遺言で自分の遺留分を侵害されたときにする遺留分侵害額請求権について知る
ざっくりポイント
  • 遺産相続においては特定の人が被相続人の生前に財産の使い込みをする場合がある
  • 被相続人の生前に遺産となり得る財産の使い込みをされた場合の対処法
目次

【Cross Talk】遺産を調査したけどお金がどこにもない?使い込まれたときにどうすれば良いか

先日、父が亡くなり子どもである姉と私で相続をしました。姉は実家の近くに住んでいたこともあり、頻繁に実家に行って父の様子を見ていました。 遺産相続が必要となって姉と話し合いをしたのですが、現金は無く不動産だけなので、私が相続するようなものはないということを告げられました。姉の自宅が最近リフォームをしたようで遺産になるようなお金を使い込んでいたのではないか?と思っています。

弁護士に依頼をして冷静にお金の出どころを探すなどして交渉をするのが良いでしょうね。遺産となり得るお金を使い込まれていたと思われるときの対処法について検討しましょう。

遺産となり得る財産を使い込まれたときにはどんな対処法が?

複数の相続人のうち、一人ないし数人が被相続人と近しい間柄の場合、被相続人の生前に遺産となり得る財産を使い込むようなことがあります。 典型的な例を把握したうえで、どのように対処をしていくかの方法を知りましょう。

遺産の使い込みとは

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺産の使い込みとはどのような場合か
  • 遺産の使い込みを確認する方法

遺産の使い込みとはそもそもどのような場合に発生するのでしょうか。

遺産の使い込みが発生する場合と、その確認方法について見てみましょう。

遺産の使い込みとは、被相続人と同居していてキャッシュカードを預かっていたなどの理由から、被相続人の預貯金などを自由にできる場合に、これを着服してしまうことをいいます。

使い込みを処罰することはできないことがある

このようにお金を使い込むことは、その態様に応じて、窃盗罪や横領罪という刑法上の犯罪に該当します。 ただ、親族間の窃盗罪や横領罪については、
・配偶者・直系血族又は同居の親族が行った場合には刑を免除する
・それ以外の親族については告訴がなければ起訴できない
という特例があります。
(親族間の犯罪に関する特例)
第二百四十四条 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
同居の子どもがお金を使い込んだ横領罪が成立するような場合では、刑が免除されることになることを知っておいてください。 なお、一定の行為を行った場合には、相続欠格となるのですが(民法891条)、遺産を使い込んだこと自体は相続欠格に該当しません。

使い込みを確認する方法

使い込みを確認する方法としては、
・預貯金を引き出された日を特定
・その日に被相続人・使い込みを疑われる相続人がどこで何をしていたか特定
・払い戻し申込書などの書類の筆跡を確認する
などによって行うことが考えられます。

金融機関が協力してくれない場合には、弁護士に依頼すれば弁護士照会という制度で問い合わせしてもらえますし、それでも開示に応じない場合には裁判における文書送付嘱託や調査嘱託という方法で開示を求めます。

遺産の使い込みにはいくつかのパターンがある

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺産を使い込む典型的なパターン

そもそも遺産となり得る財産を使い込むことはできるのですか?どんな方法でするのでしょうか?

よくあるパターンがいくつかあります。その中に当てはまっているものがないか確認してみてください。

「遺産となり得る財産を使い込む」というと何か特殊なことを行ったように思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実はいくつかのパターンで頻繁に発生することがあります。 まずはそのパターンを知りましょう。

現金・預貯金を使い込む

まず最も頻繁に発生する使い込みは現金・預貯金を使い込むことです。 容易に銀行に預け入れ・引き出しができるようになった昨今では、自宅に現金を大量に持っているということはあまりなくなりましたが、それでも自宅にへそくりとして置いている、ある程度の金額の現金を自宅に置いているということはあるでしょう。

今回の相談者様のように近しい家族がいる場合に、「万が一の場合にはきちんと分けるように…」と言ってある場合もあるでしょうし、急に亡くなるような場合にはその存在を伝えられず遺品を整理している方が見つけてそのまま自分のものにしてしまう場合もあります。

