
- 相続人の廃除には生前に家庭裁判所に申立てをするか遺言書で行う
- 相続人の廃除は認められにくいので遺言書で廃除を規定していても通らない可能性がある
- 廃除をする場合には生前にして、却下された場合のために遺言書で相続分を低くしておくことも検討する
【Cross Talk 】相続をさせたくない相続人がいるので遺言書で廃除を考えています
私が死んだときの相続について相談させてください。子どもの一人が非行を重ねたうえで音信不通になっていまして、相続をさせたくないのです。相続人の廃除という制度があるのを知り、遺言書で書いておこうと思っています。
相続人の廃除は非常に認められにくいので、生前にしておくことをおすすめします。
相談しておいてよかったです。是非方法を教えてください。
相続人の中で非行や虐待を行った相続人に相続をさせたくない場合に、相続人の廃除という制度を利用することで、相続をさせないことが可能となっています。 ただ、相続人の廃除は家庭裁判所の許可を得る必要があり、実務上許可を得るのは難しくなっています。遺言書でも廃除をすることができるのですが、これが認められなければ原則通り相続人として相続することになります。できる限り生前に申立てをしておくことが望ましいといえます。
相続人の廃除とは

- 相続人の廃除とは一定の事由がある場合に相続人の相続権を奪う制度
- 相続人の廃除は、生前の申立て・遺言書で行うことができる
相続人の廃除という制度の概要をおしえてください。
相続人の相続権を奪うもので、家庭裁判所の許可によって行われます。
相続人廃除の制度の概要を確認しましょう。
相続人の廃除とは
相続人の廃除とは、相続人が
・重大な侮辱を加えた
・相続人にその他の著しい非行があったときに家庭裁判所に請求をして、その相続人の相続権を奪うものです。
民法891条に同様に相続人となることができなくなる相続欠格について規定されていますが、891条1号から5号までの事由があると当然に相続人になることができないのに対して、相続人の廃除については家庭裁判所に請求し、手続きを経て相続権を奪うことになります。
相続人の廃除を請求できる人は誰か
被相続人の生前に相続人の廃除を家庭裁判所に請求できるのは、被相続人自身です。
相続人に対して、被相続人への虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行といった事情がある場合でも、他の相続人が相続人の廃除を請求することはできません。
相続人の廃除という制度は、相続人が被相続人と相続人との間の相続的共同関係または家族的共同生活関係を破壊したことに対する制裁であると考えられるので、廃除の請求をするかどうかは被相続人が判断することとされているのです。
また、被相続人は、遺言書で相続人を廃除する意思表示をすることもできます。
ただし、遺言書は遺言者の死亡によって効力が発生するので、遺言書の効力発生後に被相続人自身が家庭裁判所に相続人の廃除を請求することができません。
そこで、被相続人に代わり、遺言執行者が、相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならないとされています。
相続人の廃除の対象になるのは誰か
相続人の廃除の対象となるのは、遺留分を有する相続人です。
遺留分とは、被相続人の意思によって奪うことができない相続人の遺産に対する最低限の権利で、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が保証されています(民法1042条1項)。
したがって、遺留分を有しない兄弟姉妹は、相続人の廃除の対象ではないということになります。
とはいえ、兄弟姉妹に被相続人に対する虐待等の事情があっても相続させなければならない、という意味ではありません。
