相続分の譲渡とは?どのようにして行うのか
ざっくりポイント
  • 相続分の譲渡の意味
  • 相続分譲渡ができる場合・できない場合
  • 相続分の譲渡方法
目次

【Cross Talk】相続争いに巻き込まれたので相続分を譲渡したい

先日母が亡くなり、子どもである兄2人と私で相続をすることになりました。兄2人が相続について揉めており、遺産分割が進んでいません。揉め事に巻き込まれるのも嫌なので何かいい方法はないかと思って調べていると、相続分の譲渡という制度があるようなのですが、どのような制度か教えてください。

自分の相続分を他人に譲渡する制度で、相続争いには巻き込まれにくくなりますね。詳しくお伝えいたします。

よろしくお願いいたします。

相続分の譲渡について確認しよう

相続人は、法律の規定によって定められた相続分の遺産を得ます。遺産分割前の段階であれば相続分を譲渡することが法律で認められています。

相続分の譲渡と他の制度の違い、相続分の譲渡ができるのはどのような場合か、相続分の譲渡の方法について確認しましょう。

相続分の譲渡とは?

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続分の譲渡とは
  • 似ている言葉との関係

相続分の譲渡とはどのような制度ですか?

自己の相続分を他人に譲渡するものです。

相続分の譲渡とはどのような制度なのでしょうか。

相続分の譲渡の意味

相続分の譲渡とは、文字通り自己の遺産に対する共有持分権(相続分)を譲渡することです。

相続分の譲渡について明確に定めた民法の規定はありませんが、民法905条が相続分の譲渡を前提とした規定であると解釈できることから、相続分の譲渡が認められています。
このような相続分の譲渡は、相談者のように遺産分割のトラブルに巻き込まれたくないような場合や、相続人の数が多すぎるために当事者を整理する、相続人の中で早めに現金が欲しいので他の相続人に有償で譲渡する、といった場合に利用されます。

相続分の譲渡は他の共同相続人に対して行うのみならず、 誰に対しても行うことができます。相続分の譲渡はあくまで当事者間の譲渡にすぎないので、被相続人に債務があった場合、相続分の譲渡をしても、債務からは免れられません。

相続分の譲渡と相続分の放棄との違い

似た概念として相続分の放棄という制度があります。これは、遺産に対する共有持分権を放棄するものであります。

例えば子ども3人で相続した場合には、それぞれ1/3ずつの相続分がありますが、1人が相続分を放棄すれば、残った子ども2人で1/2ずつで相続するものです。
相続分の譲渡は誰かに相続分を譲渡するだけであり、他の相続人の相続分に影響は及ぼさないため、他の相続人に均等に割り振られることになる相続分の放棄とは異なることになります。

なお、相続分の放棄をしても、債務からは免れられません。

相続分の譲渡と相続放棄との違い

相続放棄とは、 家庭裁判所に対して申述を行うことによって、相続人ではなかったものと扱う制度です。

相続分の譲渡をしても、相続人であることに変わりませんが、相続放棄をすると相続人ではなくなるという点で違いがあります。
相続放棄をすれば、相続人でなくなる以上、債務も相続しなくなるという点で大きな違いが現れます。

相続分の譲渡を利用するメリット・デメリット

相続分の譲渡を利用するメリット・デメリットは次の通りです。

相続分の譲渡を利用するメリット

相続分の譲渡を利用するメリットとしては、
・早期に相続問題から離脱することができる
・多少は遺産をもらうことができる
という2点が挙げられます。
遺産をもらうためには、遺産分割でどの遺産を誰に配分するかを決めてから遺産を受け取ることになります。
しかし、遺産分割は共同相続人全員が合意しなければならず、合意ができずに長引いてしまうことがあり、かつ他の相続人の争いに巻き込まれてしまうことがあります。 相続分の譲渡をすることで、相続争いから早期に離脱することが可能です。 相続争いから早期に離脱するだけであれば相続放棄によっても可能なのですが、相続放棄では何も相続できないのに対して、相続分の譲渡によって対価を得れば、実質的には相続財産を得た場合と同様に利益を得られることになります。

相続分の譲渡を利用するデメリット

相続分の譲渡を利用するデメリットとしては、
・債務があれば負担する
・相続税の申告・納税義務がある
という2点が挙げられます。

相続をすれば、借金などの債務も負担することになります。 相続分の譲渡をして、その当事者が債務の返済をすることを約束したとしても、相続人相互では有効ですが、債権者に対して主張することはできず、 請求を受ければ自分が負担すべき額を支払う義務があります。

