このようなケースでは、亡くなった相続人の相続人が手続きを引き継ぐ「数次相続」という考え方が関わってきます。
本記事では、遺産分割中に相続人が死亡した場合の対応方法や数次相続の基本的な仕組み、注意すべきポイントについて、わかりやすく解説します。

- 遺産分割完了前に相続人が死亡して新たな相続が発生することを「数次相続」という。
- 数次相続が発生した場合、新たに亡くなった人の相続人を含めて遺産分割の手続きを行う必要がある。
- 遺産に不動産があるときは「中間省略登記」を利用することで手続きを簡略化できる。
数次相続とは
数次相続とは、相続手続きが積み重なっている状態をいいます。
2つの相続の場合には二次相続、3つの相続の場合には三次相続といい、これらをまとめて数次相続と呼んでいます。
以下では、二次相続・三次相続の具体的なケースや、数次相続と混同されがちな代襲相続との違いについて見ていきましょう。
二次相続
二次相続とは、相続手続が2つ積み重なっている状態です。例えば、親が亡くなって、その相続手続きが終わらないうちに、相続人である子どもが亡くなったような場合が代表例です。
三次相続
三次相続とは、相続手続きが3つ積み重なっている状態です。例えば、親が亡くなった際に相続人として兄弟が3人居た場合に、相続手続きの途中で一番上の兄が子どものいない状態で亡くなり、その相続人になるその弟が亡くなってしまった場合には、親・兄・弟の3つの相続手続きが積み重なることになります。
数次相続と代襲相続の違い
数次相続と混同しやすい言葉として「代襲相続」があります。代襲相続とは、本来相続人となるべき方が先に亡くなっている場合などに、その方の子どもがその相続人の分を代わって相続することです。
例えば、被相続人である母親が亡くなる前に兄が亡くなっていた場合、兄の子が兄の分を相続することとなります。
数次相続に対し、代襲相続は被相続人と相続人の亡くなる時系列が逆である点に注意しましょう。
相続人が遺産分割前・中に亡くなった場合はどうなる?
遺産分割が完了する前に相続人が亡くなった場合、数次相続が発生することがわかりました。 では、数次相続が発生した場合、具体的にどのように遺産分割を行うのでしょうか。 以下では、数次相続のケースごとに詳しく解説します。
親が死亡した後にその相続人である子どもが死亡した場合
まず、母親であるAが死亡して兄弟であるB、C、Dの3人が相続人となったが、その直後にBが死亡した場合を考えてみましょう。
死亡したBには、妻Eと息子Fがいることとします。
このケースにおいて、Bは遺産分割を受ける前に亡くなってしまいましたが、本来はAが残した遺産のうち1/3を相続する権利を有していました。 もしBが死亡せず母親の遺産を相続していれば、将来Bが死亡したときに妻や子であるEやFがその遺産を受け取ることができたかもしれません。 そのため、このような場合はAについての遺産分割はCとDだけでなく、EとFも含めて進めなければいけないとされています。
子どもが死亡した後にその相続人である親が死亡した場合
次に、上の例でBに息子Fがおらず、かつBがAより先に死亡した場合を考えてみましょう。この場合、通常は母親であるAと妻であるEが相続人となりますが、Bの遺産分割前にAが死亡してしまったとき、Bの遺産はどうなるのでしょうか。
本来、死亡したBの兄弟であるCとDがBの遺産を相続する権利はありません。ところが、CとDはAの子どもとして遺産を相続する権利があるので、もしAがBの遺産を相続した後に死亡したとしたら、CとDは間接的にBの遺産を受け取ることができたはずです。そのため、このような場合には死亡したBの妻であるEだけでなく、CとDも含めて遺産分割の手続きを進める必要があります。
死亡した相続人に兄弟姉妹しかいない場合
死亡した相続人に子どもがおらず、兄弟姉妹しかいない場合もあるでしょう。 同じようにB・C・Dが相続人で、Aが亡くなり、直後にBが亡くなった場合で、Bには子どもがおらず、親・直系尊属もいないので、相続人は兄弟姉妹であるC・Dになります。 この場合、C・Dは、Aの分の相続についてBの分も含めてC・Dで遺産分割しつつ、亡くなったBの遺産について別途C・Dで遺産分割することになります。 なお、兄弟が相続人になる場合については「兄弟が相続人になる場合とは?相続分・遺留分とともに解説」でも詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。遺産分割協議成立後に死亡した場合
遺産分割協議が成立した後に相続人が死亡した場合は、数次相続は発生しません。 通常通り亡くなった方の相続手続きを行いましょう。 なお、遺産分割協議後に相続人が亡くなったケースについては、「遺産分割協議成立後に相続人の一人が死亡した場合はどうなるの?」で詳しく解説しているので、合わせて参考にしてください。相続人が遺産分割前・中に亡くなった場合の相続割合
数次相続が発生すると、状況によっては相続人の人数が増えるため、「自分の相続分が減ってしまうのでは?」と不安になる方もいるでしょう。 しかし、結論からいうと、数次相続によってもともと相続だった人の相続割合が減少することはありません。
例えば、母親であるAが死亡して兄弟であるB、C、Dの3人が相続人となったが、その直後にBが死亡し、Bには妻Eと息子Fがいる場合を考えてみましょう。
この場合、CとDの取り分は変わらず、本来Bが相続するはずだった遺産をBの相続人であるEとFで分けることになります。
