
- 嫁に行った娘も遺産を相続する権利がある
- 嫁に行った娘が遺産を相続したくない場合は、相続放棄を検討する
- 嫁に行った娘も相続人なので、相続分や遺留分の侵害に注意
【Cross Talk 】嫁に行った娘にも遺産を相続する権利があるの?
嫁に行った娘は、長年実家を無視して勝手なことをしてきました。嫁に行った娘でも、遺産を相続する権利があるのでしょうか?
嫁に行った娘も被相続人の子どもである以上は、遺産を相続する権利があります。嫁に行った娘に遺産を相続させたくないとしても、相続分や遺留分を侵害しないように注意しましょう。
嫁に行った娘にも遺産を相続する権利があるんですね。嫁に行った娘がいる場合の、遺産相続の注意点を教えてください!
被相続人が亡くなると遺産相続が発生しますが、被相続人の子どもは第一順位の相続人になります。 嫁に行った娘も被相続人の子どもにあたるので、遺産を相続する権利がありますが、他の相続人との関係でトラブルになる場合もあるのです。 そこで今回は、嫁に行った娘がいる場合の相続について、知っておくべきことや注意点を解説いたします。
嫁に行った娘にも遺産相続する権利がある

- 嫁に行った娘も遺産を相続する権利がある
- 嫁に行った娘を除いて遺産分割をしても無効である
嫁に行った娘と仲が悪いので、遺産を相続させたくありません。嫁に行った娘抜きで遺産分割をすることはできますか?
嫁に行った娘も被相続人の子どもであることは変わらないので、相続権を有します。嫁に行った娘を除いて遺産分割協議をしても、無効になるので注意しましょう。
嫁に行っても子どもである以上相続人である
嫁に行った娘であっても、被相続人の子どもである以上は、相続人に該当します。
誰が相続人になるかは順位が決まっており、被相続人の子どもは第一順位の相続人なので、被相続人の父母や兄弟姉妹よりも優先して相続人になります。
嫁に行った娘であっても、被相続人の子どもであることは変わらないので、第一順位の相続人です。
例えば、被相続人が亡くなって配偶者・長女・嫁に行った次女がいる場合、配偶者や長女とともに、嫁に行った娘である次女も相続人になります。
子どもである以上相続人として遺留分を有する
民法が定める相続人を法定相続人といいますが、一定の法定相続人には、遺産に対する最低限の取り分として遺留分が認められます。
遺留分を侵害された場合は、遺留分を侵害した相手に対して、遺留分に相当する金銭を支払うことを請求でき、これを遺留分侵害額請求権といいます。
被相続人の子どもには遺留分が認められますが、嫁に行った娘も子どもであることは変わらないので、同じく遺留分が認められるのです。
嫁に行った娘を除いて遺産分割をしても効力を生じない
嫁に行った娘を除いて遺産分割をしてしまうと、遺産分割の効力が認められないので注意しましょう。 遺言書がない場合は、相続人が遺産分割協議をして、遺産をどのように分割するかを決めなければなりません。 遺産分割協議を成立させるには相続人全員の同意が必要ですが、嫁に行った娘も相続人なので、嫁に行った娘の同意も必要です。 嫁に行ったからといって、娘を除いて遺産分割協議をしてしまうと、遺産分割の効力が認められないので注意しましょう。
嫁に行った娘に相続権がないと誤解される理由

- 明治民法が定めていた戸主、家督相続の名残り
- 現行民法でも夫婦は一つの戸籍で同じ姓を名乗ることになっている
嫁に行った娘には相続権がないと誤解している人が少なくないのはなぜでしょうか?
明治民法が家督相続を定めていた影響が大きいと考えられます。また、現行民法でも夫婦は一つの戸籍で同じ姓を名乗ることになっていますが、多くの夫婦が夫の姓を名乗っていることも原因の一つと言えるでしょう
嫁に行った娘には相続権がないと誤解している方は少なくありません。
そのような誤解が生じる理由としては、明治に制定され、戦後に改正されるまで施行されていたかつての民法(明治民法)の影響が大きいと考えられます。
明治民法には、「家制度」と言われる制度がありました。これは、一定の範囲の親族関係のある方を一つの家に帰属させ、戸主(家長)に家族を統率する権限を与えるというものです。
戸主が死亡した場合、戸主の財産だけでなく戸主としての身分が、一人の相続人に相続されることになっていました。これを家督相続といいます。
明治民法には家督相続人になる方の範囲や順位についての規定があり、家督相続人は被相続人の家族(戸主と同じ戸籍に記載されている方)である直系卑属(子、孫等)に限られており、子どもが複数いる場合には男子優先、年長者優先などのルールがありました。
そのため、結果として戸主の長男(養子を含む)が家督相続人になることが圧倒的に多かったのです。
嫁に行った娘は、夫側の家族(夫側の戸籍に記載されている方)にはなりますが、戸主の直系卑属ではないので、嫁いだ先の家督相続人になることはありません。また、実家の戸籍からは抜けているので、実家の家督相続人になることもありません。
つまり、嫁に行った娘は、嫁いだ先についても実家についても家督相続は認められなかったのです。
この明治民法は、第二次世界大戦後、家制度を廃止し、男女の平等を前提とする民法改正が行われるまでの間、長期間にわたって施行されていました。
そのため、「嫁に行った娘は相続できない」ということが、国民の間に広く印象付けられることになったのです。この印象の名残りが、現在も嫁に行った娘は相続できないと誤解される大きな理由であると考えられます。
また、戦後に改正された民法下でも、夫婦は結婚によって一つの戸籍に入り、夫または妻の氏を称するとされており、夫婦同姓が義務付けられています。
どちらの氏を称するかは結婚をする際に当事者が自由に選択することができますが、上記の家制度の名残りなのか、現在でも多くの夫婦が夫の氏を選択しています。
そのため、家制度が廃止された現在でも、嫁に行った娘は夫側の家の人間という意識を持たれることがあるのです。このことも嫁に行った娘に相続権はないと誤解される理由の一つと言えるでしょう。
嫁に行った娘側として知っておくべきこと

