生命保険金は原則として遺留分の対象にならないが、例外が2つある
ざっくりポイント
  • 死亡保険金は受取人固有の財産であり、原則として遺留分の対象にならない
  • 例外は「保険金・給付金が被相続人自身の財産になる場合」「著しい不公平がある場合」の2つ
  • 裁判例では遺産総額に対する保険金の比率が重視されるが、比率だけでは決まらない
  • 生命保険は遺留分対策にも使えるが、やり過ぎると持戻しの対象になり得る
目次

Cross Talk 生命保険金は原則として遺留分の対象にならないが、例外が2つある

生命保険金は遺留分の対象に含まれますか。

原則として含まれません。ただし、例外が2つあるので順番に確認していきましょう。

生命保険金は原則として遺留分の対象にならないが、例外が2つある

相続財産はわずかなのに、特定の相続人だけが多額の生命保険金を受け取っていた。このようなとき、保険金も遺留分の対象にできるのか、悩む方もいるでしょう。死亡保険金は原則として遺留分の対象になりませんが、例外的に対象となる場合があります。

この記事では、生命保険金が遺留分の対象とならない理由、例外となる2つのケース、裁判例にみる判断の目安、遺留分額の計算方法、生前対策としての生命保険の使い方と限界まで解説します。

生命保険金と遺留分の関係を整理したい方は、ぜひ参考にしてください。

結論:生命保険金は原則として遺留分の対象にならない

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に保障された遺産の最低限の取り分のこと
  • 死亡保険金は受取人固有の財産であり、原則として遺留分の対象にならない

生命保険金は遺留分の対象に含まれるのでしょうか。

原則として含まれません。まずは、その理由から確認していきましょう。

遺留分とは(民法1042条)

「遺留分」とは、「兄弟姉妹以外の相続人」に認められた、法律上保障された一定割合の相続財産のことを指します。本来、相続財産は被相続人(亡くなった人)の意思に基づいて自由に分配することが可能です。そのため、遺言書によって「特定の相続人に全財産を相続させる」といった指定をすることも認められています。

しかし、被相続人が全ての財産を一部の相続人に渡してしまうと、他の相続人が財産を全く受け取れなくなってしまいます。このような不公平を防ぐために、法律では遺留分という制度によって相続人の最低限の取り分を確保しているのです。

そして、遺留分を侵害された相続人は、「遺留分侵害額請求権」を行使することで、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを請求することができます。

遺留分の割合は民法1042条に定められており、直系尊属のみが相続人である場合は遺留分を算定するための財産の価額の3分の1、それ以外の場合は2分の1です。これに各相続人の法定相続分を掛けたものが、個別の遺留分割合となります。

第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
引用元:民法 | e-Gov法令検索

死亡保険金は受取人固有の財産で相続財産には入らない

生命保険金は、保険契約によって被相続人が亡くなった際に、特定の受取人に直接支払われることになるため、相続財産の一部ではなく遺産には含まれないと考えられています。そのため、生命保険金は遺留分の対象にもならないのが原則です。

生命保険契約では、契約者(被相続人)が保険料を支払い、保険事故(死亡)が発生した際に、保険会社が指定された受取人に保険金を支払うという仕組みになっています。したがって、生命保険金は被相続人の財産ではなく、受取人固有の財産とみなされるのです。そして、生命保険金は受取人の固有の財産であり相続人の間で分割する必要がないため、遺産分割の対象にもならないのです。

ここで重要なのは、死亡保険金請求権が「被相続人の財産を相続によって承継したもの」ではなく、保険契約の効果として受取人が自分自身の権利として取得するものだという点です。いったん被相続人の相続財産に入ってから受取人に渡るわけではないため、相続財産を前提とする遺留分の計算にも、原則として入ってこないことになります。

なお、生命保険金を受け取る場合には、相続税または贈与税の課税対象になる可能性があります。生命保険金を利用して財産を分配する際には、税務上の影響も考慮しながら計画を立てることが重要です。

保険料を負担していた人(契約者)と受取人が同一で、被保険者が別の人である場合には、相続税ではなく所得税(一時所得)の対象となるなど、課税関係は契約の形によって変わります。