また、遺産が相続税の基礎控除額以上あり、 相続税の申告・納税が必要な場合には、たとえ相続分の譲渡をしても相続税の申告・納税をしなければなりません。 相続放棄をすれば、相続人ではなくなるので、債務も負担しませんし、相続税の申告・納税の義務はありません。
そのため、相続放棄に比べると、以上の2点はデメリットであるといえるでしょう。

相続分の譲渡で迷ったときのポイント

相続分の譲渡はあまり用いられるものではありませんので、自分がこれを利用すべきかどうか悩む方も多いでしょう。
一般的に、

・相続争いに巻き込まれたくない
・金銭を早めにほしい
という場合に利用を検討すべきで、
・遺言書があり相続するものが全て決まっている

場合には相続分の譲渡は検討する必要はありません。

遺言書がなく相続をすると、相続人の間で遺産分割協議を行う必要があり、遺産分割協議が調わないと遺産分割調停・遺産分割審判と裁判所での手続きを行うことになります。 このような状態になっていると相続争いはかなり複雑になっていて、解決が困難となっていることも珍しくありません。

相続分の譲渡をすることで、相続争いに巻き込まれなくなります。
相続争いに巻き込まれない方法には、早々に相続放棄をしてしまうことも一つの方法です。
しかし、相続放棄では相続することができなくなってしまい、1円も自分に入らなくなります。
相続分の譲渡を有償ですることで、お金を手にしながら相続争いから逃れることが可能です。
また、相続分の譲渡によって、早めに金銭を取得できることにもなります。

相続分の譲渡をすべき場合

以上のことを総合すると、遺産相続において相続分の譲渡をすべき場合としては、

  • 借金やその他の債務がない・支払いを求められても困る額ではない。
    という状態で、
  • 他の相続人が相続争いをしていて争いから早く免れたいが、相続放棄のように取得できる財産が0では困るので、いくらかでも財産を取得したい。
  • 遺産分割が終わる前に財産を取得したい。
  • いずれかの希望がある場合です。

    相続分の譲渡をすべきではない場合

    逆に相続分の譲渡をすべきではない場合としては、次のような場合が挙げられます。

    • 借金・債務があるために、絶対に相続したくない場合
    • 遺産の中にどうしても他の相続人を説得して取得したいものがある
    • 遺言書があり相続するものが決まっている
    • 相続分を譲渡できる場合かどうかについて

      知っておきたい相続問題のポイント
      • 相続のパターン別に相続分を譲渡できるか

      相続の揉め事になった原因は、遺言書で相続分の指定があったことなのですが、このような場合でも相続分の譲渡はできるのでしょうか。

      はい、可能です。相続にも遺言書の有無など様々なパターンがあるため、順番に見てみましょう。

      相続分の譲渡ができるかどうか、相続のパターンごとに確認しましょう。

      法定相続分

      特に遺言書も何もないような場合には、 相続分を譲渡することは問題ありません。

      指定相続分が決められている場合

      遺言書で相続分の指定がされている場合には、 指定された相続分を譲渡することが可能です。

      遺産分割方法の指定がある場合

      遺言書で 遺産分割の方法を指定する場合があります。 例えば、不動産は長男に、銀行預金は次男に、自動車は長女に、というような形で具体的に取得する遺産を指示する場合があります。

      このような形で具体的な相続の指示がされている場合には、相続分の譲渡はできません。なので、相続放棄や相続手続きをした後に財産そのものを譲渡する、という方法が適切となります。
      もっとも、遺言書で遺産全部について定められていない場合は、遺言書の効力の対象外となるものについては遺産分割をすることになりますので、その部分についての相続分の譲渡は可能です。

      包括遺贈の場合

      相続人が遺言書で相続人以外の第三者に遺産を譲り渡すことを「遺贈」といいます。
      遺贈の方法として、遺産に対する割合を示して遺贈する方法を、「包括遺贈」と呼んでいます。 例えば、「孫に遺産の1/10を与える」というような形での遺贈です。

      遺贈されたものなので「相続分」の譲渡ではないのですが、遺産に対する割合的な権利である点で変わりはないので、譲渡をすることができます。

      特定遺贈の場合

      遺贈でも 「不動産を孫●●に譲る」など、特定の遺産を示して行う遺贈を「特定遺贈」といいます。
      このような形で遺贈を受けた場合には、相続分のような割合的な権利ではないので、譲渡はできません。

      相続分の譲渡をする方法

      知っておきたい相続問題のポイント
      • 相続分の譲渡の方法
      • いつまでに相続分の譲渡を行うべきか

      相続分の譲渡はどのようにして行うのですか?

