生前の相続放棄や遺留分放棄の念書に効力が認められるかを解説
ざっくりポイント
  • 被相続人の生前に相続放棄の念書を作成しても法的な効力はない
  • 被相続人の生前に遺留分放棄の念書・誓約書を作成しても法的な効力はない
  • 被相続人の死後に遺留分放棄の念書・誓約書を作成した場合は法的な効力がある
目次

【Cross Talk 】被相続人の生前に相続放棄や遺留分放棄の念書を作成してもいい?

父の遺産など相続したくないので、あらかじめ相続放棄や遺留分放棄をしておこうと思います。
被相続人の生前に、相続放棄や遺留分放棄の念書を作成しても大丈夫でしょうか?

被相続人の生前に相続放棄や遺留分放棄の念書を作成しても、法的な効力は認められないので注意しましょう。

生前に相続放棄や遺留分放棄の念書を作成しても、法的な効力はないんですね。相続放棄や遺留分放棄の手続きについても教えてください!

生前の相続放棄や遺留分放棄の念書に効力がない理由を解説

遺産相続に関する権利を放棄する方法として、相続放棄や遺留分放棄があります。
相続放棄や遺留分放棄をする方法として、念書や誓約書を作成することを検討するかもしれません。
しかし、被相続人の生前に相続放棄や遺留分放棄の念書を作成しても、法的な効果が認められないので注意が必要です。
そこで今回は、被相続人の生前の相続放棄や遺留分放棄の念書について解説いたします。

念書・誓約書とは?

知っておきたい相続問題のポイント
  • 念書はどのような約束をしたかを記載した書面である
  • 誓約書は約束したことを守ることを誓約する書面である
  • 念書・誓約書といったタイトルに関わらず内容によっては「契約書」と同一の効力を有する場合がある

念書と誓約書がどのような書面なのかを教えてください。

念書はどのような約束をしたかを記載した書面で、誓約書は約束したことを守ることを誓約するための書面です。どちらも大きな違いはなく、証拠として用いることができます。

念書とは、作成者が何らかの事項について相手方に約束したことを示す書面です。
万が一のトラブルを想定して念のために作成することから、念書と呼ばれます。
作成者が相手方に対して、どのような内容の約束をしたのかを念書に記載することで、後日にトラブルが生じた場合の証拠として活用することができます。

例えば、作成者が相手方に金銭を借りた場合に、借りた金額や返済日などを記載した念書を作成するなどです。
念書には決まった書式はありませんが、後日に証拠として使用する可能性を考慮して、一般に以下のような情報を記載します。

  • 作成者と相手方の氏名・署名・押印
  • 約束した内容(100万円を借りたなど)
  • 約束を履行する日付(借入日の1年後に返済するなど)
  • 念書を作成した日付

念書と誓約書の主な違いは、念書が約束したことを証明するための書面であるのに対し、誓約書は約束をきちんと守ることを誓約するための書面であることです。

誓約書とは、作成者が相手方に約束した内容をきちんと履行することを誓約する書面です。
例えば、会社の従業員が企業機密を外部に漏らさないことを会社に誓約するなどです。

いずれにせよ、念書と誓約書の間に大きな違いはなく、どちらも相手に何らかの約束をしたことの証拠として活用できます。

念書にせよ誓約書にせよ、タイトルはそれほど重要ではなく、どのような内容で合意したのか、約束したのかどうかが重要です。
書面の内容によっては、契約書と同一の効力を有することもあります。
上記で金銭を借りた場合の念書に記載する情報を列挙しましたが、改正民法により書面で約束する場合には、現実に金銭の交付がなくとも契約が成立するため(民法587条の2)、この念書は金銭消費貸借契約の契約書と同一の効力を有することとなります。

生前の相続放棄の念書は無効

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続放棄をするには家庭裁判所の手続きをする必要がある
  • 被相続人の生前に相続放棄の念書を作成しても法的な効力はない

被相続人の生前に、相続放棄の念書を書いておこうと思うのですが、可能でしょうか?

被相続人の生前に相続放棄の念書を作成しても、法的な効力は認められません。相続放棄をするには、被相続人の死後に家庭裁判所の手続きをする必要があります。

相続放棄の手続き

相続放棄をした相続人は、被相続人の遺産を相続できなくなります。
相続放棄をするには、被相続人が亡くなって相続が開始した後に、家庭裁判所の手続きをする必要があります。
相続放棄の手続きが可能になるのは、被相続人が亡くなって相続が開始した後です。
被相続人の生前には、相続放棄をすることはできません。

相続放棄をする旨の念書・誓約書には効力はない

被相続人の生前に、相続放棄をする旨の念書や誓約書を作成したとしても、法的な効力は認められません。
相続放棄をするには家庭裁判所の手続きをする必要があるうえに、手続きができるのは、被相続人が亡くなって相続が開始した後です。
生前に相続放棄をする旨の念書や誓約書を作成したとしても、相続放棄の手続きをしたことにはならないので、相続放棄の効果は生じません。

遺留分放棄をする旨の念書・誓約書に効力はあるのか?

