- 遺言書によって誰でも遺産を受け取ることができる
- 相続人でない親族は特別寄与料を請求できることがある
- 相続人がいない場合、特別縁故者として遺産を受け取れることがある
【Cross Talk 】相続人以外の方に遺産を渡すことができる?
私は妻に先立たれて一人暮らしをしていますが、近所に住んでいる息子の嫁がいろいろと世話をしてくれているので助かっています。息子の嫁にもいくらかの遺産を渡したいのですが、可能でしょうか?
遺言書によって相続人以外の方に無償で遺産を取得させることができます。また、遺言書がない場合でも、亡くなった方の療養看護に努めていた方など、一定の条件を満たした場合は遺産を受け取ることができます。詳しくご説明しましょう。
お願いします。
人が亡くなると、法律で定められた範囲の相続人(法定相続人)が、法律で定められた割合(法定相続分)で、亡くなった方の遺産を取得するのが原則です。 もっとも、亡くなった方自身が相続人以外の方に遺産を取得させたいと希望する場合や、相続人以外の方が遺産を取得する方が公平の理念にかなう場合もあります。 そこで今回は、相続人以外の人が遺産を受け取ることができるケースとその注意点などについて、詳しく解説いたします。
遺贈
- 遺贈によって誰にでも遺産を取得させることができる
- 相続人の遺留分に注意が必要
相続人以外に自分が選んだ人に遺産を渡すことはできますか?
遺贈によって、自分の選んだ人に遺産を取得させることが可能です。ただし、相続人には相続によって最低限保障された持ち分が認められているので、この利益に配慮する必要があります。
遺贈とは?
遺贈とは、遺言書によって自己の遺産を無償で他人に与えることを言います。 遺贈には、特定の遺産を与える特定遺贈と、遺産の全部または一部の割合を与える包括遺贈(たとえば、遺産の1/2を与えるなど)の2種類があります。 遺贈を受ける者(受遺者と言います)は、相続人であっても相続人以外の者であっても構いません。したがって、遺贈によって、子の配偶者など相続人以外の者に、自分が選んだ遺産を取得させることができるのです。遺贈の注意点
遺贈について注意が必要な点が2つあります。 まず、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するとされていることです(民法990条)。そのため、「遺産の1/2を遺贈する」という遺言書が為された場合、受遺者は権利だけではなく義務(債務)も1/2の割合で負担することになるのです。 また、相続人には遺留分があるということにも注意が必要です。遺留分とは、相続人が相続によって得られる最低限保障された持ち分のことです。遺贈や生前贈与によって、相続人が取得する遺産が遺留分を下回ることになった場合(遺留分を侵害された場合)、相続人は、受遺者や受贈者(贈与を受けた者)に対し、遺留分を侵害された額に相当する金銭の支払いを請求することができるとされています(民法1046条1項)。 そのため、遺留分を侵害するような遺贈をすると(たとえば、妻子と離れて愛人と生活していた人が、愛人に全遺産を与えると遺贈するなど)、受遺者と相続人の間のトラブルのもとを残すことになってしまうのです。 ですから、遺贈をする際は、相続人の遺留分を侵害しないか、あるいは遺留分を侵害された相続人が納得するか(遺留分侵害額請求は相続人の権利ですので、相続人が納得して権利行使しなければトラブルになりません)を、慎重に検討する必要があります。
特別寄与
- 相続人でない親族は特別寄与料を請求できる場合がある
- 特別寄与は2019年7月に施行された新しい制度
遺言書がなければ相続人以外の人が遺産を取得することはできないのですか?
直接遺産を取得するわけではありませんが、2019年7月以降の相続については、特別の寄与という制度が作られました。この制度によって、亡くなった方の療養看護などで無償の労務を提供して、亡くなられた方の財産の維持について特別寄与をした人は、相続人に対し特別寄与料という金銭を請求することができるようになりました。
特別寄与とは?
