車の相続手続きを詳しく解説します!
ざっくりポイント
  • 車が相続財産に含まれるかを確認する必要がある
  • 車のローンも相続財産になる
  • 廃車にする場合も相続人が引き継ぐ場合も名義変更が必要になる
  • 自動車保険も名義変更ができる
目次

【Cross Talk】亡くなった方が乗っていた車はどうすればいいの?

父が亡くなって遺品の整理をしています。父が乗っていた車があるのですが、母は運転をしないので、私が乗るか、それとも古い車ですのでいっそ廃車にしようか悩んでいます。いずれにせよ、これから手続きを進めるうえでどのようなことに気を付ければいいですか?

まず、車が本当にお父さんの所有であるかを確認することから始めてください。 ローンが残っている場合には、ローンも相続の対象になります。廃車にしたり相続人の誰かが承継したりする場合、名義変更の手続きをしなければなりません。
亡くなった方が自動車保険に加入していた場合、相続人に名義変更ができますが、等級の引継ができる範囲は限られていることに注意が必要です。

複雑そうですね…。詳しく教えてください!

車の相続手続きはどうすればいい?

現金、預貯金、不動産など財産の種類によって相続の手続きは異なります。 車は動産(不動産以外のもの)の一種ですが、登録の制度がある関係で手続きが複雑になりますし、自動車保険など関連する問題もありますから、他の動産と同じようにはいきません。

そこで今回は、車の相続手続きについて詳しく解説いたします。

車の名義変更の必要性

知っておきたい相続問題のポイント
  • 売却をするために車の名義変更が必要
  • 廃車するためにも車の名義変更が必要
  • 15日以内に道路運送車両法12条の変更登録の申請が必要

車を相続した場合に名義変更は必要なのでしょうか?

はい、売却や廃車には基本的には名義変更が必要ですし、所有者の変更があった場合には名義変更すべき義務が定められています。
相続した車の名義変更の必要性について確認しましょう。

名義変更をしないと売却ができない

まず、相続した車を売却する場合、遺産分割後に名義変更をしないと売却ができません。

相続した車の売却方法には、相続人全員の名義で書類を揃えて行う売却と、遺産分割後に車の所有者となった人が行う売却があります。
遺産分割をした後には、車を相続することになった人が名義変更をして売却することになります。

名義変更をしないと廃止もできない

車が売却できないような場合には、廃車する場合もあるかと思います。
相続した車を廃車する場合で、普通自動車を廃車する場合には、基本的には名義変更をする必要があります。

名義変更には期限が定められている

道路運送車両法12条1項で、所有者が変わったときには、15日以内に変更登録の申請をしなければならない旨が定められています。

その違反については、道路運送車両法109条2号で50万円以下の罰金に処する旨が規定されています。
そのため、売却・廃車をする・しないに関わらず、名義変更は義務であるといえます。

車が相続財産であるかを確定する

知っておきたい相続問題のポイント
  • 車の所有者ではない可能性がある
  • 車検証で所有者を確認する

車は確かに父が購入したものですが、それでも名義人を確認しなければいけないのですか?

必ず確認してください。というのも、例えばローンを組んで自動車を購入した場合、ローンの支払いが終わるまでディーラーやクレジット会社を所有者とする契約を結んでいることがあるからです。 亡くなった方に所有権がなければ、相続人が自由に車を処分したりすることはできませんので、まず所有者を確定する必要があるのです。

死亡した方が車に乗っていても車の所有者であるとは限らない

亡くなった方が車に乗っていたとしても、リースやローンの場合もあります。 リースの場合、車の所有者はリース会社です。 また、通常、売買契約を結んでものを購入すれば買主が所有者になりますが、車をローンで購入した場合には、ローンの支払いが終わるまでディーラーやクレジット会社が所有者になっていることがあるのです(所有権留保といいます)。

亡くなった方が所有者でなければ、車は相続財産には含まれませんから、まずは車の所有者を確定する必要があるのです。

車の名義人を確認する

車の所有者は、自動車検査証(いわゆる車検証)で確認することができます。リースやローン売買で所有権留保付きの場合、備考欄に所有者の情報が記載されます。 まずは自動車検査証で、車の所有者の名義を確認しましょう。 亡くなった方が名義人になっている場合、車は相続財産になります。

名義人が死亡した方でなかったとしても名義変更していないだけの可能性がある

自動車検査証の所有者が亡くなった方ではなかった場合、亡くなった方は単なる使用者にすぎず、原則として車は相続財産ではありません。 ただし、自動車検査証では所有者になっていなかったとしても、ローンを支払い終わったり、知人などから車を譲り受けたりした後、名義変更をする前に亡くなってしまったという可能性もあります。
そのような場合には、車の所有者は亡くなった方といえますので、車も相続財産にあたります。

車のローンが残っていたらローンも相続財産になる

知っておきたい相続問題のポイント
  • ローンなどの負債も相続の対象になる
  • 支払いができない場合には相続放棄を検討する

車検証を確認したところ、父が車の所有者になっていました。ただ、ローンの支払いがまだ残っているみたいです。残ったローンはどうなるのですか?

