目次

はじめに

・今住んでいる家を相続で手放したくない そう考える配偶者や同居していた家族にとって、相続における自宅の扱いは大きな問題です。
特にほかの相続人と意見が合わず、「売却したい」「出ていってほしい」などと言われて戸惑うケースもあるでしょう。
本記事では、配偶者居住権や代償分割など、住み続けるために知っておきたい法的制度とその活用法、相続トラブルを避けるための対策をわかりやすく解説します。

住んでいる家の相続がある場合に知っておくべき「配偶者居住権」とは?

配偶者居住権とは、夫が亡くなって、残された配偶者が夫の所有していた建物に配偶者が亡くなるまで、または一定期間、無償で住むことができる権利のことをいいます。
令和2年に創設された比較的新しい制度で、民法1028条に規定されています。
配偶者居住権が認められるためには、以下3つの要件を満たす必要があります。
1.法律上の配偶者であること
2.被相続人が所有していた建物に被相続人が亡くなった時点で居住していたこと
3.「遺産分割・遺贈・死因贈与・家庭裁判所の審判」のいずれかにより配偶者居住権を取得

配偶者居住権の具体的な活用例

不動産を配偶者が取得することで配偶者が取得できる現預金が少なくなり、生活費が不足してしまうおそれがある場合、不動産の所有権をほかの相続人に相続させつつ、配偶者居住権で配偶者の居住を守ることができます。
不動産の所有権をほかの相続人が取得することで、現預金について配偶者の取得分が増えることになります。
そうすることで、配偶者は居住を守りつつ、その後の生活費分も考慮した内容の相続をすることができます。
なお、このように不動産の所有権を配偶者に渡さなくても居住を認めることができるので、配偶者が亡くなったときの二次相続について節税できる場合もあります。

配偶者短期居住権とは?

配偶者短期居住権とは、配偶者が無償で居住している建物について、遺贈や遺産分割によって退去することになったときでも6カ月は住み続けることができる権利のことをいいます。
配偶者居住権は当事者の合意によって設定するものですが、配偶者短期居住権は配偶者を保護するために強制的に認めることができる制度です。
従来は、遺産分割で配偶者以外の方が不動産を相続することになった場合、遺産分割が終わるまでは配偶者は無償で使用することが推定されているという判例によって、配偶者の無償での居住を推定していました。
配偶者短期居住権はこのような状態を明文で救済するとしたもので、6カ月間は居住をすることができ、配偶者の一方が死亡した場合でも新しい生活のための準備ができるものとしています。

「住んでいる家に住み続けたい」場合の対策方法

どうしても住み続けたい場合には、配偶者居住権の設定や、家という維持や解体にお金がかかるものであるという特性を考慮した交渉が必要です。
対策方法についてみていきましょう。
・生前に遺言書を作成しておく
・ほかの相続人に分けやすい現預金を用意する
・交渉のポイント

生前に遺言書を作成しておく

生前対策の一つとして、配偶者に不動産を相続させる・配偶者居住権を設定する旨の遺言書を作成しておきましょう。
配偶者が不動産を相続で、以下のような場合には配偶者居住権の設定をする旨の遺言書を作成するとよいでしょう。
・配偶者に現金がわたらない
・二次相続で相続税がかかる
・ほかの相続人の遺留分を侵害する
どのような遺言書を作成するかは、以下によって異なるので弁護士に相談することをおすすめします。
・共同相続人が誰か
・関係は良好か
・どのような遺産があるか

ほかの相続人に分けやすい現預金を用意する

遺産分割において現預金があると、自宅・不動産のような分けづらいものがある場合に、調整がしやすくなります。
また、遺言書を作成して遺留分を侵害するような場合に、遺留分侵害額請求に対して応じやすくなるでしょう。

交渉のポイント

家などの不動産がある場合の遺産分割協議をする際のポイントも知っておきましょう。
1,000万円の自宅がある場合と、1,000万円の現金がある場合とでは、遺産という観点からは同じ価値をもっていても、扱いは異なります。
不動産は現金に比べてすぐに利用することが難しく、固定資産税や維持費などがかかります。
この特性を主張することで、遺産の価格としては差があっても、了承してもらうように交渉しましょう。
例えば、夫婦で住んでいた不動産であれば、築何十年も経過していることが考えられます。
固定資産税はもちろん、維持費がかかることや、建て替えをする場合には建て替えの費用がかかることを交渉材料となります。

4つの遺産分割方法について解説

遺産分割の4つの方法について確認しましょう。
・換価分割
・代償分割
・共有分割
・現物分割

換価分割

換価分割は、相続財産を売却してお金に替えて分割する方法です。
例えば、相続財産のほとんどが不動産で、均等な遺産分割ができずに争いになってしまう場合、遺産としてお金に替えることで均等に分割を行います。
公平な相続ができるようになりますが、売却してしまうため、その不動産に住むことはできなくなります。

