はじめに
相続で不動産を引き継いだ場合、「固定資産税は誰が払うの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
被相続人(亡くなった方)名義のままでも納税通知書は届きますが、相続後は相続人が税金を負担することになります。
とはいえ、相続人が複数いる場合や不動産を売却・共有している場合など、誰がどのように支払うのかをめぐって混乱が生じるケースも少なくありません。
本記事では、相続した不動産の固定資産税を誰が支払うのか、税金の計算方法や注意点について、わかりやすく解説します。
納税トラブルを防ぐためにも、基本的なルールをおさえておきましょう。
固定資産税とはどのような税金か
固定資産税とは、不動産などの固定資産に対して課される税金です。
対象となる固定資産には土地、家屋、償却資産(製造設備や医療機器など)などがあります。
固定資産税の課税主体は、その固定資産の所在する市町村(東京23区内では都が課税)です。
例えば、相続した不動産がA市にある場合、A市に固定資産税を納付します。
固定資産税の支払義務者
固定資産税の支払義務者とは、固定資産税を納付する義務がある方のことです。
その年の1月1日時点で不動産を所有している方(所有者として固定資産課税台帳に登録されている方)が、固定資産税の支払義務者となります。
例えば、不動産を相続して新しい所有者になり、ある年の1月1日時点で所有者である場合は、その年の固定資産税の支払義務者として固定資産税を納付しなければなりません。
相続後の不動産の所有権はどうなるか
固定資産税は、不動産の所有者に対して課せられることがわかりました。
では、相続後の不動産の所有権はどのように扱われるのでしょうか。
以下で詳しく解説します。
相続直後の不動産の所有権はどうなっているのか
相続人が複数いる場合、相続直後の不動産の所有権は、共同相続人の間で共有している状態になるのが原則です。
例えば、被相続人である父親が亡くなって、配偶者である母親と一人息子が相続人である場合、父親が所有していた自宅は母親と子どもが共有している状態になります。
相続によって不動産を共有する場合、共有者それぞれの持分は、相続分によります。
上記の例においては、不動産を共有する母親の相続分が1/2、子の持分が1/2の場合は、それぞれ1/2ずつの持分で不動産を共有します。
なお、持分といっても、持分の割合でしか不動産を使用できないということではありません。
不動産の共有者はそれぞれの持分に関係なく、不動産全体を使用することができます。
一方、相続人が1人しかおらず、その相続人が遺産を単独で相続する場合は、不動産は共有状態にはならず、相続人が単独で所有権を有します。
遺産分割をした場合の不動産の所有権はどのようになるのか
不動産が各相続人の共有状態になった場合、共有の状態が解消されるのは、遺産分割協議によって不動産を誰が相続するかが確定した場合です。
遺産分割協議とは、相続人の間で遺産をどのように分割するかを協議することです。
例えば、父親の遺産として不動産と預貯金がある場合に、相続人である母親と子どもが遺産分割協議をして、母親が不動産を相続し、子どもが預貯金を相続することを決める場合が例です。
遺産分割協議が有効に成立するには、全ての相続人が同意する必要があります。
遺産分割協議が成立すると、遺産は協議の内容に従って分割されます。
例えば、母親と子どもが遺産分割協議をした結果、母親が自宅を相続することが決まった場合、それまでの共有の状態は解消されて、母親が単独で自宅の所有権を有することになります。
相続放棄をした場合の不動産の所有権はどのようになるのか
相続放棄とは、被相続人の遺産の一切を相続しない効果を生じさせる手続きのことです。
相続放棄をすると、法的には最初から相続人ではなかったものとして扱われます。
また、相続放棄では預貯金や不動産など一般にプラスとなる積極財産だけでなく、借金などの消極財産についても相続権はなくなります。
なお、相続放棄をした場合、最初から相続人ではなかったことになるので、被相続人の遺産である不動産についても相続せず、不動産の所有権は取得しません。
例えば、親が亡くなって一人息子である子どもが単独で不動産を相続する状況において、親と生前に仲が悪かったので遺産を相続したくないなどの理由で子どもが相続放棄をした場合、子どもは親の遺産である不動産の所有権は取得しないことになります。
固定資産税の支払義務者は誰になるか
複数の相続人で不動産を相続する場合、遺産分割協議前はその不動産は相続人の間で共有状態になることがわかりました。
では、遺産分割前後で不動産の固定資産税の支払い義務者はどのように変わるのでしょうか。
以下で詳しくみていきましょう。
遺産分割前
固定資産税の支払義務者は、その年の1月1日時点の所有者であり、これは固定資産税の対象物について相続が発生した場合も同様です。
