はじめに
「遺産分割協議は一度済ませたらやり直せない」と諦めている方もいるかもしれません。
協議書に署名したあとでも、特定の条件を満たせばやり直せる可能性があります。
本記事では、すでに遺産分割協議を終えたものの、「あとから見つかった財産」や「合意に納得していない」などの理由で再協議を検討している方向けに、やり直しが可能なケースと注意点をわかりやすく解説します。
遺産相続における期限があるもの
相続には期限があるものが複数あります。
まずは、相続において期限があるものについて確認しましょう。
| 相続内容 | 期限 |
|---|---|
| 死亡届 | 7日以内 |
| 生年金 | 10日以内 |
| 国民健康保険・国民年金 | 14日以内 |
| 相続放棄、限定承認 | 相続の開始を知ってから原則として3カ月 |
| 準確定申告(所得税) | 相続の開始を知ってから4カ月 |
| 相続税申告・納税 | 相続の開始を知ってから10カ月 |
| 遺留分侵害額請求権 | 相続開始・遺留分の侵害を知ってから1年・相続の開始から10年 |
| 相続回復請求権 | 相続権の侵害を知ってから5年・相続の開始から20年 |
| 相続登記 | 2024年から相続人になったことを知ってから3年 |
時効と期限について
これらの期限には、時効や届出期限などさまざまな性質のものがあります。
遺留分侵害額請求権や相続回復請求権のように、一定の権利は期限が経過すると権利が無くなるという意味合いになります。
それ以外については手続きの期限を定めており、経過するとペナルティの対象になるので、注意が必要です。
遺産分割協議の期限
遺産分割協議に法律上の期限はありませんが、なるべく早く手続きを進めないと、あとの手続きに支障がでることになります。
遺産分割協議の期限はないのに早めにするべき理由
相続に関する手続きとして、相続放棄は原則として相続開始を知ったときから3カ月以内、相続税申告は10カ月以内に行うなど期限が定められています。
しかし、遺産分割協議自体については、いつまでに行わなければならないという期限はありません。
ただ、遺産分割協議はさまざまな手続きを行うことが前提となっています。
先延ばしにするとリスクが発生しますので、注意が必要です。
遺産分割協議を引き延ばした場合のリスク
遺産分割協議を引き伸ばした場合にはさまざまなリスクがあります。
遺産分割協議を引き伸ばした際のリスクについて確認していきましょう。
遺産に関する処分ができないリスク
遺産に関する処分ができなくなることが多いです。
例えば、被相続人の預金口座は、その方が亡くなったことを金融機関が確認すると凍結されます。
こうなると、口座からお金を下ろすためには遺産分割を行い、遺産分割協議書をもって口座の解約手続をしなければなりません。
一部の預貯金をおろすこともできますが、従来のようにカードを持っていってすぐにお金をおろせるわけではなく、銀行での手続きや、裁判所での手続きが必要です。
そのほかの資産についても、処分のためには遺産分割協議書の提出を求められます。
遺産分割協議を引き伸ばすと、基本的に遺産を処分することができません。
相続人が増えてしまい相続が複雑になるリスク
遺産分割を伸ばしていると、共同相続人の一人が亡くなるなどして、さらに相続が発生し相続が複雑になることがあります。
例えば、母と子ども2名が相続人である場合で、その子どものうち1人が亡くなって孫が2名いる場合には、相続人はその時点で計4名となります。
手続きがより複雑になるのみならず、関係が疎遠であるなどの理由から、合意を取るのが困難になる可能性もあるでしょう。
遺産を単独で処分されてしまうリスク
例えば、不動産がある場合に、いったん共有者名義としたうえで共有持分のみ売却することが可能です。
その結果、共有持分を買い取った会社などが遺産分割に入ってくることがあり、トラブルになることもあります。
ほかの手続きに影響する
遺産分割協議には期限がなくても、相続税申告には相続の開始を知った日から10カ月の期間制限があります。
相続税申告をする際によく利用される制度として、「小規模宅地等の特例」「配偶者の税額軽減」があります。
これらは、遺産分割を終えていることが適用の条件です。
遺産分割が終わっていないからといって相続税申告の期限を伸ばすことはできません。
申告期限までに遺産分割協議がまとまっていない場合、これらの制度の利用をしないで相続税申告・納税を行い、遺産分割が終わってから更正の請求という形で申告をやり直して還付をしてもらわなければなりません。
そのために、税理士に依頼する場合には、余計な手間や費用がかかることになります。
遺産分割のやり直しは原則できない
遺産分割協議が整うと、協議の内容を遺産分割協議書に記載します。
その協議内容に従って、相続人は各自で相続した遺産を引き継ぐ手続きを進めていくのが通常の流れです。
この段階になってから、相続人の一人が「やっぱり自分が土地を相続したい!」といって、やり直しをしなければならないとなると、いつまでたっても遺産分割が進みません。
遺産分割協議は相続人間でする合意・約束ですので、一度合意をしたら原則として変更はできません。
例外的に遺産分割のやり直しができる場合
「原則」ということは、例外もあるということです。
例外的に遺産分割協議のやり直しができる場合について確認しましょう。
・遺産分割協議に無効・取消原因がある場合
・遺産分割協議を行った相続人全員の合意がある場合
・新たな遺産が見つかった場合
遺産分割協議に無効・取消原因がある場合
遺産分割協議に合意したものの、あとから相続人全員の考えが変えわることもあるでしょう。
その場合には、再度、全員の合意のもとで遺産分割協議をやり直すことができます。
遺産分割協議を行った相続人全員の合意がある場合
遺産分割協議をしたものの、その後事情が変わって当事者全員が別の分け方がよかった、と考えを変えることもあるでしょう。
その場合には、再度、全員の合意のもと遺産分割協議をやり直すことになります。