代償分割

代償分割は、不動産などの遺産を単独で相続する方が、ほかの相続人に金銭を支払う遺産分割方法をいいます。
例えば、不動産2,500万円相当と現預金500万円あって、配偶者と子ども1人で相続する場合、不動産を相続する配偶者が子どもに1,000万円支払うことで、それぞれ1,500万円分ずつ相続したことにできます。
ただし、配偶者が子どもに支払う現金がない場合には利用できませんので、注意してください。

共有分割

共有分割は、目的物を共有の形で分割するものです。
例えば、不動産の相続において配偶者と子ども1人が相続人である場合、不動産を持ち分1/2ずつの共有とする方法です。
均等な相続ができるのですが不動産が共有となるので、利用率の少ないほうが不満に感じたり、売りたい場合には共同で手続きをしなければならなかったりするなどのデメリットがあります。

現物分割

現物分割は、不動産は配偶者、現預金は長男、自動車は次男、という形で相続財産を分けずに相続する方法です。
権利関係が明確である一方、不動産の価値が相続財産全体の大部分を占めているような場合に、不公平感が生まれてしまいます。

住んでいる家の相続をする際の注意点

住んでいる家を相続する場合の注意点にはどのようなものがあるのか、みていきましょう。
・家を相続した際の税金に注意する
・家を相続したらなるべく早く相続登記をする

家を相続した際の税金に注意する

利便性の高い場所に不動産を所有している場合、価値がとても高額となることが多いです。
相続した遺産が相続税の基礎控除額「3,000万+(600万円×相続人の数)」を超えている場合には、相続税の申告・納税が必要です。
居住用の不動産を相続する場合には小規模宅地等の特例で相続税がかからないこともありますが、その場合でも相続税の申告は必要です。
また、家などの不動産の所有権者は固定資産税の支払いも必要となります。

家を相続したらなるべく早く相続登記をする

相続登記について2024年4月1日に施行された不動産登記法によると、不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。

第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
引用元:不動産登記法 | e-Gov 法令検索

また、施行されればそれ以前の相続登記にも適用されるため、この法律の施行日から3年以内に相続登記をしなければなりません。
さらに、不動産登記が被相続人のままになっていると、ほかの相続人が共有登記をして持ち分を売却するなどのトラブルに発展しかねません。
遅くとも3年以内を目途に、できるだけ早く相続登記を行うようにしましょう。

遺産分割で「住んでいる家に住み続けたい」場合に問題になること

遺産の大半を不動産が占める場合に、うまく分割できないことがあります。
遺産分割をする際に「今住んでいる家に住み続けたい」ことが問題になるケースについて解説します。

遺産の価値の大部分が不動産である場合

被相続人が所有していた家が住みやすい場所にある場合、不動産としての価値が高くなり、遺産の価値の大部分を占めているというケースも少なくありません。
相続人が複数いる場合には、遺産分割をする必要がありますが、法定相続分に沿って遺産を分割しようとしても、うまく分けられない可能性があります。
そのまま遺産分割交渉がうまくすすまないと、最悪の場合では不動産を売却しなければならなくなり、そのまま家に住み続けることができなくなることがあるのです。
例えば、次のような事例です。
遺産として、配偶者と同居していた1,900万円の自宅と50万円の現預金、50万円の自動車が遺産であるとしましょう。
遺産総額は2,000万円です。
相続人は、配偶者と子ども2人の合計3人で、配偶者はそのまま今の自宅に住み続けたいと考えています。
しかし、1,900万円の不動産を相続するとなると、遺産の9割以上を一人で相続することになってしまいます。
子ども2人のうち、もう1人の子どもも自宅に住んでいるような場合には、もう一人は現預金(50万円)と自動車(50万円)を相続することができても、法定相続分からするとバランスが悪くなります。
このような場合に、バランスをとるために配偶者と同居している子ども1人から、もう1人の子どもに対して金銭を支払う代償分割を行う方法があります。
しかし、法定相続分に従うと子ども2名は合計2,000万円の遺産のうち1/4にあたる500万円ずつを相続することができるので、現預金50万円・自動車50万円のほかに400万円を渡さなければなりません。
この支払いができず、同居していない子どもの側で遺産分割を徹底的に争うことになると、不動産を売却して分割する換価分割をすることになります。
そうなると、自宅に住むことができなくなります。

さいごに

相続財産として自宅がある場合に、遺産分割協議がうまくいかなくなると、最悪の場合自宅を退去しなければならない事態に陥ることもあります。
バランスが悪い相続になる場合に、現金をなるべく用意しておくことや、配偶者居住権の設定をする、などの配慮をしつつ、不動産という遺産の特徴を考慮して遺産分割交渉をするようにしてみましょう。

相続支援に関しては北大阪相続遺言相談窓口も参考にしてみてください。

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