受取人を「相続人」と指定していた場合も固有の財産となる

保険証券の受取人欄に、特定の個人名ではなく単に「相続人」とだけ記載されていることがあります。この場合も、最高裁は、特段の事情のない限り、保険金請求権は相続人の固有財産になると判断しています(最高裁昭和40年2月2日判決)。つまり、受取人欄が「相続人」となっていても、保険金は遺産分割の対象にはならず、原則として遺留分の対象にもなりません。

では、複数の相続人がいる場合、それぞれいくらずつ受け取ることになるのでしょうか。この点について最高裁は、各相続人が保険金を取得する割合は、法定相続分の割合によると判断しています(最高裁平成6年7月18日判決)。人数で均等に分けるわけではない点に注意が必要です。

受取人欄の記載は、遺留分を検討するうえで最初に確認すべきポイントです。保険証券が見当たらない場合には、後述する生命保険契約照会制度の利用も検討しましょう。

例外1:保険金・給付金が被相続人自身の財産になる場合

知っておきたい相続問題のポイント
  • 保険金や給付金を受け取る権利が被相続人自身に帰属する場合は、相続財産となり遺留分の対象になる
  • 入院給付金など、被相続人本人が受取人となる給付も相続財産になる

どのような場合に、例外として遺留分の対象になるのでしょうか。

まずは、保険金や給付金を受け取る権利が被相続人自身に帰属するケースです。

保険金請求権が相続財産に含まれ遺留分の対象になる

まず前提として、死亡保険金の受取人には、通常、被相続人以外の特定の人が指定されます。死亡保険金は被保険者が亡くなったことを条件に支払われるものであるため、被保険者本人を死亡保険金の受取人として指定することは、生命保険の実務では通常行われていません。

実務で問題になりやすいのは、受取人の指定がないまま相続が開始した場合です。この場合の取扱いは、保険約款の定め方によって変わります。約款に「保険金受取人の指定がないときは被保険者の相続人に支払う」といった定めがあるときは、特段の事情がない限り、保険金請求権は相続人が自分自身の固有の権利として取得すると解されています(最高裁昭和48年6月29日判決)。受取人の指定がないというだけで直ちに相続財産になるわけではなく、約款の内容に即した個別の判断が必要です。

他方、保険金や給付金を受け取る権利が被相続人自身に帰属していた場合には、その請求権は被相続人の財産として相続財産に含まれ、遺産分割の対象になります。この場合、遺留分を主張する相続人は、その権利を含めた相続財産の分配を求めることが可能です。

この場合、保険金請求権は被相続人自身の財産として発生し、それを相続人が相続によって承継することになります。受取人固有の財産という前提が当てはまらないため、預貯金や不動産などと同じように、遺留分を算定するための財産に含まれることになります。

例えば、被相続人が契約者かつ保険金受取人となっていた他人を被保険者とする保険で、被相続人の生前に保険事故が発生し、保険金が支払われないまま被相続人が亡くなった場合には、その保険金請求権は被相続人の財産として残ります。また、被相続人が契約者かつ被保険者となっていた保険契約が解約されないまま相続が開始した場合には、解約返戻金請求権などの「生命保険契約に関する権利」が相続財産となります。

このような場合は、「受取人固有の財産」という前提が当てはまらないため、他の相続財産と同様に扱われることになります。もっとも、どの類型に当たるかは契約内容や約款の定め方によって変わりますので、保険証券や約款を確認したうえで個別に判断する必要があります。

入院給付金など被相続人本人が受取人の給付も相続財産になる

見落とされやすいのが、死亡保険金以外の給付です。医療保険の入院給付金や手術給付金は、被保険者である被相続人本人が受取人として指定されているのが通常です。被相続人が亡くなる前に入院しており、給付金が支払われないまま亡くなった場合、その請求権は被相続人の財産として残ります。

この入院給付金請求権は相続財産に含まれるため、遺産分割の対象となり、遺留分を算定するための財産にも含まれます。同じ「保険」でも、誰が受取人になっているかによって扱いが変わる点に注意しましょう。

また、被相続人が契約者かつ被保険者となっていた保険を生前に解約し、解約返戻金を受け取っていた場合、その返戻金は被相続人の財産として遺産に残ります。保険契約の内容を確認する際は、死亡保険金だけでなく、こうした給付にも目を向けることが大切です。

例外2:著しい不公平がある場合(最高裁平成16年10月29日決定)