民法に従えば、B、C、DはAの遺産をそれぞれ1/3ずつ相続するため、CとDの相続割合は1/3のままです。そして、Bが相続するはずだった1/3をEとFで半分ずつ分け、Eが1/6、Fが1/6を相続することになります。
このように、数次相続によって新たに相続人となった人が相続するのは「本来亡くならなければ相続人となるはずだった人が相続する分」のみです。 つまり、数次相続が発生する前から相続だった人の相続分には影響することはありません。
相続人が遺産分割前に亡くなった場合の遺産分割協議の進め方
遺産分割協議中に相続人が亡くなり、数次相続が発生した場合は、新たに相続人となった人を含めて遺産分割協議を行わなければなりません。 数次相続が発生した場合でも遺産分割協議は相続人全員で行う必要があり、相続人が1人でも遺産分割協議に参加していないとその遺産分割協議書は無効となるため注意しましょう。
もう一度、母親であるAが死亡して兄弟であるB、C、Dの3人が相続人となり、遺産分割前にBが死亡した場合を元に説明します。この場合、Bの妻Eや子どもFが二次相続に関与するので、C、D、E、Fの4人が遺産分割協議に参加しなければなりません。
そして、遺産分割協議書には相続に関与した方の本籍、住所、肩書、氏名、生年月日等を記載し、全員が署名・捺印する必要があります。 なお、数次相続が発生した際に悩むことが多いのが、肩書の記載方法です。 上の場合では、Aの肩書は「被相続人」、CやDの肩書は「相続人」となります。 他界したBは、一次相続の相続人であると同時に、二次相続の被相続人となるため、Bの肩書は「相続人兼被相続人」で問題ありません。 また、EとFは二次相続の被相続人Bの相続人ですので、肩書は「B相続人」となります。
遺産分割協議中に相続人が亡くなった場合の相続税控除
遺産が相続税の基礎控除額を超えるような場合には、相続税の申告・納税をする必要があります。 しかし、数次相続のように相続が積み重なると、その分納税する金額も増えるので、資金をつくるのが大変です。 そのため、数次相続については相次相続控除という控除の制度を設けて、納税を少し楽にしています。 相次相続控除を受けるためには、以下3つの要件を満たさなければなりません。
・相続開始前10年以内に開始した相続により被相続人が遺産を取得していること
・相続開始前10年以内に開始した相続により取得した遺産について、被相続人に対し相続税が課税されたこと
A:今回の被相続人が前の相続の際に課せられた相続税額
B:今回の被相続人が前の相続の際に取得した純資産価額
C:今回の相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって遺産を取得した全ての方の純資産価額の合計額
D:今回のその相続人の純資産価額
E:前の相続から今回の相続までの期間(1年未満は切り捨て)
相続人が遺産分割中に亡くなった場合の相続登記の方法
遺産に不動産が含まれる場合、法務局で相続登記の手続きが必要です。
そして、相続登記の性質を考えると、数次相続が発生した場合も「被相続人A→Aの相続人となるはずだった被相続人B→数次相続によって相続人となったC」のように順を追って複数回の相続登記をしなければならないようにも思えます。
しかし、数次相続が発生した場合については、「中間省略登記」という手続きを利用することが可能です。
これにより、一度の手続きによって相続登記を行うことができます。
中間者が相続登記をしなくて良い場合
数次相続が発生した場合の中間省略登記は、誰でも利用できるわけではありません。
以下のような要件が設けられているため注意しましょう。
・中間の相続人が数人であったが、遺産分割によりその中の1人が相続した場合
・中間の相続人が数人であったが、相続の放棄によりその中の1人が相続した場合
・中間の相続人が数人であったが、その相続人の中の1人以外の相続人が相続分を超える特別受益者であった場合
例えば、A→B→Cへと相続が行われた場合には、中間の相続人はBのみですので、AからCへの中間省略登記が可能です。
中間者が相続登記してからでないと最終の相続登記ができない場合
中間省略登記の条件を満たさない場合、相続が行われた順番で相続登記の手続きを行う必要があります。
例えば、A・B・Cは三兄弟で、不動産の所有者であるAが死亡し、兄弟であるBとCが遺産分割協議を行っていたが、その途中でBが死亡し、Bが相続するはずだったAの遺産の1/2をBの妻であるDが相続することになったとします。 この場合は「中間の相続人」がBとCの2人になりますので、AからB、BからDという2つの登記手続きを経る必要があります。
最終の相続人が1人の場合
最終の相続人が一人である場合、基本的には中間省略登記は認められません。しかし、過去には一次相続の遺産分割協議が成立していれば中間省略登記は認められるという通達が発せられています。
なお、この場合は二次相続をする方の印鑑証明書の添付が必要です。
さいごに|数次相続が発生したら弁護士に相談を
本記事では、遺産分割協議中に相続人が死亡した場合の数次相続について解説しました。 不幸が続いたときに、ただでさえ精神的負担が大きい中で、手続きの負担が生じるには大変なことです。 そのため、数次相続が発生した場合はできるだけ早く弁護士に相談し、適切かつ確実に手続きを進めるようにしましょう。


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