兄弟姉妹には遺留分がないので、被相続人は生前贈与や遺言書によって、相続させたくない兄弟姉妹に被相続人の財産を取得させないようにすることができるため、あえて相続人の廃除という制度を認める必要がありません。
そのため、遺留分を有しない相続人は、相続人の廃除の対象でないとされているのです。
相続人の廃除の方法
相続人の廃除は、被相続人が生前に家庭裁判所に請求をして行うほか(民法892条)、遺言書で行うことが可能です(民法893条)。 ただし、いずれの場合でも家庭裁判所の手続きを経て、相続人の廃除が相当であると判断された場合でなければなりません。家庭裁判所に申立てをする
被相続人の生前に家庭裁判所に相続人の廃除の申立てをする場合、被相続人や相続人の戸籍謄本等の必要書類を集めたうえで、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続人を相手方とする推定相続人廃除の審判を求める申立書を提出します。遺言書で請求する
遺言書で相続人廃除の意思表示をした場合、被相続人の死亡によって遺言書の効力が発生した後、遺言執行者が被相続人や相続人の戸籍謄本等の必要書類を集めたうえで、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続人を相手方とする推定相続人廃除の審判を求める申立書を提出します。 この場合、廃除の意思を明らかにするために遺言書の写しや、遺言執行者の資格を明らかにするための書類(遺言書で遺言執行者が指定されていないときの遺言執行者選任の審判書等)の提出も必要になります。申立て後の手続き
廃除の申立てをした被相続人または遺言執行者と、廃除の対象である相続人が、それぞれ民法が定める廃除事由(被相続人に対する虐待、重大な侮辱またはその他の著しい非行)があったか否かについて、主張・立証を行います。 家庭裁判所は、双方の主張・立証をもとに、相続人の廃除を認めるか否かの判断(審判)を示します。 家庭裁判所が相続人の廃除を認め、その審判が確定した場合、審判確定日から10日以内に、被相続人の本籍地の市町村役場で、相続人廃除の届け出をしなければなりません。 これによって、相続人の廃除の手続は完了となります。相続人の廃除の取消
家庭裁判所が相続人の廃除を認めた場合でも、被相続人は、いつでも相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができるとされています(民法894条1項)。 相続人の欠格事由と異なり、相続人の廃除を請求するかどうかは被相続人の判断に委ねられているので、いったん廃除が認められた後であっても、被相続人が相続人を許す制度が設けられているのです。代襲相続が発生する
被相続人の子が、被相続人の相続開始以前に死亡したときは、その方の子(被相続人から見れば孫)が代わりに相続人になります。これを代襲相続と言います。 代襲相続が認められるのは、典型的には上記の死亡のパターンですが、相続人が欠格事由に該当するときや廃除によって相続権を失ったときも、代襲相続が発生します(民法887条2項)。 したがって、家庭裁判所が相続人の廃除を認めたとしても、廃除された相続人の子が代襲相続することがあるのです。推定相続人の廃除がされると遺留分侵害額請求もできない
兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があるので、被相続人の生前贈与や遺言書によって遺留分を下回る額しか相続できなくなった場合(遺留分を侵害された場合)、不足額について金銭の支払いを求める遺留分侵害額請求をすることができます。 しかし、廃除された相続人は、遺留分侵害額請求をすることもできません。 遺留分は被相続人の意思によって奪うことができないので、被相続人に対する虐待など特別の事情がある場合に相続人の相続分を全面的に奪うために、相続人の廃除という制度が設けられているのです。相続人の廃除は生前にすべき?遺言書ですべき?