知っておきたい相続問題のポイント
  • 不公平が民法903条の趣旨に照らして到底是認できないほど著しい場合、持戻しの対象になり得る
  • 保険金の額や遺産総額に対する比率など、諸般の事情を総合考慮して判断される

受取人が相続人であっても、遺留分の対象になることはあるのでしょうか。

はい。著しい不公平がある場合には、例外的に持戻しの対象になり得ます。

最高裁平成16年10月29日決定:特別受益に準じた持戻し

もう一つの例外は、生命保険金を受け取った相続人と、その他の相続人との間に極端な財産の偏りが生じる場合です。この場合、死亡保険金請求権が「特別受益」に準じるものとして、持戻しの対象になる可能性があります。

最高裁平成16年10月29日決定は、まず、死亡保険金請求権は原則として民法903条1項に規定する遺贈または贈与に係る財産にはあたらない、としました。そのうえで、次のように判断しています。

「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる」

ここで押さえておきたいのは、原則はあくまで「特別受益にあたらない」であり、持戻しが認められるのは「特段の事情」がある例外的な場合に限られるという点です。単に他の相続人より多く受け取った、という程度では足りません。

特別受益とは、被相続人から特定の相続人が生前贈与や遺贈を受けていた場合に、その相続人だけが多くの財産を得てしまうことを防ぐための制度です。特別受益に該当する財産は、相続財産に含めた上で相続分を決めることになります。

考慮要素(保険金額・遺産総額に対する比率・貢献・生活実態など)

「特段の事情」があるかどうかは、次のような事情を総合考慮して判断するものとされています。

  • 保険金の額
  • 保険金の額の遺産の総額に対する比率
  • 保険金受取人である相続人および他の共同相続人と被相続人との関係(同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなど)
  • 各相続人の生活実態

注意したいのは、これらが「どれか一つを満たせば持戻しになる」というチェックリストではなく、あくまで総合考慮の材料だという点です。例えば保険金の額が大きくても、その相続人が長年にわたり被相続人の介護を担っていたという事情があれば、不公平とまでは評価されないこともあります。

遺留分の算定でも同様の枠組みが参照される

最高裁平成16年10月29日決定は、遺産分割の事案についての判断です。そのため、遺留分の算定においても同じ枠組みがそのまま適用されるのかについて、同決定の判旨からは明らかではありません。

もっとも、遺留分が問題となる場面でも、同決定の枠組みを参照して判断した裁判例が公表されています。現行法のもとでこの点を明示した最高裁判例はなく、確立した取扱いとまではいえませんが、遺留分を請求する側としても、この「特段の事情」の有無が実際上の争点になると考えておくとよいでしょう。

目安はある?裁判例にみる「遺産総額に対する比率」

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺産総額に対する保険金の比率が高いほど、持戻しが認められやすい傾向がある
  • 比率は考慮要素の一つにすぎず、比率だけで結論が決まるわけではない

保険金が遺産の何割くらいなら、持戻しの対象になるのでしょうか。

明確な基準はありませんが、参考になる裁判例があるので見てみましょう。

持戻しが認められた裁判例

実際の裁判例では、遺産総額に対する保険金の比率が判断の材料として重視される傾向があります。なお、以下の3件はいずれも、遺産分割における特別受益に準じた持戻しが争われた事案(2019年の相続法改正前のもの)ですが、比率の考え方を知るうえで参考になります。持戻しを認めた例としては、次のようなものがあります。

東京高裁平成17年10月27日決定は、遺産総額が約1億円であるのに対し、相続人の1人が受け取った死亡保険金も約1億円という事案でした。保険金が遺産総額とほぼ同額に達しており、特段の事情があるとして持戻しが認められています。

名古屋高裁平成18年3月27日決定は、遺産総額が約8,400万円、死亡保険金が約5,100万円という事案です。遺産総額に対する比率は約61%であり、この事案でも持戻しが認められました。

持戻しが認められなかった裁判例

一方、大阪家庭裁判所堺支部平成18年3月22日審判は、遺産総額が約7,000万円であるのに対し、死亡保険金は約450万円という事案でした。比率は約6%にとどまり、著しい不公平とはいえないとして、持戻しは認められていません。

