- 相続放棄をすると遺産を相続することができないが、借金などの債務も相続しなくてすむ
- 相続分を放棄しても相続債務の責任は無くならない
- 相続債務の責任を免れるには、相続分を放棄するのではなく相続放棄をする
【Cross Talk 】相続分を放棄することと、相続放棄をすることはどう違う?
亡くなった父に多くの借金があるとわかりました。借金を相続したくないので、遺産分割で私の相続分を放棄するか、相続放棄をしようと思います。この2つの手続きに違いはありますか?
借金などの相続債務は、遺産分割で相続分を放棄しても責任は免れません。相続債務を免れるには、相続放棄が必要となります。
そうなのですね。では、相続分を放棄することと、相続放棄には違いがあるんですね。それぞれの制度について詳しく教えてください!
遺産を相続しない方法には、遺産分割で相続分を放棄する方法と相続放棄をする方法があります。 2つの方法は同じように見えますが、実は大きな違いがあります。 そこで今回は、遺産分割で相続分を放棄することと、相続放棄の違いについて解説いたします。
遺産分割で相続分を放棄すること・相続放棄でどのようなことが起こるか
- 遺産分割で相続分を放棄すると、プラスの遺産も相続をしないことになる
- 相続放棄をすると、プラスの遺産もマイナスの遺産もすべて相続しないこととなる
遺産分割で相続分を放棄したり、相続放棄をしたりすると、どのような効果がありますか?
遺産分割で相続分を放棄すると、預貯金などのプラスの遺産も相続しないこととなります。相続放棄をした場合、プラスの遺産も借金などのマイナスの遺産も相続しないこととなります。
遺産分割で相続分を放棄することの法的な意味
遺産分割で相続分を放棄すると、プラスの遺産である預貯金や不動産などを相続しないことになります。 遺言書による相続分の指定がない場合、相続人全員で遺産分割協議という話し合いをして、遺産をどのように分けるかを決めなければなりません。 遺産分割において、自分の相続分を放棄すれば、プラスの遺産である現金や不動産などを相続しないことになります。例えば、相続人として長男と次男がいて、遺産は1,000 万円の現金がある場合で考えてみましょう。 法定相続分(民法が定める相続分)で相続した場合、1,000 万円の現金は長男と次男がそれぞれ500万円ずつ相続します。 もし、次男が遺産分割にて自分の相続分を放棄した場合、1,000 万円の現金は長男が相続し、次男は何も相続しないこととなります。
相続放棄をするとどのようなことになるのか
相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったものとみなされます。 相続人でなくなる以上、プラスの遺産である預貯金や不動産などに加え、マイナスの遺産である借金などの債務も相続しないこととなります。例えば、遺産として1,000 万円の預貯金と500万円の借金がある場合に相続放棄をすると、1,000 万円の預貯金は相続できなくなりますが、500万円の借金も相続せずに済むということになります。 相続放棄の主なメリットは、借金などのマイナスの遺産を受け継がずに済むことです。
遺産のほとんどが借金ばかりで、相続をしても負担になる場合は、相続放棄を検討する必要性が高くなります。 遺産が借金ばかりではなくても、生前に被相続人との仲が悪く、遺産を一切相続したくない、親族との関係を断ちたいような場合は、相続放棄をすれば遺産を相続せずに済みます。遺産分割で相続分を放棄することと相続放棄の違い
- 遺産分割で相続分を放棄しても、相続債務の責任は免れない
- 相続債務の責任を免れるには、相続分を放棄するのではなく相続放棄をする
遺産分割で相続分を放棄することと、相続放棄にはどのような違いがありますか?
遺産分割で相続分を放棄しても、相続債務の責任は免れません。そのため、相続債務の責任を免れる、つまり借金等の支払をしないためには、相続放棄が必要です。
相続放棄は家庭裁判所での手続きが必要
相続放棄をするには、家庭裁判所での手続きが必要です。 相続放棄の手続きの費用としては、1人あたり800円分の収入印紙や、連絡用の郵便切手などが必要になります。 相続放棄の手続きをする裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所になります。相続放棄には期限があり、原則として、相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内にしなければなりません。 相続放棄の期限を延長するための手続きもありますが、延長を認めるかどうかは家庭裁判所が判断します。 延長の手続き自体も、相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内にしなければなりません。
期限の延長が認められるとは限らないので、相続放棄をする場合は、できる限り期限内に手続きをすることをおすすめします。遺産分割で相続分を放棄しても相続した債務の支払い義務から免れられない
遺産分割で相続分を放棄したとしても、相続した債務の支払いを免れるわけではありません。 マイナスの遺産である借金などの債務(相続債務)は、遺産分割の対象ではないとされており、遺産分割で相続分を放棄したとしても、相続債務の責任は免れることはできないからです。相続債務については、相続開始の時点で相続分に応じて各相続人に当然に承継されるため、遺産分割の対象ではないとされます。
