
- 遺産分割協議そのものに法的な期限はなく、10年後や20年後でも行える
- ただし相続開始から10年を過ぎると、特別受益や寄与分を主張できなくなるのが原則
- 相続税の申告(10か月)や相続登記(3年)には期限があり、協議が遅れると不利益が生じる
- 協議をやり直すこと自体に期限はないが、原則としてやり直しはできない
Cross Talk 遺産分割協議自体に期限はないが、10年・3年・10か月の節目に注意が必要
遺産分割協議には、いつまでにやらなければいけないという期限はあるのでしょうか。
協議自体に法的な期限はありません。ただし、10年・3年・10か月という節目があるので、順番に確認しましょう。
「遺産分割協議には期限があるのだろうか」「もう何年も経ってしまったが、今からでも間に合うのか」と不安に感じている方もいるでしょう。
結論からいえば、遺産分割協議そのものに法的な期限はなく、10年後でも20年後でも行うことができます。ただし、「期限がない」ことと「放置してよい」ことは別です。相続開始から10年を過ぎると特別受益や寄与分を原則として主張できなくなり、相続税の申告(10か月)や相続登記(3年)には期限があるため、遅れるほど不利益が大きくなります。
この記事では、「10年」「3年」「10か月」という3つの節目の意味、放置した場合のリスク、申告期限に間に合わない場合の対処、そして協議のやり直しができるケースまで、弁護士が解説していきます。
遺産分割協議の期限について整理したい方は、ぜひ参考にしてください。
遺産分割協議そのものに法的な期限はない

- 遺産分割協議に法律上の期限はなく、いつでも行える(民法907条1項)
- ただし放置すると、後の手続きに支障が出るため早めの対応が大切
遺産分割協議は、いつまでに行わなければならないのでしょうか。
協議自体に期限はありません。まずはその根拠から確認しましょう。
遺産分割協議はいつでも行える(民法907条1項)
遺産分割協議に法律上の期限はありませんが、なるべく早く手続きを進めないと、あとの手続きに支障がでることになります。
根拠となるのは民法907条1項です。同項は、共同相続人は、いつでも、その協議で遺産の全部または一部の分割をすることができると定めています。つまり、相続の開始(被相続人の死亡)から何年経っていても、協議によって遺産を分けること自体は可能です。10年後でも20年後でも、協議そのものはできます。
なお、かつての民法改正の議論では、遺産分割に期間制限を設けることも検討されましたが、最終的に協議そのものへの期限は設けられませんでした。代わりに設けられたのが、後述する特別受益・寄与分の10年ルールです。
「期限がない」ことと「放置してよい」ことは別
相続に関する手続きとして、相続放棄は原則として相続開始を知ったときから3カ月以内、相続税申告は10カ月以内に行うなど期限が定められています。
しかし、遺産分割協議自体については、いつまでに行わなければならないという期限はありません。
ただ、遺産分割協議はさまざまな手続きを行うことが前提となっています。先延ばしにするとリスクが発生しますので、注意が必要です。
「期限がない」と聞くと安心してしまいがちですが、放置してよいという意味ではありません。次に述べる10年ルールや、相続税・相続登記の期限との関係で、遅れるほど選択肢が狭まり、不利益が大きくなっていきます。
遺言や協議で分割が禁止されている場合(民法908条)
例外的に、一定の期間は遺産分割ができない場合があります。民法908条により、被相続人は遺言で、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて遺産の分割を禁止することができます。また、共同相続人の間で、5年以内の期間を定めて分割をしない旨の契約をすることもできます(更新も可能ですが、いずれも相続開始から10年を超えることはできません)。
このような分割禁止の定めがある場合を除き、遺産分割協議はいつでも行えるというのが原則です。
「期限は10年」と言われる理由(特別受益・寄与分の10年ルール)

- 相続開始から10年を過ぎると、特別受益・寄与分を主張できなくなるのが原則(民法904条の3)
- 2023年4月1日施行。施行前に開始した相続には経過措置がある
「遺産分割の期限は10年」と聞きました。これは何のことですか。
協議の期限ではなく、特別受益・寄与分を主張できる期限のことです。詳しく見ましょう。