3つの裁判例を整理すると、次のとおりです。

裁判例 遺産総額 死亡保険金 遺産総額に対する比率 結論
東京高裁平成17年10月27日決定 約1億円 約1億円 ほぼ同額 持戻しを認めた
名古屋高裁平成18年3月27日決定 約8,400万円 約5,100万円 約61% 持戻しを認めた
大阪家裁堺支部平成18年3月22日審判 約7,000万円 約450万円 約6% 持戻しを認めなかった

こうして並べてみると、比率が数%程度にとどまる場合には持戻しが認められにくく、6割を超えるような場合には認められた例がある、という大まかな傾向が読み取れます。

比率だけでは決まらない(総合考慮)という留保

ただし、ここで示した比率は、あくまで個別の事案における結果にすぎません。「◯%を超えたら持戻しになる」といった明確な線引きが、法律や判例で定められているわけではない点には注意が必要です。

前述のとおり、最高裁は、保険金の額や比率のほかに、同居の有無、介護等への貢献の度合い、各相続人の生活実態なども含めて総合的に考慮すべきとしています。比率が高くても、受取人が被相続人の介護を長年担っていたなどの事情があれば、不公平とは評価されない可能性もあります。逆に、比率がそれほど高くなくても、他の事情と併せて不公平と判断される余地は残ります。

したがって、比率はあくまで見通しを立てるための出発点と考えるのが適切です。実際の判断の見込みについては、個別の事情を踏まえて弁護士にご相談ください。

例外にあたる場合の遺留分の計算方法(計算例)

知っておきたい相続問題のポイント
  • 持戻しが認められる場合、保険金を基礎財産に加算して計算する考え方がある
  • 保険金だけでなく、他の遺産や生前贈与も含めて全体で請求を検討する

持戻しが認められると、遺留分の額はどのように変わるのでしょうか。

具体的な数字を使って、持戻しがある場合とない場合を比べてみましょう。

保険金を持ち戻した場合の遺留分の計算式

遺留分の計算は、次の順序で行います。

まず、遺留分を算定するための財産の価額を求めます。これは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に、贈与した財産の価額を加え、そこから債務の全額を控除した額です(民法1043条1項)。もっとも、この条文が算入の対象としているのは「贈与」であり、死亡保険金を加算することの直接の定めはありません。持戻しが認められる場合の具体的な計算方法には見解の分かれる余地がありますが、以下では、特別受益に準じて死亡保険金の額を基礎財産に加算する考え方に立って解説します。

次に、この価額に個別の遺留分割合(法定遺留分割合×法定相続分)を掛けて、各相続人の遺留分額を算出します。

最後に、遺留分額から、遺留分権利者が受けた遺贈や特別受益の額と、相続分に応じて取得すべき遺産の価額を差し引き、承継する債務があれば加算すると、遺留分侵害額が求められます(民法1046条2項)。式にすると、次のとおりです。

  • 遺留分を算定するための財産の価額=相続開始時の財産+贈与財産-債務
  • 遺留分額=遺留分を算定するための財産の価額×個別の遺留分割合
  • 遺留分侵害額=遺留分額-受けた遺贈・特別受益の額-相続分に応じて取得すべき遺産の価額+承継する債務の額

計算例:持戻しの有無で遺留分額がどう変わるか

次のような家族構成を例に考えてみましょう。

  • 相続人:長男と次男の2人(配偶者はすでに死亡)
  • 遺産:預貯金2,000万円(債務はなし)
  • 遺言:「全財産を長男に相続させる」
  • 死亡保険金:3,000万円(受取人は長男)

このケースで、次男の法定相続分は2分の1、法定遺留分割合は2分の1です。したがって、次男の個別の遺留分割合は、2分の1×2分の1=4分の1となります。

項目 持戻しが認められない場合 持戻しが認められる場合
遺留分を算定するための財産の価額 2,000万円 5,000万円
(2,000万円+保険金3,000万円)
次男の個別の遺留分割合 4分の1 4分の1
次男の遺留分額 500万円 1,250万円
次男の遺留分侵害額(計算上) 500万円 1,250万円

※保険金の持戻しを認め、その額を基礎財産に加算する考え方に立った場合の試算です。

持戻しが認められない場合、遺留分を算定するための財産の価額は遺産の2,000万円のみです。次男の遺留分額は2,000万円×4分の1=500万円となり、次男は遺産を一切受け取っていないため、長男に対して500万円を請求できます。