- 相続人の廃除は認められにくいので確実に行いたいのであれば生前に行う
- 遺言書で相続割合を下げることも検討する
相続人の廃除は生前でも遺言書でもどちらでも良いでしょうか。
相続人の廃除は認められにくいという事情があり、できれば生前に行っておきましょう。
相続人の廃除は生前に行っておくことが推奨されています。
相続人の廃除は認められにくい
その理由として、相続人の廃除は認められにくい傾向にあることがあります。 相続人の廃除は相続人の地位を失う重大なものなので、慎重に審理するからです。 相続人のことが気に入らないといった主観的な理由では申立ては認められません。
また、民法892条に該当するような事情があったとしても、一時的なものや、共同生活関係が破壊され修復することが困難である場合でも、被相続人の側にも落ち度があるようなものであれば、相続人の廃除は認めないことが多い傾向にあります。 相続人の廃除のためのハードルは高いということに留意する必要があります。
廃除が認められる例
過去の裁判例で廃除が認められた事例として、次のようなものがあります。・被相続人に対する虐待
釧路家北見支審平成17年1月26日家裁月報58巻1号105頁
妻(被相続人)の遺言執行者が夫を相手方として申立てた相続人廃除申立事件において、末期がんを宣告された妻が手術後自宅療養中であったにもかかわらず、療養に極めて不適切な環境を作出し、妻にその環境の中での生活を強いたり、「(被相続人は)五臓六腑が腐ってて、どうにもならんのだわ」「まもなく死ぬんだから」「(被相続人が治療の副作用のためにカツラを買ってほしいと頼んだのに対し)何時死ぬかわからない人間にカツラは必要ないだろう」などとその人格を否定する発言をしたりした夫の行為は、虐待に該当すると判断した
・被相続人に対する重大な侮辱
東京高決平成4年10月14日判例時報1448号130頁
被相続人(父)の二女が小中高在学中に非行行為を繰り返して保護処分歴を重ねたうえ、暴力団員と婚姻し、被相続人がその婚姻に反対であることを知りながら、被相続人の名で披露宴の招待状を作成して被相続人の知人等に送付した行為が、被相続人に多大な精神的苦痛を与え、家族共同生活を破壊するものであり、廃除事由に該当するとした
・その他の著しい非行
大阪高決平成15年3月27日家裁月報55巻11号116頁
被相続人の長男が、自己が管理する被相続人の多額の財産(賃貸物件の賃料で、普通に管理すれば公租公課を支払った後でも年間2600万円以上の黒字が残る)を、ギャンブルにつぎ込んでこれを減少させた(賃料を横領し、賃貸物件の固定資産税すら滞納する等した)行為が、著しい非行に該当するとした
廃除が認められなかった例
過去の裁判例で廃除が認められなかった事例として、次のようなものがあります。
名古屋高金沢支決平成2年5月16日家裁月報42巻11号37頁
被相続人が、長男と長男の妻から受けた暴行・傷害・苦痛は、長男とその妻だけに非があるとはいえず、被相続人にもかなりの責任があるから、その内容・程度と前後の事情を総合すれば、いまだ長男の相続権を奪うことを正当視する程度に重大なものと評価するには至らないとして、廃除事由には該当しないとした
福島家審平成元年12月25日家裁月報42巻9号36頁
被相続人の子が、被相続人の孫らを債務者として、いわゆるサラ金などから4口合計280万円の借金をさせて被相続人の子が融資を受けながら、支払いを怠ったため孫らがサラ金に弁済する破目になった件において、孫らに迷惑、不利益を与えたことについては当然その責任を負わなければならないが、そのことをもって被相続人の相続権を剝奪するに足る著しい非行があったと認めるのは無理であるとした
どうしても廃除をしたいのであれば生前に行う
遺言書で廃除の意思表示をしておけば、遺言書執行者が家庭裁判所に廃除の申立てをおこないます。 しかし、廃除には前述のように高いハードルがあるので、認められなければ相続人として相続をすることになります。
亡くなった後のことなので、後述するような対応策をとることもできなくなります。 できる限り、相続人の廃除は生前に行っておくことが望ましいといえます。
廃除が認められない場合には遺留分を考えた遺言書を作成する
廃除で相続させないことができない場合には、何もできないのでしょうか。 遺言書で、廃除をしたい相続人の相続割合を下げることは検討しても良いでしょう。 廃除の請求をしたい相続人が兄弟姉妹である場合は、兄弟姉妹に遺留分がないため、遺言書で相続分を0にすれば良いということになります。 遺留分のある相続人である場合には、遺留分を下回る相続分とすると、遺留分侵害額請求をされる可能性があるので注意しましょう。
まとめ
このコラムでは、相続人の廃除についてお伝えしました。 相続人の廃除は遺言書ですることができる旨は定められているのですが、相続人の廃除のハードルが高く認められないことがあります。 遺言書で相続分を減らすなどの対応をすることを検討するためにも、生前に相続人の廃除を行っておくのが望ましいでしょう。

- 死亡後の手続きは何から手をつけたらよいのかわからない
- 相続人の範囲や遺産がどのくらいあるのかわからない
- 手続きの時間が取れないため専門家に任せたい
- 喪失感で精神的に手続をする余裕がない
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