「遺産分割協議の期限は10年」といわれることがありますが、これは協議そのものの期限ではありません。相続開始から10年を過ぎると、特別受益や寄与分を主張できなくなる、という2023年施行の新しいルールを指しています。
相続開始から10年で特別受益・寄与分の主張ができなくなる(民法904条の3・2023年4月施行)
2023年4月1日に施行された民法904条の3により、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割では、原則として特別受益(生前贈与などによる取り分の調整)や寄与分(被相続人への貢献による取り分の上乗せ)を主張できなくなりました。条文は次のとおりです。
第九百四条の三 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
この改正は、遺産分割がされないまま長期間放置されると、時間の経過とともに特別受益や寄与分の証拠が失われ、話し合いが難しくなることを防ぐために設けられました。
10年経過後は法定相続分による遺産分割が原則になる
相続開始から10年を過ぎると、特別受益や寄与分を考慮した「具体的相続分」ではなく、法定相続分(または遺言による指定相続分)を基準に遺産を分けることが原則になります。
例えば、生前に多額の贈与を受けた相続人がいても、10年を過ぎると「その贈与を考慮して取り分を減らすべきだ」という主張(特別受益の主張)が原則としてできなくなります。逆に、被相続人を長年介護した相続人がいても、「その貢献分を上乗せすべきだ」という主張(寄与分の主張)もできなくなります。特別受益や寄与分を主張したい場合は、10年が経過する前に動くことが重要です。
例外的に10年経過後も具体的相続分を主張できる場合
10年を過ぎても、次の場合には例外的に特別受益・寄与分を考慮した分割が認められます。
- 相続開始から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求(調停・審判の申立て)をしていた場合
- 10年の期間満了前6か月以内にやむを得ない事由があり、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に家庭裁判所に遺産分割の請求をした場合
このほか、相続人全員が合意すれば、10年を過ぎても特別受益や寄与分を踏まえた分け方をすること自体は可能です。904条の3は、10年経過後の遺産分割で法定相続分と異なる具体的相続分を前提とすることを制限するものですが、相続人全員が合意して法定相続分と異なる分け方をすること自体は、私的自治として妨げられないと考えられているためです。
施行前に開始した相続の取り扱い(経過措置)
この10年ルールは、施行日(2023年4月1日)より前に開始した相続にも適用されます。ただし、経過措置により、施行の時から5年を経過する時(2028年(令和10年)4月1日)、または相続開始から10年を経過する時の、いずれか遅い時までは、特別受益・寄与分を主張する機会が確保されています。
とはいえ、古い相続を抱えている場合は、この経過措置の期限が迫っていることも少なくありません。心当たりがある場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
遺産分割協議に関連する手続きの期限一覧

- 相続放棄は3か月、相続税の申告は10か月など、関連手続きには期限がある
- 多くの手続きは遺産分割が前提になるため、協議の遅れが連鎖的に影響する
協議に期限がなくても、関連する手続きには期限があるのですよね。
そのとおりです。主なものを一覧で確認しておきましょう。
相続には、期限が定められている手続きが複数あります。遺産分割協議自体に期限はなくても、これらの手続きは協議と密接に関わるため、協議が遅れると連鎖的に影響します。主な期限は次のとおりです。
| 手続き | 期限 | 遺産分割協議との関係 |
|---|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 相続の開始を知った時から原則3か月 | 放棄の判断には財産調査が前提になる |
| 準確定申告(所得税) | 相続の開始を知った日の翌日から4か月 | 被相続人に一定の所得があった場合 |
| 相続税の申告・納付 | 相続の開始を知った日の翌日から10か月 | 分割未了だと特例が使えず税負担が増える |
| 遺留分侵害額請求 | 知った時から1年(相続開始から10年) | 遺言・生前贈与で遺留分を侵害された場合 |
