遺留分の計算方法

- 遺留分の計算は基礎財産の算定、遺留分額の計算、遺留分侵害額の計算の3ステップで行う
- 生前贈与や特別受益、不動産の評価額によって結果が変わることがある
- 生命保険金は原則として基礎財産に含まれない
- 相続放棄がある場合は法定相続分や遺留分割合が変わる
目次
【Cross Talk 】遺留分の計算方法
遺留分侵害額請求をしたいのですが、自分がいくら請求できるのかわかりません。
遺留分侵害額は、基礎財産や遺留分割合などを順番に計算することで算出できます。
遺留分の計算方法
遺留分侵害額請求を検討しているものの、自分はいくら請求できるのか、そもそも遺留分はどのように計算すればよいのか、わからないという方もいるでしょう。遺留分の計算には生前贈与や不動産の評価額、相続放棄の有無なども関係するため、一見すると難しく思えます。しかし、計算の流れを理解し、順番に確認していけば、自分でも遺留分額を算出することは可能です。
この記事では、遺留分の計算方法を3つのステップに分けて解説し、具体的な計算例や実務上よく問題になるポイントを紹介します。遺留分侵害額請求を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
遺留分の計算方法を3ステップで解説

- 遺留分は、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人が主張できる最低限の取り分
- 基礎財産の算定、遺留分額の計算、遺留分侵害額の計算という3つのステップがある
遺留分はどのように計算するのでしょうか。
基礎財産の算定、遺留分額の計算、遺留分侵害額の計算という3つのステップがあります。
遺留分の基礎知識
遺留分とは、相続において被相続人の兄弟姉妹以外の相続人が主張できる最低限の取り分のことです。民法1042条では、遺留分について以下のように規定されています。
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
引用元:民法 | e-Gov法令検索
上記のような遺留分を有する相続人について、民法では遺留分侵害額請求ができることを定めています。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
引用元:民法 | e-Gov法令検索
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
一部の相続だけが財産を相続して不公平になっている場合、ほかの相続人が遺留分侵害額請求を行うことで、最低限の取り分を確保できます。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
遺留分の計算方法3ステップ
遺留分の計算は、以下の3ステップで行います。・基礎財産の算定
・遺留分額の計算
・遺留分侵害額の計算
まずは、被相続人が亡くなった時点の財産に生前贈与を加え、債務を差し引き、遺留分計算の土台となる基礎財産を算定します。
次に、その基礎財産に遺留分割合をかけて、自分に認められる遺留分額を計算します。
最後に、相続で取得した財産や負担した債務などを反映し、請求できる遺留分侵害額を算出します。
遺留分侵害額請求を行う際は、上記の3ステップで具体的な金額を計算します。
遺留分の計算前に自分が遺留分権利者かを確認する
遺留分を計算するうえで、まずは自分が遺留分権利者に該当するかどうかを確認する必要があります。前述の通り、遺留分が認められるのは兄弟姉妹を除く相続人です。具体的には、被相続人と以下の関係にある相続人が該当します。
・配偶者
・子
・孫(代襲相続の場合)
・直系尊属(父母・祖父母など)
孫に遺留分が認められるのは、代襲相続が発生している場合です。代襲相続とは、本来相続人になるはずだった子が被相続人より先に死亡している場合などに、その子どもである孫が代わりに相続人となる制度です。
ステップ1:遺留分算定の基礎財産を計算

- 「基礎財産=積極財産+生前贈与-債務」で計算する
- プラスの財産から借金を差し引いた金額が基礎財産になる
基礎財産にはどのようなものが含まれるのでしょうか。
通常の相続財産に加え、生前贈与などの持ち戻しを含めた額が基礎財産となります。
基礎財産の計算式は「積極財産+生前贈与-債務」
遺留分算定の基礎財産について、民法では以下のように定めています。
第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
上記を式で表すと下記のようになります。引用元:民法 | e-Gov法令検索
