はじめに
親が亡くなり、借金などの理由から相続放棄を検討しているなかで「未支給年金は受け取れるのだろうか」と不安に思う方もいるのではないでしょうか。
相続放棄の基本的なルールや注意点を正しく理解しておかないと、思わぬ損失につながるおそれもあります。
本記事では、相続放棄をしても未支給年金を受け取れる理由や、その他に受け取れる可能性のある財産、注意点までわかりやすく解説します。
未支給年金は相続放棄をした方でも受け取れる
年金給付の受給権者である被相続人が亡くなったときに支給される年金であるものの、まだ支給されていないものを未支給年金と呼びます。
例えば、老齢基礎年金の受給権者が5月20日に亡くなった場合、最後に受け取る年金は、4月15日に支給される2月分と3月分になります。
年金は本来「受給権者が亡くなった月」まで支給される仕組みですので、上記の場合、4月分と5月分が未支給年金となり請求が可能です。
国民年金の場合は、年金事務所または年金相談センターで申請を行ってください。
未支給年金は遺産ではない
未支給年金は亡くなった受給権者の遺族が、「自己の固有の権利」として請求するものであり、遺産とはみなされません。
相続税法上、相続財産となるものを「みなし相続財産」と呼び、生命保険金・死亡退職金などが当てはまります。
未支給年金は、相続とは別の立場から一定の遺族に支払うもの(平成7年11月7日最高裁判決)であるため、みなし相続財産には該当しません。
そのため、相続税の対象外となり遺族の一時所得となります。
未支給年金を受け取れる方
未支給年金は、遺族の請求に基づき支給され3親等以内の親族が請求できます。
3親等の親族には、以下が該当します。
- 曾孫
- 曾祖父母
- 甥・姪
- 伯父・伯母
- 配偶者の曾祖父母
- 配偶者の甥・姪
- 配偶者の伯父・伯母
未支給年金を受け取るための手続き
未支給年金(国民年金)を受け取れるのは3親等以内の親族ですが、順位が存在します。
亡くなった時点で生計を一にしていた以下の順番です。
① 配偶者
② 子ども
③ 父母
④ 孫
⑤ 祖父母
⑥ 兄弟姉妹
⑦ その他の3親等内の親族
年金事務所または年金相談センターに、死亡の届出と未支給年金に関する届出が必要となります。
種類 | 必要書類 |
---|---|
死亡の届出に関する書類 | 年金受給権者死亡届(報告書) 亡くなった方の年金証書 亡くなったことを明らかにできる書類 例:戸籍抄本、役所に提出した死亡診断書(死体検案書等)のコピー、死亡届の記載事項証明書など |
未支給年金請求に関する書類 | 亡くなった方の年金証書 亡くなった方と請求する方の続柄が確認できる書類 |
例:戸籍謄本、法定相続情報一覧図の写しなど 亡くなった方と請求する方が生計を同じくしていたことが分かる書類 例:亡くなった受給権者の住民票(除票)と請求者の世帯全員の住民票など 未支給年金の振込先となる金融機関の通帳 ※金融機関から口座の証明を受けた際には添付する必要はありません。 <亡くなった方と請求する方が別世帯の場合> 生計が同一であることについての別紙の様式 |
日本年金機構にマイナンバーが収録されている方は、原則として、「年金受給権者死亡届(報告書)」を届け出る必要はありません。
他にも場合ごとに必要書類が異なる可能性がありますので、ねんきんダイヤルまたは年金事務所に問い合わせたうえで申請をしましょう。
確定申告が必要な場合があるので注意
未支給年金は相続財産にもみなし相続財産にも該当しませんので、所得税における一時所得とされます。
所得税の対象となるため、確定申告が必要な場合があります。
ただし、支給金を受け取る年度で「受け取った方の支給金を含む一時所得の金額」の合計額が50万円以下である場合は、確定申告は不要です。
未支給年金には期限がある
未支給年金については、受給権者の年金支払い日の翌月の初日から起算して、5年以内に請求をしなければ時効となり、請求できなくなるとされています。
そのため、原則的に5年以内に請求を行いましょう。
ただし、やむを得ない事情によって5年以内に請求できなかった場合には、年金事務所にその理由を説明すれば受け取れる場合もあります。
相続放棄をしても受け取れるもの・受け取れないもの
未支給年金のように相続放棄をしても受け取れるものと、受け取れないものを確認しておきましょう。
相続放棄をしても受け取れるもの
相続放棄をしても受け取れるものとして、次のようなものが挙げられます。
1.香典
通夜・葬儀の際に香典を受け取りますが、これは相続の対象になるわけではなく、遺族や喪主として受け取るものと解釈されます。