例えば、相続人として長男と次男がいて、相続債務は1,000 万円の借金がある場合、長男と次男はそれぞれ500万円ずつの借金が承継されます。 遺産分割において不動産があったため、この不動産を長男が相続すること俊、次男が自分の相続分を放棄したとしても、相続債務には影響がないため、次男は依然として500万円の相続債務の責任を負うこととなります。相続債務の債権者(消費者金融など)は長男にも次男にも500万円ずつの支払いを請求することができるのです。 相続債務の責任から免れるには、遺産分割によって相続分を放棄するのではなく、相続放棄をする必要があります。
先程の例において、次男が相続放棄をした場合は、プラスの遺産を相続できなくなりますが、500万円の相続債務についても承継せずに済みます。相続放棄をすると追加で遺産が見つかったときに相続できない
相続放棄をした場合、追加で遺産が見つかったとしても、原則として相続できなくなるので注意しましょう。一度相続放棄をしてしまうと、あとで莫大な遺産が見つかったっても、相続放棄を撤回することはできません(民法919条1項)。 相続放棄は他の相続人や債権者などへの影響が大きいため、安易に相続放棄の撤回を認めてしまうと、他の相続人や債権者にとって不当な不利益になる場合があるからです。 撤回できない代わりに相続放棄の取消しが認められるのは、詐欺や脅迫によって相続放棄をしたなどの特別な場合に限られます。
相続放棄の取消しが認められる場合は極めて限定的なので、本当に相続放棄をしてもよいのか、慎重に検討することが重要です。相続分の放棄が向いている人
- 他の相続人とトラブルになっていないような場合や、借金・債務を相続しても問題がない場合には相続分の放棄が向いている
相続分の放棄と相続放棄で、相続分の放棄のほうが向いているのはどのような人でしょうか。
他の相続人とトラブルになっていない場合や、借金・債務を相続しても問題にならないという場合が挙げられるでしょう。
他の相続人がトラブルになっていない
他の相続人がトラブルになっていない場合は相続分の放棄が向いています。相続分の放棄をするということは具体的に相続する分はなくても共同相続人であることには変わりません。
他の相続人がトラブルになっている場合は、合意を巡ってトラブルに巻き込まれる可能性があるのですが、他の相続人がトラブルになっていない場合は、スムーズに相続手続きを終わらせることができるからです。
借金・債務を相続しても問題ない場合
借金・債務を相続しても問題ない場合には相続分の放棄が向いています。相続自体はするので借金・債務も相続することになります。
多額の借金・債務があるような場合に相続分の放棄をおこなう場合は、借金・債務の支払いを求められる可能性があります。
借金・債務が無い、あったとしても気にならない程度であり、その支払いを求められても応じられる場合であれば、相続分の放棄でもよいでしょう。
相続放棄が向いている人
- 相続争いに巻き込まれる可能性がある場合は、相続放棄をすることで相続争いを回避できる
相続放棄が向いているのはどのような人でしょうか。
逆に他の相続人がトラブルになっている場合や、借金・債務を相続したくない場合です。
相続でトラブルになっている
相続でトラブルになっている場合、相続分の放棄の場合には、共同相続人として相続争いに巻き込まれる可能性があります。相続放棄をすれば、相続の最初から相続人ではなかったという扱いになり、相続人となりません。
そのため、相続争いに巻き込まれる可能性がある場合に、相続放棄をすることで相続争いを回避できます。
借金・債務を相続しない場合
また、相続分の放棄では借金・債務を相続することになりますが、相続放棄をすれば相続人ではなかったことになるので借金・債務も相続しません。 借金・債務の額が多く、相続したくない場合には、相続放棄のほうが向いているといえるでしょう。他の方法を検討
- 相続分の放棄・相続放棄以外の方法
- 相続分の譲渡・限定承認について確認
相続分の放棄・相続放棄以外になにか方法はないでしょうか。
相続分の譲渡と限定承認について確認しましょう。
相続分を譲渡する
相続分の譲渡を検討しましょう。相続分の譲渡とは、他の共同相続人に相続分を譲渡することをいいます。
相続分の譲渡をすることで、譲渡をする相手を決めることができますし、譲渡にあたって対価を得ることも可能です。
ただし、相続分の譲渡であったとしても、相続放棄ではないので、これまで解説したように相続債務の責任を免れるわけではないので注意しましょう。
限定承認する
借金・債務があることが原因で相続放棄を考えているような場合には、限定承認という方法も検討しましょう。限定承認とは、遺産相続はするものの、受け継いだ遺産のなかで債務も相続するというものです。
借金・債務のほうが多い場合には、受け継いだ遺産のなかで返済すればいいので、借金・債務を相続することはありません。
遺産は一度お金に替えてしまうのですが、このときに残したい遺産があれば先買権を行使することで、その遺産は保持することが可能です。
ただし、限定承認は相続人全員でおこなう必要があり、相続放棄と同様に3ヵ月以内におこなう必要があります。
まとめ
遺産分割で相続分を放棄した場合、預貯金などのプラスの遺産は相続しないことになりますが、借金などのマイナスの遺産については、責任を免れるわけではありません。 相続放棄をした場合、プラスの遺産は相続できなくなりますが、借金などのマイナスの遺産も相続せずに済みます。 借金を相続したくない場合は、遺産分割で相続分を放棄するのではなく、相続放棄を検討することが重要です。
- 亡くなった親に借金があるかもしれない
- 親と疎遠のため、財産を相続する気がない
- 相続税が払えないため家などの不動産を相続したくない
- 自営業を引き継ぎたいが借金がある
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