基礎財産=積極財産+生前贈与-債務
つまり、亡くなった時点で保有していた財産だけではなく、生前贈与や借金などの債務も踏まえて遺留分を計算します。
積極財産に含まれるもの・含まれないもの
積極財産とは、被相続人が亡くなった時点で保有していたプラスの財産のことです。例えば、以下のようなものが積極財産に含まれます。・不動産
・預貯金
・株式や投資信託
・現金
・自動車
・貴金属
これらを合計したものが、基礎財産のうちの積極財産の部分です。
生前贈与の持ち戻し
生前贈与とは、被相続人が亡くなる前に自身の財産を無償で譲り渡すことです。生前贈与された財産は被相続人の財産に含まれないため、本来であれば相続財産に含まれません。しかし、遺留分の計算においては、相続開始前の1年間にした生前贈与は基礎財産に加算することになっています。これを生前贈与の持ち戻しといいます。
生前贈与の持ち戻しについては、民法で以下のように定められています。
第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
引用元:民法 | e-Gov法令検索
相続人への贈与は特別受益の持ち戻しがある
相続人については、特別受益とみなされる贈与についてのみ持ち戻しの対象となり、相続開始前10年以内に贈与された財産が基礎財産の算定へ含まれます。特別受益とは、一部の相続人が被相続人から特別に受けていた利益のことです。例えば、住宅購入資金の援助や事業資金の援助、多額の生前贈与などが特別受益になる場合があります。
民法では、特別受益について以下のように定められています。
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
引用元:民法 | e-Gov法令検索
第三者への贈与は相続開始前1年以内が持ち戻しの対象
相続人ではない第三者への贈与については、特別受益に限らず相続開始前1年以内の贈与が遺留分算定の基礎財産へ含まれます。この点は、特別受益に該当する部分のみが持ち戻しの対象となる相続人への生前贈与とは異なります。そのため、被相続人が亡くなる直前に第三者へ多額の財産を渡していた場合には、その贈与も遺留分の計算へ影響する可能性があります。
当事者双方が損害を知っていた場合は持ち戻しの期限がない
民法では、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。」と定められています(民法1044条)。これは、贈与をした被相続人と贈与を受けた側の双方が、「この贈与によって他の相続人の遺留分が侵害される」と理解したうえで財産を移していた場合には、相続開始前1年より前の贈与であっても基礎財産へ含まれる可能性があるという意味です。
このような場合、相続開始から何年前に贈与された財産であっても、遺留分算定の基礎財産に含まれます。
借金・公租公課等の債務は控除される
遺留分算定の基礎財産では、プラスの財産を足し合わせたうえで被相続人の債務を控除します。債務には、以下のようなものが含まれます。
・借入金
・住宅ローン
・未払金
・未払税金
・固定資産税などの公租公課
このように、預貯金や不動産などのプラスの財産から借金などをマイナスの財産を差し引いた実質的な財産額をもとに遺留分を計算します。
ステップ2:遺留分割合を確認する

- 遺留分権利者全体に認められる総体的遺留分を確認する
- 総体的遺留分をもとに各相続人ごとの個別的遺留分を計算する
遺留分割合はどのように決まるのでしょうか。
民法に定められた割合があるので、それをもとに計算します。
総体的遺留分の計算
遺留分を計算する際は、まず遺留分権利者全体に認められる総体的遺留分を確認し、その後に各相続人ごとの個別的遺留分を計算します。総体的遺留分については、前述した民法1042条で以下のように定められています。
・直系尊属のみが相続人の場合:基礎財産の3分の1
・それ以外の場合:基礎財産の2分の1
例えば、相続人が配偶者と子である場合には、総体的遺留分の割合は2分の1となります。これに対し、相続人が父母のみである場合には、総体的遺留分の割合は3分の1となります。
個別的遺留分の計算
総体的遺留分が決まったら、次は各相続人の法定相続分に応じて個別的遺留分を計算します。計算式で表すと、以下のようになります。
・個別的遺留分=総体的遺留分×法定相続分
先ほどの例で、相続人が配偶者と子1人のケースでは総体的遺留分は2分の1と説明しました。そして、この場合の法定相続分は、配偶者2分の1、子2分の1なので、個別的遺留分は以下のようになります。
・配偶者:2分の1×2分の1=4分の1
・子:2分の1×2分の1=4分の1
