はじめに
相続人全員の同意が必要な遺産分割協議において、一人でも連絡がとれない相続人がいると手続きが進まず、相続全体が滞ってしまう可能性もあります。
本記事では、連絡がとれない相続人がいる場合に考えられる対応方法や、家庭裁判所を活用した手続き、注意すべきポイントについて、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
相続手続きをするにあたって無視をするなど非協力的な人がいる場合
相続の手続きをする必要があるにも関わらず、連絡をしないなど、非協力的な相続人がいるケースは少なくありません。
一部の相続人が相続手続きに非協力的な態度をとる理由としては、家族や親族に不信感を抱いている場合や、相続トラブルをおそれて返事をしない場合などが考えられます。
では、非協力的な相続人に対してはどのように対応すればよいのでしょうか。
以下で詳しくみていきましょう。
【前提】非協力的な相続人を除いて遺産分割協議はできない
前提として、連絡拒否や無視など非協力的な相続人がいる場合でも、その相続人を除いて遺産分割協議をすることはできません。
遺産分割協議とは、被相続人の遺産をどのように分割するか相続人が話し合って決める手続きです。
遺産分割協議を成立させるには相続人全員が同意しなければならないので、連絡拒否や無視をする相続人がいる場合も、その相続人の同意が必要になります。
なお、相続人のうち一人でも同意を欠く状態で遺産分割協議をした場合、協議は無効になるので、法的な効力は認められません。
早めに遺産分割調停・審判を利用する
連絡拒否をするなど連絡がとれない相続人がいる場合、早めに遺産分割調停・審判を利用することをおすすめします。
遺産分割調停とは、遺産分割について当事者だけで話し合ってもまとまらない場合に、裁判所の手続きを利用して決着を目指す手続きです。
調停では、調停委員と呼ばれる中立の立場の第三者を交えて、当事者から事情を聴いたり、必要に応じて資料を提出してもらったりして、解決に向けた話し合いをします。
遺産分割調停のメリットは、基本的に当事者同士が直接話をする必要がないことと、中立の立場にある調停委員の公平な判断を受けられることです。
しかし、既に連絡を拒否されたり、無視されたりしている場合、その相続人が調停に応じる可能性は低いでしょう。
相手が応じないなどの理由で調停が不成立で終わると、遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判とは、当事者の主張や提出された資料などに基づいて、遺産をどのように分割するかを裁判官が決める手続きです。
審判では、一部の相続人が無視をしたとしても、最終的な判決が下されます。
そのため、連絡を拒否している相続人がいる場合でも、遺産の分割方法の取り決めに決着をつけることができるのです。
連絡がとれない相続人がいる場合
相続のシーンでは、非協力的な相続人がいるケースだけでなく、そもそも相続人と連絡がとれないといったケースもあります。 では、連絡がとれない相続人がいる場合、どのように対応するのがよいのでしょうか。 以下で詳しくみていきましょう。
戸籍の附票を取得して現住所を確認する
連絡がとれず、住所もわからない相続人がいる場合、戸籍の附票によって住所を確認することができます。
戸籍の附票とは、戸籍が作られたり入籍したりしてから現在まで(または除籍されるまで)の住所の変遷が記載されている書類です。
例えば、婚姻によってその戸籍に入籍してから現在までに「住所1→住所2→住所3」の順番で住所を移した場合、戸籍の附票を取得すれば変遷を確認することができます。
戸籍の附票が保管されているのは、本籍地の地区町村です。
戸籍の附票を取り寄せるには、本籍地の地区町村役場で申請手続きを行いましょう。
なお、戸籍の附票で確認できる住所の変遷は、あくまでその戸籍に入っていた期間の住所に限られます。
転籍前の住所の変遷を確認したい場合は、転籍前の戸籍の附票を取得しなければなりません。
不在者の財産管理人を選任する
行方不明の相続人がいる場合、不在者財産管理人を選任する方法があります。
従来の住所や居所を去って、容易に戻る見込みのない方を不在者といい、不在者の財産を管理する人がいない場合は、家庭裁判所に申し立てをすることで不在者財産管理人が選任されます。
不在者財産管理人は、不在者の財産の管理や保存を行うほか、家庭裁判所の許可を得た場合は、不在者に代わって遺産分割協議に参加することが可能です。
そのため、行方不明の相続人がいるために遺産分割協議を成立させられない場合は、不在者財産管理人を遺産分割協議に参加させることで、手続きを進められるようになるでしょう。
失踪宣告の手続きをおこなう
いつまでも連絡がとれない相続人がいる場合は、失踪宣告の手続きが認められる可能性があります。
失踪宣告とは、ある人が以下のいずれかの事由に該当する場合に、その人を法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。
- 不在者の生死が7年間明らかでないとき
- 戦争や震災など死亡の原因となる一定の危難に遭遇し、その危難が去ったあと、生死が1年間明らかでないとき
例えば、実家に居住していた長男が家出をして、そのあとも生きているのか死んでいるのか不明な状態が7年以上続いた場合は、失踪宣告が認められる可能性があります。
失踪宣告が認められた場合、その人の物理的な生死が不明な状態にあるとしても、法律上は死亡したものとして扱います。
そのため、失踪宣告を行い、認めてもらうことで、連絡がとれない相続人を除いて遺産分割協議を進めることが可能です。
まとめ
遺産分割協議を成立させるには相続人全員の同意が必要なので、連絡がとれない相続人がいる場合、相続手続きを進めることができません。
連絡拒否などの非協力的な相続人がいる場合は、遺産分割調停・審判や、不在者財産管理人の選任など方法で対応してみましょう。
ただし、どのような対策が有効かは状況によって異なるので、まずは相続問題の経験が豊富な弁護士に相談するのがおすすめです。


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