生前贈与をする場合の、契約書の基本的な知識について解説いたします。
ざっくりポイント
  • 生前贈与は契約書がなくても成立するが、契約書は非常に重要
  • せっかく生前贈与をしたのに、意味がなくなってしまう場合がある
  • 相続開始以前の3年間の贈与や、名義預金定期贈与に認定される場合に注意
目次

【Cross Talk 】生前贈与は契約書がないと無効になるの?

孫に生前贈与をしようと考えています。生前贈与をする場合、契約書を作成しないと無効になってしまうのでしょうか?

生前贈与をするにあたって、契約書は必ずしも必須ではありません。しかし、様々なメリットがあるので、契約書を作成することは非常に重要です。

生前贈与をするのに必須ではなくても、契約書は非常に重要なんですね。契約書を作成するメリットを教えてください!

生前贈与をする場合の契約書の重要性を解説。

生前贈与は口約束だけでも契約自体は成立するので、契約書は法的には必須ではありません。 しかし、契約書を作成すると証拠になるなどのメリットがあるので、生前贈与で契約書を作成することは非常に重要です。 そこで今回は、生前贈与における契約書の基本的な知識について解説いたします。

生前贈与と契約書の基本的な知識を整理

知っておきたい相続問題のポイント
  • 生前贈与自体は契約書がなくても成立する
  • 生前贈与をする場合、契約書を作成することは非常に重要

生前贈与は契約書がなくても契約が成立すると聞きました。それなら、契約書を作成しなくても大丈夫ですよね?

確かに、生前贈与自体は契約書がなくても法的には成立します。しかし、様々なメリットがあることから、契約書を作成することは非常に重要です。

生前贈与は民法では贈与契約

生前贈与とは、民法における贈与契約です(民法第549条)。 贈与契約とは、自分の財産を無償で(対価なしで)相手に譲る契約です。 贈与契約には様々なパターンがありますが、生前贈与は贈与契約の一種です。 生前贈与とは、贈与をする方が生きている間に、財産を他人に無償で贈与することです。 例えば、祖父が入学祝いとして孫に100万円を無償で贈与した場合、生前贈与にあたります。 一方、贈与をする方が亡くなった場合に財産が移転する贈与を、死因贈与といいます。

贈与契約自体は契約書がなくても成立する

贈与において契約書を作成することは重要ですが、贈与契約自体は契約書がなくても成立します。

当事者の合意のみで契約の効果が生じる契約を、諾成契約といいます。 贈与契約は諾成契約の一種であり、当事者が贈与について合意すれば効果が生じるので、契約書を作成しなくても契約が成立します。

贈与契約が成立するには、まず贈与をする方(贈与者)が、「財産を無償であなたに譲ります」という意思表示をします。 贈与をしてもらう方(受贈者)が、贈与者の意思表示に対して「受け取ります」という承諾をすれば、当事者が合意したことになり、贈与契約が成立します。

当事者の合意があれば良いので、口頭で贈与の約束をするだけでも、法的には贈与契約が成立します。

生前贈与をするにあたっては契約書が必須といえる

合意だけで贈与契約が成立するとしても、生前贈与をするにあたっては、契約書を作成することは非常に重要です。

生前贈与について契約書を作成すると、以下の3つのメリットがあるからです。

・生前贈与が行われた証拠になる
・生前贈与を勝手に撤回できなくなる
・生前贈与について税務署に証明しやすくなる
贈与は当事者の合意だけで成立しますが、契約書を作成しておけば、贈与が行われた証拠になります。

契約書を作成しておかないと、贈与者がきちんと贈与をせずに争いになった場合に、贈与について証明するのが難しくなってしまいます。 贈与の契約書を作成しておけば、贈与がきちんと行われなかった場合に、重要な証拠になります。

次に、贈与契約書を作成すると、贈与を勝手に撤回できなくなります。 口頭で贈与をした場合、当事者は履行前であれば贈与を撤回できるので、もし贈与者の気が変わってしまうと、受贈者は不安定な立場になります。 契約書を作成すれば贈与者が簡単に撤回できなくなるので、受贈者にとっては、きちんと贈与をしてもらうための手段になります。