これに対し、持戻しが認められる場合には、死亡保険金3,000万円が加算され、遺留分を算定するための財産の価額は5,000万円になります。次男の遺留分額は5,000万円×4分の1=1,250万円となり、計算上の遺留分侵害額は750万円増えることになります。

このように、持戻しが認められるかどうかで、請求できる金額は大きく変わります。なお、この例では保険金が遺産総額の1.5倍にあたりますが、実際に持戻しが認められるかどうかは、前述のとおり諸般の事情を総合考慮して判断されます。また、請求の相手方が負担する額は、その相手方が受けた遺贈や贈与の目的の価額(相手方が相続人の場合は、そこから相手方自身の遺留分額を控除した額)が限度となります(民法1047条1項)。遺産が少なく保険金だけが大きいケースでは、計算上の遺留分侵害額の全額を回収できるとは限りません。

他の遺産・生前贈与も含めて全体で請求を検討する

遺留分侵害額請求を検討する際に、生命保険金だけに目を向けるのは得策ではありません。持戻しが認められるかどうかは見通しを立てにくい一方、他の財産については争いなく基礎財産に含められることも多いためです。

特に、被相続人が生前に特定の相続人へ多額の贈与をしていた場合、相続人に対する贈与のうち特別受益にあたるものは、原則として相続開始前10年間にされたものが遺留分を算定するための財産に加算されます(民法1044条3項)。相続人以外の第三者に対する贈与については、原則として相続開始前1年間にされたものが対象です。なお、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与は、時期を問わず算入されます(同条1項後段)。

保険金の持戻しを主張しつつ、遺贈や生前贈与も含めて全体として請求額を組み立てることで、結果的に回収できる金額が変わってくる場合があります。まずは、被相続人の財産の全体像を把握することから始めましょう。

遺留分の計算方法や特別受益の詳細については、関連コラムもあわせてご覧ください。

「遺留分対策として生命保険を使う」側の視点

知っておきたい相続問題のポイント
  • 現金を保険料に充てると、遺留分を算定するための財産が圧縮される
  • 遺留分侵害額請求への支払い原資として、保険金を準備しておく方法もある

反対に、遺留分を請求されにくくするために生命保険を使えますか。

使える場面はあります。ただし限界もあるので、まず仕組みから確認しましょう。

現金を保険に替えると遺留分の基礎財産が減る仕組み

ここまでは、保険金を請求する側の視点で解説してきました。ここからは、財産を残す側が生前対策として生命保険を活用する場合の考え方を見ていきます。

前述のとおり、死亡保険金は原則として受取人固有の財産であり、遺留分を算定するための財産には含まれません。そのため、手元の現金を保険料として払い込み、死亡保険金という形に組み替えておくと、遺留分を算定するための財産を圧縮できる可能性があります。

例えば、預貯金3,000万円を持っている方が、そのうち1,000万円を一時払いの終身保険の保険料に充て、長男を受取人に指定したとします。相続開始時の預貯金は2,000万円に減り、遺留分を算定するための財産の価額もその分小さくなり得る一方、長男は保険金を受け取ることができます。

ただし、これはあくまで原則的な取扱いです。後述のとおり、保険金の額が大きすぎると例外にあたる可能性があり、遺留分の対象から外れることが常に保証されるわけではない点に注意してください。

遺留分侵害額請求への支払い原資として保険金を備える

もう一つの考え方が、遺留分を請求されること自体は避けられないと想定したうえで、その支払いに充てる現金を保険で準備しておく方法です。

2019年7月に施行された改正民法により、遺留分を侵害された相続人が行使できるのは、金銭の支払いを求める権利(遺留分侵害額請求権)となりました。そのため、財産の大半が自宅不動産や自社株といった分けにくい資産である場合、それらを承継した相続人は、手元に現金がないのに多額の支払いを求められる事態に陥りがちです。

そこで、多くの財産を承継させたい相続人を死亡保険金の受取人に指定しておけば、その相続人は受け取った保険金を支払いの原資に充てることができます。不動産を売却せずに済む可能性が高まり、事業承継の場面でも有効な備えとなります。