マイナスの財産も相続財産に含まれますので、車のローンも相続の対象になります。ですから、相続人がローンを支払わなければなりません。

ローンの相続財産性

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するとされています(民法896条)。
プラスの財産だけでなくマイナスの財産も相続の対象になるということです。 したがって、車のローンが残っている場合、ローンも相続財産になります。

ローンが残っている場合の対処法

ローンも相続財産になりますので、相続人がローンを支払っていかなければなりません。 残りのローンを支払う方法としては、預貯金など他の相続財産で支払う、相続した車を売却して得たお金で支払う等の方法が考えられます。
また、他にめぼしいプラスの財産がない場合には、相続放棄をするという選択肢もあり得るでしょう。
相続放棄をすれば、初めから相続人でなかったものとして扱われますので、車を相続することはできませんが、ローンを引き継ぐこともありません。

相続した車を廃車にする場合の手続き

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続人に名義変更して廃車にする
  • 軽自動車の場合は手続きが簡略化されている

父の乗っていた車はかなり古いもので、私は自分の車がありますから、父の車を処分したいと考えています。処分するにはどうすればいいですか?

遺産分割協議などによって誰が車を相続するかを決め、その方に名義変更したうえで廃車の手続きをするのが一般的な流れです。

車が相続財産である場合でも、相続人がその車を必要としておらず、車を処分したいと考えることは珍しくありません。 古い車で経済的な価値がない場合、売却することは難しいものの、そのまま放置しておくと自動車税などのコストがかかるだけですから、いっそ廃車にした方がいいということもあるでしょう。
しかし、車の名義人が亡くなった方である場合、そのままでは車を廃車にすることはできません。

相続人が複数いる場合には、まず相続人の間で誰が車を相続するかを決め、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には、相続人全員の真意に基づいて遺産分割協議が成立したことを明らかにするため、相続人が署名し、実印を押印し、印鑑登録証明書を添付します。また、所有者が亡くなったことや相続人の範囲を確認するための戸籍謄本等を要します。 これらの書類によって特定の相続人への名義変更ができれば、その相続人が単独で廃車の手続きをすることができます。

なお、上記の流れは、普通自動車を念頭に置いた説明です。
軽自動車の場合、名義変更手続がより簡易なものになっているため、所有者の戸籍謄本など所有者が亡くなったことや新使用者・新所有者が親族であることが確認できる公的書類によって、相続人への名義変更が可能になっています(遺産分割協議書は不要です。)。

相続した車を相続人に引き渡す場合の手続き

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺産分割協議で誰が引き継ぐかを決める
  • 遺産分割協議書を作成して名義変更する

家族で話し合った結果、私の弟が車を引き継ぐことになりました。これからどうすればいいですか?

相続人の間で話し合い、誰が車を引き継ぐかが決まれば、遺産分割協議書を作成して、名義変更をしてください。税金や保険の関係があるので、鍵だけ渡して名義はそのままというのはさけてください。

車が相続財産に含まれる場合、処分せずに特定の相続人が引き継ぐという場合もあるでしょう。 ただ、自動車には、自動車税という税金が課されることや、自動車保険という制度があり、保険で補償される方の範囲が決められていることなど、他の動産にはない特徴があります。

運輸支局で名義変更の手続きをする

自動車を引き継ぐことになった方に鍵を渡して終わり、というわけにはいかず、車を引き継ぐことになった相続人に名義変更をすることが必要になるのです。

名義変更の具体的な方法については、「相続した車を廃車にする場合の手続き」で解説した通りです。
なお、相続した車の価値が100万円以下の場合、相続人全員の署名・押印(実印による)が必要となる遺産分割協議書に代えて、相続する方だけが署名・押印する「遺産分割協議申立書」と査定証等による簡易な名義変更が可能です。
手続きは、陸運支局で行ないます。