最後に、契約書を作成すると、税務署に対してきちんと贈与が行われたことを証明しやすくなります。 贈与税の基礎控除を利用すると、年間110万円までは、贈与税の負担無しで贈与をすることが可能です。 ところが、契約書を作成しなかった場合、贈与がきちんと行われたことを税務署に証明できずに、贈与税が課税される可能性があるのです。

生前贈与をした意味がなくなってしまう場合について確認

知っておきたい相続問題のポイント
  • せっかく生前贈与をしたのに、意味がなくなってしまう場合がある
  • 相続開始以前の3年間の贈与や、名義預金・定期贈与に認定される場合に注意

せっかく生前贈与をしたのに、意味がなくなってしまう場合があると聞きました。どのような場合がありますか?

生前贈与をした意味がなくなってしまう場合として、相続開始以前の3年間の贈与や、名義預金や定期贈与に認定された場合があります。

相続開始以前3年間の贈与をしても相続税がかかる

相続開始以前の3年間の贈与については、原則として相続税の対象になるので注意しましょう。

贈与税には年間110万円の基礎控除があるので、110万円以内の贈与であれば本来は課税されません。 しかし、贈与が相続開始(被相続人が亡くなった日)以前の3年間に行われた場合は、相続税の課税対象になってしまいます。亡くなる3年前までの贈与が課税対象になる理由は、相続税の課税を逃れるためだけに、駆け込みで贈与をすることを防ぐためです。

例えば、祖父が亡くなる3年前に年間1,00万円ずつ、合計300万円を孫に贈与していたとしましょう。 祖父が亡くなって相続が開始した場合、亡くなる前の3年間に行われた300万円の贈与は、相続税の課税対象になってしまいます。

名義預金と認定された

生前贈与が名義預金と認定された場合、生前贈与をした意味がなくなってしまうので注意しましょう。 名義預金とは、口座の名義人と、実際に口座にお金を出し入れしている方が異なる預貯金のことです。 名義預金に認定された場合、口座の名義人の財産ではなく、実際に口座にお金を出し入れしていた方の財産として取り扱われます。

例えば、口座の名義人が孫であっても、実際に口座にお金を出し入れしているのが祖父の場合は、祖父の名義預金にあたります。 名義預金と認定された場合は、被相続人の遺産として、相続税の課税対象になるので注意しましょう。

例えば、亡くなった祖父が孫の名義で1,000万円の口座を持っており、名義預金と認定された場合は、祖父の相続税の課税対象になります。 孫への生前贈与のつもりで毎年100万円ずつ口座に入金していたとしても、名義預金と認定された場合は、孫の贈与税の節税にはならず、祖父の相続税の対象になってしまいます。

連年贈与が定期贈与と認定された

連年贈与が定期贈与に認定された場合、贈与税を節税しようとした意味がなくなってしまいます。 連年贈与とは、その名のとおりに毎年贈与を行うことです。 贈与税は1年につき110万円の基礎控除があるので、毎年110万円以下の金額で連年贈与を行えば、贈与税を課税されずに贈与をすることができます。 しかし、連年贈与が定期贈与として認定された場合は、贈与税が課税されてしまうのです。 定期贈与とは、一定期間につき、一定の給付を行う贈与のことです。 例えば、1,000万円を毎年100万円ずつに分けて贈与する取り決めをした場合、定期贈与にあたります。 連年贈与が定期贈与に認定されてしまうと、毎年110万円以内に分けて贈与をしても、基礎控除が適用されないので注意しましょう。 定期贈与に認定された場合、毎年に分けて支払った金額ではなく、全体の金額に対して贈与税が課税されるからです。 例えば、1,000万円を毎年100万円ずつに分けて贈与することが定期贈与に認定された場合、全体の金額である1,000万円に対して贈与税が課税されてしまいます。

まとめ

生前贈与は当事者の合意があれば成立するので、契約書を作成することは法的には必須ではありません。 しかし、契約書を作成すると贈与の証拠になる・贈与を撤回しにくくなる・税務署対策になるなどの様々なメリットがあるので、契約書を作成することは非常に重要です。 生前贈与についてきちんと契約書を作成したい場合は、相続問題の経験が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。

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