- 遺言がある場合には相続に関する規定に優先する
- 相続人・受遺者全員が合意をしていれば遺言の内容と異なる遺産分割も可能
- 遺言執行者がいる場合の遺言の内容と異なる遺産分割協議
【Cross Talk】相続人全員が納得いかない遺言書が出てきたけど、これは絶対に守らないとだめ?
先日父が亡くなりました。相続人は母と長男の私、長女の3人です。父の遺品を整理していたところ遺言書が見つかり、預貯金と住宅は私と母で半分ずつ、父が実家から引き継いだ田舎の山林を長女に、という内容でした。
ある程度妹に配慮したつもりだと思うのですが、妹としては価値のない山林のみを相続させられてお金を相続できないという状態で、私と母もさすがにこれはないんじゃないかなと思っているのですが、この遺言書に従わなければならないものでしょうか。
全員で合意して遺産分割協議をすればそちら通りにできますよ。
お伺いしておいてよかったです!詳しく教えてください。
民法では、ある人が亡くなった場合の相続について規定をしています。しかし、遺言書の内容が全て相続人にとって望ましいものであるとは限りません。 相続人(及び受遺者がいる場合には受遺者)全員が遺言書とは違う遺産の分配をしたいと思っているときにまで、絶対に遺言書に従わなければならないのは不都合です。 そのため、相続人(及び受遺者)が全員合意できれば、遺言書と異なる遺産分割をすることが可能です。
遺言書があるときの大原則
- 遺言書があるときには民法の相続の規定に優先する
そもそも遺言書がある場合、相続はどのように進むのでしょうか。相続人とか相続分とかは関係あるのでしょうか?
相続分などの民法の規定はありますが、遺言がある場合には遺言が優先します。まずは遺言がある場合の相続の大原則を確認しましょう。
まず、遺言書があるときの相続の処理の大原則について確認しましょう
遺言書があるとどうなるのか
ある人が亡くなった際に、その人の相続については民法に規定があります。 しかし、遺言書がある場合には、その遺言書は相続に関する民法の規定に基づく法定相続分での分割より優先されます。 例えば、遺産として預貯金500万円・不動産(価値1,000万円)のある方が亡くなり、相続人が妻・子ども1人だけである場合について見てみましょう。遺言書なしに亡くなった場合は、全ての財産が共有となり、その持分割合はそれぞれ1/2になります。 妻と子どもはこの割合を参考に遺産分割協議をおこないます。 一方で、「不動産は妻に、現金は子どもに」という遺言書があった場合には不動産の所有権が妻に、預貯金は子どもが取得します。
遺言書に遺産の全部を記載しているならば遺産分割協議は不要
遺言書の中に遺産の全部を記載している場合は、他に分割するものがないので、遺産分割協議は不要です。人の財産の全てを遺産に記載するのは難しいのですが、「その他の財産」という項目を設けることで遺産の全てをカバーする遺言書を作成することがほとんどです。
一部の遺産のみについて遺言書が書かれているのであれば残った部分についての遺産分割協議をする
一部の遺産のみについて遺言書が書かれているのであれば残った部分についての遺産分割協議遺産のうち「不動産の所有権を妻に決めたかった」「会社の持分である株券だけは後継ぎの長男に」という一部の遺産についてのみ遺言書で記載する場合もあります。 この場合には残った遺産について遺産分割協議が必要となります。このときに相続人の一人が遺言書で何かをもらっていた場合には、「特別受益」を受けていたという扱いをしたうえで遺産分割協議をすることになります。特別受益については、「相続の特別受益とその持ち戻しとは?計算方法についても解説」こちらのページで詳しく解説していますので、参考にしてください。
遺言書と異なる遺産分割協議ができる場合
- 相続人・受遺者全員が同意するのであれば遺産分割協議で遺産を分けることができる
- 遺言執行者がいる場合には遺言執行者にも同意をしてもらう
遺言書はあるが、遺言書の内容の分割方法に相続人全員が納得していないような場合に、相続人の間で相談し遺産分割してしまうのはだめですか?
遺言書の中で遺贈がされていない場合には、相続人の間で合意できるのであれば遺産分割協議をしてもかまいません。受遺者や遺言執行者がいる場合にはそれらの人の同意も得られることが必要です。
遺言書の内容に納得がいかない場合に、相続人が遺産分割協議をして遺言書の内容とは違う方法で遺産を分けることはできるのでしょうか。
相続人・受遺者全員が納得いかないような遺言書でも従わなければならない?