警察署で車庫証明書を申請する

また、新所有者が別の場所で車を使うことになった場合には、新所有者は車庫証明書を申請しなければなりません。 車庫証明書は、管轄の警察署で取得することになります。

手続きには、
・自動車保管場所証明申請書
・保管場所標章交付申請書
・自動車保管場所届出書
・保管場所標章再交付申請書
・保管場所の所在図・配置図
・保管場所使用権原疎明書面(自分で所有している場合)or保管場所使用承諾証明書 (借りている場合)
上記を提出して行ないます。

相続した車の自動車保険の手続き

知っておきたい相続問題のポイント
  • 自動車保険も名義変更ができる
  • 配偶者や同居の親族は等級を引き継ぐことができる

私が父の車を引き継ぐことになりました。父は自動車保険の保険料を払った直後に亡くなったのですが、保険料は無駄になってしまうのですか?

自動車保険の名義変更が可能ですので、支払済みの保険料が無駄になることはありません。また、一定の範囲の方は亡くなった方の等級を引き継ぐこともできます。

亡くなった方が任意の自動車保険に加入していた場合、相続によって車を取得した方は名義を変更することで自動車保険も引き継ぐことができます。
自動車保険に関係する名義には、契約者(保険会社と保険契約を締結し、保険料を払う方)、記名被保険者(主に車を運転する方)、車両所有者(契約車両を所有している方)の3つがあります。
この3つ全てが亡くなった方の名義ということもありますが、一部だけが亡くなった方の名義になっている場合もあります。例えば、契約者及び車両所有者を夫、記名被保険者を妻とする自動車保険を締結している場合は珍しくないでしょう。

ですから、車を相続する場合には、任意の自動車保険の契約内容を確認し、必要な範囲で名義を変更するようにしてください。 名義変更に必要な書類は、保険会社に連絡して取り寄せることができます。
なお、自動車保険には等級があり、無事故であれば(保険を利用しなければ)等級が上がり、保険料が安くなります。 記名被保険者が亡くなった場合、配偶者や同居の親族は亡くなった方の等級を引き継ぐことができます。逆に言えば、それ以外の親族、例えば成人して家を出て一人暮らしをしている子どもなどは、車を相続し自動車保険の名義を変更しても等級を引き継ぐことはできないということになります。

自動車の相続税における評価額の計算方法

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続税の申告・納税が必要な場合には自動車を相続財産として計上する必要がある
  • 相続税における自動車の評価額の計算方法

車がある場合の相続税申告ってどうなりますか?

車を相続財産として計算する必要があります。計算方法について確認しましょう。

相続税申告をする場合の車の取り扱いについて確認しましょう。

どんな場合に相続税がかかるか

相続税申告は相続財産の総額が基礎控除額を超える場合に申告・納税をする義務があります。

基礎控除額は、
3,000万円+(600万円✕相続人の数)=基礎控除額
で計算します。 相続人が妻・子ども2人である場合の基礎控除額は、
3,000万円+(600万円✕3)=4,800万円
となります。

車の評価額の計算方法

相続財産の総額が上記の額を超える場合には相続税の申告・納税をする必要があります。
また、相続税の申告・納税が必要な場合には、相続財産である車の評価額を計算する必要があります。

相続税の申告をする際には、相続財産を「財産評価基本通達」に従って計算することになっており、車は財産評価基本通達の「一般動産」として計算することになっています。
一般動産は「一般動産の価額は、原則として、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する。」とされています。

具体的には、中古車として売却したらいくらになるかの査定で提示される金額が、車の相続税申告における評価額になります。
市場価格が不明である場合には通達によると、「その動産と同種及び同規格の新品の課税時期における小売価額から、その動産の製造の時から課税時期までの期間の償却費の額の合計額または減価の額を控除した金額によって評価」することになっています。

つまり、新品の状態から「償却費」を減額して評価します。
償却というのは、使っているうちに価値が落ちることを会計上評価するためのもので、新品で購入した場合には、普通自動車は6年・軽自動車は4年で価値がないものとして計算することになっています。

なお、中古で購入した場合、6年以上たっている場合には2年で、6年経過していないものについては、
(新車購入時の耐用年数-経過年数)+経過年数×20%(1年未満切り捨て)
で計算します。

一般動産は「定率法」という計算方式で計算することが基本で、償却をする期間が6年の場合の償却率は0.333となります。
購入価格500万円の車で1年が経過している場合には、5,000,000✕0.333=1,665,000円を償却することになります。

まとめ

車の相続について網羅的に解説しました。車が相続財産に含まれることは珍しくありませんので、ぜひ参考にしてください。

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この記事の監修者

弁護士 玉田 誠一第二東京弁護士会
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