      相続分を譲渡する契約によって譲渡します。

      相続分の譲渡の方法を確認しましょう。

      相続分譲渡契約をする

      相続分の譲渡については、 相続分譲渡契約を締結して行います。
      この契約にあたって、譲り受ける人から対価をもらうかどうか(有償・無償)は問われません。

      譲渡の範囲は全部でも一部でも良いので、自分の相続分の半分を誰に与えるという形でも良いです。
      譲渡の対象は一人でも、複数人でもかまいません。 譲渡をするにあたって他の相続人の同意を得ることは必要ありません。
      当然ですが、他の共同相続人に相続分を譲渡したことを示すために、 相続分譲渡契約書を作成しておくことは必須です。

      相続分を譲渡できる時期

      相続分を譲渡できるのはいつまででしょうか。
      相続分としての割合的な権利があるのは遺産分割が終わるまで(協議・調停など)です。
      遺産分割が終わると、相続分は遺産に対する具体的な権利(不動産の所有権・銀行預金の請求権など)になるので、譲渡の対象となるのは具体的な権利となり、相続分の譲渡は行えません。

      相続分譲渡証明書

      相続分の譲渡をしたことは、相続の当事者しかわかりません。
      相続分の譲渡を受けて遺産分割協議をしたことが明確にわからない場合、遺産分割協議書を作成して相続登記・銀行口座の名義変更や解約を行おうとしても、応じてもらえない可能性があります。
      相続分の譲渡をしたことを証明するために作成されるのが、相続分譲渡証明書です。

      作成例

      相続分譲渡証明書の例と記載事項について確認しましょう。

      相続分譲渡証明書

      被相続人 東京一郎
      最後の住所地 東京都新宿区⚫⚫1-2-3
      生年月日 昭和⚫⚫年⚫⚫月⚫⚫日
      死亡日 令和⚫年⚫⚫月⚫⚫日
      上記被相続人の相続に関し、相続人新宿太郎は、相続分の全部を相続人横浜二郎(神奈川県横浜市⚫⚫2-3-4)に譲渡しました。
      令和⚫⚫年⚫⚫月⚫⚫日
      相続人 新宿太郎
      住所 東京都新宿区⚫⚫3-4-5

      書面のタイトルについては法律などで定められていませんが、相続分の譲渡の証明に行うので、わかりやすいように「相続分譲渡証明書」とするのが良いでしょう。

      誰の相続かを明確にするために、被相続人の氏名と最後の住所地・生年月日・死亡日を記載します。
      最後の住所地の代わりに最後の本籍地でも構いません。
      証明書の本文としては、誰に譲渡したのかを記載します。氏名と住所で特定できれば問題ないですが、同じ氏名の相続人がいる場合には、その相続人の生年月日や、被相続人との関係(続柄)を記載して明確に識別できるようにしておきましょう。

      相続分譲渡証明書に必要な書類

      相続分譲渡証明書を作成するにあたって必要となる書類は特にありません。
      しかし、被相続人の最後の住所地や本籍地生年月日、譲り渡す相続人の住所地などがわからない場合には、戸籍謄本や住民票を取り寄せて、正確に記載するようにしましょう。

      相続分譲渡通知書

      相続分の譲渡をする当事者間では相続分譲渡証明書を作成しますが、他の相続人には譲渡の事実はわからないことが多いでしょう。
      民法905条1項は相続分の譲渡をしたときに、他の相続人はその価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる旨を規定しています。
      この権利は1ヶ月以内に行使する必要がありますが(民法905条2項)、他の共同相続人はこれを知り得ないため、後にトラブルになる可能性があります。
      そのために相続分の譲渡があった場合には、他の共同相続人に対して「相続分譲渡通知書」を送るようにしましょう。