つまり、このケースでは、配偶者と子それぞれに相続財産全体の4分の1ずつが遺留分として保障されることになります。
【遺留分割合の早見表】相続パターン別に紹介
| 相続人の組み合わせ | 法定相続分 | 各相続人の遺留分割合 |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 配偶者:全部 | 配偶者:2分の1 |
| 配偶者+子 | 配偶者:2分の1 子:2分の1 |
配偶者:4分の1 子:4分の1 |
| 子のみ | 子:全部 | 子:2分の1 |
| 配偶者+父(もしくは母) | 配偶者:3分の2 父(もしくは母):3分の1 |
配偶者:3分の1 父(もしくは母):6分の1 |
| 父(もしくは母) | 父(もしくは母):全部 | 父(もしくは母):3分の1 |
相続人の組み合わせによって、法定相続分や遺留分割合は変わります。まずは、自身のケースがどのパターンに当てはまるかを確認し、遺留分割合を把握しましょう。
ステップ3:遺留分侵害額を計算する

- 遺留分侵害額は、遺留分額から取得済みの財産を差し引き、承継した債務を加算して計算する
- 遺贈や相続で取得した財産や特別受益の額を控除する
遺留分侵害額はどのように計算するのでしょうか。
遺留分額から取得済みの財産を差し引き、承継した債務を加算します。
遺留分額と遺留分侵害額の違い
ここまでで説明した通り、遺留分額とは各相続人に法律上保障される最低限の取り分を指します。これに対し、遺留分侵害額とは、実際の相続内容によってその遺留分がどれだけ不足しているかを示す金額です。つまり、遺留分額は本来保障される取り分であり、遺留分侵害額は実際に不足している金額という違いがあります。
遺留分侵害額の計算方法
遺留分侵害額は、下記のように計算します。遺留分額-取得済みの財産+承継した債務
例えば、遺留分額が2,000万円、相続している財産が1,500万円、承継した債務の額が300万円であった場合、遺留分侵害額は以下のように計算します。
2,000万円-1,500万円+300万円=800万円
よって、このケースでは800万円が遺留分侵害額となります。
遺贈額・特別受益額・相続分などを控除
遺留分侵害額を計算する際は、既に取得している利益があればその分を差し引く必要があります。具体的な計算式は、以下の通りです。遺留分侵害額=遺留分額-遺贈額-特別受益額-取得した相続分+承継債務
遺留分権利者の承継債務を加算
遺留分侵害額を計算する際は、相続人が承継した債務を加算します。債務には以下のようなものが含まれます。・住宅ローン
・借入金
・未払税金
・その他の債務
例えば、1,500万円分の財産を取得していたとしても、同時に500万円の借金を承継している場合、遺留分額から控除されるのは1,500万円分ー500万円=1,000万円となります。
【ケース別】遺留分の計算シミュレーション5パターン

- 総体的遺留分を計算し、それをもとに個別的遺留分を出す
- 相続人の構成や財産の内容によって遺留分が異なる
計算式だけだと実際に遺留分がどれくらいになるのかイメージがつかないのですが。
それでは具体的な計算シミュレーションをみていきましょう。
ケース1:配偶者+子1人(財産5,000万円)
被相続人の遺産が5,000万円で、相続人が配偶者と子1人の場合を考えます。この場合、直系尊属のみが相続人であるケースではないため、総体的遺留分は2分の1です。また、配偶者と子が相続人となる場合、法定相続分はそれぞれ2分の1ずつとなります。
そのため、個別的遺留分は以下のように計算します。
・配偶者:2分の1×2分の1=4分の1
・子:2分の1×2分の1=4分の1
遺産が5,000万円なので、配偶者と子の遺留分額はそれぞれ1,250万円です。
ケース2:配偶者+子2人(財産1億円・生前贈与あり)
被相続人の遺産が1億円で、相続人が配偶者と子2人の場合を考えます。ここでは、子のうち1人が生前に2,000万円の贈与を受けていたものとします。この生前贈与が特別受益にあたる場合、遺留分算定の基礎財産に持ち戻して計算します。
1億円+2,000万円=1億2,000万円
総体的遺留分は2分の1であり、配偶者の法定相続分は2分の1、子の法定相続分は2人合わせて2分の1です。そして、子が2人いるので、1人あたりの法定相続分は4分の1となります。
以上から、個別的遺留分は以下のように計算します。
・配偶者:2分の1×2分の1=4分の1
・子1人あたり:2分の1×4分の1=8分の1
基礎財産が1億2,000万円なので、配偶者の遺留分額は3,000万円、子1人あたりの遺留分額は1,500万円です。
