
- 遺言書があった場合であっても相続人は相続放棄が可能
- 受遺者は遺贈の放棄を行う
- 相続放棄か遺贈の放棄かの見分け方
【Cross Talk 】遺言書があったのですが相続を放棄することはできますか?
先日父が亡くなりました。父は遺言書を作成していたようですが、借金の額がかなりあるので、相続放棄をしてしまいたいと思っています。遺言書がある場合でも相続放棄はできるのでしょうか。
相続人が相続放棄をすることも、遺言書で遺贈を受けた受遺者が遺贈の放棄をすることも可能です。
手続きなど詳しく教えてください。
相続財産に多額の借金があるような場合や、遺産分割争いに巻き込まれたくないような場合は、解決方法の一つとして相続放棄をすることも考えられます。この相続放棄ですが遺言書があった場合でも行うことができます。
遺言書で相続人以外の人に対し、財産の遺贈がされた場合であっても、受遺者は遺贈を放棄することができます。それぞれの手続きについて確認しましょう。
遺言書があった場合でも相続放棄は可能

- 遺言書があった場合でも相続放棄は可能
遺言書があったとしても相続放棄はすることができる、ということで良いのでしょうか。
はい、遺言書があったからといっても相続人であることは変わらないないので、相続放棄をすることは可能です。
遺言書があった場合でも相続放棄は可能
遺言書があった場合でも、相続放棄を禁止する規定はありませんので、相続放棄をすることは可能です。 遺言書があっても相続放棄を検討すべき場合として、相続財産に債務がある場合が考えられます。
遺言書に記載することで、債務を相続人の一人や第三者に承継させることは可能です。しかし、このような記載は、債権者とは関係なしに行われるものであることから、債権者の同意なしにその効力を主張することはできないとされています。
そのため、債権者から債務の支払いを請求された場合には、相続人がその相続分に応じて債務を負担しなければならないのが原則です。そのため、債務を負担したくないのであれば、相続放棄により債務から免れる必要があります。
また、全ての遺産が遺言書の対象となっていない場合、対象となっていない遺産を再度相続人で分割するために話し合いをする必要があります。もし遺産分割を巡る親族間の争いに巻き込まれたくないということであれば、相続放棄をすることで争いに巻き込まれることを回避することができます。
さらに、遺言書の内容が相続割合の指定のみという場合においても、同様に相続争いに巻き込まれたくない、借金は相続したくないという場合に相続放棄をすることも考えられます。
公正証書遺言でも相続放棄は可能
遺言書の効力をより確実にする観点から行われるのが公正証書遺言です。
公正証書遺言で遺言がされると、遺言書の検認が不要などの効力が生じますが、他の遺言書の同様に受遺者が相続放棄ができなくなる、ということは規定されていません。
そのため、公正証書遺言がされた場合でも、相続放棄は可能です。
遺贈がされた場合の相続放棄(遺贈の放棄)

- どのような場合が遺贈なのか
- 遺贈がされた場合には遺贈の放棄ができる
- 遺贈の放棄の方法
父の遺言書には第三者に遺贈をする旨が記載されていたのですが、受遺者の方もそのような遺贈はいらないと困っているようなのですが。
受遺者は遺贈の放棄をすることができます。遺贈の種類によっても異なるので確認しましょう。
遺言書で財産を得た受遺者は受けた遺贈の放棄をすることができるのでしょうか。
遺贈とは?
遺言書によって被相続人の財産を譲り渡すことを「遺贈」といいます。 基本的に相続をする場合、相続人以外の人が遺産を得ることは特別縁故者以外ありませんが、遺言書で相続人以外の第三者に財産を譲り渡すことは可能です。第三者に財産を譲り渡す動機は問いません。孫にも財産を残すために遺贈する場合や、お世話になっていた団体に寄付する意味で遺贈をする場合などもあります。
そして、相続放棄は相続人が相続人ではなくなるための手続きであるので、相続人しか利用することができません。ですが、受遺者は遺贈の放棄として遺言書の内容の効力を生じさせないようにすることが可能です。
遺贈には特定遺贈と包括遺贈の二種類があり、それぞれ遺贈の放棄手続きが違います。それぞれの種類について手続きの方法を確認しましょう。
特定遺贈の放棄
遺贈の方法として、特定の遺産を指定して遺贈する方法のことを「特定遺贈」といいます。
例えば、遺産の中に不動産があるとして、遺言書で「A不動産を甲に遺贈する」とされているような場合です。
このような遺贈については、いつでも放棄をすることができます(民法986条)が、後述する「遺贈の承認」をすると放棄ができなくなります。
また、後述する「包括遺贈」とは異なり、特に期間制限はありません。遺贈の放棄は遺贈義務者(通常は相続人)に対する意思表示をすることで行います(遺言執行者がいる場合には遺言執行者に対して行います)。意思表示をする際のルールに規定はありませんが、多くの場合は内容証明で行います。
包括遺贈の放棄
遺贈をする際に、遺産の全部又は一部を遺産に対する割合を示して遺贈をする方法を「包括遺贈」といいます。
例えば、「遺産のうち1/4を甲に遺贈する」とされているような場合です。 包括遺贈の場合、民法990条で受遺者は相続人と同一の権利義務を有するとされており、そのため相続人と同様、相続放棄の方法で包括遺贈を放棄することとなります。
遺贈の放棄に関する催告
特定遺贈はいつでも放棄することができるとされているので、被相続人が亡くなってから数十年も経過した後に放棄することもできます。
しかし、それでは遺贈された財産の権利関係が、いつまでも確定しない状態が続いてしまいます。そのため、相続人は遺贈を承認するのか放棄するのかを確定してもらうために、受遺者に遺贈の放棄に関する催告をすることができます。
催告は、いつまでに返事をしてください、という書面(通常は内容証明)によって行われ、その期間内に返答がない場合には、遺贈を承認したものとすることとしています。(民法987条)
遺贈の承認・及び放棄の撤回不可
遺贈の承認や放棄を一度行うと、以後撤回をすることはできません。(民法989条)
ただ、遺贈の承認・放棄をする際に詐欺や強迫を受けたような場合には、詐欺や強迫に基づく取消権の行使をすることは認められています。
相続放棄の概要