| 特別受益・寄与分の主張 | 相続開始から10年(民法904条の3) | 10年経過で具体的相続分を主張できなくなる |
| 相続登記 | 取得を知った日から3年(2024年4月〜) | 怠ると10万円以下の過料。遺産に不動産がある場合 |
| 預貯金の払戻請求権など | 5年・10年の消滅時効 | 長期放置で休眠預金になることも |
相続放棄・限定承認(3か月)
被相続人に借金などのマイナスの財産が多い場合に検討するのが相続放棄・限定承認です。これらは、自己のために相続の開始があったことを知った時から原則として3か月以内(熟慮期間)に、家庭裁判所へ申述しなければなりません。
この3か月は、遺産分割協議より前に判断すべき期限です。放棄するかどうかを決めるには、まず財産の内容を調べる必要があるため、相続が始まったら早めに財産調査に着手することが大切です。
準確定申告(4か月)・相続税の申告と納付(10か月)
被相続人に一定の所得があった場合、相続人は被相続人に代わって、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に所得税の準確定申告を行います。
また、遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告と納付をしなければなりません。この10か月の期限は、遺産分割協議がまとまっていなくても延長されない点に注意が必要です(詳しくは大項目5で解説します)。
遺留分侵害額請求(1年)・相続登記(3年)
遺言や生前贈与によって遺留分を侵害された相続人は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年以内に、遺留分侵害額請求をする必要があります(相続開始から10年で請求できなくなります)。
また、2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請しなければならなくなりました(詳しくは大項目6で解説します)。
預貯金・株式など権利の時効(5年・10年)
預貯金の払戻請求権にも消滅時効があり、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年で時効にかかります。長期間放置すると、休眠預金として扱われることもあります。株式の配当金の受領などにも期限があるため、遺産に含まれる財産の種類ごとに注意が必要です。
遺産分割協議を放置するリスク

- 遺産分割協議を放置すると、預貯金の凍結や遺産の共有状態が続く
- 時間が経つほど相続人が増え、税の特例も使えなくなり不利益が大きくなる
協議を先延ばしにすると、具体的にどんな不利益がありますか。
主なリスクを確認しましょう。放置するほど選択肢が狭まります。
遺産分割協議を引き伸ばした場合にはさまざまなリスクがあります。遺産分割協議を引き伸ばした際のリスクについて確認していきましょう。
遺産の処分・活用ができない(預貯金の凍結)
遺産に関する処分ができなくなることが多いです。例えば、被相続人の預金口座は、その方が亡くなったことを金融機関が確認すると凍結されます。
こうなると、口座からお金を下ろすためには遺産分割を行い、遺産分割協議書をもって口座の解約手続をしなければなりません。一部の預貯金をおろすこともできますが、従来のようにカードを持っていってすぐにお金をおろせるわけではなく、銀行での手続きが必要になります。場合によっては、遺産分割調停・審判や預貯金の仮分割の仮処分といった裁判所での手続きが必要になることもあります。
そのほかの資産についても、処分のためには遺産分割協議書の提出を求められます。遺産分割協議を引き伸ばすと、基本的に遺産を処分することができません。
相続人が増えて協議が複雑になる
遺産分割を伸ばしていると、共同相続人の一人が亡くなるなどして、さらに相続が発生し相続が複雑になることがあります。
例えば、母と子ども2名が相続人である場合で、その子どものうち1人が亡くなって孫が2名いる場合には、相続人はその時点で計4名となります。手続きがより複雑になるのみならず、関係が疎遠であるなどの理由から、合意を取るのが困難になる可能性もあるでしょう。
遺産を単独で処分されてしまうおそれ
例えば、不動産がある場合、遺産分割が成立するまでは遺産は相続人の共有状態にあるため、相続人が自分の共有持分のみを売却することが可能です。[相続人が意図的に共有名義にするわけではないので、「遺産分割成立前は共有状態になるので、」のような表現の方が正確です。]その結果、共有持分を買い取った会社などが遺産分割に入ってくることがあり、トラブルになることもあります。