2.健康保険の葬祭費や埋葬料
健康保険の葬祭費や埋葬料は相続の対象になるわけではなく、遺族にかかる費用を補填するためのものです。
3.遺族年金
遺族年金は相続人としての地位に基づいて支給されるものではなく、遺族に対して支給されるものです。
4.死亡一時金
年金の死亡一時金も、遺族年金と同様に、相続人の地位に基づいて支給されるものではなく、遺族に対して支給されるものです。
5.遺族が受取人の生命保険金
遺族が受取人となっている生命保険金は、相続人であるから受け取れるわけではなく、生命保険契約に基づいて受け取ることができるものです。
そのため、生命保険金も相続放棄をしても受け取ることができます。
なお、生命保険金を受け取った場合、みなし相続財産として相続税の課税対象になるので、相続放棄をしても相続税の申告・納税が必要となります。
6.遺族が受取人の死亡退職金
遺族が受取人の死亡退職金については、労働契約に基づく支給となり、相続によって受け取るわけではないので、相続放棄をしても受け取ることができます。
なお、死亡退職金を受け取った場合、みなし相続財産として相続税の課税対象になるので、相続放棄をしても相続税の申告・納税が必要となります。
7.被相続人が世帯主でない場合の高額医療還付金
被相続人が世帯主でない場合の高額医療還付金は、世帯主に対して支払われるので相続財産となりません。
8.祭祀財産
お墓・仏壇・位牌などの先祖を祀るための財産を祭祀財産といいます。
祭祀財産は祭祀承継者とされた方に承継されることになっており、相続放棄をした方でも祭祀承継者とされていれば、祭祀財産を受け取ることができます。
相続放棄をすると受け取れないもの
一方で、次のものは相続放棄をすると受け取ることができません。
1.被相続人の遺産である現預金・株式・不動産・動産・債権
被相続人の遺産である現預金・株式・不動産・動産・債権といったものは、相続人に分け与えられるものになるので、相続放棄をした以上は受け取ることができません。
亡くなった方の形見であるからといっても、法律上は承継する権利はありませんので注意しましょう。
2.被相続人が受取人の死亡保険金
死亡保険金について、受取人が被相続人となっている場合には、死亡保険金は相続財産に含まれることになります。
そのため、相続放棄をすると受け取ることができません。
3.被相続人に支給される死亡退職金
死亡退職金について被相続人に支給される場合には、死亡退職金は相続財産に含まれることになります。
4.被相続人が世帯主だった場合の高額医療還付金
被相続人が世帯主である場合に、高額医療還付金は被相続人本人が取得します。
そのため相続財産に含まれることになります。
5.被相続人が請求できる税金や保険料の還付金
被相続人が税金や保険料を納めすぎていた場合の還付金について、請求できるのは被相続人本人なので、被相続人の債権として相続財産に含まれることになります。
遺産を使い込むと相続放棄ができなくなる
相続放棄は被相続人の全ての遺産を放棄する行為で、自己のために相続の開始があったことを知った日(被相続人が亡くなったことや先順位の相続人の相続放棄完了を知った日)から3カ月以内に家庭裁判所に申し立てることで手続きが可能です。
相続放棄は、遺産に債務が多い、遺産が不要である、あらかじめ自身以外に受け継ぐ方が決まっている場合などで申し立てることが多いです。
被相続人に債務があり資産状況がわからないときには、「限定承認」というプラスの遺産の範囲内だけでマイナスの遺産を引き継ぐ手続きを選ぶ場合もまれにあります。
単純承認の条件は、期限内に家庭裁判所に申立てを行わないことや遺産の全部または一部を処分(使い込む等)することであり、これにより相続を承認した(単純承認)とみなされ、自動的に相続したものとされます。
単純承認の取消しや撤回はできませんので、注意が必要です。
また、遺産の使い込みの例としては、遺産分割前の段階で他の相続人に相談せずに、遺産を自身の支払いに充てる、勝手に売却する、着服する行為などがあり、相続放棄を行わなくても相続人の間でトラブルの元となってしまいます。
さいごに
相続放棄をした場合でも、未支給年金をはじめとする一部の給付や財産を受け取ることができます。
ただし、請求には期限や必要書類があるため、早めの対応が求められます。
相続放棄のルールについて詳しく知りたい方は、弁護士に相談することをおすすめします。

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