ある年の1月1日時点で、遺産である不動産について遺産分割が完了していない場合、不動産は各相続人が共有している状態にあります。
この場合、1月1日時点の不動産の所有者は各相続人なので、各相続人が固定資産税を支払わなければなりません。
なお、各相続人がどの割合で固定資産税を負担するかは、それぞれの持分に応じて負担するのが一般的です。
例えば、不動産を共有している相続人が母親(持分1/2)、長男(持分1/4)、次男(持分1/4)の3人の場合で考えてみましょう。
それぞれの持分に応じて10万円の固定資産税を負担すると、それぞれの負担分は母親5万円、長男2万5000円、次男2万5000円となります。
遺産分割後
遺産分割によって遺産である不動産の所有者が確定したあとは、基本的にその所有者が固定資産税の支払義務者になります。
例えば、2021年の12月10日に相続が開始したあと、2022年の1月16日に不動産の所有者が次男に確定した場合で考えてみましょう。
2022年分の固定資産税については、2022年1月1日時点ではまだ共有状態にあるので、固定資産税の支払義務者は各相続人全員です。
一方、2023年分の固定資産税については、2022年1月16日に不動産の所有者が次男に確定しているので、2023年1月1日現在で次男が所有権を有している場合には、2023年分の固定資産税の支払義務者は次男になります。
少しわかりにくい場合もありますが、その年の1月1日時点の所有者が誰であるかがポイントです。
固定資産税の計算方法
ここからは、固定資産税の計算方法について詳しく解説します。
対象となる不動産ごとに計算方法や特例等に違いがあるので、ポイントをおさえておきましょう。
固定資産税の対象
固定資産税の課税対象となる資産は、「土地・家屋」と「償却資産」です。
前者の土地・家屋でまとめて不動産を所有している場合に固定資産税がかかると説明されることが多いのですが、土地・家屋以外の事業の用に供することができる資産である償却資産にも固定資産税がかかるので注意が必要です。
なお、事業の用に供することができる資産でも、以下のようなものは償却資産には含まれません。
- 自動車(自動車税・軽自動車税の対象となるため)
- 無形固定資産(特許権・商標権・ソフトウェア)
- 耐用年数1年未満または10万円未満の償却資産で固定資産として計上しないもの
- 20万円未満の償却資産で税務会計上3年間で一括償却している
- リース資産で取得価格が20万円未満である
土地の固定資産税の計算方法
土地の固定資産税は、以下のように計算します。
家屋の固定資産税の計算方法
家屋の固定資産税については、以下の計算式で算出します。
なお、住宅については次のような特例措置があります。
- 小規模住宅用地(住宅用地で200㎡以下)=固定資産税の課税標準額を評価額の1/6で計算
- 200㎡超=固定資産税の課税標準額の評価額を1/3で計算
- 認定長期優良住宅以外:床面積が120㎡以下の部分につき固定資産税が1/2に減額(3年間or3階建以上の中高層耐火・準耐火住宅の場合には5年間)
- 認定長期優良住宅:床面積が120㎡以下の部分につき固定資産税が1/2に減額(3年間or3階建以上の中高層耐火・準耐火住宅の場合には7年間)
償却資産の固定資産税の算出方法
償却資産の固定資産税については、以下の計算式で算出します。
なお、償却資産については減価償却があるので取得時期によって以下のように評価額を計算します。
- 前年の期中に取得した場合=取得価格✕(1-耐用年数に応ずる減価率÷2)
- 前年より前に取得した場合=前年度評価額✕(1-耐用年数に応ずる減価率)
どの時点の評価額が課税対象か
固定資産税の評価額は、その年の1月1日時点の評価額で決められます。
相続財産の固定資産税を納税する際に気を付けること
遺産相続によって固定資産税の支払いが生じる場合、以下のような点に注意が必要です。
- 支払い期限に注意する
- 被相続人の口座の状態を確認しておく
支払い期限に注意する
固定資産税には支払い期限(納付期限)が設定されています。
納付期限をすぎると延滞金が発生するので、納付期限には注意をしましょう。
被相続人の口座の状態を確認しておく
固定資産税は銀行引き落としで納付をすることができます。
被相続人が銀行引き落としにしていた場合、亡くなった直後だと引き落としされてしまう可能性があります。
銀行は亡くなったことがわかると口座を凍結することになっているので、被相続人が亡くなったことは早めに銀行に知らせて凍結してもらい、口座から引き落とされないように確認しておきましょう。
さいごに
不動産の相続では、所有者が一時的に共有状態になることも多く、タイミングごとに固定資産税を誰が支払うかは変わってきます。
そのため、不明な点がある場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。


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