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をした(特別寄与)被相続人の親族(相続人は除く)は、相続人に対し寄与に応じた額の金銭の支払いを請求することができます(民法1050条1項)。相続人が複数いる場合、法定相続分に応じて特別寄与料を負担します(同条5項)。相続人が特別寄与者から除かれているのは、相続人には別途、寄与分(民法904条の2)という相続人の貢献を反映する制度があるからです。特別寄与の典型的な例は、被相続人の子の配偶者が無償で被相続人を介護した場合などでしょう。 特別寄与の制度ができる前は、相続人でない者の貢献を相続人の寄与分に取り込む(上記の例で言えば、子の配偶者の貢献を子の寄与として扱う)などして公平を図ろうとする裁判例がありました。しかし、このような処理の当否自体意見が分かれるうえ、被相続人の子が先に亡くなってしまった場合、子の配偶者の貢献を考慮する余地がなくなる(上記の例で言えば、被相続人に配偶者や他の子がいれば、配偶者や他の子が相続人になるだけで子の配偶者がどれだけ貢献してもそれを考慮に入れることができません)等の問題がありました。そこで、相続人ではない親族の寄与に直接的に報いるために作られたのが、特別寄与の制度です。
特別寄与料を主張する際の注意点
特別寄与は、2019年7月1日以降の相続について適用されます。新しい制度で大半の方がご存じないでしょうから、戸惑うこともあるでしょう。 また、遺産分割と異なり、特別寄与の請求には期限があることにも注意が必要です。 特別寄与者が相続の開始及び相続人の死を知った時から6ヶ月を経過した場合、または相続開始の時から1年を経過した場合は、特別寄与料の支払いを請求することはできないのです。特別縁故者
- 相続人がいない場合は特別縁故者が遺産の全部または一部を取得する
- 特別縁故者の手続きにはかなりの時間がかかる
相続人ではない親族は特別寄与の可能性があるみたいですが、親族でなければ何ももらえないのでしょうか?
いいえ。相続人がいない場合、被相続人と特別の縁故があった者は、被相続人の債務を清算して残った財産の全部または一部を取得することができます。
特別縁故者とは?
特別縁故者とは、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者をいいます(民法958条の3第1項)。 特別縁故者は、相続人がいない場合に、被相続人の債務を清算した後に残った財産の全部または一部を取得することができます。特別縁故者は、相続人以外の者に認められる可能性がある制度なので、法律上親族ではない内縁の配偶者、あるいは友人や法人(公益法人、学校法人など)も特別縁故者として認められる可能性があります。手続きの流れ
特別縁故者が財産を取得するまでの手続きの流れは、次のようになります。
・相続財産管理人選任の申立て相続人がいない場合、遺産は法人となり(民法951条)、相続人に代わって遺産を管理する人が必要になります。そこで、利害関係人または検察官は、家庭裁判所に対し、相続財産管理人選任の申立てをします(民法952条1項)。
・相続財産管理人の選任・公告家庭裁判所は相続財産管理人を選任し、官報で公告します(民法952条2項)。 この公告から2ヶ月以内に相続人のあることが明らかになったときは、相続財産法人は成立しなかったものとみなされ(民法955条)、通常の相続となります。
・相続債権者及び受遺者に対する弁済相続財産管理人選任の公告から2ヶ月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続債権者および受遺者に対し、一定の期間内(2ヶ月以上)に請求の申出をするよう公告します(民法957条1項)。この期間が満了すると、申出をした相続債権者や受遺者に弁済します(同条2項)。
・相続人の捜索の公告相続債権者および受遺者の債権の申出の期間が満了しても相続人のあることが明らかでないとき、家庭裁判所は、相続財産管理人または検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間(6ヶ月以上)にその権利を主張すべき旨を公告します(民法958条)。 この期間内に相続人としての権利を主張する者がいないときは、たとえ相続人がいたとしても、その権利を行使することができなくなります(民法958条の2)。
・特別縁故者への財産分与の申立て特別縁故者は、家庭裁判所に対し、特別縁故者への財産分与の申立てをします(民法958条の3第1項)。この申立ては、相続人捜索の公告の期間満了後3ヶ月以内にしなければなりません(同条2項)。
・財産分与の審判家庭裁判所は、相当と認める場合、清算後残存した遺産の全部または一部を特別縁故者に分与する決定(審判)をします。分与されなかった遺産は、国庫に帰属されます(民法959条)。
特別縁故者として主張する場合の注意点
繰り返しになりますが、特別縁故者として残余財産を受け取るには、相続人がいないことが条件となります。どれだけ被相続人の介護等に尽くしたとしても、また、被相続人と相続人がどれだけ疎遠だったとしても、相続人がいれば特別縁故者として財産を取得する余地はありません。 また、特別縁故者として財産を取得するには、2)で解説した手続きが必要になりますので、最終的に財産を取得するまでに、かなりの時間がかかってしまいます。まとめ
このページでは、相続人以外の方が遺産を取得する方法について説明しました。 相続人以外の方が遺産を受け取ることができるケースはあります。 相続人以外の方に遺産を渡したいとお考えの方は、専門家である弁護士に相談して、将来争いにならない遺言書を作るようにしてください。 相続人ではないが被相続人に貢献したので財産を取得できないかとお悩みの方も、特別寄与者や特別縁故者にあたる可能性はないか、弁護士にご相談するといいでしょう。
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