遺言書の中には相続人の一部が納得いかないものや、第三者に遺贈される場合のように相続人全員が納得いかないような場合もあります。しかし、遺言書は遺言者の最終意思表示なので最大限尊重されなければなりません。そのため、原則として当事者が納得いかなくても従わなければなりません。相続人・受遺者全員が合意すれば遺言書と異なる内容の遺産分割協議も可能
しかし、相続人全員が遺言書の内容に不満をもっており、かつ相続人全員が別の分割方法に合意をしている場合にまで、この原則の通りにしなければならないとするのは不都合です。そこで、相続人・受遺者全員が、遺言書の内容を知ったうえで、遺言書の内容と異なる遺産分割協議をすることに同意すれば、遺言書の内容とは異なる内容の遺産分割も認められます。ただし、遺言書で相続人以外の第三者に遺贈がされている場合には、受遺者も遺言書の内容と異なる遺産分割協議をすることに合意している必要があります。
特定遺贈の放棄
合意した受遺者については遺贈の放棄をすることになるのですが、遺贈には特定遺贈と包括遺贈の2種類があります。
その中で特定遺贈とは、特定の財産を指定して遺贈することをいいます。
例えば、「不動産をAに遺贈する」としている場合は特定遺贈です。
特定遺贈の放棄については特に期限もなく行うことができ、手続きも相続人に対して遺贈を放棄する旨を伝えれば事足ります。
包括遺贈の放棄
包括遺贈とは、遺産について割合を指定して行う遺贈のことをいいます。 例えば、「遺産のうち1/4をBに遺贈する」としている場合は、包括遺贈です。包括遺贈については民法990条で相続人と同一の権利義務を有するとしていることから、包括遺贈を放棄する場合には相続放棄のように家庭裁判所に申述する必要があります。
遺産分割協議は遺言書の内容を知っている場合でなければならない。
遺言書がある場合に遺産分割協議において相続人全員で合意できれば遺言書と異なる内容の遺産分割も可能です。 ただし、この場合には合意をする相続人や受遺者などが遺言書の内容を知っている場合でなければなりません。遺言書で自分に有利な遺言がされているのを知っている場合には、これと異なる遺産分割を提案されても断ることが可能です。 遺言書の内容を知らなければ、その内容と異なる遺産分割をするかどうかの判断をすることもできないと言え、遺言書の内容を知ったうえで遺言書の内容と異なる遺産分割への合意をする必要があります。
遺言執行者がいる場合には異なる配慮が必要
なお、遺言書を残している際には遺言執行者を指定していることがあります。 遺言執行者は、遺言書の内容に記載されたことを実現する権利と義務があります(民法1012条)。 そのため、相続人全員(受遺者がいる場合には受遺者も)が合意しているからといって、法律上は遺言執行者の義務が免除されるわけではないのです。とはいえ、遺言執行者としても相続人・受遺者が望んでもいない遺言内容を実行することを良しとするわけではありません。そのため、遺言執行者が遺言書とは異なる内容の遺産分割協議を行うことに合意していることを必要とします。
なお、遺言執行者は通常親族や、遺言書を作成した際に依頼をうけた弁護士などが就任することになります。 親族が引き受けたような場合には問題ないのですが、弁護士などの専門家が遺言執行者を引き受けた場合には、報酬が発生します。 一方的に断ることになってしまうので、報酬については全部・一部の支払いをしなければならない場合もありますので、遺言執行者とよく話し合いましょう。
遺言書とは異なる内容の遺産分割協議をするためのポイント
遺言書とは異なる内容の遺産分割協議をするにあたって最大のポイントは、遺言書で利益を受けている人の合意を得られるかによります。遺言によって利益を得ている相続人に対して、ほかの相続人がその内容を改めるようにお願いすることになります。
このような遺言書が残されている場合にはそれなりに理由があることなので、その内容を否定するような言動はそれだけで感情的な対立に発展することにもなりかねません。
どうしてこのような遺言をすることになったのかをきっちり調べ、その遺言書を改める必要性にはどのようなものがあるのかを丁寧に説明して、トラブルになるのを回避しながら遺言書の内容と異なる遺産分割協議ができないかを提案するようにしましょう。
遺言書と異なる遺産分割協議ができない場合
- 受遺者が反対している場合に遺言書と異なる遺産分割協議はできない
- 遺言書で遺産分割を禁止している場合も遺産分割協議はできない
遺産分割ができない場合はあるのでしょうか。
受遺者が合意してくれない場合や、遺言書で遺産分割の禁止をしている場合には遺産分割ができません。
相続人以外の受遺者が合意してくれない
遺言書で相続人以外の人に遺贈をしている場合があります。 このとき遺贈を受けた人としては遺産を受け取ることができるのですが、この権利を相続人のみの合意で一方的になくすことは妥当ではありません。 そのため、遺贈があって受遺者が合意してくれないときには、相続人全員の合意で遺産分割はできず、受遺者が遺贈を放棄する必要があります。遺言書で遺産分割することを禁止されている
遺言書で最大5年間遺産分割を禁止することができます(民法908条)。 遺産分割が禁止されている間はいかに相続人全員が合意していても遺産分割をすることができません。遺言書の内容に納得できない場合の対処方2選
- 遺言書が無効であると主張する
- 遺留分侵害額請求を起こす
遺言書の内容に納得がいかない場合ほかにも対応策ありますか?
遺言書が無効であると主張する・遺留分侵害額請求をする2つの方法を確認しましょう。
遺言無効確認請求訴訟
一つは遺言無効確認を求めて訴訟を起こすことです。 遺言書を作成する際には、遺言書の内容を理解する遺言能力が欠かせません。 遺言書を作成した当時既に重い認知症になっていて、遺言書を作成することができなかったといえるような場合には、この遺言能力を欠いていることがあり、そのような場合に無効となります。 遺言書の効力を主張する人に対して遺言無効を主張し、応じない場合には遺言無効確認の訴えを起こします。遺留分侵害額請求
遺言書が有効で、当事者で遺言書と異なる合意もできない場合には、遺言書の内容に従うこととなります。 しかし、遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害する場合には、遺留分侵害額請求を行うことができます。 これによって、遺留分相当の金銭を取り返すことは可能です。まとめ
このページでは、遺言書の内容とは異なる遺産分割協議をすることができるのかについてお伝えいたしました。 遺言書が最後の意思表示であることから最大限尊重すべきではあるのですが、相続人・受遺者全員が反対しているときにまで強制的に効力が発生するというのはやはり不合理です。 全員の合意をもとに遺言書の内容と異なる遺産分割をすることは可能ですが、きちんと合意をしているか、その合意が後に紛争の元にならないか、弁護士と相談をしたほうが良いといえるでしょう。
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