状態になっています。不明点がありましたら、弁護士に相談して遺産分割協議などを円滑に行うようにするのが良いでしょう。


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