受取人指定と生前の遺留分放棄を組み合わせる方法

逆に、遺留分権利者となる相続人を保険金の受取人に指定し、生前の遺留分放棄と組み合わせる方法もあります。

遺留分は、相続開始前に放棄することもできます。ただし、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力が生じます(民法1049条1項)。許可の判断にあたっては、放棄が本人の自由な意思に基づくものか、放棄に見合う代償があるかといった点が考慮されます。

そこで、遺留分を放棄してもらう相続人を死亡保険金の受取人に指定しておけば、その相続には保険金という形で一定の財産が渡ることになり、放棄の代償があるものとして家庭裁判所の許可を得やすくなる場合があります。

もっとも、遺留分の放棄はあくまで本人の意思によるものであり、強制することはできません。また、家庭裁判所の許可が得られるとは限らないため、実際に進める際は弁護士に相談しながら設計することをおすすめします。

対策のやり過ぎは逆効果(限界と注意点)

知っておきたい相続問題のポイント
  • 保険金の比率が大きすぎると、かえって持戻しの対象になり得る
  • 相続税の非課税限度額は税金の話であり、遺留分とは別の問題

それなら、財産の大部分を保険に替えてしまえばよいのでしょうか。

それは逆効果になりかねません。対策には限界があります。

保険金の比率が大きすぎると持戻しの対象になり得る

生命保険を使えば遺留分を算定するための財産を減らせるからといって、財産の大部分を保険に組み替えてしまうと、かえって対策が崩れるおそれがあります。

前述のとおり、保険金受取人である相続人と他の相続人との間の不公平が、民法903条の趣旨に照らして到底是認できないほど著しい場合には、特別受益に準じて持戻しの対象となります。そして、その判断では遺産総額に対する保険金の比率が重視される傾向があります。

裁判例では、遺産総額とほぼ同額の保険金や、遺産総額の約61%にあたる保険金について持戻しが認められています。財産の大半を保険に替えるという設計は、まさにこの類型に近づくことになり、対策として意図した効果が得られない可能性が高まります。

「保険にすれば遺留分の対象にならない」という理解だけで極端な設計をすると、結果的に相続人間の紛争を招くことになりかねません。遺産全体のバランスを見ながら、無理のない範囲で活用することが大切です。

相続税の非課税限度額(500万円×法定相続人の数)と遺留分は別の話

生命保険を使った相続対策を検討する際に混同されやすいのが、相続税の非課税限度額との関係です。

死亡保険金のうち、「500万円×法定相続人の数」までの金額には相続税がかかりません(相続税法12条1項6号)。例えば法定相続人が3人であれば、1,500万円までが非課税となります。なお、この非課税枠を使えるのは受取人が相続人である場合に限られ、「法定相続人の数」は相続税法上のルール(同法15条2項)によって数えます。

しかし、これはあくまで相続税の計算上の枠であり、遺留分の話ではありません。非課税限度額の範囲内に収めたからといって、遺留分の対象にならないことが保証されるわけではありませんし、逆に非課税限度額を超えたからといって、直ちに持戻しの対象になるわけでもありません。

税務上の取扱いと遺留分の取扱いは、まったく別の制度に基づく別の判断です。「非課税枠に収めておけば遺留分の面でも安全」という理解は誤りですので、注意してください。

遺言・生前贈与などと組み合わせて設計する

生命保険は、それだけで遺留分の問題をすべて解決できる万能の手段ではありません。実務では、他の手段と組み合わせて設計するのが一般的です。

  • 遺言書の作成:誰にどの財産を承継させるかを明確にし、付言事項で理由を伝える
  • 生前贈与:相続開始前10年より前の贈与であれば、原則として基礎財産に加算されない(ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与は、時期を問わず加算される)
  • 遺留分の生前放棄:家庭裁判所の許可を前提に、代償とセットで検討する
  • 生命保険:基礎財産の圧縮と、支払い原資の確保という2つの役割で活用する

どの手段をどの程度組み合わせるべきかは、財産の構成や相続人の関係によって変わります。特に、事業承継や不動産が中心の相続では、対策の巧拙が結果を大きく左右します。生前対策を検討される場合は、早い段階で弁護士にご相談ください。

生命保険金をめぐって争いになったときの進め方

知っておきたい相続問題のポイント
  • どんな保険契約があるか分からないときは、生命保険契約照会制度を利用できる
  • 遺留分侵害額請求には、知った時から1年・相続開始から10年の期間制限がある