相続税の特例が使えず税負担が増える
遺産分割協議には期限がなくても、相続税申告には相続の開始を知った日から10カ月の期間制限があります。相続税申告をする際によく利用される制度として、「小規模宅地等の特例」「配偶者の税額軽減」があります。
これらは、遺産分割を終えていることが適用の条件です。遺産分割が終わっていないからといって相続税申告の期限を伸ばすことはできません。
申告期限までに遺産分割協議がまとまっていない場合、これらの制度の利用をしないで相続税申告・納税を行い、遺産分割が終わってから更正の請求という形で申告をやり直して還付をしてもらわなければなりません。そのために、税理士に依頼する場合には、余計な手間や費用がかかることになります。
相続税の申告期限(10か月)に協議が間に合わない場合の対処

- 相続税の申告期限(10か月)は、協議がまとまらなくても延長されない
- いったん法定相続分で申告し、後から特例の適用を受ける方法がある
申告期限までに協議がまとまりそうにありません。どうすればよいですか。
いったん未分割のまま申告し、後で調整する方法があります。順を追って説明します。
相続税の申告が必要なケースで、申告期限(10か月)までに遺産分割がまとまらないことは珍しくありません。この場合の対処法を、実務の流れに沿って解説します。なお、相続税の具体的な取り扱いは税理士の専門領域のため、実際の申告は税理士と連携して進めることになります。
未分割のまま法定相続分で申告する(未分割申告)
申告期限までに遺産分割がまとまらない場合でも、期限までに相続税の申告・納付をしなければなりません。この場合、いったん各相続人が法定相続分に従って遺産を取得したものと仮定して申告します。これを「未分割申告」といいます。
注意したいのは、未分割の状態では「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」といった税負担を軽くする特例が、当初の申告では使えないという点です。そのため、未分割申告では本来より高い相続税を納めることになります。
「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する
未分割申告をする際に、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を添付して提出しておくことが重要です。この書類を出しておくと、申告期限から3年以内に遺産分割がまとまった場合に、後から特例の適用を受けられるようになります。
この分割見込書を出し忘れると、後で遺産分割がまとまっても特例を使えなくなってしまうおそれがあります。未分割申告をする場合は、忘れずに提出しましょう。
分割成立後に更正の請求・修正申告を行う
その後、遺産分割が成立したら、実際の取得額に応じて相続税を精算します。特例を適用した結果、納めすぎになっていた相続人は「更正の請求」によって払い戻しを受けられます。逆に、当初の申告より多く取得することになった相続人は「修正申告」を行います。
更正の請求は、原則として分割が成立した日の翌日から4か月以内に行う必要があります。この手続きを経ることで、最終的には実際の分割内容に応じた適正な相続税額に調整されます。手続きが複雑なため、税理士や弁護士と連携して進めることをおすすめします。
相続登記の義務化(2024年4月〜)と遺産分割協議

- 2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に申請しないと過料の対象になる
- 過去に発生した相続も義務化の対象になる
相続登記が義務になったと聞きました。協議とはどう関係しますか。
不動産を相続したら3年以内に登記が必要です。協議が遅れる場合の対応もあります。
不動産の取得を知った日から3年以内の登記申請義務(10万円以下の過料)
2024年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。不動産を相続によって取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません。正当な理由がないのにこれを怠った場合、10万円以下の過料の対象となり得ます。
従来は相続登記に期限がなく、名義変更をしないまま放置されるケースが多くありましたが、義務化によって、遺産に不動産がある場合は期限内の登記が必要になりました。
まとまらない間は相続人申告登記で暫定対応