新たな遺産が見つかった場合
遺産分割協議をしたあとに、被相続人の新たな遺産が見つかるケースも少なくありません。
この場合、新たな遺産がどの程度のものか、事前にどのような取り決めをしているかなどによって、分けて考える必要があります。
まず、新たな遺産がかなり高額のもので、その遺産があることを知っていれば合意はしていなかったと言える場合には、遺産分割協議は民法95条の錯誤取消の対象となります。
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索
遺産分割協議を取り消したうえで、再度、遺産分割協議をやり直すことになります。
一方で、新たな遺産が合意した遺産分割協議を覆すほどのものではない場合、新たに見つかった遺産について別途遺産分割協議を行うことになります。
この場合においても、相続人の合意のうえで遺産分割協議をイチからやり直すことも可能です。
遺産分割協議のやり直しをするのに期限はない
遺産分割協議をやり直す場合には期限はありません。
しかし、取消権を行使してやり直す場合には時効があります。
遺産分割協議が錯誤、詐欺または強迫によって行なわれて取り消すことができる場合、取消権については追認できるときから5年の時効で消滅すると規定されています。
第百二十六条 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索
遺産分割のやり直しをする場合の注意点
遺産分割をやり直す場合にはいくつかの注意点があります。
詳しく解説します。
遺産分割をやり直す前に相続人が第三者に遺産を譲渡していた場合
遺産分割をやり直す際に注意すべきなのが、やり直し前に当初の取得者が第三者に遺産を譲渡してしまった場合です。
第三者に譲渡された遺産は、基本的に取り戻せません。
しかし、第三者が被相続人の遺産を搾取しようとして、相続人に入れ知恵をして詐欺を行った場合には、取り戻せる可能性があります。
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索
不動産を譲渡するときに費用がかかる
不動産の持ち主が変わる場合には、不動産の登記を変更することになります。
不動産登記にかかる登録免許税や、登記を司法書士に依頼した場合には司法書士に対する費用の支払いもあることを確認しておきましょう。
遺産分割協議をやり直した場合には不動産登記の名義変更が必要
協議をやり直したい遺産のなかに家・土地・マンションなどの不動産がある場合、不動産登記の名義変更が必要です。
法定相続分に基づく相続登記がされている場合には、遺産分割を原因とする不動産登記をします。
最初の遺産分割協議によって決められた内容で登記をしている場合には、一度その登記を抹消したうえで、遺産分割後の相続登記を行います。
遺産分割協議をやり直した場合には課税される
遺産分割協議のやり直しによって遺産の移動が譲渡・交換・贈与にあたると判断される場合、課税の対象となる可能性があります。
そのため、相続する遺産が減った方から相続する遺産が増えた方に対する贈与等にあたると判断されれば贈与税が、譲渡・交換と評価できる場合には所得税等がかかります。
最初の遺産分割協議から新しく遺産が移転したものと評価をする以上、既に相続税を申告・納付している部分については影響ありません。
なお、最初の相続が無効・取消ができる場合には、遺産分割後に遺産を移転したという評価をすることはできないため、税金はかかりません。
遺産分割協議でトラブルになっている場合には弁護士に相談すべき
遺産分割協議でトラブルになってしまった場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談するメリットは、主に以下3つです。
①無駄なトラブルを防ぐことができる
②法的に正しい判断をしてくれる
③冷静な交渉を期待することができる
詳しく解説します。
無駄なトラブルを防ぐことができる
弁護士が遺産分割協議の依頼を請けた際には、まず事実関係を調査します。
特に遺産の調査は念入りに行われるため、あとから新しい遺産が出てきてトラブルになる可能性は低くなります。
法的に正しい判断をしてくれる
遺産分割の取り消しや無効を主張する際には、法的に難しい判断を伴います。
どうして取り消し・無効といえるのかを法的に説明し、相手を説得するには法律の専門家でなければ至難の技です。
そのため弁護士に依頼し、取り消し・無効の主張可能性があるかどうかなどを判断しながら手続きを進めていくことをおすすめします。
冷静な交渉を期待することができる
弁護士に依頼することで、冷静な交渉が期待できます。
遺産分割の争いは、感情的になり鋭く対立してしまうことがあります。
頭では落とし所がわかっていても、感情が先行してしまい交渉がまとまらない、ということも珍しくありません。
しかし、弁護士に依頼すれば当事者の間に弁護士が入ってくれるため、感情的にならずスムーズにいくことがあります。
さいごに
原則として遺産分割協議のやり直しはできませんが、絶対ではありません。
例外的にできる場合もあります。
しかし、不動産登記や税金などの問題もあるので、弁護士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

- 遺産相続でトラブルを起こしたくない
- 誰が、どの財産を、どれくらい相続するかわかっていない
- 遺産分割で損をしないように話し合いを進めたい
- 他の相続人と仲が悪いため話し合いをしたくない(できない)
無料
この記事の監修者
- 東京弁護士会 / 一般社団法人日本マンション学会 会員
- 一見複雑にみえる法律問題も、紐解いて1つずつ解決しているうちに道が開けてくることはよくあります。焦らず、急がず、でも着実に歩んでいきましょう。喜んですぐそばでお手伝いさせていただきます。
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