実際に争いになったら、どのように進めればよいのでしょうか。

まずは保険契約の把握と、期限の確認から始めましょう。

どんな保険があるか分からないときは生命保険契約照会制度

保険金の持戻しを主張しようにも、被相続人がどの保険会社とどのような契約を結んでいたのか分からない、というケースは少なくありません。他の相続人が、保険金を受け取った事実を明かさない場合もあります。

このようなときに利用できるのが、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」です。2021年7月に開始された制度で、契約者・被保険者が亡くなった場合などに、法定相続人などからの照会を受け付け、加盟する生命保険会社に契約の有無を調査してくれます。

照会によって分かるのは契約の有無であり、保険金額まで判明するわけではありません。また、利用には所定の料金がかかり、Web申請と書面申請とで金額が異なります。それでも、被相続人名義の保険契約の存在を網羅的に確認できる手段として、遺産の全体像を把握するうえで有用です。

照会の結果、想定していなかった保険契約が見つかることもあります。まずは制度を利用して事実関係を確定させることが、請求の出発点になります。

遺留分侵害額請求の時効(知った時から1年・相続開始から10年)に注意

遺留分侵害額請求権には、期間制限があります。遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。また、相続開始の時から10年を経過したときも、請求はできなくなります(民法1048条)。

特に注意したいのが、1年という期間の短さです。保険金の持戻しを主張できるかどうかを検討しているうちに、あっという間に期間が経過してしまうことがあります。見通しがはっきりしない段階であっても、まずは請求の意思表示をしておくことが重要です。

請求の意思表示は、あとから請求の有無が争いにならないよう、配達証明付きの内容証明郵便で行うのが実務上一般的です。

持戻しの主張は証拠が重要(保険証券・介護の記録など)

保険金の持戻しは、「特段の事情」があると主張する側が、その事情を基礎づける事実を具体的に示していく必要があります。そのため、争点となったときに何を資料として出せるかが、結果を左右します。

具体的には、次のような資料が考えられます。

  • 保険証券や保険会社からの支払明細:保険金の額や受取人を確認する
  • 不動産の査定書、預貯金の残高証明書など:遺産総額に対する比率を示す
  • 被相続人の介護記録、施設の利用明細、診療記録など:介護等への貢献の度合いを示す
  • 住民票や戸籍の附票:同居の有無を示す
  • 各相続人の収入や生活状況が分かる資料:生活実態を示す

これらの資料には、相続人であることを示して保険会社や金融機関に開示を求めれば取得できるものもありますが、他の相続人が保有している資料もあります。弁護士に依頼すれば、必要な資料の見極めや、開示請求・調査嘱託などの手続きを進めることができます。

相続問題を弁護士に相談するメリット

知っておきたい相続問題のポイント
  • 弁護士を通せば、相続人同士が直接話し合う必要がなくなる
  • 調停や訴訟などの法的手続きを適切に進めることができる

相続問題は弁護士に相談すべきなのでしょうか。

ここでは、相続問題を弁護士に相談するメリットについて解説していきます。

相続問題を弁護士に相談・依頼した場合には、以下のようなメリットがあります。

直接の話し合いを避けられる

相続に関する話し合いは、親族間の感情がぶつかり合う場面が多く、精神的な負担が大きくなりがちです。弁護士を通じてやり取りをすれば、相続人同士が直接話し合う必要がなくなり、冷静な交渉が可能になります。また、弁護士に任せることで、相手の強い態度や圧力に屈することなく、適切な対応ができます。

法的手段でスムーズに解決できる

相続問題は話し合いで解決できるのが理想ですが、相手が遺産の分割に応じない場合や、不公平な遺言がある場合は、法的手続きを検討する必要があります。

弁護士に依頼すれば、遺産分割調停や遺留分侵害額請求訴訟などの法的な手続きを適切に進めることが可能です。このような場合には、弁護士が代理人として法的主張を行い、有利な解決を目指してくれます。

書類作成や証拠収集を任せられる

相続に関する手続きには、戸籍謄本や財産目録の作成、遺産分割協議書の作成など、多くの書類が必要です。こうした煩雑な作業を弁護士に依頼することで、手間を大幅に軽減できます。また、必要な証拠を適切に収集することで、後々のトラブルを防ぐことも可能になります。

よくある質問・まとめ

知っておきたい相続問題のポイント
  • 保険金を受け取った相続人でも、遺留分が侵害されていれば請求できる
  • 「何割までなら持ち戻されない」という明確な基準はない

最後に、よくある疑問をまとめて教えてください。

特に質問の多い4つの点について、順番に確認していきましょう。

Q1.保険金を受け取った相続人も遺留分を請求できる?