知っておきたい相続問題のポイント
  • 被相続人の生前に遺留分放棄の念書・誓約書を作成しても法的な効力はない
  • 被相続人の死後に遺留分放棄の念書・誓約書を作成した場合は法的な効力がある

遺留分を放棄する念書・誓約書を作成しようと思うのですが、法的な効力は認められるのでしょうか?

被相続人の生前に遺留分放棄の念書や誓約書を作成しても、法的な効力は認められません。他方で、被相続人の死後に作成した場合は、法的な効果が認められます。

遺留分放棄の手続き

被相続人の配偶者や子どもなど、一定の法定相続人には遺産の最低限の取り分が法的に認められており、それを遺留分といいます。
遺言書や生前贈与等によって遺留分を侵害された場合は、侵害された遺留分に相当する金銭を侵害者に請求することができ、遺留分侵害額請求権といいます。

遺留分の放棄とは、遺留分権利者が遺留分を放棄して、遺留分侵害額請求を行わないとすることです。
詳しくは後述しますが、遺留分を放棄するための手続きは、被相続人の生前と死後で異なります。
被相続人の生前に遺留分を放棄するには家庭裁判所の許可が必要ですが、死後に遺留分を放棄する場合、家庭裁判所の許可は不要です。

遺留分放棄の念書・誓約書を生前に書いてもらった場合

遺留分を放棄するという念書や誓約書を、被相続人の生前に書いてもらった場合は、念書・誓約書に法的な効力は認められません。
被相続人の生前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
家庭裁判所の許可が必要な理由は、被相続人の生前に遺留分を自由に放棄できるとすると、被相続人や他の相続人から脅しや圧力を受けて、不当に遺留分を放棄してしまう可能性があるからです。
被相続人の生前に、遺留分を放棄する旨の念書や誓約書を作成したとしても、家庭裁判所の許可がないことから、遺留分を放棄する効果は認められないのです。
生前に遺留分放棄の念書・誓約書を書かせても、法的な効力はないので、念書・誓約書があることを理由に遺留分請求を拒むことはできません。

遺留分放棄の念書・誓約書を死後に書いてもらった場合

遺留分放棄の念書・誓約書を被相続人の死後に書いてもらった場合は、法的な効力が認められます。
生前の場合とは異なり、被相続人が亡くなった後は遺留分を自由に放棄することができ、放棄をするのに家庭裁判所の許可は不要です。
よって、被相続人が亡くなった後に遺留分を放棄する念書・誓約書が作成された場合は、遺留分を放棄したことを示す書面として法的な効力が認められます。
厳密には、死後に遺留分を放棄するには必ずしも書面を作成する必要はなく、口頭で遺留分を放棄することを主張するだけでも足ります。
しかし、口頭で放棄した場合は後でトラブルが生じる可能性があるので、念書や誓約書として書面に残しておく必要があります。

遺留分放棄をしても相続分の主張は可能

遺留分を放棄した場合でも、相続分を主張することは可能です。
遺留分放棄の効果は、あくまで遺留分を請求する権利を放棄するだけであって、遺産を相続する権利自体を放棄したわけではないからです。
被相続人が遺言書を作成せずに亡くなった場合は、相続人が遺産分割協議をして、遺産をどのように分割するかを話し合って決めなければなりません。
遺留分を放棄した相続人がいる場合でも、相続権を放棄したわけではないので、遺産分割協議において自己の相続分を主張することができるのです。

まとめ

念書はどのような約束をしたかを記載した書面であり、誓約書は約束したことを守ることを誓約するための書面です。
被相続人の生前に相続放棄や遺留分放棄の念書を作成しても、法的な効力は認められません。
相続放棄をするには、被相続人の死後に家庭裁判所の手続きをする必要があり、生前の遺留分放棄をするために、家庭裁判所の許可が必要だからです。
相続放棄や遺留分放棄を検討する場合は、法的に無効な行為をしないように、相続問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

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この記事の監修者

弁護士 手柴 正行第二東京弁護士会 / 第二東京弁護士会 法教育委員会委員
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