「3年以内に協議がまとまりそうにない」という場合には、「相続人申告登記」という簡易な手続きで、ひとまず義務を果たす方法があります。これは、自分が相続人であることを法務局に申し出るもので、遺産分割がまとまっていなくても行えます。登録免許税もかかりません。
ただし、相続人申告登記はあくまで暫定的な対応です。これによって不動産の名義が確定するわけではないため、遺産分割がまとまったら、あらためて相続登記をする必要があります。
遺産分割成立後は成立日から3年以内に登記が必要
相続人申告登記をした後や、法定相続分での登記をした後に遺産分割が成立した場合には、その遺産分割の成立日から3年以内に、分割内容に応じた登記をする義務があります。つまり、登記の義務は「取得を知った日から3年」と「遺産分割成立から3年」の2段階で課される点に注意が必要です。
過去の相続も対象(原則2027年3月31日まで)
相続登記の義務化は、2024年4月1日より前に発生していた相続にも適用されます。この場合の申請期限は、原則として2027年(令和9年)3月31日までです(不動産の取得を知った日が2024年4月1日以降であれば、その日から3年以内)。
「何年も前に相続した不動産を、名義変更しないまま放置している」という場合は、この期限までに登記を済ませる必要があります。心当たりがある方は、早めに手続きを進めましょう。
遺産分割協議のやり直しはできるのか

- 一度成立した遺産分割協議を、一方的にやり直すことは原則できない
- 無効・取消原因や相続人全員の合意があれば、やり直せる場合がある
一度まとめた遺産分割を、やり直すことはできますか。
原則はできませんが、例外もあります。整理して確認しましょう。
遺産分割のやり直しは原則できない
遺産分割協議が整うと、通常は、協議の内容を遺産分割協議書に記載します。協議書の作成自体は法律上の義務ではありませんが、後日の紛争を防ぐためにも、相続登記や金融機関の手続きで求められることが多いためにも、作成しておくのが一般的です。[協議書の作成は法的義務ではないので「一般的には」などあるほうが正確です。]その協議内容に従って、相続人は各自で相続した遺産を引き継ぐ手続きを進めていくのが通常の流れです。
協議に無効・取消原因がある場合
もっとも、例外的にやり直しができる場合があります。まず、遺産分割協議に無効や取消しの原因がある場合です。例えば、一部の相続人を除いて行われた協議は無効です。また、詐欺や強迫によって合意させられた場合や、重要な事実について錯誤があった場合には、協議を取り消すことができます。
これらの場合には、協議は当初から効力がなかった、または取り消されたことになるため、あらためて遺産分割協議をやり直すことになります。
相続人全員の合意がある場合
遺産分割協議をしたものの、その後事情が変わって当事者全員が別の分け方がよかった、と考えを変えることもあるでしょう。その場合には、再度、全員の合意のもと遺産分割協議をやり直すことになります。
ただし、この全員の合意によるやり直しは、後述するとおり贈与税や譲渡所得税の課税対象になる可能性があるため、注意が必要です。
新たな遺産が見つかった場合
遺産分割協議をしたあとに、被相続人の新たな遺産が見つかるケースも少なくありません。この場合、新たな遺産がかなり高額のもので、その遺産があることを知っていれば合意はしていなかったと言える場合には、遺産分割協議は錯誤による取消しの対象となり得ます。一方、そうでない場合は、新たに見つかった遺産についてのみ、別途遺産分割協議を行うことになります。
やり直し自体に期限はない
しかし、取消権を行使してやり直す場合には時効があります。遺産分割協議が遺産分割協議をやり直す場合には期限はありません。錯誤、詐欺または強迫によって行なわれて取り消すことができる場合、取消権については追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅すると規定されています(相続開始からではなく、追認できる時が起算点です)。
遺産分割協議をやり直す場合の注意点

- やり直し前に第三者に譲渡された遺産は、基本的に取り戻せない
- 全員の合意によるやり直しは、贈与税や譲渡所得税の対象になることがある
やり直すときに、注意すべき点はありますか。
譲渡済みの遺産と、課税の問題に特に注意が必要です。
遺産分割をやり直す場合にはいくつかの注意点があります。詳しく解説します。
第三者に譲渡された遺産は取り戻せない
遺産分割をやり直す際に注意すべきなのが、やり直し前に当初の取得者が第三者に遺産を譲渡してしまった場合です。