      相続分譲渡通知書の記載例は次の通りです。

      相続分譲渡通知書

      相続分譲渡通知書
      被相続人 東京一郎
      最後の住所地 東京都新宿区⚫⚫1-2-3
      生年月日 昭和⚫⚫年⚫⚫月⚫⚫日
      死亡日 令和⚫年⚫⚫月⚫⚫日
      譲渡人 新宿太郎(長男)
      住所 東京都新宿区⚫⚫3-4-5
      譲受人 横浜二郎(次男)
      住所 神奈川県横浜市⚫⚫2-3-4
      上記被相続人の相続に関し、相続人新宿太郎は、相続分の全部を相続人横浜二郎に譲渡したことを通知します。
      令和⚫⚫年⚫⚫月⚫⚫日

      内容として相続分譲渡証明書と同じですが、譲渡した人・譲渡を受けた人をきちんと識別できるようにしておきましょう。

      相続分の譲渡をする際の注意点

      知っておきたい相続問題のポイント
      • 相続分の譲渡をする場合の注意点
      • 遺言書がある場合の注意点
      • 債務の支払いが残ることには注意

      相続分の譲渡をする場合の注意点にはどのようなものがありますか?

      債務が残ることが一番の注意点でしょうか、いくつかある注意点と一緒に確認しましょう。

      相続分の譲渡をする場合の注意点は次の通りです。

      相続分の取戻し

      遺産分割前に相続分を相続人以外の第三者に譲り渡したときは、 1ヵ月以内であればかかった費用を支払って相続分を取り戻すことが可能です(民法905条1項・2項)。
      なので、第三者に譲り渡す契約をしても、目的を達成できないこともあるので注意をしましょう。

      相続分の譲渡をしても債務は残る

      もっとも注意が必要なのは、 相続分の譲渡をしても、相続した債務はそのまま残ることです。
      相続分の譲渡をするとプラスの資産を相続する権利を失いますが、一方で、同時に相続する借金などの債務については、法定相続分に従った額を他の相続人と連帯債務という形で負うことになり、これは相続分の譲渡をしても変わりません。

      したがって、 債権者から請求を受けると、支払う義務があるので注意が必要です。 もし債務の負担をしたくないのであれば、相続放棄をすることが一般的です。

      相続分の譲渡をした場合の税金

      相続分の譲渡をした場合に税金がかかる可能性があります。
      まず、相続分の譲渡を無償で行う場合には、贈与となるので、110万円以上の贈与を行うと、贈与税がかかります。
      一方、相続分の譲渡を有償で行う場合には、譲渡所得が発生し、所得税の対象となる可能性があります。
      税金がかかる可能性があることは把握しておくと良いでしょう。

      遺言書がある場合の相続分の譲渡

      遺言書がある場合には、遺言書の内容に沿った相続を行います。 この場合に、相続分の譲渡については3つの状況に分けて検討する必要があります。

      遺言書で全ての財産について相続・遺贈が記載されているとき

      遺言書の中で全ての財産について記載されているときには、その内容に従って相続をすることになります。 そのため、相続分の譲渡はできません。

      遺言書で全ての財産について記載されていないとき

      一方で、遺言書で全ての財産について記載されていない場合には、記載がない財産については遺産分割を行うことになります。 そのため、その分について相続分の譲渡をすることは可能です。

      遺言書で相続分の指定をしている場合

      遺言書の記載方法として、相続分の指定をしている場合があります。 この場合は、指定された相続分について相続分の譲渡をすることが可能です。

      相続放棄との比較をして相続分の譲渡に意味がある場合

      相続関係から離脱したい場合に、相続分の譲渡のほかに相続放棄という方法があります。

      相続放棄と比べて相続分の譲渡をすることに意味がある場合はどのような場合でしょうか。
      相続関係から離脱する方法として相続放棄をすると、相続の最初から相続人ではなかったとみなされることになります(民法939条)。
      そのため、相続人とならないため借金・債務を負うこともありませんが、一切相続人として権利を主張することもできなくなります。

      一方で、相続分の譲渡をした場合には、相続人であるため借金・債務を負うことにはなりますが、相続分の譲渡をする際に対価を得ることで、相続において一定の財産を取得することができます。
      そのため、借金・債務がないような場合、一定の財産を取得したいような場合には、相続放棄よりも相続分の譲渡をすることに意味があるといえます。

      まとめ

      このページでは、相続分の譲渡についてお伝えしてきました。 相続分の譲渡は、相続で揉めたくないような場合や相続が複雑で整理が必要な場合など、限られた場合に利用するものです。譲渡契約書なども必要となるので、弁護士に相談しながら行うことをおすすめします。

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      この記事の監修者

      弁護士 岩壁 美莉第二東京弁護士会 / 東京第二弁護士会 司法修習委員会委員
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