ケース3:配偶者+直系尊属(財産6,000万円)
被相続人の遺産が6,000万円で、相続人が配偶者と父の場合を考えます。総体的遺留分は2分の1、法定相続分は配偶者3分の2、父が3分の1となります。そのため、個別的遺留分は以下のように計算します。
・配偶者:2分の1×3分の2=3分の1
・父または母:2分の1×3分の1=6分の1
遺産が6,000万円なので、配偶者の遺留分額は2,000万円、父または母の遺留分額は1,000万円です。
ケース4:子のみ2人(財産3,000万円)
被相続人の遺産が3,000万円で、相続人が子2人のみの場合を考えます。この場合、総体的遺留分は2分の1で、子1人あたりの法定相続分は2分の1となります。そのため、個別的遺留分は以下のように計算します。
・子1人あたり:2分の1×2分の1=4分の1
遺産が3,000万円なので、子1人あたりの遺留分額は750万円です。
ケース5:直系尊属のみ(財産3,000万円)
被相続人の遺産が3,000万円で、相続人が父のみの場合を考えます。この場合、直系尊属のみが相続人であるため総体的遺留分は3分の1です。個別的遺留分は以下のように計算します。
・父:3分の1×1=3分の1
遺産が3,000万円なので、父の遺留分額は1,000万円です。
遺留分の計算における不動産の評価方法

- 不動産の評価方法は複数あり、どれを選ぶべきかは状況によって異なる
- 不動産評価は専門知識が必要なので、専門家への依頼も検討する
不動産価額をどのように評価するかが遺留分額に影響しそうです。
はい。不動産評価額は遺留分を計算するうえで重要なので、正しく理解する必要があります。
不動産評価の4つの方法を紹介
不動産の評価方法にはさまざまなものがありますが、代表的なものとしては以下の4つがあります。・時価
・路線価
・固定資産税評価額
・公示価格
時価とは、実際に市場で売買されると考えられる価格のことです。時価は不動産会社の査定額や周辺の取引事例などを参考に判断します。
路線価とは、国税庁が公表している土地の評価額です。路線価は主に相続税や贈与税の計算で使用されます。
固定資産税評価額とは、市区町村が固定資産税を算定するために定める評価額です。固定資産税評価額は固定資産税の納税通知書などで確認できます。
公示価格とは、国が毎年公表している土地価格の指標です。公示価格は一般的な土地取引の目安として利用されています。
同じ不動産であっても、どの評価方法を用いるかによって評価額が異なるので、不動産の評価方法が遺留分の計算に大きく影響します。
評価時点は相続開始時
遺留分を計算する際の不動産評価は、原則として相続開始時、つまり被相続人が亡くなった時点の価格を基準にします。そのため、被相続人が亡くなったあとで地価が上昇し、遺留分侵害額請求を行う時点で評価額が上がっていたとしても、その分の増加額は考慮されません。また、生前贈与された不動産が遺留分計算の対象となる場合、注意が必要です。この場合も贈与を受けた時点の価格ではなく、被相続人が亡くなった時点の価格を基準に評価します。
評価でもめたら専門家の依頼を検討する
不動産の評価額を計算する際、どの評価方法を用いるべきかはケースによって異なります。遺留分侵害額請求を行う側であれば、より高い評価額を主張したいと考えるでしょう。なぜなら、不動産の評価額が高くなるほど遺留分算定の基礎となる基礎財産が増えるため、請求できる遺留分侵害額も大きくなるためです。
そのため、実際には対象不動産の立地や利用状況、各評価方法の特徴などを踏まえながら、どの評価方法を採用するのが適切かを検討します。
もっとも、適正な不動産評価には専門的な知識が必要です。そのため、不動産鑑定士へ鑑定を依頼したり、相続問題に詳しい弁護士へ相談したりすることが推奨されます。
鑑定費用の相場
不動産鑑定を依頼する場合、費用の目安は一般的に20万円〜50万円程度です。ただし、物件の種類や規模、評価の難易度などによって金額は変動するため、一概にはいえません。不動産の評価額によって遺留分侵害額が大きく変わるケースでは、鑑定費用をかけてでも正確な評価を行うメリットは大きいでしょう。
遺留分の計算における生命保険・生前贈与・債務などの取り扱い

- 生命保険金は原則として遺留分算定の基礎財産には含まれない
- 金銭による生前贈与は、贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値へ換算したうえで評価する
ほかにも遺留分を計算するうえで注意すべき点はあるでしょうか。
生命保険金や過去に前贈与を受けた金銭の評価についても注意が必要です。
生命保険金は原則として基礎財産に含まれない