第三者に譲渡された遺産は、基本的に取り戻せません。
しかし、第三者が被相続人の遺産を搾取しようとして、相続人に入れ知恵をして詐欺を行った場合には、取り戻せる可能性があります。
やり直し後は不動産登記の名義変更が必要
協議をやり直したい遺産のなかに家・土地・マンションなどの不動産がある場合、不動産登記の名義変更が必要です。
法定相続分に基づく相続登記がされている場合には、遺産分割を原因とする不動産登記をします。最初の遺産分割協議によって決められた内容で登記をしている場合には、登記の状況に応じて、更正登記や所有権移転登記など、必要な登記手続きを行うことになります。
不動産の名義変更には、登録免許税がかかります。また、登記を司法書士に依頼した場合には、司法書士への報酬の支払いも生じます。やり直しに伴って、これらの費用が改めて発生する点にも注意しましょう。
贈与税・譲渡所得税が課税されるおそれ
遺産分割協議のやり直しによって遺産の移動が譲渡・交換・贈与にあたると判断される場合、課税の対象となる可能性があります。
そのため、相続する遺産が減った方から相続する遺産が増えた方に対する贈与等にあたると判断されれば贈与税が、譲渡・交換と評価できる場合には所得税等がかかります。
最初の遺産分割協議から新しく遺産が移転したものと評価をする以上、既に相続税を申告・納付している部分については影響ありません。
なお、最初の相続が無効・取消ができる場合には、遺産分割後に遺産を移転したという評価をすることはできないため、税金はかかりません。
遺産分割協議をスムーズに進める流れと弁護士に相談すべきケース

- 遺産分割協議は、相続人の確定と財産調査を済ませてから進めるのが基本
- 揉めている・連絡がつかない・10年経過が近い場合は弁護士への相談を検討
実際に協議を進めるには、どうすればよいのでしょうか。
手順に沿って進めるのが確実です。相談すべきケースもあわせて説明します。
STEP1〜5:相続人の確定→財産調査→協議→協議書作成→調停
遺産分割協議は、次の手順で進めるのが基本です。順序を飛ばすと、後でやり直しになることがあります。
- STEP1 相続人の確定:被相続人の出生から死亡までの戸籍を集め、法定相続人が誰かを確定します。ここに漏れがあると、協議自体が無効になります
- STEP2 相続財産の調査:預貯金・不動産・有価証券などのプラスの財産と、借金などのマイナスの財産をすべて洗い出します
- STEP3 遺産分割協議:相続人全員で、誰がどの財産を取得するかを話し合います
- STEP4 遺産分割協議書の作成:合意した内容を書面にまとめ、相続人全員が署名・押印します
- STEP5 調停・審判:話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます
弁護士に相談するメリット
遺産分割で弁護士に相談・依頼すると、主に次のメリットがあります。まず、遺産の調査を念入りに行うため、あとから新しい遺産が出てきてトラブルになる可能性を減らせます。次に、取消しや無効の主張など、法的に難しい判断が必要な場面で、法律の専門家として適切に対応できます。そして、当事者の間に弁護士が入ることで、感情的な対立を避け、冷静な交渉が期待できます。
遺産分割の争いは感情的になりやすく、頭では落とし所がわかっていても交渉がまとまらないことが珍しくありません。弁護士が代理人として間に入ることで、話し合いがスムーズに進むことがあります。
弁護士に相談すべきケース
特に、次のようなケースでは、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
- 相続人の間で分け方について揉めている、または揉めそうな場合
- 一部の相続人と連絡がつかない、疎遠で話し合いがしにくい場合
- 相続開始から10年が近づいており、特別受益や寄与分を主張したい場合
- 遺産に不動産が含まれ、評価や分け方でもめそうな場合
これらのケースは、放置すると選択肢が狭まったり、期限を過ぎて権利を失ったりするおそれがあります。当事務所には相続問題に詳しい弁護士が在籍しておりますので、お早めにご相談ください。
よくある質問・まとめ

- 10年を過ぎても協議自体はできるが、特別受益・寄与分は原則主張できなくなる
- 何年も前の相続でも、不動産があれば相続登記の義務は生じる
最後に、よくある疑問を教えてください。
特に質問の多い4つの点を確認していきましょう。
10年を過ぎたら遺産分割協議はできなくなる?