また、被相続人の身体が不自由になっているような場合には、日常生活を身近な人に補助してもらうこともあります。 その中には、銀行に行って現金をおろしてきてもらうということも含まれるでしょう。 預貯金のATMカードを渡していたり、印鑑と通帳を預けているような場合には、日常生活の引き落としに行ったときに一部の金額を懐にいれてしまうということもあるでしょう。

さらに、亡くなった直後で銀行に死亡の連絡を行う前であれば、銀行から預貯金を引き出すこと自体はできなくはありません。 現金・預貯金に関しては比較的容易に使い込みができてしまいます。 使い込みは相続人の妻や相続人ではない家政婦等、被相続人に近しい第三者によって行われることもあります。

賃料などの横取り

被相続人が所有している不動産を他人に賃貸をして収益を得ているような場合があります。 賃料の受け取りを口座振り込みにしているような場合には、賃料が口座に入ってくることになりますので、上記のように銀行口座の入出金を通じて入ってきた賃料を横取りしてしまう場合もあります。 また特に危険があるのは、賃料を現金で受け取っているような場合です。この場合、高齢である親の代わりに子どもが受け取り自分の懐に入れてしまうということもあります。

生命保険を解約する

被相続人が自身に生命保険をかけている場合にも注意が必要です。 生命保険には様々な種類がありますが、解約をすると解約返戻金が出るタイプの保険の場合に、保険を解約すると預金口座にお金が戻ってきます。 この場合、被相続人が死亡した場合の受取人が自分ではないとわかった場合に、その保険を解約し、預金口座に入ってきた解約返戻金を懐に入れてしまった例もあります。

使い込まれた財産を取り戻す方法

知っておきたい相続問題のポイント
  • 使い込まれた財産を取り戻す方法
  • 使い込まれた財産を取り戻すにあたっての注意点

財産の使い込みがされているような場合にはどうやって取り戻しをすれば良いでしょうか。

話し合いや訴訟等の法的手段によります。そのときのコツについても知っておきましょう。

もし遺産となり得る財産が相続人や第三者によって使い込まれていた場合にはどうやって取り戻すことになるのでしょうか。

話し合いで解決する

使い込みをされたような場合、まずは話し合いをすることを検討します。 相続人が使い込みをしたような場合には、遺産分割協議において、使い込みをした額も含めて遺産として計算したうえで、使い込みをした相続人の分の相続分の調整をするという形にすることもあります。

ただ、現金・預貯金を全て使い込んでしまって、分けるにあたって不動産しか残っておらず、遺産分割をするために金銭が必要であるような場合には、一部または全部を返還させることも必要になる場合があります。

また、相続に関係のない第三者が使い込みを行ったような場合には、遺産分割の前提として返還を請求することになります(不当利得返還請求:民法第703条以下)。 使い込みを行った者としては、自分はそのような使い込みなんかしていない、被相続人から贈与された、などという言い訳をすることが想定されます。 預貯金の引き出しと使った金額が釣り合っているか?死後に手続きをするまでに引き出された履歴がないか?使い込んだ人に通常では考えられない支出がないか?といった客観的な証拠を集めるといったことは必要になります。

話し合いがまとまらなければ、後述する通り民事訴訟を起こします。 ただ、使い込み行為は上述したように、刑事事件になりうるものなので、使った人が刑事罰の対象になりえる場合には、刑事告訴も検討しましょう。

話し合いで解決しなかったら訴訟を提起する

話し合いで解決しない場合には、金銭の返還を求めるため、民事訴訟を提起することになります。

被相続人の生前に、ある人が被相続人の承諾を得ずに被相続人の財産を使い込んだ場合、被相続人はその使い込みをした人に対して、不当利得返還請求権(民法第703条以下)を有します。そして、被相続人がその権利を行使せずに亡くなった場合、その権利も遺産を構成しますので、使い込みに気づいた相続人としては、被相続人から相続した不当利得返還請求権(原則として自身の相続分のみになります)を行使し、使い込まれた金額の返還を求めることになります。

民事訴訟をする場合には、基本的には原告が請求する事実に関する証拠を提出しなければならず、証拠を提出して裁判所に主張がもっともであると認めさせることができない場合には、敗訴になってしまいます。