- 嫁に行った娘が遺産を相続したくない場合は、相続放棄を検討する
- 遺産分割で他の相続人と揉めた場合は、遺産分割調停をする方法がある
私は嫁に行った娘なのですが、他の相続人と折り合い悪いので、遺産相続によって面倒に巻き込まれないか不安です。
何らかの理由で遺産を相続したくない場合は、相続放棄を検討しましょう。遺産を相続すると決めて、他の相続人と揉めた場合は、遺産分割調停をする方法もありますよ。
実印・印鑑証明を要求されても応じない
遺産分割協議書を作成する場合、他の相続人から実印や印鑑証明を要求される可能性がありますが、納得がいかない場合は、要求されても応じないことが重要です。遺産分割協議書とは、遺産をどのように分割するかについて、相続人が話し合いをして決める遺産分割協議において作成されることがある書類です。
遺産分割協議書は、遺産分割協議において取り決めをした内容を記載する書類であり、実印や印鑑証明を用意するのが一般的です。ただし、遺産分割協議が成立するには相続人全員の同意が必要であり、同意するかどうかは各相続人の自由意思に委ねられています。
嫁に行った娘として、協議の内容に納得がいかない場合は、実印や印鑑証明を要求されても応じる必要はありません。
関連記事:実印、銀行印、シャチハタ、三文判…相続で使えるハンコ(印鑑)は?
相続人になりたくない場合には相続放棄をすることも可能
何らかの理由で、嫁に行った娘が遺産を相続したくない場合は、相続放棄をすることも可能です。
相続放棄をした相続人は、相続人ではなかったと扱われるので、遺産を相続しません。 実家と疎遠で関わりたくない場合や、遺産相続について他の相続人と揉めたくない場合など、何らかの理由で相続人になりたくない場合は、相続放棄を検討するのも一つの方法です。
ただし、相続放棄をした場合は、借金などのマイナスの財産だけでなく、預貯金や不動産などのプラスの財産も相続できなくなります。
どうしても遺産を譲り渡さないと主張する場合には早めに調停を
他の相続人が遺産を渡さないと主張して譲らない場合は、早めに遺産分割調停を検討することをおすすめします。
遺産分割調停とは、遺産分割協議が成立しない場合に家庭裁判所に申立てをして、調停委員という第三者を交えて当事者が話し合いをする手続きです。 調停においては、中立的な立場である調停委員が当事者双方の言い分を聞いて、必要に応じて調整をしたり、解決策を提案したりして、円満な遺産分割ができることを目指します。
当事者全員が調停案に同意する場合は調停が成立し、同意した内容に基づいて遺産分割を行います。
関連記事:遺産分割調停の必要書類について解説
嫁に行った娘になるべく遺産を譲り渡したくない場合の対応方法

- 嫁に行った娘も相続人なので、相続分や遺留分の侵害に注意
- 被相続人の生前に相続放棄をさせることはできない
長年実家をほったらかしにして嫁に行った娘に遺産を相続させたくないので、相続放棄などを検討しています。何か注意点があれば教えてください。
嫁に行った娘も相続人である以上は、相続分や遺留分の侵害に注意しましょう。なお、被相続人の生前に相続放棄をさせることはできません。
子どもである以上相続分・遺留分がある
嫁に行った娘も相続人である以上は、相続分と遺留分が認められます。 嫁に行った娘にも相続分があるため、遺産を渡したくないからといって、娘抜きで遺産分割協議をしてしまうと、協議は無効です。 また、嫁に行った娘の遺留分を侵害した場合は、娘から遺留分侵害額請求をされてしまう可能性があります。 嫁に行った娘に遺産を渡したくないとしても、相続分と遺留分については慎重に検討する必要があるのです。
生前に相続放棄をさせることはできない
嫁に行った娘に遺産を相続させたくない場合、相続放棄をさせることを考えるかもしれません。
相続人が相続放棄をした場合、最初から相続人ではなかったと法的に扱われるので、もし嫁に行った娘が相続放棄をすれば、遺産を相続しません。 しかし、被相続人の生前に相続放棄をさせることはできません。
相続放棄をするには家庭裁判所での手続きが必要ですが、生前の相続放棄は受け付けていないからです。 相続放棄ができるのは、被相続人が亡くなって相続が開始してからなので注意しましょう。
遺留分の放棄をしてもらう場合
嫁に行った娘に遺留分を請求されないようにするために、遺留分を放棄してもらう方法があります。 遺留分を放棄した相続人は、遺留分を侵害されたとしても遺留分を請求できなくなるからです。
被相続人の生前に相続放棄をすることはできませんが、遺留分の放棄は生前であっても可能です。
ただし、被相続人の生前に遺留分の放棄をするには、家庭裁判所に申立てをして、許可を得る必要があります。 被相続人の死後に遺留分を放棄する場合は、家庭裁判所の許可は不要です。
まとめ
嫁に行った娘であっても、被相続人の子どもであることは同じなので、第一順位の相続人として遺産を相続する権利があります。 嫁に行った娘の相続分や遺留分を侵害したり、嫁に行った娘を除いて遺産分割をすることなどに注意しましょう。 嫁に行った娘と他の相続人の間で遺産をめぐって争いが生じた場合は、相続問題の経験が豊富な弁護士に相談することをおすすめいたします。


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