- 相続放棄の手続きの概要について
相続放棄の手続きの概要について教えてもらっても良いですか。
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述して行います。
相続放棄は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し申述します。具体的には、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、申述書と必要書類(主に戸籍)などを提出(送付)して手続きを行います。
家庭裁判所に申述を行うと、通常、裁判所から申述に関する調査の照会書および回答書が届きます。それに返答をして家庭裁判所が審理し、問題がなければ相続放棄の申述が受理され、相続放棄の手続き完了、となります。 家庭裁判所より相続放棄申述受理通知書が送られてきますので、債権者などから相続債務の返済を求められたような場合は、コピーを取って債権者に送付をします。
手続きは、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に行うのが原則となります。(民法915条)
もし、3ヶ月を過ぎそうな場合には、期間の延長する手続きをとることが可能です。万が一、3ヶ月を超えてから債権者が請求してきたようなやむをえない場合には、例外的に受け付けてもらえることがあります。この場合、やむをえないといえる場合かどうかを審理することとなりますので、この場合は弁護士に相談して行うことが望ましいです。
その他の方法を検討

- 相続放棄をしたい理由によってはその他の方法を検討
相続放棄をする他に何か事態を解決する方法はありますか?
相続放棄をしたい理由によっては他にも何かいい方法があるかもしれないですね。
相続放棄をしたいと考えた理由に遡り、その他に解決をする方法がないのかを確認しましょう。
相続人・受遺者全員で合意をして遺言書とは異なる内容で遺産分割も可能
遺言者が指定した方法の財産の分配ではなく、他の方法で財産を分配したいという意思がある場合があります。
この場合、他の相続人も全員同意している場合には、遺言書の内容と異なる遺産分割協議をすることが可能となっています。
相続土地国庫帰属制度を利用
相続放棄をしたい原因が、不要な土地を相続することが理由なのであれば、相続土地国庫帰属制度の利用も検討しましょう。
相続や遺贈で土地を取得した相続人で、一定の要件を満たす土地については、国に引き取ってもらうことができる制度が、相続土地国庫帰属制度です。
この制度は令和5年(2023年)4月27日から開始されましたが、それ以前に相続した土地も対象になります。
対象の土地の要件は、次の土地でないことが条件です。
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 他人の利用が予定されている土地
- 特定の有害物質によって土壌汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
- 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
- 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
- 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
- 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
相続した土地を手放したいときの「相続土地国庫帰属制度」|政府広報オンライン
(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202303/2.html)
手続きは法務局で行うことになっています。
相続放棄できない場合は、相続した後に持分の放棄をする
3ヶ月の期間が経過したり、既に相続財産の一部を処分して単純承認となってしまったために、相続放棄ができない場合は、相続した後に持分の放棄を検討しましょう。
例えば、共有となっている土地があるような場合、持分を放棄すれば、他の共有者の所有物となります。
不動産の管理や相続争いから免れることができるでしょう。
まとめ
このページでは、遺言書があった場合、遺贈の放棄や相続放棄についてお伝えしました。遺言書があった場合でも相続放棄は可能で、また遺言書で遺産をうけとった受遺者も遺贈の放棄をすることができます。不明点がある場合には、弁護士にご相談してみてください。


- 亡くなった親に借金があるかもしれない
- 親と疎遠のため、財産を相続する気がない
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この記事の監修者

- 第二東京弁護士会
- 亡くなられた方の生きた軌跡である財産を引き継ぐ相続は様々なトラブルの種になり得ます。「私の家は大丈夫。」と思っていた矢先、小さなほころびから大きなモツレになることもあります。そのような重要な場面においてご依頼者様に寄り添い、最善の解決に向け尽力致します。
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