また、使い込みは不法行為にも該当しえますので、不法行為に基づく損害賠償請求も可能です(民法709条以下)。

弁護士に依頼をして解決するとメリットが大きい

このような経緯をたどりますので、弁護士に依頼をすることを検討してください。 弁護士に依頼をすることで法的な助力を得ることができます。 また、相続人の間で面と向かって「遺産を使い込んだのだから返金しろ」という主張をすると、財産上の問題のみならず感情的な面でも相手方の態度が強硬になることもあります。

弁護士を通じて事実と証拠を呈示して冷静に交渉をすることで、事態を容易に解決することができることも多いです。

使い込みが時効になることも

知っておきたい相続問題のポイント
  •  不当利得返還請求権の時効  不法行為損害賠償権の時効

使い込みをした人に対する請求はいつでもできますか?

一定期間がすぎると時効になるので注意しましょう。

遺産の使い込みをした人に対して、使い込んだ分を戻すように請求できるのですが、その権利のもととなる不当利得返還請求権・不法行為に基づく損害賠償請求権については時効で消滅する場合があります。

不当利得返還請求権に関する時効

不当利得返還請求権は他の債権とともに、
・権利を行使することができることを知った時から5年間
・権利を行使することができる時から10年間
行使しなければ、時効にかかってしまいます(民法166条1項)。
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しない時。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しない時。
この期間内に訴訟をするなどして時効にかからないようにする措置をとります(時効の完成猶予・時効の更新)。 時間がない場合には、民法150条に規定されるよう催告によって6ヶ月時効の完成猶予をして、その間に訴訟を提起します。 催告については、請求した旨を証明する、内容証明郵便を利用することになります。

不法行為にもとづく損害賠償請求に関する時効

不法行為損害賠償請求権の時効については特別に規定があり、
・被害者が損害・加害者を知った時から3年間
・不法行為の時から20年間
で時効にかかります。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効) 第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しない時。
二 不法行為の時から二十年間行使しない時。
時効の完成猶予・更新については不当利得返還請求と同様です。

使い込みされないための対策

知っておきたい相続問題のポイント
  • 使い込みをされないための法律上の制度
  • 任意後見・成年後見・家族信託の利用を検討

認知症などで本人が行動できない場合には何か良い制度はあるのでしょうか。

任意後見や成年後見など、預貯金を下ろす正当な権限があり、報告義務があるものを利用するのが良いでしょうね。

認知症になってしまったような場合など、家族の誰かが事実上財産を預かるような場合に、どうしても使い込みのようなことが起きてしまいます。 使い込みをされないためには、次のような制度の利用を検討しましょう。

任意後見制度の利用

まず、生前まだ判断能力がしっかりしているうちに、判断能力が亡くなったときに財産を管理してもらう権限を付与する任意後見制度を利用するようにしましょう。

任意後見制度を利用して後見人を選任した場合、おなじく家庭裁判所から選任される後見監督人に対して、後見事務の内容を報告する必要があります。 本人の療養看護及び財産管理を正当にできる権限を付与され、かつ報告義務があるので使い込みも防げるようになります。

後述する成年後見では、自分が判断能力を失った後になるので、自分が後見人の選任に関与できません。任意後見制度では、任意後見人となってくれる人を自分で選んで契約をすることが可能です。

成年後見人をつける

既に認知症などで判断能力を失ってしまった場合には、成年後見人を選任するのが良いでしょう。 成年後見人本人の療養看護及び財産の管理のための正当な権限が与えられ、家庭裁判所(場合によっては後見監督人にも)に報告する義務があるので使い込みを防ぐことが可能です。

家族信託の利用

家族信託を利用して、信頼できる人に受益者となってもらって、財産の管理をする方法も検討しましょう。 成年後見・任意後見・家族信託については、「成年後見・任意後見・家族信託を比較しよう!」で詳しく紹介しているので、参考にしてください。

まとめ

このページでは、遺産の使い込みがされた場合の対応策を中心にお伝えしました。 同居の親族に銀行口座を預けているときなどに発生しうるので、怪しいなと思った場合にはしっかり調査をするようにしましょう。 使い込みが疑われる場合には、相続当事者同士で交渉をすると揉めてしまうことが多いので、弁護士に相談するようにしましょう。

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