生命保険金は、原則として遺留分算定の基礎財産には含まれません。生命保険金は被相続人の遺産ではなく、保険金受取人として指定された人が取得する固有の財産と考えられています。そのため、被相続人が生前に保有していた財産とは区別され、相続財産には含まれないとされているのです。
したがって、生命保険の死亡保険金は相続財産に入らず、遺留分算定の基礎財産には含まれないことになります。
著しく不公平な場合は特別受益に準じる
生命保険金のすべてが基礎財産の対象外になるわけではありません。具体的には、受け取った保険金の額によっては相続人間に著しい不公平が生じる場合、特別受益に準じて持ち戻しの対象となる可能性があります。このような場合には、生命保険金を基礎財産へ加算したうえで遺留分を計算します。
金銭の生前贈与は相続開始時の貨幣価値へ換算する
生前贈与があったとき、贈与から相続開始までのあいだに長い年月が経過していることがあります。このような場合、物価変動などによって貨幣価値が変わっていることもあるため、どの時点の価値で評価するのかという問題が生じます。この点については、生前贈与された財産が金銭であれば、贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値へ換算して評価することなります。
そのため、過去の金銭贈与については当時の額面金額を用いるのではなく、相続開始時点の価値に引き直して計算することになります。
債務の控除と保証債務の扱いについて
遺留分算定の基礎財産を計算する際は、被相続人の債務を控除します。例えば、知人や金融機関からの借入金、住宅ローンの残債、固定資産税や住民税の未払分などが、控除の対象となります。ただし、保証債務については控除の対象になりません。保証債務とは、本来支払うべき人(主債務者)に代わり、保証人が支払い義務を負う債務のことです。
保証債務の保証人には将来的に支払義務が発生する可能性があるものの、相続開始時点では実際に支払うことになるかどうか確定していません。そのため、連帯保証を含む保証債務は、原則として遺留分算定の基礎財産を計算する際の控除対象にはならないとされています。
【応用編】相続放棄した人がいる場合の遺留分計算

- 相続放棄によって法定相続分が変わるため、遺留分額にも影響する
- 相続放棄をした相続人には代襲相続が発生しない
相続放棄は遺留分の計算に影響するのでしょうか。
はい。相続放棄をすると遺留分額が変わるので、両者の関係を理解する必要があります。
相続放棄とは?
相続放棄とは、相続によって取得する財産・債務を一切引き継がないための手続きです。相続放棄をした相続人は初めから相続人でなかったものとみなされ(民法939条)、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産も一切相続しません。そのため、相続放棄をした人は遺産分割協議に参加できなくなるだけでなく、法定相続分や遺留分を計算する際も最初から存在しなかったものとして扱われます。
相続放棄があった場合の法定相続分
相続放棄をした人がいる場合、法定相続分を計算する際に、その人を除いて計算します。例えば、相続人が配偶者と子3人であった場合、子1人が相続放棄をした場合としなかった場合で法定相続分に以下のような違いがあります。
「相続放棄をした場合」
・配偶者:2分の1
・子:4分の1×2(人)
「相続放棄をしなかった場合」
・配偶者:2分の1
・子:6分の1×3(人)
このように、一部の相続人が相続放棄をすることで残された相続人の法定相続分が変わるので、遺留分額の計算結果にも影響を与えます。
相続放棄があった場合の遺留分額
配偶者と子3人のうち、子の1人が相続放棄したケースについて、遺産総額を6,000万円として遺留分額を計算してみましょう。「法定相続分」
・配偶者:2分の1
・子:4分の1×2(人)
この場合の遺留分額は、以下のようになります。
・配偶者:6,000万円×2分の1×2分の1=1,500万円
・子:6,000万円×2分の1×4分の1=750万円
以上のように、それぞれの遺留分は配偶者が1,500万円、子は1人につき750万円となります。
相続放棄をしても代襲相続は発生しない
代襲相続とは、本来相続人となるはずだった人が被相続人より先に死亡している場合などに、その子が代わりに相続人となる制度です。例えば、相続発生時に被相続人の子が既に死亡している場合、被相続人の孫が子に代わって相続人となります。代襲相続は、相続放棄をした相続人については発生しません。先ほどの例でいえば、被相続人の子が相続放棄をしても、孫が代襲相続することはないということです。