できなくなるわけではありません。遺産分割協議そのものに期限はなく、相続開始から10年を過ぎても協議は可能です(民法907条1項)。
ただし、10年を過ぎると、特別受益や寄与分を考慮した「具体的相続分」を主張することが、原則としてできなくなります(民法904条の3)。この場合、法定相続分を基準に分けることになります。特別受益や寄与分を主張したい事情がある場合は、10年が経過する前に動くことが重要です。
相続税の申告期限までに協議がまとまらないとどうなる?
相続税の申告期限(10か月)は、協議がまとまらなくても延長されません。この場合は、いったん法定相続分で仮に計算して申告・納付する「未分割申告」を行います。
未分割申告では、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減が当初は使えず、本来より高い相続税を納めることになります。ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、3年以内に分割がまとまった場合に、後から特例を適用して更正の請求で払い戻しを受けられます。
遺産分割協議のやり直しに期限はある?
全員の合意によってやり直す場合には、期限はありません。ただし、詐欺・強迫・錯誤を理由に取消権を行使してやり直す場合には、追認できる時から5年(行為の時から20年)という取消権の時効があります。
また、やり直しは原則としてできず、無効・取消原因があるか、相続人全員が合意した場合などに限られる点にも注意が必要です。全員の合意によるやり直しは、贈与税や譲渡所得税がかかることがあります。
何年も前の相続でも相続登記は必要?
必要です。2024年4月1日に施行された相続登記の義務化は、施行前に発生していた相続にも適用されます。過去に相続した不動産を名義変更しないまま放置している場合、原則として2027年(令和9年)3月31日までに相続登記を申請する必要があります。
正当な理由なく期限内に申請しないと、10万円以下の過料の対象になり得ます。心当たりがある場合は、早めに手続きを進めましょう。
まとめ
原則として遺産分割協議のやり直しはできませんが、絶対ではありません。例外的にできる場合もあります。しかし、不動産登記や税金などの問題もあるので、弁護士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
遺産分割協議そのものに法的な期限はありませんが、相続開始から10年で特別受益・寄与分の主張ができなくなり、相続税の申告(10か月)や相続登記(3年)には期限があります。「期限がないから大丈夫」と放置すると、選択肢が狭まり、税負担が増え、権利を失うおそれもあります。
遺産相続でお困りの場合には、一度弁護士に相談されることをおすすめ致します。当事務所には、相続問題に詳しい弁護士が在籍しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

- 遺産相続でトラブルを起こしたくない
- 誰が、どの財産を、どれくらい相続するかわかっていない
- 遺産分割で損をしないように話し合いを進めたい
- 他の相続人と仲が悪いため話し合いをしたくない(できない)
無料
この記事の監修者
- 東京弁護士会 / 一般社団法人日本マンション学会 会員
- 一見複雑にみえる法律問題も、紐解いて1つずつ解決しているうちに道が開けてくることはよくあります。焦らず、急がず、でも着実に歩んでいきましょう。喜んですぐそばでお手伝いさせていただきます。
最新の投稿
- 2025.09.19遺産分割協議遺産分割協議に期限はある?10年・3年・10か月の節目を弁護士が解説
- 2025.07.23相続全般婿養子の相続権はどうなる?実親・養親からの相続と注意点を解説
- 2025.07.22相続全般配偶者が全て相続すると相続税はどうなる?税額軽減と注意点を解説
- 2025.07.22相続全般祭祀財産とは?仏壇・お墓の相続と承継者の決め方・相続税の扱い