請求できます。死亡保険金は受取人固有の財産であり、遺留分とは別の権利です。そのため、保険金を受け取ったからといって、遺留分を請求する権利がなくなるわけではありません。

例えば、次男が保険金500万円を受け取ったものの、遺言によって遺産のすべてを長男が取得するという場合、次男は自らの遺留分が侵害されていれば、長男に対して遺留分侵害額請求ができます。

ただし、受け取った保険金について持戻しが認められる場合には、その保険金は次男自身の特別受益に準じるものとして扱われ、遺留分侵害額から差し引かれることになります。

Q2.受取人欄が「相続人」となっている場合の扱いは?

受取人欄が特定の個人名ではなく「相続人」とだけ記載されている場合も、保険金は相続人の固有財産になるのが原則です(最高裁昭和40年2月2日判決)。したがって、遺産分割の対象にはならず、原則として遺留分の対象にもなりません。

複数の相続人がいる場合、各相続人が取得する割合は法定相続分の割合によります(最高裁平成6年7月18日判決)。人数で均等に分けるわけではない点に注意しましょう。

Q3.保険金が遺産の何割までなら持ち戻されない?

「何割までなら持ち戻されない」という明確な基準はありません。法律にも判例にも、具体的な数値基準は定められていないためです。

裁判例をみると、遺産総額の約6%にとどまる事案では持戻しが否定され、約61%や遺産総額とほぼ同額という事案では持戻しが認められています。比率が高いほど認められやすい傾向はあるものの、これらはあくまで個別の事案の結果です。

実際の判断は、保険金の額や比率のほか、同居の有無、介護等への貢献、各相続人の生活実態などを総合考慮して行われます。ご自身のケースで持戻しが認められる可能性については、個別の事情を踏まえた検討が必要ですので、弁護士にご相談ください。

Q4.請求の時効はいつまで?

遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効によって消滅します。また、相続開始の時から10年を経過した場合も請求できなくなります(民法1048条)。

保険金の持戻しを主張できるかどうかを検討しているうちに1年が経過してしまうことがあるため、見通しが立たない段階でも、まずは内容証明郵便で請求の意思表示をしておくことが大切です。

まとめ

死亡保険金は受取人固有の財産であり、原則として遺留分の対象にはなりません。例外となるのは、保険金や給付金を受け取る権利が被相続人自身に帰属する場合と、相続人の間に著しい不公平が生じている場合の2つです。

後者については、最高裁平成16年10月29日決定が、不公平が民法903条の趣旨に照らして到底是認できないほど著しいという特段の事情がある場合に、特別受益に準じた持戻しを認めています。裁判例では遺産総額に対する保険金の比率が重視される傾向にありますが、比率だけで結論が決まるわけではありません。

また、生命保険は遺留分対策としても活用できますが、やり過ぎるとかえって持戻しの対象となるおそれがあり、相続税の非課税限度額とも別の問題です。

遺留分や相続トラブルでお困りの場合には、一度弁護士に相談されることをおすすめ致します。当事務所には、相続問題に詳しい弁護士が在籍しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

<参照>
生命保険協会「生命保険契約照会制度のご案内」
最高裁判所平成16年10月29日第二小法廷決定(民集58巻7号1979頁)
最高裁判所昭和40年2月2日判決(民集19巻1号1頁)・最高裁判所昭和48年6月29日判決(民集27巻6号737頁)・最高裁判所平成6年7月18日判決(民集48巻5号1233頁)
東京高等裁判所平成17年10月27日決定(家庭裁判月報58巻5号94頁)・名古屋高等裁判所平成18年3月27日決定(家庭裁判月報58巻10号66頁)・大阪家庭裁判所堺支部平成18年3月22日審判(家庭裁判月報58巻10号84頁)
e-Gov法令検索「民法」「相続税法」

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