なお、相続欠格や相続廃除の場合には代襲相続が発生するので、混同しないよう注意しましょう。
よくある質問・まとめ

- 遺留分侵害額請求はまず遺産分割協議の中で行う
- 消滅時効や除斥期間にかかると請求できなくなる点に注意が必要
遺留分侵害額請求はどのように行うのでしょうか。
まずは遺産分割協議の中で請求しますが、相手方の反応次第では調停や訴訟も検討します。
計算結果がプラスなら遺留分侵害額請求が可能
ここまで解説した通り、遺留分侵害額の計算には基礎財産、生前贈与、特別受益、取得した相続分、債務の承継などが考慮されます。そして、これらを踏まえて計算した結果、遺留分侵害額がプラスになれば遺留分が侵害されているということなので、遺留分侵害額請求を行えます。法定相続分より少ない財産しか取得していなかったとしても、生前贈与や遺贈によって既に十分な利益を受けていれば、遺留分侵害額が0円以下となることもあります。そのため、このような場合は遺留分侵害額請求は認められません。
遺留分侵害額請求ができるかどうかは取得した財産額だけで判断するのではなく、実際の計算結果から判断することが重要です。
遺留分侵害額請求の流れ
遺留分侵害額があるとわかった場合、一般的には以下の流れで請求を進めます。・内容証明郵便による請求
・当事者間での協議
・遺留分侵害額の請求調停
・遺留分侵害額の請求訴訟
その後は当事者間で、金額や支払方法などについて話し合いますが、話し合いで解決できない場合には、まず家庭裁判所へ遺留分侵害額の請求調停を申し立てます(調停前置主義)。調停でも解決できない場合は、地方裁判所または簡易裁判所(請求額により異なります)へ訴訟を提起することになります。
1年の消滅時効と10年の除斥期間がある
遺留分侵害額請求権は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年間」行使しないと消滅時効にかかり、請求権がなくなります(民法1048条前段)。また、遺留分侵害の事実を知らなかった場合であっても、相続開始の時から10年が経過すると除斥期間によって請求権がなくなります(民法1048条後段)。
そのため、遺留分侵害を知った時から1年もしくは相続開始から10年の、いずれか早い方が実質的な期限となります。期限を過ぎると遺留分があっても請求できなくなってしまうので、注意が必要です。
よくある質問
Q.生前贈与があったかわからない場合はどうすればよいですか?A.預金口座の取引履歴や契約書などを確認し、生前贈与の有無を調査することが可能です。場合によっては金融機関への照会などが必要になることもあります。
Q.不動産の評価額について相続人同士で意見が合わない場合はどうなりますか?
A.話し合いで解決できない場合は不動産鑑定士による鑑定を利用したり、調停や訴訟の中で評価額を決めたりすることになります。
Q.遺留分侵害額請求をしても相手が支払わない場合はどうなりますか?
A.話し合いで解決できない場合は、調停や訴訟を通じて支払いを求めることになります。
Q.遺留分侵害額は自分で計算できますか?
A.計算自体は可能ですが、生前贈与や特別受益、不動産評価などが関係すると計算が複雑になることがあるので、正確に計算するためには専門家への依頼を検討するのがおすすめです。
まとめ
遺留分侵害額請求ができるかどうかを判断するためには、まず遺留分侵害額を正確に計算する必要があります。
もっとも、遺留分の計算では、遺産の額を確認するだけではなく、生前贈与の有無や不動産の評価額、生命保険金の扱い、相続放棄の有無なども考慮しなければなりません。そのため、計算の前提となる事実関係によっては、請求できる金額が大きく変わることもあります。
特に、不動産が含まれているケースや多額の生前贈与があるケースでは、当事者だけで正確な計算を行うことが難しい場合もあります。
遺留分侵害額請求を検討している方や、ご自身のケースで請求できるか知りたい方は、一度弁護士へ相談してみるとよいでしょう。
もっとも、遺留分の計算では、遺産の額を確認するだけではなく、生前贈与の有無や不動産の評価額、生命保険金の扱い、相続放棄の有無なども考慮しなければなりません。そのため、計算の前提となる事実関係によっては、請求できる金額が大きく変わることもあります。
特に、不動産が含まれているケースや多額の生前贈与があるケースでは、当事者だけで正確な計算を行うことが難しい場合もあります。
遺留分侵害額請求を検討している方や、ご自身のケースで請求できるか知りたい方は、一度弁護士へ相談してみるとよいでしょう。
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